ねとられだぶぅきぅ……
俺はプルクラさんが、アスカに抱き寄せられて涙を流している姿を遠目で眺めていた。
詳しい背景はよく分かってないけど、とりあえず良かったなーと思う。なんか色々と大変だったみたいね。
まあ、背景分からなさすぎて俺は感極まることはさすがになかったけどね。感動するには共有されたエピソードって大事だなあって改めて思った。
こういう時はアレだな、スピードワゴンさんのように颯爽と去るのが正解か。
つっても、アスカを置いていくわけにはいけないので、あの人の真似は出来ないけど。……いや? 置いていけるか? 魔力供給を切っても、アスカなら食料を与えさえすれば自立行動を取れるかもしれないからなあ。
……アスカに対しては、悪いことされないどころか祀られる存在だから心配はいらないから、ちょっと実験して、一人、渡すか。連絡用としても活用出来るし。
(ところでさ、ラフレシア。俺さ、やりたいことあるんだ)
そんでもって俺はラフレシアに声をかける。
《なに?》
(プルクラさんにアスカのNTRやりてえなあって思うんだ)
《このクズがよお……》
間髪を入れずに罵られてしまった。
《アレ見て、なんでやりたいと思うわけ?》
(人は共感を得るためには詳しい情報が必須だと思うわけなんです。つまり知らないことで感動はできんのです)
《行間を読め、行間を。人生のあらゆる背景が予め提示されると思うなよ》
ファンタジー生物に人生の教訓を御教示されてしまいました。
――人として恥ずかしくないって? おら、馬鹿だがらわがんねっ!
ということで、実行に移します。さすがに空気は多少読めるので、落ち着くまでは待ちますけどね。
んで、落ち着いてアスカが俺のところに戻ってきたところで――せっかく生前サイズになっているので、このまま――やろう。
《時にプルクラさん》
「なによ」
相変わらず俺に対してはツンケンした態度だ。腕を組んで、なんか『お手本』っぽさがある。
《今から俺、アスカと一緒に、とある短い演劇をやろうと思うんだけど、良いっすか?》
「……。……なんでよ」
ごもっともな意見を頂きました。警戒はしてないけど、すっごい不思議そうにしてきた。
《魔法的とかスキル的とかそういうのは一切ないんですけど、見ちゃうと人によっては『脳破壊』なることを言われるほど精神ダメージを受けてしまうんですよ》
「……そんなもの見せようとしないで欲しいんだけど」
《えぇー! 見せたいですぅ! プルクラさんがどんな反応するか見たいんですぅ!》
俺が巨体をいやいやと振るうと、プルクラさんは俺を心底気持ち悪いものを見るような顔をしてきた。
「キモイ」
《ほら、アスカもお願いして》
《プルクラぁ、おねがぁい》
アスカは手を合わせて、身をくねくねさせる。
「見ましょう。見せなさいよ!」
うーん、この変わり身の早さ、素晴らしい。……真面目な話すると、アスカはガチでプルクラさんを操れるから言動には注意を向けないとな。そういう意味ではアスカが他者に対して強い欲求を向けることがないのが助かる。ワガママキャラだったら、地獄が見えるぞ、ガチで。
《んではやりまーす》
ということでNTRやりまーす。さすがに三度目なので、カット!
「あぁぁあああ!!」
プルクラさんが野太い声をあげながら、床をのたうち回っていた。全身から血が噴き出していて、もう大惨事。
……結構、グロいな。
「ちなみにだけど」
アンゼルムさんが、ごろんごろんと俺の足元に転がってきた。
「吸血鬼は強いストレスを受けると血を噴き出しちゃうことがある。僕らの身体は元から『揺らいでいて』、不安定であるからね。バランスが崩れると血の制御が出来なくなっちゃうんだ」
《あっ、結構不味い奴ですか、あれ》
これには反省。
「普通ならね。まあ、王種となると血液のストックもかなりあるから、問題ないよ。プルクラのは見てて面白いし」
アンゼルムさん、わりとゲスなことをおっしゃられている。
「ただダラーとかサンとかを外に――それも戦場っていう明らかな非日常に連れて行くならちょっと気をつけて見ておいてあげてね」
《了解っす》
あー、やっぱり普通に生き物だからそこら辺の病気とかあんのね。ない方が逆におかしいか。
だからあんまり面白がってストレス与えちゃ駄目なんだなーって思う。……つっても、ダラーさんとかに積極的にこういうことするかって言われたらしないんだよなあ。
相手はちゃんと選ぶ。なので今も相手を選んで酷いことをする。
俺は不意に、いそいそと自分の骨で小さな丸テーブルを作る。
「? なにそれ?」
アンゼルムさんが不思議そうに骨テーブルを眺めている。高さも寝転がってる人の顔の高さほどしかないし、面積も大人の広げた手の平四つ分くらいだ。
《召喚の卓です》
「?」
《いでよ、パックくんっ!》
《ふぎゃ!》
俺が腕を高々と掲げると、パックくんがちょうど丸テーブルの上に落ちてくる。ガバッと起きたパックくんはあらぬ天井を見つめて、怒鳴る。
《マスター!? ちょっとぉ!? なにすんの!? 飛べないし! いきなりここにワープさせて何させようと――分かってるけどもぉ!!》
オーベロンさんの考えは読めないけども、俺が何させようとしているかは分かっているので、拳をたーんと骨のテーブルに叩きつけていた。
《おー、パック》
アスカが明らかに弾んだような……嬉しそうな雰囲気を醸し出し、自ら進んで妖精の姿になる(殻になった肉体は俺が受け取り、吸収せずにくっつけておく)。ふよふよと相変わらず不安定な飛行で丸テーブルに降り立つ。
《パックー》
《ア、アスカ……》
パックくんが立ち上がり、アスカに向き合いながらも後退っていた。対してアスカは両腕を左右に広げて、ハグの構えである。
アスカは親愛なる仕草をしてると思うんだけどなー。なんでパックくんは逃げようとしているのかなー。あっ――、
《どこに行こうというのかね》
《うるさいっ!》
怒られちゃいました。……そういえば最初の頃って丁寧語を使われてたけど、なんかいつの間にかフランクな口調になってるよね。やっぱり仲良くなったって証拠かなっ?
(どう思う、ラフレシア? 俺とパックくんの仲って良くなったと思う?)
《あの表情を見て何を思ったかによるんじゃない?》
ちなみにパックくんの表情は、すっごい、んぎぎ顔である。
(遠慮がなくなる=仲良しってことだねっ)
《脳内モンスターかよ》
脳内お花畑に代わる、言葉っ。それは脳内モンスター。話が通じない、理解が及ばない、倫理観がないとかかな。
まあ、真面目な話をすると一方の幸せを願うと一方の不幸せになる場合、俺は身内の幸せを願うからね。
アスカはパックくんに会いたがってたんだよ。――でもパックくん、君、アスカのこの明らかな好意の心情を読み取ってから近づかないようにしてたでしょ。
《うぐっ》
図星っぽいです。
まあ、基本的に感情薄いはずなのに、なんか自分にだけは強い感情――それも好意を向けてくるのは気まずいのは分かる。それを分かってしまうのも。けれどここで会わなかったら、たぶんずるずると避け続けることになると思うんだよ。
《……分からないでもないけど……。――でもさ! この子のマスターとしてもうちょっと理性的に振る舞うように言い含めるのも大事だと思うけど!?》
パックくんは今やテーブルの上をグルグルと走り回っている。後ろからは《パック、ちゅー》と唇を尖らせて、手を前に突きだして駆け寄ってくるキス魔がいた。
《……。確かに、その通りではあるね……(面白そうだからこのまま放置するか)》
《心情ぉおおおお!!》
パックくんが俺の本心を見てしまい青筋立てるくらいブチ切れてしまった。
んで、普段飛んでいるせいか走るのになれていないパックくんは、脚をもつれさせて転んでしまう。そんでもって、普段は二足歩行をしているアスカは走り慣れているので、問題なく追いつき、前に回り込んで、パックくんの顔を掴んだ。
《あっ――》
なんかパックくんの表情が巨大モンスターに真正面から捕食される寸前みたいな感じになってた。
それでもって、この後の表現はぁ、パックくんのためにも自主規制!
とりあえず、この現場を現す言葉を二言。
《ズキュウウウン!》
「えーっと、『さすがリーダー、おれたちにできない事を平然とやってのけるッ。そこにしびれるあこがれるゥ』」
アンゼルムさんに手伝ってもらって、俺のしたいことを完遂出来ました。いえい。
あと、プルクラさんは……、
「うぶぶぶぶぶぶ」
なんか血の繭を形成して、ぶるぶる震えていた。どんどん膨らんでいるから、やべえことになってるだろう。
あと、汚水を提供したいけど、それはパックくんに差し出すことになるからやらなかった。
そんなこんなで俺は満足しましたとさ。
《……この大惨事の後始末はちゃんとやってよね》
ラフレシアにそう言われて、俺は頷く。
(そのくらいの責任は持ちますよ)
パックくんとプルクラさんに殺されないように、がんばろ。
次回更新は10月8日23時の予定です。




