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転生したら、アンデッド!  作者: 三ノ神龍司
第三幕 終わらぬ物語の行方
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第六十一章 不殺イコール優しさとはならない

 いきなりバチくそ戦闘が開始ー、とは……まあ、さすがにならん。


 イェネオさんも剣は抜いたけど、積極的には斬りかかってこんし。


 ここはなんとか予想が的中してくれた。


 っていうのも、アスカの魂をコピーする理由をラフレシアがイェネオさんに伝えたからだ。俺が言ったのなら、たぶん斬りかかられてたけど、ラフレシアが伝えた上に、俺に対してキレてかかってるのが『見えてる』からね。ラフレシアの意図ではない、俺の独断って分かると、同情しちゃうよね。


 それとこういうのって、ただ単に真実か伝えることではなく、『誰が』真実を伝えたかが重要なんです。


 俺みたいな変身偽装野郎が真実を声高に言っても誰も信じてくれないんですわ。あと友好的な関係とかも重要です。


《でも、油断すべきではないけどね。攻撃する気は満々だよ》


 俺の頭の一つに乗って、ぺしぺし叩いてきているパックくん(可愛い)がそう言った。


 そこは、うん、分かってる。そこまで甘くないだろう。俺に勝てるのは分かってるだろうけど、油断は絶対にしないはず。


 それと――――はい、普通に斬撃とか飛ばしてきました。


 俺はダカダカとなんとか避ける。


 ――こんな風に小手調べは普通にしてくるはず。でも、全力範囲攻撃は今はやらないはず。


 なんでって? そりゃ、パックくんとラフレシアが俺の頭を叩いているからですよ。この二人を傷つけるわけにはいきませんよねえ。たとえ復活すると分かっていても。


「わあ、やらしい顔」


 俺がニチャアと笑うと、イェネオさんが呆れたように(つぶや)く。


 ……ふむ、しっかりとイェネオさんの身体と魂が連動しているようだな。


 なら時間的猶予(ゆうよ)は予定通り、十分程度かな。いや、もっと短いか。イェネオさん的にはアスカの魂がコピーされるであろう時間まで待つ必要はない。俺がギリギリ耐えられるレベルに本気で攻撃しながらも調整しつつ、コピー後は一気に押し込む、なんてことも出来るはずだ。


 ……うん、だからこそまずは情報収集だ。


《アスカ、確認。……イェネオさんってどこまでこっちの情報を持ってるの?》


「貴方のことは伝えてしまった。私としても皆には死んで欲しくないので、本体がやりました」


 うーん、優しさが(あだ)となるとは。


 つまり、俺の地面からの奇襲は高確率で察知されちゃうかもしれないわけね。イェネオさんなら見てからでも普通に対応しそう。地中奇襲、見てから一閃(いっせん)余裕でしたとかありそうだな。


 やるとしたら何かしら気を逸らしてからが無難よな。ただそれでも、感知もそれなりに優秀だろうから、『隠形児戯』をまじえながらやらんと避けられるどころかマジで反撃食らう可能性すらある。


 つーかそもそも怪しいと思ったら即座に地面から引きずりだす、地面操作的な魔法やスキル使ってきそうだよな。


 あと上半身三人衆と豚を下手に切り離すと各個撃破の危険もありかあ。今、切り離したら普通に殺されちゃいそう。こいつらを分けて運用するには慎重にしないとな。


 うーむ、こうなっちゃったけども、戦わないで済む方法はないかしら。


(ラフレシア。素人意見なんだけど、ラフレシア自身を増やして処理能力を上げて時間内に色々出来るようにーとか出来んの?)


《……。以前の私ならそうするしかなかったけど、『死神ノ権能』があるからティターニア様のところにいる私達より、基本性能はかなり上がってる……のと、その応用みたいなので擬似的に数を増やしたようにみせて演算能力を底上げすることもしてるよ。それでもなおこれ》


 なんか界王拳何倍を実は使ってましたーを聞いてしまった気持ちになってしまった。


 つまりこれ以上の時間短縮は出来ぬと。


(……それでさ、どうやってイェネオさんを救うわけ? パックくんからアスカの妖精化を済ませればいけるかも、とは聞いたけど)


《…………》


《いたい》


 ラフレシアがパックくんの(ほお)をむにゅりと引っ張る。


 そんでもってラフレシアはため息を一つする。


《こうなったらやるけどさ。……私が考えているのは、かなりのゴリ押し。アスカの妖精化を済ませた後、魔神アスカをイェネオに殺させてこの狂界を終わらせる。それでもって……たぶんそうすると役割を終えたイェネオはさっきのリディアみたいに崩壊すると思う。魔神アスカと一緒に崩壊するのは避けられないはず》


 やっぱりそうなっちゃうか。


《だから妖精化したアスカの肉体再生能力で無理矢理、魔神アスカが完全に消え去るまで保たせたら良いかもって思って。ただ、不安要素はいくつもある。そもそも魔神アスカが消えても、崩壊が消えないパターン。肉体より魂が先に引き寄せられる可能性。……後者は私の力で無理矢理引き留めることは出来なくもないかもだけど……》


(成功するかどうかは、マジで賭けか)


《……うん》


(じゃあ、成功させようぜ。俺、頑張りますので)


《…………うん》


 ラフレシアがそう小さく(うなず)いてくれた。まあ、ここまで来たらやるしかないよね。

(それと豚達の魂(ひも)付けってどれくらいで終わりそう? 時間内に無理だったら、そっちやめて妖精化の方に割いた方が良いんじゃないかな。……悲しいけど、豚達には次の人格に期待しよう)


「ぷぎぃ……!」


 豚が目と口をかっぴらいて、わなわなと震えていた。上半身共は特にショックを受けた様子はないが、緊張してるっぽい感じは伝わってきた。もしものためにと俺の身体を素早く動き回れるようにしている。ちなみに豚はやっぱりそこら辺の移動は苦手らしく、パタパタと身体をばたつかせるだけだ。申し訳ないけど可愛かった。


《そっちは6~7分で出来そう》


(じゃあ、そのままでお願いします。良かったなお前ら、6~7分死ななかったら、不死に一歩近づくぞ。そん時は突撃よろしくな。死ぬ気で頑張れ)


「あ、あぶ……?」


「あばあ?」


「ぶあ……」


「ぷぎ……」


 上半身達と豚が、すっごい複雑そうな顔してた。


 それでもって次は本命のイェネオさんの対処だ。


(イェネオさんに対してどんな攻撃……どこまでやるかよな。……まあ、回復させることが前提なら…………手脚を千切り取ってダルマにするか)


《りんりー!!》


 ラフレシアに頭をすぱこーんと叩かれてしまった。やっぱり駄目っすかね。でも『侵蝕』の力で傷を塞げば失血で死ぬこともないし、こっちの方が不安要素は低いんだけども。


《だいじょうぶだ。アスカの力で生やせる》


「たやすいことだ。願いをかなえてやろう」


《うるせえわ!》


 倫理観皆無な俺と厳かに言ったアスカをラフレシアが連続ですぱぱーん、と叩いてくる。


(ラフレシアは、あれだ。こう、そんなイェネオさんに《ごめんね。でも大丈夫だよ、すぐ良くなるからね。これもイェネオのためなんだよ。私だってこんなことしたくないの。分かってくれるよね?》って優しく言ってあげれば良いと思うのよ)


《私はヤンデレ彼女かDV彼氏かなんかか?》


 …………確かにそう聞こえなくもないな。状況が整えばちゃんと回復出来るとはいえ。


 ただ、手脚に対しての『侵蝕』は狙えたら狙おう。『侵蝕』に侵された部位は回復が容易じゃないからな。それこそ一度千切って再生でもしない限り、完全に無力化したと言って良い。


《ただ、イェネオは一時的にでも魔法で手脚の補助をすることも出来るし、不安定とは言え魔力で生やすことも出来なくはないと思う》


 パックくんがそう言ったので、俺は首を(かし)げる。


(舌も千切る?)


《やめれ》


 ラフレシアが即座にそう言った。


 駄目らしい。まあ、手脚の無力化を簡単に許してくれる相手でもないから、狙えたら狙うくらいの感覚だ。


(あっ、『侵蝕』で思い出したけど、今のアスカが自力で動けないならかけちゃう? それとワームくんも入れとこうか)


《う、うーん》


 ラフレシアは否定はせずに言い(よど)む。


《えぇ……》


 対してパックくんはちょっと引いていた。


 この差よ。……やっぱりその対象を大事と思ってるかによって、対応って変わってくるよね。そういう意味ではパックくんは――。


《しゃらっぷ》


 パックくんに思考を停止するように言われてしまった。


 まあ俗物的なアレな感情ってよりかは、トラウマやコンプレックスを元にした複雑な感情なんだろうけど。


 それとは別に、アスカはパックくんに割と特別な感情を抱いていると思う。


 妖精化が楽しみですね。


《……!》


 パックくんが俺の頭を激しく叩いてくる。ありがとうございます!!


 なんであれ、俺はクリーンなワームくんを生成して、アスカの体内にぶち込んでおく。


「えぇ……? なにしてんのお?」


 遠目から見ていたイェネオさんがドン引きするような声を出していた。


 はい、実験。…………鈍くではあるけど、動かせるね。俺によっての行動補助は出来るのか。なら、場合によっては全身に『侵蝕』をかけて動かすことも出来るな。


 幸いにして、『侵蝕』は脳まで侵しても死ぬという判定にはならない。ある種、便利で残酷な仕様である。


「あばばばばば」


 アスカが、小刻みにぷるぷる震えているけど、ワームくんを入れられると大抵はこうなるので問題ない。


《あとで全身痛くなるけど、動かせる系のスキルもかけるかもしれないから許してな》


「お、おお、おっけけけ」


《……もうちょっと否定しても良いと思うんだけど》


 パックくんがボソッと呟いた。確かにそれはそう。今はイエスガール的なところは、助かるけども。


 一応はこんなもんか。あとは高度の柔軟性をもって臨機応変に対応しよう。ちなみにだがラフレシア達を意図的に盾にはしない。さすがにそれは心象悪いし、今後の関係性に響くから攻撃直前に出して止めさせるオア当てさせる、というのはしない。


 そういうことも基本的にさせない。


「――ということで、そういうズルはしないように気をつけます!」


「あー、うん」


 イェネオさんにそう伝えたら困ったようにそう返してきた。まあ、困りますよね。こんなフレンドリーに接されたら。


 んでは、どうしようかねー。『放電』やら刺胞触手やら使えば、行動を制限出来なくはないけれども……。


 ――と、饅頭下半身に死線が走った。輪切りにされるような感じ。上半身達と豚が直撃コースだ。


 範囲が広い。だから俺は思いきり跳ね上がる。脚となっている腕の力だけでは、それほど高くは飛べないが(一メートルいければ良い方)、わずかにずらせればそれで良い。


 そして、恐らくそれをしてくるであろう、イェネオさんは意外なことに近づいてきていた。


 俺のすぐ近くで剣を真横に構えている。


「思ったんだけど――なんか死なない感じだし、重要な部位以外は細切れにしてダルマにして放置すればいいなって」


 やだっ、俺と同じ発想……! 是非、人材として欲しい。


 次の瞬間には俺の下半身の下部が綺麗(きれい)にぶった切られる。血がだばあ、と溢れる。


 このまま着地すれば下半身が(つぶ)れてしまうかもしれない。


 なのでとっさに切れた部分を触手で引き寄せて、接着。まだ脚となっている腕は動きが鈍いため、触手を脚代わりとして着地した。


 その間に複数の触手でイェネオさんを振り払うが、跳ねて、宙返りして、側転して避けられる。――一番ヤベえのは、その動作に一切助走をつけてないこと。その動作して、その場からほとんど動いてないってやべえぞ。


 その場でぴょんぴょん最小限にして動いて、後隙が全くない。


 体幹が良いってレベルじゃねえぞ。


 そしてイェネオさんの狙いは――意外にも豚。視線を向けると、豚に死線が走る。


「ぷぅ!?」


 それが豚に伝わったのか、身体を強張らせてしまった。


 俺はとっさに『放電』し、イェネオさんを(しび)れさせて(止められたとは言っていない)、豚を触手袋に包んで、遠くに放り投げる。触手が導線としてついたままだから、地面に落ちた瞬間に、どぷんと埋まった。


「甘い!」


 イェネオさんが全身バリバリと毛羽立たせながらも、動いて――地面に触れたと同時に地面がボコボコと泡立つ。


 すると触手袋がすぐさま現れて――「《鉄槌》!」の掛け声の下、馬鹿でかい鉄槌が現れて、触手袋を潰す。


 わあ、怖い。結構デカい規模の魔法だけど、構築と発生が恐ろしいほど速い。これはレジストとか考えてる暇ないわな。


 ちなみにだが、その奥で違う触手袋が出てきて、「ぷぎゃあああ!!」と豚の悲鳴が上がりながら、透明な何かが飛び出してきたのは、本当にその次の瞬間だ。


 たんっ、とイェネオさんが俺から跳び退って距離を取る。さすがに『放電』を浴び続けるのは不味いらしい。


「フェイク――いつの間に? ――いや、うん、そこはいいや。それよりも落ちた位置よりも手前に現れてたな。そういう細かい点に注意しないと。――マジで(だま)すことに関しては上手(うわて)だ」


 豚の触手袋を投げようとする前に饅頭下半身の下部から似たようなものを生成して、埋めて移動させていたのだ。戦闘は一瞬一瞬の読み合いだ。だからこういう騙しは効きやすいし、一瞬である以上、仕込むのはかなり難しい。


 基本的にこういう緊急回避は二度目は通用しないと思って良いだろう。


 でも、なんであれ、俺は一つでもイェネオさんと渡り合える手段があるらしいのは分かった。


 時間まで持ちこたえられるかなあ。


 それと、豚よ。頑張って生きろ。あとだが、さすがに『隠形児戯』はいつまでも使わせてやれないからな。絶妙に消耗が激しいんだ、あれ。


 ということで、いっちょやってみよー。

次回更新は4月23日23時の予定です。

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