第五十五章 不落ノ掩護
そんじゃあ、戦うことにするかー。
(ところでパックくん。魔王さんのスキル知りたいです)
《……とりあえず訊いてみて》
《どんなスキルを持ってるか教えてください》
「誰が言うか」
ですよねー。
《『不落ノ掩護』っていうスキルを持ってる。性能は……うわ、常用特化型だ》
《マジで? 防御系で?》
パックくんの言葉にそう反応したのはラフレシアだ。
(常用特化型って?)
俺は魔王さんを注視しながら問う。魔王さんは基本、カウンターとかを基本としているためか、積極的に攻撃はしてこない。多少、時間を使っても問題ないだろう。
その間にラフレシアの説明を聞く。
《最上位スキルには、大別して三つくらい種類があるの。――まあ、あくまでそれっぽいのがあるってだけで完全に系統が別れてるわけじゃないけど。――それで『死神ノ権能』『異空ノ猟犬』みたいな普通の力と特殊効果があるもの。これが普通。バルトゥラロメウスみたいに特殊効果の側面が強く出ているのが特殊特化もの。……特殊特化は大抵、特殊効果を連発出来るけど、普通とも言える効果がなくて融通が利かなかったり、何かしらマイナス面があったりするよ。……で、常用特化は……特殊効果がないの》
(……弱いわけないよな?)
《うん、弱くはない。特殊効果がない代わりに通常効果が底上げされてる。最適化されて、使用魔力がほぼゼロに近かったり、単純な攻撃力がかなり上がっていたり。格下が万が一にも勝てなくなるのもこれ》
基礎能力の天井化みたいなもんか。ステータスカンストさせたら、まあ、普通の相手になら負けないわな。
で、ラフレシアの言葉を引き継ぐようにパックくんが口を開いた。
《それで彼の能力は……鱗全ての盾化。削っても即時回復するっぽい。もちろんさっきの甲羅みたいに切り離して展開も出来る。さっきみた感じだと、『不死ノ王』の小手先の技は難なく防いでた》
(不落って言うくらいだしね。反射もあるだろうし…………。こっちも特殊効果を使わないと基本的に突破は無理かな?)
《全身くまなく包まれてたら無理でしょ。パック、もちろんオートカウンターも?》
《あるよ》
パックくんが相づちを打った。予想通りではある。
「考えはまとまったかえ?」
《一応は》
さすがに魔王とて、待ち続けてはくれなかった。
というか、いつのまにかあの爆発する飴玉みたいなのを、カラコロと手の中でいくつも転がしていた。……さっき、口から出してたからそっから排出されると思って注意してたんだけど……。
もしかして、今の魔王さんならどっからでも出せる感じか?
……一応、液体燃料は不燃に近い感じにしとこう。あんなにたくさんの爆発する球を避けられる自信がない。
まず、今の魔王さんの力量を推し量るか。別に無理矢理接近して、『死神ノ権能』『異空ノ猟犬』どっちかの特殊効果でゴリ押しも良いけど、倒せるのはあくまで魔王さん一人だからな。
勇者とリディアに対してはお祈りしなきゃいけなくなる。そもそも即死させないと、魔王さんはしばらく死なないだろうし、急所を見極めるのも大事かも。
そんで俺も魔王さんに習い、『触手爆弾』を生成して準備をしていると、魔王さんがピンッと球の一つを弾いた。その弾かれた先に小さな鱗が浮いており、金属音を鳴らして跳ね返る。それが連続で聞こえてくる。――そんな乱反射され、加速された球がついに俺へと向けられる。
死線は饅頭下半身の前半分が消し飛ぶ予定。さすがにそれは不味いため、分厚い触手で受け止める。
触手は筋肉の塊だが、結構深く埋まる。『弾力強化』あるのにこれか。
無論、爆破されると手は見事千切れ飛んだ。耳もちょっときつい。やっぱり爆発系の攻撃、苦手だ。
「ふむ、やはり防ぐか。しかし、頭部が弱点ということでよいか?」
《生き物の頭部は弱点です! 潰されたら、俺、死にます!》
俺は上半身共全員の頭部を抱えさせて、守る素振りを見せる。
「……無駄な問いであったな」
魔王さんが呆れたように吐息をついた。
そもそも頭部じゃなくて、核や脳味噌が弱点であって、それらを自在に移動出来るのが俺だ。急所だけ狙うという攻撃方法は絶対に俺にはしちゃいけない。死んだふりの布石作りにもなるからね。
ちなみに、今、遠回しにそれを魔王さんに伝えたのは、出来ればあの球を撃って欲しくないから。即死はたぶんしないけど、音が駄目なんだよ。
で、どうしようね。基本、殴っても駄目ならどうしようもないんだ。毒を吸引させるのはいけるかな? 毒、として認識されるものだと弾かれる可能性が高いんだよね。
それと強力な毒は跳ね返された時、俺自身が食らっちゃうからよく考えないといけない。
「――来ないのかえ?」
――と、魔王さんがそう呟き、いきなり俺に向かって突っ込んできた。わぁお、アグレッシブ! そりゃ、自分の防御力に自信があれば、そういう行動もありだよな。
俺は『反撃する』という行為すらおいそれとは出来ないのだから。
さすがに俺も距離を取ろうとしたけど、球を弾いて――それも展開した鱗の反射を経由して――俺の背後や足元で爆発させて機動力を削いでくる。
あっ、これ不味いかも。
眼前まで肉薄してきた魔王さんは、俺に向かって無造作に掌底を繰り出してくる。とっさに触手で殴るが、がきぃん、と弾かれてしまう。これあれだ、光魔法とかで防御無視でもしないと無理だわ。
俺の饅頭下半身の歯茎に掌底が難なく当たってしまう。そして魔王さんが「火砲」と呟いた瞬間、饅頭下半身の歯茎が吹っ飛ぶ。やばいね。何がヤバいって、魔王さんには自爆のようで自身にはダメージが入っていないこと。爆風に仰け反りすらしていない。
いわゆる内在魔力のなんちゃらと鱗の盾のおかげで、俺の肉が吹っ飛ぶ衝撃すらものともしてない。それが何かというと、魔王さんの俺へと当てた手はさらに押し込まれていく。
さすがに退かないと不味いから全力で後退する――と同時に俺は全身からとんでもない悪臭を放つ。
「んぐぅ!?」
魔王さんがたまらず、呻いて数歩退いてしまう。
物理的なダメージはなく、ただ臭いだけの攻撃は幸い防御を貫通するようだ。
まあ、二度目は通用しなくなるかもだけど、そん時はそん時だ。
俺は一旦、魔王さんと距離を取った。
んでもって、どうしようね、マジで。守りが堅すぎるせいで、どうしようもない。しかも雑に突っ込んでこられて攻撃にも転じられるから、厄介だ。攻められたら俺じゃ、まともに殴り合うことすら出来ない。
ほぼ一方的に蹂躙されてしまうだけだ。
勇者みたいに即死の危険があるわけじゃないけど、確実に削られていくこの感じ……嫌だねえ。
とりあえず、悪臭フィールドを展開しているけど、幸いにしてこれは魔王さんの盾では守れないらしい。
反射とかされない――まあ、されたところで俺は嗅覚がないから意味ないけど。
……うむ、そういうアプローチでいくか? 相手にとっては有害でも俺にとっては無害なものをぶつけるとか。
あと毒でも発動が遅く、一見すると無害に思えるものいけるかも。ただ、魔王さんは耐久値が高いから、耐えた上で適応されるかもなんだよな。
一撃で、かつ即座に仕留めないといけない。
……それと、掴めるかな。優しく触ればいけるなら、絞め落とすのもありだ。反射の性能がどんなものかによるよな。
掴めるなら、それだけでやれることは増える。
上半身共を触手に変化させて、手数を増やす。まずは試しで色々とやってみよう。それと悪臭は切っておく。鼻って結構簡単に馬鹿になりやすいからね。
では、先手必勝だ。魔王さんは安定した攻防は出来るけど、攻撃面に関しては今まで戦ってきた人達に比べると低い。もしかしたら隠し玉があるかもしれないけど、そんなことを考えて攻められずに削りまくられるのも駄目だろう。
「ふむ」
魔王さんは俺がダカダカと突っ込んできたのを見て、冷静に足元や腕の脚を直接狙ってきた。実は俺の足回りはかなり貧弱なので、こういうことされるとすぐに転倒しそうになる。
けど、変幻自在でもあるので、触手で身体を支えることも出来るわけで――なおかつ、再生速度も速いので立て直しも容易だ。
俺は魔王さんに前のめりに近づき、触手をぶおんぶおんと振るう。
やっぱりか魔王さんは自分の防御力に自信を持っているのか、触手にはほとんど目をやらず、俺の上半身や饅頭下半身の口の部分――恐らく、どこを狙えば良いのか考えているのかも。まあ、急所を的確に狙おうとするのは駄目だけど、効率よく俺を削る方法を模索するのは悪くない。
俺も俺で貴方を倒す方法を考えるので!
ぶおんぶおん振るっている触手は囮だ。本命の魔王さんの視界の陰から忍び寄らせた触手で、魔王さんの手を掴む。
出来るだけ遅く、けど素早く、そっと掴むと――多少の反発を感じたが直接腕に巻き付けることに成功!
「ぬ!?」
魔王さんは腕の圧迫感に気付いたが、すでに遅く俺は魔王さんを半円状に振りかぶって叩きつけていた。だけど地面に叩きつける直前に、ぬるんと抜ける。
なんか浮き上がった鱗によって出来た隙間から抜け出された感じ。――ただ、反射とかじゃないし、鱗操作自体にはほとんどパワーもない。圧力に関しては反射が効きにくいのかな? 速度による何かしらで反射の威力が決まるのだろうか。
なんであれ、力を込めれば、そのまま鱗ごと押し込んで潰せそうだ。
それとあの火薬球、全身から出せるわけでもないのかも? 出せるなら、今、やれば良かったんだから。
あの球、手から、かなあ。……至る所から出せないなら、別に良いんだ。
……今のところ、押し潰すことに反射が発生する様子はないから、次からは潰れるまでやろう。
その際には火薬球の見極めも大事だ。内側から爆発されたら、さすがに押さえ付けておくのは難しい。
あと、触手をぶんぶん振り回すのはやめよう。そのフェイクはもう通用しない。全部の触手で潰してやる、という圧力の方が今の魔王さんには脅威だろう。
だから俺は全ての触手をだらんと弛緩させた。
《行きます》
「――ああ」
魔王さん、余裕がなさそう。けど、恐れはほとんどなく、どこか高揚したような楽しげな雰囲気を感じられる。
俺がジリジリと近寄ると、魔王さんは後退る。その際、魔王さんが口を開いた。
「一つ、頼みがある」
《何か?》
「このあと、儂はどうなろうと構わんが、あやつは――勇者はしっかりと殺してやってくれ」
《……?》
俺の一つの頭が首を傾げると、魔王さんは悲しげな顔をする。
「三回目は、儂らは知性を得る。対話も出来る。無論それはおぬしらだけではなく、勇者とも会話出来るのだ」
いわく、三回目は相手が来るのが遅いらしい。満身創痍か、何かを考えているためかは不明らしいが。だからその際に、勇者と言葉を交わすのが通例のようだ。
「儂は精神を成熟させられているからか、諦観に似た境地にいる。だから今更どうなろうと構わんのじゃが――生憎とあやつは違うようでな」
勇者は見た目からして若いよな。
「もはや生きることそのものに辟易としておる。この地獄が命ごと終わってくれと願っておるのだ。だから――終わらせてやってくれ。それとこの狂界もな。期待させてくれるなら、最後までやり通しておくれ」
《了解です》
俺は頷く。
《良いの?》
ラフレシアがそう訊いてきた。
(頼まれたらしょうがないじゃん。魔王さん、悪い人じゃないし)
俺だって分別くらいあるよ。悪い人じゃないなら、頼まれたら言うことは聞く。戦力は欲しいけど、無理強いして人員を得たいとは思わない。
あっ、向こうにそういう願いがあるなら、手加減とか出来ないのかな? 訊いてみるか。
《ちなみに無抵抗になるのは……?》
「生憎、それは出来ん。止まることは許されんようでな。おぬしの倒し方を考えてもいる。――そして、それはある程度考えついた」
あら、もしかして時間稼ぎされちゃった? まあ、でも言っていたことは嘘じゃないよね?
《うん。勇者も確かにギリギリの精神状態ではある。今更外に連れ出しても……待ってるのが戦いなら、きついはず》
パックくんから短い肯定と勇者について語られる。なら疑う余地はない。
《ちなみに彼、音で攻撃するつもりだよ》
(うーん、的確! 一番嫌なやーつ!)
大きな音が苦手なのバレちゃってた。
魔王さんが手の平を上に向ける。手の上には二つの火薬球があった。
「《がなりたてよ》――《噴煙を》」
その瞬間、爆音が『連続で』鳴り響き、辺りが白い噴煙に包まれる。
連続!? 一発だけなら耳塞いでいけると思ったのに、連続はきついって! 目も耳も使えなくても、俺は魂を見られるから把握出来るけど、慣れてないから精度は高くないんだ。
イメージとしては同期が遅いサーモグラフィー見てるみたいな感じ。
(ラフレシアはこれでも分かる?)
《無理。頑張れば予測とか立てられるけど、そもそも『魂感知』は通常の五感補うものでもないし》
やっぱりそうか。
(向こうは分かってるのかな?)
《熱である程度分かるっぽい。キミは熱がほとんどないからわかりにくいらしいけど、……こっちよりは精度はあると思う》
パックくんがそう言った。
つまり不利ってこったな。
どーしよ、どーしよ。
近づいて行っても、離れられる。その間に、足元を爆発させられて体勢を崩されそうになる。んでもって、その際に触手を千切られてしまう。
確実に削られていく。うーん、堅実。
時間はかかるけど、俺的には時間をかけられるのは不味い。つまるところ、狂界の仕様上、有効な手段となっている。
それと仮に魔王さんが倒れたとしても、後続に繋ぐ――勇者やリディアへ俺を消耗させた状態で渡せるなら都合が良いのだろう。
――つまりさっさとケリをつけないと駄目ってことだ。
俺がすべきことは、近づくこと。その際、逃げられないようにすること。
地面に潜るかあ? でも地面に潜るのは聴覚ありきだからなあ。感知が上手く出来ないと、今の状態より酷いことになりそう。
触手を自ら千切って操るにしても、自立行動が出来ない触手じゃパワーが上半身共や豚にも劣るだろうし、あまりよろしくない。魔王さんは防御特化って言っても王種なら最低限の膂力はあるはず。、
最終手段の特殊効果を使うのもありだが――まだ早いな。
うーむ――――あっ、悪臭使えば怯ませられるじゃん。それともう一つ――灯台もと暗しなことがあった。悪臭と『それ』を使えば、巻き付ける時間を稼げる。
そうと決まれば、俺は魔王さんの方へ、ダカダカダッシュを決める。
「――!」
爆音は相変わらず鳴り響いているから、魔王さんの声は何も聞こえないけど、警戒しているのはなんとなく分かる。
息を止められるなら、それでもいい。まずは動きがわずかでも鈍るまで、追いかけ回すだけだ。
そんでもって俺は悪臭圏内まで近寄ると、一気に放出する。
「っ!!」
幸いにして、魔王さんは息を吸ってしまったらしく、動きが若干鈍る。
俺はさらに近寄り、触手を伸ばしながら――、
「ぎゃあああああ!!」
叫んだ。
「!?」
魔王さんがビクンと震える。
――俺の声には恐怖を強制的に誘発する効果がある。音が聞こえないからって何故か声のことが頭からすっぽ抜けてたよ。
ちなみに『精神汚染』は切ってあります。さすがにそっちはいらん。殺すにしても、尊厳は守ってあげたい人だし。
そんで、触手を素早く巻き付ける。手を包まないように気をつけつつ、全身を覆い尽くす。
多少の反発はある――けど、よし、直接巻き付けて――ギリギリと力を加えることが出来た。
このまま潰す。
「ぐ、お、お――」
みしみしと音を立ててく中、魔王さんの苦しげな呻き声が聞こえてくる。
……この殺し方、割と残酷よね。仕方ないとはいえ――口から、『麻酔』突っ込めるかなあ。
俺は魔王さんの口に触手を突っ込もうとするけど――さすがに鱗が邪魔してきた。噴霧すると反射されて俺自身の動きが制限される恐れもあるかもしれない。
《痛み止めやりたいですけど、抵抗しないのは無理なんですよね》
「ま、あ、の」
魔王さんが笑った。殺そうとしてくる相手に気遣われて可笑しくなったのかな? まあ、侮辱したと思われなくて良かった。
一思いにしてやれないのが辛い――――いや、待て。
(ラフレシア、今、魔王さんとくっついてるから『あれ』出来るんじゃない?)
《やるの? もう倒せるだろうし、あんまり意味ないけど》
(介錯しよう。さすがにこの死に方はちょっと酷いと思うし)
《……マスターって認めた相手にはかなり甘いよね。まあ、いいけどさ》
(『麻酔』を入れて効果が現れたら一気に押し潰すから。それまで頼む)
《分かった》
俺はラフレシアに頼んで――ある必殺技を使った。
「む――?」
すると魔王さんの口の中に麻酔を入れることが出来た。
《今は安らかに》
「――ふっ――感、謝、す、る」
そして俺は魔王さんに麻酔が回ったであろうタイミングで、一気に押し潰して殺した。
《魂、回収オーケー。ダミーが本体に行ったよ。バレないといいけど》
(助かる)
とりあえず魔王さんと今はお別れだ。ここから出たら、協力してくれると嬉しいな。
次回更新は3月19日23時の予定です。
※ちょっとした補足。
狂界内で生成された魔王や勇者、それとリディアはあくまで『それっぽい存在』として、記憶含めて造られた存在であり、本物とはまた別物。そのため、狂界の外にいた時の本物の記憶などはもちろんなく、アスカは名前も知らないので魔王と勇者には名前すらない。




