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転生したら、アンデッド!  作者: 三ノ神龍司
第三幕 終わらぬ物語の行方
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第六十五章 イェネオVS上半身

 イェネオはアハリートの――――身体の一部? である上半身と対峙していた。


 全身を折り重なった(うろこ)のような(よろい)(おお)われている。腕はイェネオが見たことがない武器――チェーンソーになっていた。顔はのっぺりとした骨で覆われており、三つのぎょろりとした目がついており、それがグリグリと動きながら周囲を観察していた。


 ――その他に気になる特徴は、尻尾だろうか。身長以上の長さがあり、カリカリと擦り合わせるような音を立ててゆらゆらと揺れている。


 尻尾の先端は鋭い円錐(えんすい)型をしており――容易く肉を貫き裂いてしまえそうだ。


 見たことがない姿だ。だが、イェネオは目の前で相対する者が、先ほど自分の攻撃を防いできた者と同一人物であると確信していた。


 ()めてかかった結果、『覚悟』を得て、一段と成長した存在であると。


 少なくともアハリート本体や豚とは全く違う。


 勝つために手段を選ばない存在ではなく、勝つために努力し、備える者だ。その気配がある。


 ある程度のプライドも持ち合わせている、そんな感じがする。


「合ってる?」


《うん。……アハリートや他の子よりかなり……そうだね、『武人』っぽさがある》


 パックがこっそりと教えてくれる。


《少なくとも横やりを入れられるのを本気で嫌がってるから、安心して戦っても良いと思うよ》


 ――もっとも本体であるアハリートがそれを忠実に守るか疑わしいし、『戦いが終わった瞬間』に攻撃してくることも考慮しなければならない。


 ……ただ、イェネオはなんであれ、多少は楽しめる戦いを出来ることは嬉しくあった。正直、アハリートとの戦いは窮屈(きゅうくつ)さを感じていたのだ。まあ、戦いに手段を選ばないのは当然のことだが、それでもなんだかなあ、とちょっとだけ思っていた。


「――やろっか」


「ぶああ」


 一瞬で終わるかもしれないとしても、それでも楽しもう。







 僕はイェネオと対面していた。一対一で向き合って初めて分かったのが、さすが勇者と言うべきか威圧感がある。


 見た目が小柄な少女なのに、圧があるのだ。


 ――こういう感覚を、どうして覚えるのか不思議になる。


 少なくとも、僕は宿主と同じように五感が聴覚以外に存在しないため、圧力というものが本来、感じないはずなのだ。


 堂に入っている。構えが安定している。――いわゆる体幹による細やかな見た目や所作によるものだろうか。


 ああいう感覚は(あこが)れるものがある。何故か分からないが。


 僕は生まれたばかりで、自分というものすら、あまり分かっていない。


 ――こういう感覚を突き詰めていくのが、個性に繋がるのだろうか。


《かもね。(あせ)らず普通にやってれば、個性が見えてくるはずだよ》


 ラフレシアさんが同調してくれる。――この対応は、何故か嬉しく思う。


《……マスターから生まれたとは思えないほど、まともな思考をしてるんだよね、貴方って。他二人はちょっと特殊な感じになってるし。……豚はああ見えて丁寧(ていねい)だけど》


 豚に関しては意外ではあった。多少見栄っ張りではあるが、悪意はないようなのだ。他の二人は……まあ、うん。


《で、イェネオと戦うみたいだけど――結論から言うと、まず勝ち目はないよ。……一対一じゃさすがに力量差がありすぎて、貴方は負けると思う》


 それは分かりきっていることではある。宿主にもそう言われて、一度は止められたのだ。――ただ、僕は作戦にあまり関わりがないため、ちょっとしたワガママを通したかった。


 僕の魔道具は使用するのに時間がかかるため、それ単体で戦闘を行うには向いてない。だから何かしら別の特技が欲しかった。


 その中で『骨成形』などに適性があったため、それを伸ばす決意をした。


 それと純粋な個人での戦闘技能も得たい。そう思っている。宿主や同胞達にはない力だし……たぶん、伸ばしておくべきだと思ったのだ。


《間違ってはないと思う。マスターや他の子達の戦闘力は(から)め手ありきだからね》


 だからこそ、技量に優れているイェネオと一対一で戦って――何かを得たかったのだ。


《差がありすぎると何が何だか分からないと思うけど…………もしイェネオを助けられたのなら、師事するのも良いかもね》


 それはグッドアイディアかも。――なら、せめて少しでもイェネオの心に残るようにしたいものだ。ずるいことをせず、しっかり(ねば)って戦い抜こう。

 

 






 イェネオは剣を構え、さてどうするかと考える。


 見た限りでは『斬鉄』を防ぐために色々とやっているのが窺える。それでいて、他の攻撃に対しても防御が出来るように外骨格のようなものを纏っている。


(骨、辺りかな。……関節のような隙間は駆動用じゃなくて、たぶんこっちの剣を『掴む』ためのもののはず。――うん、そのはず。かなり滑らかに見えるから、造形系のスキルを使って流動性がある……つまりは、剣を包んでの無力化も出来るはず)


 むしろそれが狙い目まであるはずだ。


(――あとは、毒とかに気をつければ大丈夫かな。……最後は向こうの練度によるところが大きいから、やり合ってみて細かく調整してみよう)


 近接戦は相手の実力に合わせた立ち回りが必須となる。弱ければ苛烈に攻めて、強ければ隙を作るか、見つけるかを優先するのだ。


 ――ちなみにアハリートは弱い部類に入る。だが異常な再生能力と多くの手数と手札を有しているため、攻め落としきれないのだ。


(レギオンは一度だけ戦ったことがあるけど……確かに厄介で二度とやりたくない相手だったけど、あそこまでじゃなかった)


 生前、南の戦場で沸いたレギオンがティターンにやってきたことがあったのだ。その際、イェネオは先頭に立って、そのレギオン討伐にあたった。


 正直、強い弱い以前に気色悪いのだ、あれは。あらゆる感情がごちゃ混ぜになったかのような叫びを常に上げて、道中全ての生き物を吸収して回る。その上、場合によっては魂のある上半身が分離して、新たなレギオンの株になるため連日警戒して、通った道を割り出し、捜索、殲滅に当たらなければならなかった。とにかく面倒臭いのだ。


 戦闘も面倒臭い。本体となる核はあるようだったが、それを探るのは至難の業だし、アンデッド特有の殺害した相手をアンデッド化――もしくは吸収してしまうため少数精鋭にならざるを得なかった面倒臭い記憶がこびりついている。


 ……本来、一人で戦うべき相手ではないのだ。


 それにあのアハリートというのはレギオンは理性がある上に、通常のレギオンより遙かに多くのスキルを有しているのだ。


 それに一番厄介なのは防御不可の声による強制的な恐怖を与えてくる力だろう。


 ただ声を出されただけなら、慣れて効果は薄くなってくる。


 しかし危険な行為と合わせられると、それに対しての危機感――わずかな恐怖が増幅されてしまうようなのだ。


 しかもその際の恐怖心は『危ないから回避する』というものではなく、純粋に『恐ろしい』という感情に変換されてしまうのが厄介だった。


 その瞬間、その行動を別に怖いという弱気な感情を持っているわけではないのに、そうなってしまう。だからほんのわずかだが、身体が強張って動けなくなるのだ。


 ……本人はその仕様に気付いていないのか、攻撃を合わせる技量がないのか今のところ倒されることはなかったが、いずれはかなりの脅威になるだろう。


 今のところは技量やスキルが極まっていない『多芸は無芸』状態であるが、時間をかければ手に負えなくなる。


 ……そういう意味では、多少なりと善良であるのは救いだろう。


(そこら辺はフ――ラフレシアがなんとか(いさ)めてくれるだろうし、問題ないはず)


 まあ、あれについては良いだろう。


(じゃあ、まず斬るか)


 イェネオは手始めに、剣を振るって斬撃を飛ばす。小手調べの牽制――無論、それでやられたらそれで良し、な攻撃だ。


「あぶ」


 上半身は、どぼんと地面に潜る。……感知にほとんどかからなくなる。撃滅の勇者の記憶も見たが、アハリートの力であろう潜伏能力は知覚外から攻められたら対処出来ない。


 ただ、隠れる瞬間を見たのならばどうとでもなる。


 イェネオは足を地面に叩きつけると、次の瞬間地面がボコボコと湧き上がってくる。対アンデッド用のポピュラーな操作能力である。


 基本的にアンデッドは『魔力操作』が不慣れであるため、レジストされる心配がほとんどない。アハリートも多少なりと『魔力操作』が出来るようだが、それでも苦手であるのが彼を取り巻く魔力の流れから見て取れた。


 ――それはあの上半身も例外ではなく。抵抗出来ずに地面に引きずり出されてしまう。


 だが上半身に焦った様子はなく、あくまでイェネオに近づくための手段として使ったようで距離を詰めていた。


(音、は対策してそうだから普通に斬りかかった方が良いかも。まずあの両腕のは……うん、回転するのか)


 上半身の両腕に生えるチェーンソーが背面から血飛沫を上げながら回転し始めた。刃が無数についたものが高速で回転している。それだけで触れたら不味いものであると連想させてくれる。


(攻撃は両腕、尻尾と――触手は生やせる?)


 触手を生やせなくても、もしかしたら似たようなことは出来るかもしれない。たとえばあの纏っている骨を変化させて攻撃してくるとか。


 あと爆弾盾による弾き返しもしてくるか――爆発そのものを攻撃手段としてくるだろう。


「あぶ」


 上半身の背面から火炎が噴き出す。アハリートや豚が推進するために使っていたものと同じだ。


 急加速し、チェーンソーを振り抜いてきた。


 ――紙一重での回避は出来る。それでカウンターを叩き込めるが――上半身の背面には火炎と……血が噴き出している。


(あぁ、背中の防御も考えてるんだ)


 アンデッドの血は毒として考える。実際にアハリートは酸液に淫毒など多様な毒を用いてきた。安易に当たるべきではない。ただ幸いにしてかなり飛散距離が短いため、くっつくレベルではない限りは脅威ではないだろう。


 速度がありすぎるから、このまま通過してもらって、その背に飛ぶ斬撃を――と考えていたところで上半身が尻尾を地面に突き刺して、火花を散らしながら勢いを殺してくる。そして半円を描くように再度、イェネオに向かってチェーンソーを振るってきた。


「わぉ!?」


 イェネオはとっさにしゃがんで回避する。


 その止まり方は予想外だった。身に纏うものは骨で、硬度はそれほどでもないと思っていたのだ。だから地面に尻尾を埋め込んだり刺したところで、折れるか千切れるかだと思っていたのに。


(尻尾の――先端、色が違う?)


 イェネオが高い動体視力で尻尾の先端の色がわずかに異なっていることを発見する。


(――一部の素材が違う?)


 予想したそれは、当たっていた。


 上半身はアハリート経由でワームくんの牙を尻尾の先端やチェーンソーの刃として流用していたのだ(ワームくんはオリハルコンの牙を失ってしょんぼりしていた)。


 ワームくんのオリハルコン製の牙はある程度の時間をおかないと生成出来ないため、数は限られている。なので使用する部位は限定的だ。


 だから、身に纏う鎧には一切使われていない(そもそも『斬鉄』がある以上、防御としての硬さにはあまり意味がない)。


(硬度が違う――骨より硬いなら……剣をへし折ることだって出来るはず)


 ちょっとの違いでも、大きな敗因になり得る。一つの油断で敗北するのは許されないことだ。少なくとも再生も出来ない、命が一つしかない人間である以上、それは肝に銘じなければならない。


(私の予想が正しいなら、推進剤もあの血煙も限界があるはず。攻撃速度はそんなんでもないから、いなして燃料不足で焦ったところか止まったところに攻撃を入れるけど……)


 残念ながら、短期決戦が望ましい。そもそもアハリートは時間をかけることに尽力している。さすがに相手の思うつぼになるのは……色々と気に入らない。


 ――上半身が横振りでチェーンソーを振り回してくる。


 回転する大雑把な動きだが、血煙と合わせることで隙を出来るだけなくしている。だがそれでも本来なら、戦いでは好ましくない動きだ。


 ――つまり攻撃されることもある程度想定済なのだろう。


(……うん、ちょっとまだ幼さがあるな。目的が見えやすい)


 その点はアハリートの完全な分身ではないと言える。あれは嫌な大人なずる賢さを兼ね備えているのだ。


 対してこの上半身は裏をかこうとしているが、浅い。まだ他者の心理的な部分を理解していない――でも、それは化け物だからとかではなく、単純に若い故の経験不足だろう。


 裏のかきかたも真っ当だし、まあまあ好ましい。


(あとは練度かな。――試してみるか)


 もう火炎は出ていない。ただまた噴出することを考えて、噴射口のようなものには向かわない。


 流れとしては、血煙は強風を発生させて飛ばして、空白部分を作り、ほんのちょっとの身体強化を行って、通り抜け様に胴体を真横に一刀両断する。


 そのための道筋は、すぐに見えた。


 上半身が背を向けた瞬間に、強風を発生させた。血煙をさらに背中に押し込んで剣を叩き込むために身体強化を行い、接近する。


 全ての動作を流麗(りゅうれい)に行ったために、並の相手では反応出来ないほど、素早く剣を振るう。


 剣を相手の胴体に合わせて、剣を滑らす。


 ――『斬鉄』は人間にとってかなり流通した基本的なスキルである。発動させて斬るだけで、何でも切り裂くことが出来るため刃物を使う近接戦闘では必須とも言えるスキルだ。


 適性があれば、ほぼ誰でも簡単に扱えるが――やはりそこにも使用者による練度が存在する。


 当然だが、斬らなければ斬れない。……叩きつけるだけでは、刃を駄目にする可能性すらあるのだ。


 スキル的な熟練度を高めても、使用者の練度を高めなければ、瞬く間に刃こぼれによって斬れない剣が増産されることになる(実際、『斬鉄』を使う剣は硬いモノを斬るためなのでそうなりやすい)。


 だから、――何の抵抗もなく胴体をスライスするイェネオの技量はかなりのものなのだ。


 刃にすら自身の五感が乗るように……そうであるからこそ――、


(感覚が変わった)


 剣が上半身の胴体半ばまで埋まったところで、違和感を覚える。


 鱗の隙間はあえて狙わなかった。挟まれるかもしれないなら、いっそのこと斬れにくい部分からの方が良いと思ったのだ。


 その上でのこれだ。確実に剣を骨で包もうとしている。


(――けど、遅いし……()()()()()


 イェネオはそのまま、上半身の胴体を切り裂いた。


「あぶ!?」


 素早く自然に切り裂いたため、ほとんど身体は吹っ飛ばない。そのまま斬られたことすら気付かずに――などももちろん出来るが、そんなことをアンデッドにやったところでくっつかれるのがオチだ。


 だからちょっと吹っ飛ばしておく。


 軽く上半身が宙を舞い――頭がイェネオへと向く。


「いいね、諦めてない」


 ただ視線の管理が甘い。というか、この場面で出来ることは限られている。――下半身に生える尻尾の遠隔操作による刺突がイェネオに襲いかかるが、それをほぼ見ずに斬り飛ばす。


 核はきっと頭だろう。


 頭を潰しても動いたら、下半身もとりあえず細切れにすれば良い。


 アンデッド戦で重要なのは、とにかく『切り離す』こと。


 そして核であろう部分をとにかく素早く潰すのが重要だ。


 本来なら、すっぱりと頭を切り落とせば良いのだが――イェネオはつい口を開いてしまう。


「戦法は悪くなかったけど、色々と甘い。それと今、その外骨格で私の剣を包んだけど、『包みすぎ』。刃の部分に空洞を作らなきゃ駄目でしょ。そこら辺の練度をしっかり上げて」


「あぶー……」


「けど、ナイスファイト。次、がんばれい」


 イェネオはそう言って微笑んで、――容赦(ようしゃ)なく上半身の頭を細切れにした。


 するとパタリと下半身が力なく、倒れる。けれど一応、距離はとっておく。もしかしたら生きていて攻撃されるかもしれない。他にはアハリートが操る可能性だってある。


 アンデッドと戦う時は、殺したと思っても動く可能性を考えなければならない。


 ……さて、次は本体だが、どんな手を使ってくるのか。


 イェネオは一転して、面倒臭さが胸を占めながら、空飛ぶ巨大な化け物を見上げるのであった。

次回更新は5月28日23時の予定です。

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