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転生したら、アンデッド!  作者: 三ノ神龍司
第三幕 終わらぬ物語の行方
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第五十九章 その空白だったものの名前

 アスカはぼんやりとアハリートを見つめていた。


 フラワー――今の名はラフレシアと向かい合っていた。ラフレシアが(いか)めしい顔をして、アハリートに手を差し出している。 


アハリートは上半身達の手を後ろに隠し、頭をふるふると振っている。何か言っているような――あの場面はなんとなく『彼』がやっていたことと重なる。


(何もいないわ、何もいないったら!)


《……。渡しなさい》


 ラフレシアはアハリートから何かをひったくる。


(やめて! 殺さないで! お願い! 悪いことなんてしてない!)


《……。……ふー。……ほんと、何もなかったから良かったものの。……本当に何かに『取り憑かれてたか』》


 ――何を言っているかここからでは聞こえないけれど、何かを取られてしまった少女風の仕草をアハリートがしていることから、以前彼から聞いたやり取りをやっていると思われる。


 ……実際はちょっと違っていたのだが。ラフレシアはちょっと元ネタに寄りつつも、それなりに憤慨(ふんがい)していた。怒らなかっただけでも奇跡と言えよう。


 ……アスカはなんとなくであるが、アハリートの雰囲気が生前の彼と重なる。もしかしたら、彼と似た生まれなのかもしれない。


 ――だから、なんだということはないが。彼と似ているけど彼ではないし――仮に彼とほぼ同じだからと言って……何かが変わるのだろうか。それがよく分からなかった。


 とりあえずアスカは彼に向き直った。


 大きかった彼は、しゅるしゅると縮む。そんな彼の頭の上には、パックが乗っていた。


 たぶん彼とパックが連動するはず。実際は分からない。そう願ったら、本体はそうしてくれるだろう。たぶん。


 今、ここにいるアスカは端末のようなもので、過去のアスカの振る舞いを真似する存在となっている。


 本体は本能に忠実で融通が利かず、まともに対話することすら出来ないほどだ。何かしらの刺激があれば、一時的に会話が出来るようになるかもしれないが、本当に一時的だ。


「あー。……うん、繋がってるね」


 彼がそう言うが、今のはパックの言葉だろう。


 だとするならば、パックが彼の言葉を作ってくれるだろう。パックは昔から信頼している。


《…………》


 パックがもにょっとした顔をした。どういう感情だろうか。


 とりあえず、向かい合ってみる。


「ばっちこい」


 アスカはなんとなく自分のお尻を叩いて、気合いのようなものを入れてみる。


「……あー……ただいま」


 パックと連動した彼が困惑しながら、そう言って()でてくる。頭をなでなでされながら、アスカは彼を見上げて、口を開いた。


「どうして一人で行ったの?」


「……っ」


 彼が固まってしまう。パックが動揺したためだろう。アスカは純粋な疑問を口にしただけで困らせるつもりはなかった。


 ただ、本当に知りたかっただけなのだ。


「……。……理由が欲しかった」


「理由?」


「俺が生きていてもいい、理由。偽神化を手に入れられれば、俺は認められるんじゃないかって。――意味があるんじゃないかって」


「なるほど」


 そこに『私』はいなかったのか――アスカの心にそんな思いが浮かんで消えた。そう思っても、その後、どういう感情を抱けばいいのか分からない。


 蓄積された知識からは、怒りか悲しみを抱けば良いは知っていたのだが――どちらかを選ぶべきか分からない。そもそも知ってはいて、見たりはしていても怒りや悲しみがどういうものかよく分からなかったのだ。


 アスカは思う。


 自分はあの日、何を感じて、何故、今延々と過去を繰り返しているのか、と。


《後悔だよ》


 パックがそう言った。


「後悔?」


 アスカは彼ではなく、パックを見上げた。


《……キミが知りたかった――違う。得たかったのは、『正しい結末』じゃなくて『続き』でしょ》


「続き」


 パックにそう言われ、アスカは……なんとなく()に落ちたような気がした。


《それをキミは手に入られないことを知っているから……誰も、その続きを演じることなんて出来ないからキミはずっと、ずっと後悔をしているんだ》


 そうなのだろうか。そうなのかも。――だから、彼の真似をし続けていたのかもしれない。他人を理解することなど出来ない自分が、滑稽(こっけい)にも演じていたのだ。


 彼を知りたい。彼はどんな思いを――今、いたらどんなことをしていた。それを探るためのあの行為全てが――、


「後悔なんだ」


 アスカはそう呟く。


 いつまでも後ろを見て、悔やみ続ける。不毛な行為で意味のないこと。それを知らず知らずのうちにやっていた。


 理解はした。だから悲しむ必要はある。けれど残念ながら、アスカの心はないわけではないが、それを強く発してくれない。


 無意識に後悔をしている以上、心はあるはずなのだ。でもそれを表現出来なかった。


 だから(とど)まらず、己を考える。傷つかないなら、先へ進んでも問題ないはずだ。


「あの日、私がすべきだった答えは?」


《彼を止めること。彼を助けること》


「どうやって?」


《キミがその後悔や失う恐怖を感じられて必死になれば変わったかもしれない。命乞いでも、懇願でも、そうすればもしかしたら……》


「それで彼や勇者達は止まった?」


《分からない。でも勇者達は止まってくれたかもしれない。リディアがいれば……なんとなく分かるでしょ?》


「なんとなく」


 きっとリディアなら命乞いをすれば、手を止めてくれるはず。彼女は優しいから。もし本気の懇願であれば、きっと聞いてくれるはず。


 でも、それは――、


「絶対に出来ない」


《そうだね。今のキミがあるのは彼がいなくなったから。だから世界が仮に巻き戻ったとしても、キミは彼を救えない。そもそも、もうあの頃には戻れない》


 パックらしからぬ残酷な断定。でもそれでいいのだ。アスカは傷つかない。ただそれを事実として受け入れることが出来るから。


「でも何度でも、何度でも考えてしまう。……なるほど、これが後悔。……昔を、何度も考えて、答えを出そうとする。意味がないとしても。……どうすれば良いんだろう」


《その心の傷はそう簡単には()やせないよ。……ただ、そうだね。だからこそ人は人が死んだら、埋葬するんじゃないかな。死の先を考えて、その大切な人の安寧を信じる世界を創るんだと思う。悪人なら因果応報として、地獄で苦しみを。大切な人なら楽園としての天国で幸せであれば、……少しは安心するでしょ?》


「かもしれない」


 痛いより、気持ちが良いのが良いのは分かる。少しでも幸せであって欲しいのは分かる。


 お墓を作って、お墓参りをするべきだろうか。


 でも、お墓には遺灰が必要だ。彼の遺灰は回収しなかった。

 

 必要だと感じなかったから。


 どうしてだろう。どうして、必要がないと断じたのか。思えなかったのか。お墓を作ること、お墓参りをすること、それをしっかりと彼に教わっていたはずなのに。


 意味がないと断じて捨て去った過去が、今になって意味を為して襲ってきて、胸の奥がもやもやとする。


 彼の一部じゃなくても良いのだろう。何か持ち物でも……。だけどそれすらもない。


「どうして私は、彼の――何かを持っておかなかったんだろう。どうして、私は……」


 もやもやが強くなって、視界が(にじ)む。すぐにそれが涙だと分かった。これが泣くということ。


 アスカが空を見上げる。遠くを見通せる、不自然な暗闇の空。


 ここに墓を建てることは出来ない。繰り返す度に過去は消え、無意味な今を繰り返す。


 遺したいものほど、残せない。


 自身を理解出来なかった末路がこれだ。


 (しの)ぶことすら出来ない。


 そして、アスカはこれより外に出ることは叶わず、彼の墓を作ることは一生成し遂げられないだろう。


 だから……(たく)す他ない。


「……パック。お願いしても良い? もしくは、あの二人に」


 アスカはアハリートとラフレシアを見る。今、なおラフレシアは魂の解析を行っている。まだ時間はかかりそうだ。これが成功すれば、外に出られるかも。自分ではない自分がまた、世界を見られる。……今度は失敗しないと良いな、と思う。


《いいよ》


 パックは吐息をついて、アスカを見つめ、次に空を見つめる。


《終わりそうなんだね》


「もうそろそろ。……でも、()()()()()()()


 パックの表情が強張っている。アスカが何を考えているのか読み取ったからだろう。だけど、やめて、とは言えなかった。言ったところで止まるはずもない。


 それに、止めないことが今の――そして今後のアスカのためにもなることだと思ったのだ。







 俺は二人のやり取りを聞いて、すごくドキドキしていた。


 いや、内容に感動したとかじゃないんだ。失敗したらどうしようとか割と自分勝手なことを考えて緊張していた。


 何も出来ないで観ていることしか出来ないほど辛いものはないな、ほんと。


「ぷぎぃ」


 豚が(となり)にやってきた。


(頑張ったな。よくやった)


「ぷぎ!」


 なんか豚が(ほこ)らしげ。可愛い。


 俺は豚の頭を撫でつつ、定位置に張り付ける。


「あぶ」


「あば」


 そんでもって、『孤苦零丁』と『真経津鏡』を持った上半身組が戻ってきた。


(お前らもちゃんと生き残れて、活躍出来たな。よしよし)


「あぶぅあ!」


「あばぁあ!」

 頭を撫でて()めてやったら、二人とも喜んでくれた。可愛いな、こいつら。んでもって、饅頭下半身に戻しておく。


「ぶあ……」


 それで、最後にとぼとぼとしながらレールガン持ちの上半身が戻ってきた。


 その落ち込み具合にさすがに苦笑してしまう。


 俺は、そいつの肩に手を置いてぽすぽすと叩く。


(お前は今度頑張れ。火力には期待してるぞ)


「ぶー」


 こくりと頷いて、自分から饅頭(まんじゅう)下半身に飛び込んで戻って行く。


 ……割と皆、俺に張りつくことに抵抗とかないんかな? 家感覚か? まあ、俺としても勝手にどこかいかれると困るし、無理矢理操るとかしたくないから助かるんだけど。


 こいつらに関しては、今後色々と訓練とかしようかね。鍛えれば良い戦力になりそうだ。


 やっぱり人手って大事ね。


《終わりそうなんだね》


 パックくんのそんな言葉が聞こえてくる。声色に焦りがないから、繰り返しが為される可能性が低いことを推察出来た。


 もしかしたら、このまま終わる?


「もうそろそろ。……でも後悔はまだ続く」


 死ななかったら、魔神として終わらないだろうからなあ、とか俺は自分の都合の良いように考えてしまう。ギリギリになったらアスカを倒して、ミチサキ・ルカ解放+魔神の経験値で一気に次の進化出来るぜーとか思う。


 あっ、ちょっと気になることが一つ。


(ラフレシア、魂のコピー、どのくらいかかりそう?)


《もうちょっと。思いの外、魔神の駄目な性質を除く選り分けに時間がかかってて……》


(最悪、外出られるなら一回、再突入を考える? 行けるかも知れないなら、四天王達も協力してくれるっしょ。それか今のアスカに問いかけて、外からでも許して貰えるように頼んで――)


 そんな時だった。


『目的が達成されました。これにより、終幕といたします』


 そう館内放送風のアスカの声が流れる。


 あー終わっちゃうかあ。速攻で頼めば、いけるかなーとか前のめりで賭けだそうとすると――


『続いて、これより第二幕を開始いたします』


 は?


「は?」


 思わず声出ちゃったんだけど。

次回更新は4月9日23時の予定です。

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