第七十三章 勝ったッ! 第三幕 完!
時間が経てば勝ちではあるけれど、……でも最低限、意識は失わせないとなあ、なそんな状況です。
っていうのも、今ね、サンの魂内にラフレシアがいるんだ(ついでに肉体にはアスカもいる)。そんでもって、ラフレシアには魂内を調査して貰って、サンの人格や記憶を発見出来たら、サルベージする予定なのだ。
見つからなかったら、とりあえず……どうしようね。……悪い方向には誰も――ダラーさんの前では――言えなかったから、そこは決めてない。最悪、俺らに危険が迫りそうだったらやむなく殺すことにはなるだろうけど、基本的に無力化だな。それと仮に人格と記憶があったとしても、俺らではどうしようもならなかったら……これまた最悪な方法を取らざるを得ない。
まあ、駄目な方は今は考えないようにする。
ああ、一応だが、ラフレシアがサンの魂に入っている理由を軽く説明しておく。
普通、ラフレシアが他者の魂に入るには相手の承諾を得る必要――いわゆる『契約』を結ばなくてはならない。
なので本来は、無条件で魂に入ることは出来ないし、無理矢理相手に魂を送り込むなんてことは出来ないのだ。
そんなこと出来てたら、勇者の村周りがとんでもない魔窟になってるだろうからね。
だけど、その『契約』には、あるセキュリティホールのようなものがあったのだ。
それには――まず俺の体内で生成される無垢な魂を、俺が『掴んで維持』する。そしてラフレシアにその魂内に入って貰って――相手に無理矢理叩き込む。そうすることでラフレシアを相手の魂に入れることが出来たのだ。
これを『強制契約』って呼んでる。
ラフレシアを魂内に入れることで、相手の魂を読み取ったり、スキル編集、操作を行うことが可能だ。これによって、一時的にスキルを停止させることも出来る。防守の魔王に麻酔が通じた理由がこれだ。
ただしこれは何度か言っているが、『強制契約』は『諸刃の剣』で相手にラフレシアの存在を気付かれてしまうと逆にこっちにダメージがくる場合があるのだ。
っていうのも、ラフレシアの『契約』ってどうしても相手の下位に位置するようになるらしく、命令には逆らえなくなるらしい。
なので、基本的にスキルを停止させるなど『分かりやすい何か』をやるとしたら一回こっきりで、危なくなったら即離脱をしてもらわなければならないのだ。
必殺技ではあるけれど、その分、かなりピーキーだから使いどころは考えないといけない。
そして、今、サンにそのことを気付かれないように立ち回らないといけない、という状況なのだ。
下手に引いても駄目だし、かと言って不自然に前に出すぎるのも感づかれる要因になるので、程よく戦う感じにしなければならないのだ。
だから安心して調査出来るようにサンを気絶させるのが一番良いんだけど……難しいんだよねえ。サンは狂っているとはいえ、力量はハイマさん以上だ。しかも俺が苦手な魔法タイプの吸血鬼。
弱らせないと、毒もまともに食らわないだろう。
本気で殺しに来てる相手を殺さず気絶させなきゃならない。まあ、戦力差は圧倒的にこっちが勝ってるから、出来なくはないかもね。
リディア、イェネオさん、ドクター、ダラーさんは普通に強い。俺が知ってる人の中で上位に入る。実際、今まさに戦っているのはそのうちの三人だし(ドクターはオミクレーくんやウーくんを守るという呈で下がっている)。
これで負けることはないだろー。四天王が来たらヤベーけど、アスカを解放した今、向こうに争う理由はないからな。証拠を見せて、話し合いに持って行ければ普通に止められる。
だから問題ない、はず。
「ぷぎ」
俺が色々と考えている中、後ろから声がする。ラキューだ。まあ、近づいてきていたのは分かっていたが――ラキューがアルスを後ろに控えさせて、誇らしげに顔を逸らしている。
……褒めて欲しいんだろうなあ。
俺は手を伸ばして、ラキューの頭を撫でる。ついでにアルスも撫でておく。
(二人ともよくやった)
「ぷぎ」
「ぶあー」
《ラキュー、戻りたいって》
ラフレシアがそう教えてくれる。
……安全になったから、俺の身体に引っ付きたいのね。――そうだな、一旦、全員戻すか。戦わないと、とか言ってたけど実は何気にヒマなんです。
俺はラキューを張り付け、アルスは自分で戻り、ラフレシアに頼んで残り二人を呼び戻す。
ちなみにヒウルはレールガンを外した場合に備えて、目潰しの役割を与えていた。こういう時、便利なのよね、指向性のある光って。
んで、ディーヴァは周囲の警戒をしてもらった。強いて言うならば、四天王の誰かが来たら報告してもらって、誰かに対応してもらう予定だったのだ。
……『孤苦零丁』の声真似の件があるから、サンに向かって下手に声をかけられると『事故』が起こる可能性があるのだ。ここまで来たんだから、そういう悲劇はなくしたい。
――ううむ、にしてもしぶといな。三人を相手取っているのに、サンはギリギリながらもなんとか立ち回っていた。
つーか、そもそも俺が狂界にいる時から普通に耐えてたんだよな。出来うるなら気絶させても良いって言ってたんだけども。
《手数が異常に多いんだよね。最高出力が出せないから、もう手数に絞ってる感じ。それで皆は押し切れなくって、――サンに大技を出されないようにも気を配ってたみたい》
なーるほーどねー。
リディアは魔力量が無制限に近いけど、高火力を出す方法が『手順を踏む』必要があるっぽい。だから、基本小技に頼ることになって、それだとサンには押し負けるっぽいんだよな。あと大技が高火力過ぎるってのも問題らしい。
ドクターは高火力を瞬間的に出せるし、魔力量も多いけど『サンみたいに異常なほど連発出来るわけではない』っていうのがミソだ。それと元々、研究職で戦闘らしい戦闘が少なくって、セオリーみたいなのも分かってないっぽいんだよね(俺も戦闘経験浅いから分かるんだけど、そこら辺分からないとマジで不利になる)。
ダラーさんは前線で戦うタイプだけど、基本的に近接戦専門だから、空中にいるサンとはかなり相性が悪いっぽい。でも、すげえ速ええから隙を見せたら、一撃を食らわせられるのが普通にでかい。だからラフレシアいわく、サンに一番警戒されてたらしい。
んで、今度はイェネオさんがドクターの代わりに入って――、さっきよりやや押してるらしい。
イェネオさんって剣士だけど、近中距離の攻撃を行えるし――どうやら空中に足場や壁を作れるっぽくって、サンの弾幕を防いで前線を押し上げる役を担ってるんだよね。
それがダラーさんと相性が最高に良くって、『押している』一因になってるようだ。
……言っちゃうと、俺が手を出す隙がないんだよなあ。
俺って鈍足だし、味方事巻き込む攻撃が多すぎるから、協力とかラキュー達じゃないと無理なんだよ。
とりあえず『雷霆万鈞』を構えながら、うろうろしてます。これだけでも――うん、サンは俺も注視しなきゃいけないから辛いところ、なはず。
何もしない固定砲台も何気に重要です。
ダラーさんかイェネオさんのどちらかがサンに強い一撃を与えてダウンさせてくれたら、そこでこの戦いは終わる。だから、もうちょっと時間はかかるけど、いけるはず、なのだ。
《――懸念は感情スキルの『狂気』かな》
そうラフレシアが呟く。
どういうこっちゃい。
――なんだろう。そう言われてよく見てみると、リディアもなんとなく緊張した面持ちだし、イェネオさんとダラーさんも有利なのに多少焦りがあるような、ないような?
でも感情スキルって、ただ単にその感情を維持というか、精神の揺さぶりがあってもその感情は揺るがなくなるみたいな精神を補強する効果があるだけなんじゃないの?
それをラフレシアに言ってみた。
《普通はね。――っていうか、本来はそれだけだけど――制定者』が後付けで設定した……たぶん実験目的でだと思うけど――感情スキルの熟練度をマックスにすると『使い捨て』のスキルを渡してくるの》
(『使い捨て』のスキル?)
《本当に一回使ったら使えなくなるっていうのがほとんど。たぶんスキルの構造上から一回分使用出来る魔力とかを内包した上でやってるんだと思うんだけど……。でも、それってスキルの殻が残り続ける問題点と応用が利かない限定的な使い方にしないといけないから、画期的じゃないっていう……。たぶん対象とした相手に合ったスキルの調査とかの意味合いもあると思うんだよね》
なんか後半はよくわからんけれども、なんか感情昂ぶると一回限りのスキルが使えるようになるってこと?
(強いスキルが多いの?)
《大体は。……本来は実用性がないスキル奪取とか破壊とか、割とシャレにならないのが多い》
それは怖い。
《ちなみにリディアに無効だったり、使った後、無力化しても効果が切れるまで危害を加えられないのは確実》
うーん、依怙贔屓が素晴らしい。
――ただ、うん、なるほどね。だから早々にケリをつけるべきなのか。
確実に狂気という感情に染まり続けているのなら――しかも、それが爆発的に感じられてしまう今の状態なら、そうなってしまう可能性が高いのか。
……そして、その意図的では出来ないとはいえ、確実に発生させられる『主人公補正』は――――発動してしまう。
《やっば――『狂気の贈り物』きた――! 『愚者の石』――効果は――――あれ?》
あれぇ?
うん、あれぇ? だ。よくわからない。
なにかがおきた。
やってくる。
おれ――――――やっべぇえええ!?
今、知性、吹っ飛んでた。
知覚出来るあらゆる事実を認識し、処理することが出来なくなった。たぶん、それは皆も同じなのだろう。リディアに至っては地面に落下しかけていたほどだ。
そして、サンはイェネオさんやダラーさんを火球で吹っ飛ばし――俺へと突っ込んできていた。
どうしてぇ!?
俺は慌てて逃げようとして――そんでもって『魔力感知』の甘さがここに来て、大いに裏目になってしまった。
逃げた先に、大きな空間転移の門が開いていたのだ。
あっ、まずっと思ったが時すでに遅し。
俺はスポーンとその中に入ってしまったのだ。
戻ろうとしたけど、すでに門を消されてしまった。
ついた先は、めっちゃ暗いところだ。
エコロケを使うと、ドーム状の施設であることが分かった。
そして、そのすぐ後にサンがやってきた。
わぉ!? 落ち着いてる場合じゃねえざますわよ!?
どどどどどどどどど、どうしよう!? まず、ここどこ――!? と、俺は半ばパニックになっていると――、
(おい、そこシェルターだ!! 早く逃げ――駄目か――くそ――!)
シェルターってなんなん!? 教えて教えて! って思っている間もなく、すぐにその意味を知ることになる。
ドーム状の空間の、その天井や壁に魔力の壁が発生したのだ。あれは……見たことがある……恐らく結界だ。
(しかも、俺の村程度の強度がある)
そうミチサキ・ルカが一言口にした。
それは強いの弱いの? まあ、強いんだろうなあ。
(『不滅』のスキルとか使ってる)
強いわな。結界に『不滅』って。
実際、ドクターとの通信がぶっつり途切れました。たぶんそういう魂的な繋がりも遮断してしまう、そんなシェルターなんだろう。
あぎゃああああああああああああ!? だったらやべえよおお!!
「……あぁ、遅かった――」
空に浮かぶサンが、そう呟く。
……その意味は……本当に幸いなことに、結界が張られる直前に、転移門が現れたのだ。ドクターが造ったのだろうけど、本当に一瞬だけだったけれども、ダラーさんがそこを通ってきてくれたのだ。
でも、ダラーさんは、火球の直撃を食らったせいで、ブスブスと焦げていた。
「大丈夫か!?」
《は、はい。それとまだ続けられます》
貴方の方がやばそうですけど、とか軽口も言えない程度には、俺は焦っていた。
ダラーさんはホッと吐息をつく。
「……よし、……それとここはシェルターだな。増援は期待出来ない。……このシェルターはアンゼルム様が全力で攻撃しても壊れない設計になっているらしい」
そうなんですかあ(泣)……って、ことはここは……ジルドレイなんだろうけど、四天王すら入って来られないってことか。
「それと結界を起動させてる動力源は、あいつだから……ほぼ無尽蔵に魔力があるようなもんだ。倒さない限り、絶対に逃げられない」
オワタ。
うへへ、勝ち確から、まさかのデスマッチの開幕ですわよー……くそが。
次回更新は8月6日23時の予定です。




