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転生したら、アンデッド!  作者: 三ノ神龍司
第三幕 終わらぬ物語の行方
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第六十二章 虎の尾を踏む

 俺の勝利は、アスカの妖精化まで保たせること。断じて、イェネオさんの無力化ではない。ダルマにすればいいとか言ったけど、それも最終手段なんだよな。


 手脚を千切り取ったのに、アスカの妖精化まで無理ーってなったとき、共倒れになっちゃうわけだし。


 だから最低限の攻撃手段……片手だけでも残しておかないと。……どっちにしろ残酷なことには変わりないんだけど。まあ、手脚を千切る以外にも、機動力を大幅に下げる方法は他にもあるから、そっちも狙うつもりだ。


 ただ、色々と準備を整えて、やっと成功するかどうかなんだよな。生半可な作戦では、たぶんイェネオさんに対処されてしまう。


 うーん、そこまで持って行くには……上半身達と豚の魔道具を使わせてもらうか、使って貰うか……悩みどころだぜ。


《一応、言っておく。イェネオの持っている最上位スキルは『不動ノ限局』。魂のないあらゆ物体に、色んな法則を付与出来るのと……その副次効果として単語だけでも複雑な魔法を瞬時に使えるよ。それと特殊効果は触れた相手に、問答無用で法則を付与出来るから――まあ、触れられたら基本アウトだね》


(俺、触れるの簡単だからきついかも。汗っぽい強酸だしとこ)


 それか即座に分離する心構えを――――、


(もしそれが相手の魂にかける感じなら、触れられた部分の魂をなくすとか出来ない?)


《うーん、まあ……出来なくはないかなあ……? ちょっとやってみるけど…………うん、出来た》


 饅頭(まんじゅう)下半身の端っこ一部分の魂が削れる。


《でも肉体そのものを縛る場合もあるから確実に回避出来るわけじゃないと思う》


(それは運だよね)


 肉体そのものの分離が安定かしらね。


 アスカは俺の後ろに隠すような感じにする。場合によっては、上半身達をお供にして離れてもらうのも良いけど……、普通に俺を無視して殺しに行かれるかもしれないんだよね。


 俺、鈍足だから追いつけないし、そもそも止められん。


 だから、何かしら止める手段がないのと、もう抑えられんってなった時以外はアスカと離れてはいけない。


 イェネオさんは剣を構えている。積極的には来ないね。ちょっと周囲を警戒してる?


《豚がどこにいるか、気になってるみたい。注意深く見れば、見つけられるって分かってるけど見つからないから》


 パックくんがイェネオさんの心情を教えてくれる。


 そうなのか。


 ちなみに豚が何故見つからないかというと、それなりに遠くの岩場の陰に隠れて縮こまっているからだ。そもそも近くにいないのである。


 俺としてはそれで良い。生き残ってるっていうのが一番大事。それで実際、イェネオさんを警戒させてるわけだし。


『生きている』という事実が、行動を(しば)り付ける(かせ)になってくれるのだ。


 それと、俺から離れられたのは僥倖(ぎょうこう)だ。奇襲要員になってもらおう。無論、魂の紐付けが出来たらだけど。じゃなきゃ、ビビりの豚じゃまともに動けんだろう。


「……気にしすぎるのも駄目だ」


 イェネオさんがそう(つぶや)く。来るか。


 パックくんがさらに(ささや)いてくれる。


《イェネオの狙いは、下半身にいる上半身達だよ。それと豚。先にそっちを潰さないと面倒だと思われてるみたい》


 その狙いは俺に結構、効く。今、上半身達を殺されちゃうと、ちょっと困る。別人格になるだろうけどまた生えてくるだろうけど、ほんのちょっと悲しいからな。


 ……。この豚や下半身達って、単なる能力持ちだって思われてる?


《そうだね》


 なら助かる。そういう認識でいてくれると、やりたいことを押し通しやすくなる。


(上半身達、回避に専念しろよ)


「あば」


「あぶ」


「…………ぶあ」


 なんかレールガンの子が反応悪いけど、大丈夫かしら。功名心(こうみょうしん)にはやってやらかさないと良いけど。


 イェネオさんは早速、俺に向かって斬撃を飛ばしてきた。牽制(けんせい)目的で――『斬鉄』の効果が乗っているからか、避け損なった部分は容易くズッパリ斬れてしまった。


 まあ、すぐくっつくから良いんだけどね。


 イェネオさんの攻撃は基本的に斬撃系だ。剣を主体として、スキルや魔法などを組み合わせて攻撃してくる。


(さっきの鉄槌(てっつい)みたいな固体系の魔法ってあんまり使わない?)


《法則が乗りにくいっていうのもあるし、何より壊れにくい分、レジストされやすいって弱点があるからね。人間対魔物の時は出力差で負けてることがあるから、レジスト勝負はやらないのが定石》


 ラフレシアがそう説明してくれる。


 ああ、そんな話を以前、聞いたことがあるようなないような。


《そもそもさっきの豚みたいのならともかく、マスター本体に鉄をぶつけたところで効果が薄いしね。ぶよぶよしてるし、力は強いし》


 鉄の塊とか普通に力技で弾けるかもね。


 なら、斬ることしか出来ないわけだ。


 つまり、イェネオさんとしては的確に俺の力を削っていかないときついのか。純粋な技術や戦闘力では負けてるけど、人間対魔物という枠組みからすると向こうが若干不利なわけだ。


 まあ、遠慮なしの単純な殺し合いなら、なんとも言えんけど……今はそうでもないからなあ。


《確かにキミは切り離してもすぐ(つな)がっちゃうから、そこがイェネオとしても面倒なところみたい》


 パックくんがイェネオさんの心情を言ってくれる。


 確かに我ながら、面倒な能力だよな。明らかな格上の魔物でも、俺を殺しきるのは難しいし。俺は手加減して倒せるゾンビではないのだ。だからこそ、余計に『呪い』に頼らざるをえないってことになってしまうんだろうけど。


 さらに言えば、だから上半身達を狙うのだろう。


 他に出来ることは……肉体を切り離した後に、その肉片を即座に吹き飛ばすことも考えているのかな?


《うん、そうだね》


 イェネオさんが斬撃を飛ばしつつ、俺にまた接近してくる。――かなり接近されて、横薙ぎに俺の脚の手を切り払ってきた。


 ずだぁん、と俺の巨体が地面に叩きつけられてしまった。さらにイェネオさんはアスカごと切り飛ばすつもりで下から上に切り上げてきた。


 うーん、速い。


 身体が(たて)に真っ二つになる。無論、すぐにくっつき、アスカもギリギリ触手を振って回避する。


「めんどくさっ」


 イェネオさんがボソッと呟く。


 でしょうね。


 ちなみに触手をぶんぶん振っても全く当たりません。くそ面倒臭え。


 さらに接近して――たぶん触れようとしてきた。死線がとある一点に集中してきたのだ。ふむ、酸なら防げる――とか思ったけどそもそも俺の強酸は一瞬で溶かせるものじゃないんだよな。


 イェネオさんクラスなら……そもそも生き残るつもりがないのなら、手の一つは犠牲(ぎせい)にしても良いと思う可能性すらある。


 なので、ちゃんとした回避が必要と判断した。


 俺は触れられそうな部分から、ワームくんを射出する。


「ふぉ!?」


 イェネオさんが小さな悲鳴を上げて、バック宙して退いてきた。ぴょんぴょんと連続バック宙&で長い距離を取ってくる。


「――あの虫……アスカちゃんの身体の中に入れてたやつ……寄生虫かぁ。しかも、反応速度は遅いくせに『致命的な攻撃』で触れようとしたところをピンポイントで防いできた。未来視レベルの高度な感知能力あり、と」


 バレたか。ちなみにだが『死線感知』のような未来視はチートレベルのズルスキルであるが、対処は出来ないわけではない。そもそも本体が鈍足なら、高速で攻撃を続ければ良い。実際、脚の手を薙ぎ払われてしまったわけだし。まあ、あれに関しては見えていなかった、っていうのが正しいけど(牽制攻撃っぽいのだと見えにくくなるっぽい。相手の殺気的なものが感知の要因なのかな?)。


 それと、回避不可能になるように詰めること。もしくは避けられない攻撃を仕掛けること。


 まあ、色々あるよね。


 イェネオさんが取る行動は――!?


《下半身の上半身達をさらに重点的に狙うこと》


 パックくんがそう伝えてくれる。


 いわゆる回避不可能に詰めること、に当たるね。


(ということで気をつけろよ、お前ら)


 斬撃だと『斬鉄』の効果がある以上、防ぐことがまず出来ない。だから問題ない部分ならそのまま受けて、再度引っ付けるのが最適解でもある。ただ、それは一度にくる攻撃回数が少ないから出来ること。


 イェネオさんが『このままでは、俺らの命が危ない』と判断したら――、


「ラフレシア、パック! もう、私は攻撃を当てることを(いと)わないからね! だからせめて、引っ込んでて!」


 イェネオさんが剣を真横に構え、()める。


 (おど)しじゃない。本気で来るね。


(じゃあ、二人とも、退避)


《良いの?》


(どうせ撃ってくるなら、心象良くしたいので。それと――)


 自分から進んで、ラフレシア達にそういう扱いをしたくない。


 ――それは上半身達も含まれるわけだけども、……どうする。今、こいつらを逃がしたら、イェネオさんはこいつらが俺のウィークポイントだと判断する。


 そう思われることを想定して(おとり)として使うのは良いけど、相手もそれを込みで考えてきて対処される可能性もある。というか、イェネオさんは奇襲を見てから回避が余裕なタイプだし、予想も交えたらたぶん完璧に(かわ)される。


 なら、現状このままで『逃げ』を開始しよう。そんでもって、アスカを中心に守る。饅頭下半身の上半身達は上半身の上半身共と入れ替えたりと躱す余裕を増やすべきか。とりあえず上にも行っても良い許可を与えとく。


 イェネオさんが剣を振り抜く。


 その瞬間、ぼぉん、と『爆音』が鳴り響いた。何も飛んでは来なかった。目に見えるものはなにも。やってきたのは、音。


 やべ、そりゃそうか。防守の魔王達の記憶があるなら、そう来るのは分かっていたはずだ。考えが、まだ足りなかった。


 俺の巨体が平衡感覚を失って(かし)ぐ。

 

 (あわ)てて触手を使って、耐える。

 

 イェネオさんがまた急接近してくる。とりあえずアスカを触手で包んで、後ろ側でぶんぶんと振るう。


 だけどイェネオさんの狙いはそこじゃないのは分かる。今、アスカに追いすがったらさすがに俺からの攻撃を食らうかもしれないからだ。


 まず完璧に俺へ対する無力化を行うのが最優先だろう。


 たとえ俺は平衡感覚を失ったとしても、毒の散布とか普通にやるしね。


 ちなみに毒を撒かないのは、すぐに対処されるからと、『薬毒』で無理矢理無臭とかに性質を変化させると簡単にバレるからだ。さっき、撃滅の勇者は普通に気付いてた。イェネオさんが気付かないなんてことはないだろう。


 だから毒は、回避出来ない隙があるときや動きが鈍った時の追撃にしか使えない。


 上半身達が狙われる。――逃げて欲しいが、生憎とこいつらも音で動きが鈍っている。


 やばいな、マジでやばい。イェネオさんの斬撃を防ぐ手段がない。


 とりあえずこいつらの頭部を切り飛ばされたら終わる。俺が核の移動をしたいけど、さすがにとっさには出来ない。


 ――と、レールガンのやつが手に生成した盾を構えて、他の上半身の前に出ていた。おい? さすがにそれじゃ防げないだろ。逃げとけ、阿呆(あほう)


「――――」


 イェネオさんが一瞬、考えた様子だったけど剣を振り抜く。見た目より射程の長い斬撃が盾を容易く切り裂き――――爆発した。


「!?」


 イェネオさんの剣がはじき返される。あまりに衝撃がデカかったのか、小さな身体ごと後ろに吹っ飛んで行った。


《おお、上手くいった》


 ラフレシアがそう呟く。


(どういうこと!?)


《いや、レールガンの子にマスターの記憶――とりわけ武器や化学に関することを見せてって言われたから見せた――っていうかそれじゃ遅いからパックに力を貸してもらって記憶をねじ込んでみたの。で、とっさに液体燃料を間に挟めた盾を造り出したってわけ。忙しそうだったから事後報告になっちゃったけど、結果オーライということで》


 ああ、なるほど、シンプルに爆発ではじき返したわけか。しかも今、俺の体内にある液体燃料は普通に使うなら逆に魔力が伴わないものだ。感知はされにくいのだろう。


《生成系に割と才能があるみたい。チェーンソー造ってみたいって》


(いいわよ!)


 俺はレールガンのやつに親指を立てると、親指を立てて返される。


 ちなみにだが、この最中にイェネオさんに毒を吹きかけ、ついでに追撃の触手を身体にぶち当てた。


 ただ回復し始めた耳に骨の折れる音は聞こえなかったから、たぶんとっさに飛ばれたんだと思う。毒は――ちょっとだけ吸ってくれたかな、程度だ。


「くっ――これは――!」


 退いたイェネオさんが胸を押さえる。顔がわずかに(ゆが)む。


《……何の毒をかけたの? 麻酔?》


 ラフレシアがちょっと心配そうに訊いてくる。


(それだと普通に動かれそうだったから、淫毒かけてみた)


《え?》


 ラフレシアは耳を疑うような声を()らす。


《なんで?》


 ちょっと語気が怖い。


(ふざけてはないよ? 麻酔系は普通に動きそうなのと、吸引させるのだと量を間違うと危ないし)


 麻酔って下手すると死ぬって言うじゃん。だから基本的に散布する時はかなり濃度を薄めてやるつもりだ。だけどそれはイェネオさんだと通じなさそうだし。


(痛い毒も下手すると気絶するかショック死だし……。まあ、だから雑に濃度を高めて散布しても大丈夫なのは淫毒かなあって)


 エロいことをするつもりはもちろんありません。


 んで、当のエロい状態になってしまったイェネオさんは、ふらついている。


「これは――昔、飲んだ淫魔の淫毒の感覚に似ている――! 若かりし頃、仲間内に出回っていた、あの毒に――! 酒に酔った勢いで飲んだあれに――!」


《馬鹿じゃねえの》


 ラフレシアが冷たくそう言った。エロくて馬鹿なことが、相変わらず嫌いな妖精さんです。


「くっ、まさかのエロいこととは――!」


 イェネオさんが内股になって、(にら)んでくる。汗もそれなりにかきはじめている。顔も赤くなってる。音は――――知りません。エロい音とかそんなもん、何も聞こえませーん。


 うん、なんであれ、わりかし効いてるみたい。結構効果があるみたいね、淫毒って。今後、気軽に使ってみるか。


 と、俺はそう考えつつ、変態扱いされそうなので首を横に振っておく。


「いや、何もしませんけど」


「そんな触手があるのに!?」


「触手は巻き付けてへし折ったり、(つぶ)したりするものです」


「相成れねえわ」


 イェネオさんがツバを吐いた。


 まさかの性癖の相違によって、今後の関係性が悪化方向に(かじ)を切られそうです。


「ともあれ、これから俺はあれをします」


「あれとはやはり――ごくっ」


 ちょっと期待すんな。


「息が止まるまで――」


「息が止まるまでだと――!?」



「そう――――逃げるんだよォ!」



 俺は脱兎(だっと)(ごと)く逃げ出す。そりゃあ、もうジェット噴射さえ使って。


「わあ~ッ。なんだこのゾンビーッ」


 触手袋に入っていたアスカがちゃんとそう言ってくれました。嬉しいですね。


 ということで俺はイェネオさんに背を向けられるこの千載一遇(せんざいいちぐう)のチャンスに全力の逃走を決め込むことに決めました。


 時間を少しでも稼いで上半身達や豚の魂の(ひも)付けをさせるつもりだ。やっぱりこの戦闘では割とキーマンかもな。


(レールガン。お前に良い名前を思いついた。だからしっかり生き残れよ)


「あぶ!」


 武器を――チェーンソーをかなりの速度で組み立てている上半身は(うれ)しそうにそう(うな)る。


 さあ、第二ラウンドに入ったら速攻で片をつけるぞ。意趣返しをしてやる。

次回更新は5月1日23時の予定です。もしくは4月30日23時にするかもしれません。

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