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転生したら、アンデッド!  作者: 三ノ神龍司
第三幕 終わらぬ物語の行方
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第六十八章 さよなら

(そんなこんなで進捗(しんちょく)どうですか?)


《納期が迫り動悸(どうき)息切れが――、とだけ》


 俺の胸が締め付けられる問いにラフレシアが短くそう返してくる。


 修羅場ってことっすね。まさかの命名式直後に命の危機に(さら)されるとか、俺ら身体張ったギャグかましてるよなー。ウケるー。まさに生と死は表裏一体ってかー。うははー。


(まあ、焦らずにな。俺らは大丈夫……)


「ぷぎゃああ!!」


 豚ことラキューは錯乱したように叫び(またイェネオさんにちょっかいをかけて驚かされた上で時間がないと知ってしまったのだ)、


「ぶあ」


 レールガン『雷霆万鈞』ことアーセナル・ミネルヴァ――愛称アルスはマイペースにチェーンソーを俺の饅頭(まんじゅう)下半身から増産して生やし、


「あば」


『真経津鏡』ことアマテラス・ヒウルはこっちもマイペースに身体の至るところから光を出す練習をしていた。……なんか、より筋肉質になっていってる気がする? それとなんでかな、『局部』に性的部位はついていないんだけど、そこら辺を重点的に光らすのはなんじゃ。モザイクのつもりか。別に良いけどさ。


「あははー!」


『孤苦零丁』ことディーヴァ・ミューズはアルスの造ったチェーンソーを俺の饅頭下半身から引っこ抜き(アルスから使用許可は得ている)エンジンを(うな)らせながら、ぶぅんぶぅんと楽しそうに振っていた。


(マジで大丈夫だから落ち着いてやってて)


《……おーけー》


 ――豚以外、想像以上にマイペースに生きていたよ。


 とりあえずラキューが錯乱して姿をくらまされると困るので、回収して下半身に張り付けておく。他のは……まあ、問題ないだろ。


 あっ、ディーヴァに注意喚起しないと。


(チェーンソーはぶつけたとき、キックバックっていう自分に跳ね返ることあるから気をつけろよー。んで、手から離した時、吹っ飛んで他の人――この場合、イェネオさんとかに当てたら取り返しつかんからなー)


「はぁい」


 とりあえずディーヴァの事故率を下げるために、最低限のことは伝えておく。俺らは別にキックバック起こって事故ったところで問題ないけど、周りに被害が及ぶかもしれないからな。


 ……にしても唸り声じゃなくて、ちゃんとした意味を持った言葉で返事をされると当たり前だけど分かりやすいな。


 『孤苦零丁』、優先的に増産するか? (しゃべ)れてた方が色々と便利かな? ……でも、そうすると豚にもあげないといけないんだよなあ。なんか豚には喋って欲しくないけど……いや、それは完璧に俺のエゴだから……うーむ。まあ、出来るようになったら豚にも直接訊いて、判断しよう。割と普通に会話してれば慣れるかもしれんし。


 でも、ぷぎぷぎ言ってるの可愛いんだよなあ。


《……世界が縮み始めてる。時間はわずかかも》


 パックくんがそう報告してくれる。


 魔神って、何らかの理由で狂界を消すとき、まずその狂界を縮小させてある程度小さくなったら、消滅させるみたい。


 狂界を消滅させると、少なからず衝撃波が発生するらしい。それが危険だってことを魔神も本能的に理解しているのかなんなのか、ギリギリまで縮めてちゃんとケアするらしいよ。


 つっても、それをやったと観測されているのは魔神アスカ以外にはベヘモスって奴だけらしいけど。他の二体は常に狂界を張ったままらしい。


 ちなみにベヘモスが狂界を消す理由は、中の生命体がいなくなったからっぽい。……んで、移動して魔界の町や国を取り込むために移動するようだよ。魔界の住人からするとベヘモスが断トツでヤバいらしいね(他二体はそもそも動かないのと、移動ルートがある程度決まっているのがいるらしい)。


 ――で、その狂界を消すことに関して――いや、正確には『魔神を殺すこと』に懸念事項がある。


 というのも、歴史上、魔神を殺した事例は存在しないようなのだ。ちなみにだがリディアが戦った(?)竜の女の子は、魔力切れによる消滅だから殺害とはまた違うらしい。


 だから、魔神アスカが死ぬとどのような結果になるか分からないのが怖いらしい。


 まあ、アスカの世界は他の魔神と比べると小さいから、問題ないかもしれないらしいけど。元々発生する衝撃波は小さいものばかりだったらしい。


 でも今回は、一帯が吹っ飛ぶかもしれないってさ。


 外に出たら地形が変わってるかもね。


《まあ、一番怖いのはそこじゃないんだけどね》


 意味深なことを(つぶや)くパックくんである。


 ……空間爆発だっけ? 威力が凄まじいのもあるんだろうけど、他にも危険な理由があるんだろうな。


 そこは別に今はいいや。んで、次第にだが俺でも判別出来る程度には世界が狭まり始めてるのを知覚出来た。――音が聞こえる。わずかだけど、吸い込まれるようなそんな音だ。


《世界の端っこにあるエネルギーに出来ない外由来の物質が外に出されてるみたいだね》


 ふへー。……そこに俺がいけば外に……とか思ったけど、俺って普通に『エネルギーに出来る外由来の物質』だから無理か。境界に触れるとエネルギーにされる感じ?


《うん、問答無用で》


 魔神アスカが(だま)されるように俺自身が変質すればワンチャンあるか。もしもの時はそれを試してみよう。というか試さざるを得ない、か。


「シテ――コロ、シテ……」


 アスカが触手袋の中で、哀れな実験生物みたいなことを呟いていた。


「てーあー()ーもー()()ーてー」


 イェネオさんが小さな身体をパタパタさせている。この二人が反応してるってことはもう完全にヤベえってことか。


 そろそろイェネオさんの手足を『侵蝕』で復活させようかなあ、と思っている時だった。


《出来た!!》


 ラフレシアがそう言った、その瞬間だった。


 なんかいきなり俺の身体から内在魔力がごっそりと減った。動きが一気に鈍くなる。


 さすがに何事!? と思っていると――、


《わぉ》


 俺の頭の上に、妖精が生えてきた。けれどラフレシアやパックくんではなく、赤い長髪を生やした――見た目そのまんまの小型化したアスカだった。


 で、妖精アスカは……まあ、いきなり飛べるわけもなく落ちていきそうだったので、慌てて手で受け止める。


《世界が、大きい》


 妖精アスカが無感情な声色で、おー、と感嘆(かんたん)したような吐息を漏らしていた。


(出来たのか。……にしても、内在魔力かなり使ったな)


《最適化が上手く出来なかったの。幸い枯渇させないまでには済んだけど》


(……回復し続けられそう?)


《…………未知数》


 うーん、行き当たりばったり決定!


 まあ、いいや。元々計画してなかったことだしな。とりあえずイェネオさんを回復させて、魔神アスカを殺させよう。そんでもって、どうにかしてイェネオさんを外に連れ出すのだ。


(よーし、妖精の方のアスカ、イェネオさんを回復させるのだ!)


《うぉーけー》


 あっ、パックくん。イェネオさんにこの妖精アスカは殺したく思えるか訊いて?


《大丈夫みたい》


 なら良し。


 俺は妖精アスカをイェネオさんの頭の上に置く。


「どうぞ、宿主」


 ディーヴァがイェネオさんの剣を持ってきてくれた。


(助かる)


 俺はその剣を受け取り、イェネオさんを見下ろす。


 眼下でみるみるイェネオさんの身体が戻って行くのを確認出来た。回復魔法的なのってこうマジマジで見たのって、クレナイちゃんの時だけだったから新鮮だなあ。しかも妖精アスカの力はかなり強いみたいだから、再生速度とかかなり早い。割ときつめに潰した手足がみるみるうちに元に戻っていくのだ。


「……うん、さすが」


 瞬く間に手足が治ったイェネオさんが立ち上がり、手をグーパーしていた。


「……ちょっと不安定ではあるけど、斬るだけなら問題ないかな」


 俺はイェネオさんに剣の柄を差し出す。ちょっとドキドキ。斬られないと思うけど、やったことがやったことだからね。真っ二つにされても文句は言えない。


「…………」


 イェネオさんが俺を(にら)み見上げてくる。――けど、剣を受け取り、触手袋の方へ向く。触手袋を置いて、開くと粘液に塗れたアスカがそこにいた。


 イェネオさんがアスカの元まで歩いて行き、剣を構える。


「最後の言葉は?」


 そう問われた魔神アスカは、妖精アスカを見上げる。


「――私よ、後は頼んだ」


《任された。――良き、黄泉路(よみじ)を。『彼』によろしく》


「うん。――もしあの世があって、『彼』がいたら――どうしよう」


《どうしよう?》


 妖精アスカとアスカがイェネオさんを見つめる。


「……殴っとけば?」


《殴っとこう》


「殴っちゃえ」


 妖精アスカがグッと拳を(かか)げ、魔神アスカがわずかに(うなず)く。


《それじゃあ、……さようなら》


 そう妖精アスカの言葉と同時に、魔神アスカの首が飛んだ。


 魔神が死に、狂界が終わる。


『あの日の正しき結末をどうか私に』、その願いはこの瞬間に果たされた。


終わらない物語が、今、終わる。










 魔神アスカの頭が真っ二つになった瞬間、世界が崩壊し始めた。


 周囲が塵になっていく。不思議な闇夜が崩れ去り、太陽の光が差し込んでくる。バラバラと崩れ去る世界はとても幻想的だった。


 だが、世界の崩壊に見蕩(みと)れている(ひま)はない。


 俺に何か異変はないのを確認。空間爆発も、今すぐ俺らに影響がないようだ。吸い出されて吹っ飛ばされる可能性も考えられたが、その心配はないようだった。


 で、イェネオさんだが……、


「やっぱりか」


 イェネオさんも塵になりかけていた。先ほどの役割を終えたリディアもどきのように、崩壊――正確には魔神アスカに吸われて行ってしまっている。


 このままだとイェネオさんは魔神アスカと共に消滅してしまうだろう。


 イェネオさんを殺して魂の回収は、出来ない。まだ魔神アスカのシステムが生きている可能性があり、下手にイェネオさんを殺すとせっかく穏便に終わらせた物語が『失敗』扱いされかねないのだ。


 もしそうなれば、俺らごと回収されて魔神アスカと共に消滅、なんてことになるかもしれないのだ。


 だからどうにかして、イェネオさんを生きたまま、魔神アスカが完全に消滅するまで保たなければならない。


(アスカ、回復開始!)


《うぉおおー》


 イェネオさんの頭の上に乗っているアスカが回復魔法を使う。


「――っ」


 俺の身体がさらに鈍くなる。想定はしていたけど、消耗が激しい。――アスカのために透明な魔力を供給しなければならず、その変換ロスが大きいのだろう。


「やっぱり無理じゃない?」


 イェネオさんが苦笑いを俺らに向ける。


「かも、しれないっす。でも、俺らは死なないんで、頑張ってみる、ので」


「この後、差し支えるんじゃない?」


「そん時はそん時で」


 ダラーさんには悪いけど、サンについては二の次だ。さすがにそっちを優先するために、イェネオさんを見捨てるのは、ない。……たぶん、それをやったら確実に俺やラフレシアはくすぶりを心に抱き続けることになる。


 仮にサンを救えたところで、素直に喜べないだろう。それは嫌だ。


「――他の誰かに対しても『助かって良かったね』って本気でそう思いたいんで……」


「……ここまで来たら止めはしないけどね」


 イェネオさんは呆れたようにそう言う。


 じゃあ、頑張ろう。……でも、思いの外、消耗が激しすぎる。……うーむ、アスカを今後運用するにしても、これだと難しいな。少なくとも一体生成するだけでも、きついし、一人の仲間につき、一人アスカを預ける、とか気軽に出来んな。


《どうする、どうする?》


 ラフレシアが焦ったように呟く。ちなみにすでにラフレシアはイェネオさんに許可を得て取り憑いている。魂の引き寄せは留められているようだけど、肉体がどうにもならんようだ。


 確実に魔神アスカが消え去るまで保たない。そもそも崩壊と回復の速度が負けているのだ。けど早めると、余計に魔力を消耗してしまうようだ。


 魔神アスカよ、もうちょい自身の崩壊を加速出来んもんかね。あっ、イェネオさんの吸収は遅めでオッケーっす。


 ちなみに願いは届かず、イェネオさんの片腕が肩までなくなっていた。ちくしょう。


《――そうだ! マスター、もう一人、アスカを召喚するよ! それと――ごめん!》


 そう謝られてしまうと同時に、もう一人のアスカが、ポンッと現れると――さすがに俺の巨体は地面に(しず)んでしまう。


 ほぼ内在魔力が尽きちまいましたよ。……ヤバくなーい? なんのつもりー?


 ただそう問いかけるのも魔力を使いそうだったから、俺は俺同様、動きが鈍くなっている上半身達と――豚はあわあわとしながらも普通に動けてる――を(なが)めていた。やっぱり豚は……ラキューは内在魔力が枯渇しても行動が可能なのね。


 狂界の崩壊は――まだ続きそうだな。


 外装が()がれて、巨大な蛇の鳥籠(とりかご)が遠目に見える。いつの間にか足元の地面は土から、あかがね色の蛇になっていた。


 ――狂界は薄い膜で保っており、それにヒビが入っていく。割れるまで、まだかかりそうだ。


 イェネオさんがふと、ため息をついた。


 そして、倒れ伏す俺を見つめ、微笑みを浮かべた。


「――せめて、最後くらいは……」


 そう言って、さらに短い言葉を紡ぐ。


「さよなら」


 ――その言葉がこの世界でのイェネオさんの最後ものだった。


 そうして――そのしばらく後に、魔神アスカは完全に消滅する。

次回更新は6月18日23時の予定です。

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