第六十四章 俺達は派手に戦い、『お前』は時が来るまで静粛に
《コピー済んだよ》
とのことです、はい。割とあっさりと完了した。
ちなみに基本的にラフレシアとの会話は、俺や上半身達以外には伝わらないようにしている。さすがに全部を全部、アスカに伝えるわけにはいかないからな。
イェネオさんに伝わるかもしれんのに、気にせず言うのは馬鹿すぎるからな。
なので今も伝えていないけれども――、
「来るよ」
とのアスカの言葉と共に、十数メートル先にイェネオさんが姿を現す。
「おぉ、一瞬か」
イェネオさんが感嘆したような声を漏らしている。
――ふーむ、この感じだと逃げても、意味なさそう。イェネオさんじゃなくて、俺すら移動させられそうな雰囲気だ。あっちの飛んでくる位置は全く分からなかったけど、逆に俺だと位置がめっちゃ把握されそう。そんでタイミング良く現れた俺は為す術なくバラバラにされそう。
アスカ(本体)としては、俺らに死んで欲しくないみたいだから、とにかくイェネオさんに自身を殺させようとしてくるはずだ。
とにかく下手に逃げようとすると何かしらのルールに抵触して、不利になるから、戦うしかない。
《普通に戦って勝つ分には何も問題ないよな? 忖度は……いや、しないか》
「むりッス」
アスカに忖度とか難し過ぎるか。
《普通に有利になるようにはしないよな?》
「人生は厳しいのでそういうのはしない」
結構シビア。
「それと、私としてもイェネオには生きていて欲しいので、イェネオに肩入れし過ぎて殺すのは違うと思ってる。私が生きて、イェネオだけが死ぬのは、それはそれで間違ってるし、……たぶん嫌」
――けど、俺らに逆に忖度をしないのは、俺らが死ぬ可能性もあるからだろう。
死ぬ可能性をなくす――つまりは、エネルギー補充さえ出来れば問題ないけど、そこは俺らには出来ぬ。
ちなみに魔神アスカに外の何かしらを吸収してエネルギーを得る方法は出来るかと問いかけたら――、
「生き物以外も吸収出来るけど、効率は悪い。今みたいにエネルギーが切れそうな時とかにはほぼ意味がない。そもそも防衛時とか狂界発動時以外には動かない。そういうルール」
魔神アスカはルールに強くこだわっているため、今回みたいな定められていないことには割と寛容だが、前々から定められていることに関しては思うように出来ないという。これぞ魔神クオリティだな。
つまり素直にイェネオさんと戦うしかないのだ。
腹括るか。
俺はシャキンと構えを取って、いつでも迎え撃てることをイェネオさんに示す。
「なるほど?」
イェネオさんが俺を見て、そう呟く。――それ以上は何も言わない。
……ふむ? もしかしてさっきまでわざと独り言言ってた?
《うん。それでキミのわずかな反応で耳が良いなって判断してた》
パックくんがそう説明してくれる。
そっかあ。じゃあ、つまりもう呟くことなんてしないし、仮に何か言ったとしても『俺にあえて伝えてる』ってことになるのか。
でもそこら辺、パックくんがいる――いや、戦闘時だと嘘か真かどうか教えられるのを待てるほど時間はないか。それ込みでの本当か嘘か言われるのはきついね。
ちなみにだが、今、イェネオさんは俺の饅頭下半身の――たぶん下半身達と豚がいないのを見て、呟いたんだと思う。
あいつらは、しっかり切り離してあります。まあ、ダミーをつけておくことも考えたんだけど、作戦上、あえていない方が良いと判断してこうしている。
警戒させることももちろんだけど、下手にあいつらが量産できる存在とか思われると困るんだよな。死んでも問題ない存在、と思われる分にはまだいい。ただそこから『さらに』を推測されるとマジで作戦の成否に関わっちゃう。
イェネオさんが剣を横に構える。
また、爆音来る!? と思って身構えたら、来たのは飛ぶ斬撃だ。狙いは俺の後ろでプラプラしているアスカだ。
触手を振るって無理矢理躱し(「うぉんうぉん」とアスカが振るわれる度に言ってたけど優しくは出来ぬ)、とりあえず皮膚が爛れる程度の酸液が詰まった触手爆弾を投げ付けておく。
けれども、すでに俺に向かってきている最中であり、その間にも牽制斬撃を飛ばしてきている。無論、当たった部位はスッパリ斬れるし、たまったものじゃない。
「ぷぎゃ!」
と、そんなイェネオさんに横っ腹めがけて豚がケツからジェット噴射しながら突っ込む。
「お? ――おぉ?」
イェネオさんはちょっとだけ驚いて――少しの困惑を混じらせた声を上げた。
何故ならタイミングを間違った豚はイェネオさんの背中を通り過ぎていったのだから。
ギャグかな? もうちょっと真面目にやって欲しい物だ。
《…………》
なんかパックくんから、何言ってるの? みたいな圧を感じたけど知りませぬ。
んで、イェネオさんは俺へと急接近して高速で斬りつけてくる。ちなみにだが、この時、『斬鉄』と高熱を発する何かを併用しているためか、切り裂かれた部位は血もまともに噴出出来なかった。
そのため毒血液噴射によるカウンターは封殺されていた。
まあ、カウンターが出来ないだけで焼かれようともすぐくっつくことが出来るから問題ないんだけど。
「うんぐぁあああ!!」
イェネオさんがすっげえ小さな声で唸っていた。俺を斬っても、斬っても次々に繋がって元に戻るモノだからかなり苛ついてるっぽい。
「私の時より遙かに強く唸ってる」
アスカが呟く。アスカ以上に面倒臭い判定を受けました。たぶんアスカより弱いくせに元に戻るから面倒くささを感じるんだと思う。
何より俺との戦闘は常に周りに注意しないといけないのも原因だと思う。
常に周りに注意を払わないといけないのは、かなり神経を使うのだ。だからこそ、タイマンというのは戦いの上で、かなり楽なものだと言える。普通に強い奴が決まるのも楽しいしね。
「ぷぎゃ、ぷぎゃあああ!!」
豚が糞五月蠅く叫んでいる。さらに大げさなステップを左右に大きく踏んでいた。カッカッカッカッという蹄の音がイェネオさんの背後で木霊する。
「くっ、うぅ――!」
イェネオさんがめっちゃ、うざそうにしている。突進を外したと言っても、あの速度の突進は即死はしないとしても十分に戦闘不能にするものだ。回避をしなければならない――それを強いるモノが常に背後に備えているというのはかなりのプレッシャーだろう。
すぐに突っ込んで来るなら、避けて俺と一緒に斬り捨てることも出来るだろう。でも、豚は俺の指示で攻撃を控えるようにしていた。その方が効果的だしね。背後に突進を仕掛けてくるかもしれないっていう敵がいるのは辛いから、ギリギリまで攻撃をさせないようにしていた。
――この攻撃を仕掛けるか仕掛けないかっていうタイミングが難しい。豚が臆病で攻撃をしかけないのを見抜かれたら、普通に俺に対して集中的に攻撃をしかけてくるのは分かっていた。
ただその見極めも時間がかかると踏んだのだろう、イェネオさんは俺の頭上を飛び越えるサマーソルトを突如としてしてきた。
俺を真っ二つにしながらも、狙いはもちろんアスカだった。
アスカを繋ぐ触手が斬られてしまう――さらに追撃が来ようとしたところで、俺は空中のイェネオさんに触手を叩きつける。
しかしイェネオさんはなんと『宙を蹴って』、回避し、アスカに追撃をしようとしてきた。
《――空気の固形化。敵の前でそれをやるのは割とリスキーだけど、マスターの『魔力操作』の鈍さからやっても問題ないって思われたみたい》
くそっ、俺が魔力関係が糞雑魚だったばかりに攻められてしまうとは。これ普通ならレジストしたり、魔力を乱されたりしてまともな足場を形成出来ないんだよな。
ヤバいので、俺はアスカが入った触手袋にすぐさま接続すると――真下からジェット噴射した。そのまま真上に飛び立つ。
「飛ぶん、かい――!」
飛ぶんです。
かなり高出力で噴射したため、俺の真下から周りに大量の火炎が噴き上がる。
「ごー」
俺はそう口にする。
「っ」
それだけでイェネオさんが若干の躊躇をしてしまう。強制的な恐怖って使いどころを考えれば、わずかだけど十分な時間を稼げるだよな。
「くっ――」
その一瞬で俺はアスカを連れて無事に空高くへと飛び上がり、ついでに軽くイェネオさんをジェット噴射で焼く。
まあ、ちょっと炙った程度でダメージなんて皆無だが。
――で、イェネオさんは即座に対象を変更した。もちろん豚だ。
「!? ぷぎゃあああ!!」
無論だが、豚は俺の指示を待たずにこちらも即座にジェット噴射で逃げる。うん、良い判断だ。
イェネオさんは近づきながら――さすがにジェット噴射する豚に追いつけないため、その背中に斬撃を無数に飛ばす。
中々速い斬撃は的確に豚の背に追いつき――豚が切り裂かれる寸前で地面から飛び出た白い盾のようなものにぶつかって、爆発し、止められる。
そしてそこから、ぬるりと何かが現れる。
「――ちょっと見ない間にずいぶんと変わっちゃって」
イェネオさんがそう呟く視線の先には、――上半身が一人いた。
ただ、その姿は先ほど俺の饅頭下半身に張り付いていたものとは大きく姿を変えていた。
全身が白い外骨格のようなもので覆われていたのだ。幾重にも関節が重なったような骨の鎧を纏っている。さらに両手には骨で造られたチェーンソーが生えていた。尻尾もあり、そちらも関節が無数にあり、ゆらゆらと揺れ――先端は鋭く尖っていた。
こいつは、レールガンの力を持つ上半身だ。
中々に造形が得意なようで、あの鎧とチェーンソーは自分で拵えた。
ちなみに鎧のモチーフはゼノモーフの尻尾だ。重なっているため、割と自由に動くし――相手の攻撃を間に挟めて止める機能もあるようだ。上手くすれば『斬鉄』も止められる可能性がある。
『斬鉄』は当たり前だけど、斬らないと効果が発揮されないからな。
斬る、という行為は相手に刃を当てて滑らすという動作が必要になる。斬られる前に刀身を抑えるか、そもそもチェーンソーで弾いて、相手に斬るという動作をさせなければ、斬られる心配はない、というわけだ。
理論上は。
たぶんレールガンにはそれを為すのは、難しいんじゃないかと思われる。普通に技量が足りてないから、イェネオさんに先にぶった切られる可能性の方が高いのだ。
でもとりあえず、やりたそうだからやらせる。消滅する心配はなくなったから、色々と経験させてやりたいのだ。
ちなみにタイマンでやりたいそうです。
「タイマンでおねしゃーす」
俺が空からそう言うと、イェネオさんが疑わしげな視線を俺に向けてきた。
「えー。信じられなーい」
「信じてくださーい。ちなみに約束を破ると、俺、嫌われるので、しっかりやらせまーす」
「ぶあ!」
レールガンの上半身(当たり前だが下半身もあるよ)は、両手のチェーンソーを高々と掲げた。邪魔すんじゃねえぞ、的な感じが伝わってくる。意外に武人なのかしら。
「――そっ。…………死を克服した感じかあ」
まあバレちゃうよね。さっきまでの俺の対応と比べると明らかに『死んでも問題ない』と思えるものだ。……もうちょい俺がまともにイェネオさんと戦えていたら、そう思われなかったんだけどなあ。ちょっと怖いぜ。
次回更新は5月21日23時の予定です。調子が良ければ5月14日に投稿するかもしれません。




