第五十四章 突然の仕様変更はブチ切れられる
次回更新は3月12日23時の予定です。
《ええっと、魂の定着は記憶の移植みたいな感じで未使用の魂に三人と一匹の情報を保存して――移動じゃなくて――それだと増やすことに繋がるから――リンク、そう――私のように――けど、眷属じゃないからマスターとの繋がりがやや希薄に――その影響は――》
ラフレシアが俺の魂の中でぶつぶつ呟きながら、作業していた。
突貫作業だからかなり大変みたいね。色々と同時並行で物事が進行していくから、臨機応変かつ迅速にやらないと不味いのだ。
ちなみにレールガンの魔道具に魂を入れた上半身は、狙撃をするから、すでに別行動してもらっている。というか、他の二体と一匹も魔道具を渡して、俺から離れて行動しているんだけどね。
二体はちゃんと地面に潜れるようで、隠れながら進んで貰っている(豚はそこら辺苦手だったっぽい。だから『隠形児戯』渡しときました)。
今のこいつらはまだ魂が魔道具に定着していないから、死んだらそこで終わりなのだ。なるべく慎重にするようには言い含めている。引き際が大事だよーってな。
上半身達(近いうち名前つけるか)は、こちらが有利になるような良いチャンスがあれば動いてもらう感じだ。そもそも攻撃力は……たぶんレールガン以外ないから気を引く、以外できないしね(たぶんとつけたのは、豚は『薬毒』と相性が良いかもしれなくて、『工兵』として使えるかもしれないのだ)。
だって、あと声真似したり(これは使えるな)、光るだけだからな(太陽拳、いけるか……?)。
(あっ、そうだ、ラフレシア。俺も魔道具使いたいから、あいつらが混じっていないのも使えるように――)
《うるせええ!! こちとら納期ギリギリなんだぞ、こらあ! 唐突な仕様変更がどんだけ迷惑になるのか、わっっかんねえのかあ!!》
ブチ切れられた。こわひ……。
(お、おふ……)
《あと良い案が思いついたとかやめろよ。素人は黙ってろ、ぺっ》
ラフレシア、かなりギリギリみたいです。
ラフレシアはラフレシアの仕事を。俺は俺の仕事をきっちりやりましょうか。……うん、そうしよう、ぐすん。
はい、では俺はダカダカダッシュでついに勇者と魔王が『不死ノ王』が戦う場所まで辿り着いた。
(そういや『不死ノ王』ってどんな王種なん?)
俺はパックくんに尋ねる。
『不死ノ王』――ノーライフキングって日本人が作ったキャラ(?)みたいなのは知ってるんだ。その名前はアンデッドとして扱われるけど、元ネタは『機械のようで命がない』って意味合いでアンデッドとは異なるらしいんだよな。
《『不死ノ王』は王種名ではないよ。『不死ノ王』はリディア達が相対した時に名付けられた、仮称だからね。王種として正確なのは……『ヘカトンケイル』》
……えっと、確か百腕五十顔の巨人だったっけ? こっちも正確にはアンデッドじゃないけど、冥界に幽閉されて後に門番として扱われているからアンデッド系列に……なるかもしれないのか?
《そこは『制定者』の裁量によるね》
(まあいいか。……うん、デカいけど……そんなに頭は多くない? 腕は結構あるけど)
俺らに背を向ける形で、五メートル超のデカい奴が魔法をぶっ放したり、殴ったりして地響きを奏でていた。
ごつごつして筋肉質で、俺とは違う別方面で耐久力がありそうだ。青白い肌をしていて……腕は不規則にたくさん生えている。脚は二本だけどかなりぶっとい。
んで、頭も十個くらい生えていたよ。五十はさすがにないのか?
《頭は一応核だったっぽくって、収納してたみたい》
肉体収納系かあ、羨ましい。……俺もなんか変身系のスキル手に入れて、それを発展させたいなあ。この件が終わって、時間が出来たら新しい属性を手に入れるつもりでスキル取得を目指そうか。三つ目の最上位スキルを得るぞい。
で、その対面に位置するのは勇者と魔王、空にて黒いフード付きローブを纏った女性――リディアがいた。
……リディア……雰囲気的に、魔法が弱い感じがする。本物のリディアってそこら辺の最上位スキルを持ってたらしいから、それがないとあんな感じなのかね。魔法の発動も若干遅い気がする。
《……勇者達、明確な意志が現れてる――困惑してるね。今までこんな始まり方、してなかったらしい。――気をつけて、やっぱり以前の記憶を持ち越してる。ここにきて、ようやくそれらの記憶を扱えるようにもなってるみたいだ》
(厄介だな。やっぱり対策として、能力を全部見せなくて正解だったな)
さて、どう割り込もうかなあ、と思っていると――俺は図体がデカい上に、ここってほぼ平野だし丸見えなわけで――勇者達に見つかってしまう。
「――! うおおおおおおおお!!」
「うぎゃあ!?」
その瞬間、勇者が雄叫びを上げて俺へと突っ込んできた。俺は思わず叫んじゃう。
しかも勇者は全力。速い、速いって! 全身に死線が走っているんですがあ!?
俺はアスカを放り捨て、液体燃料を噴射してその場から跳び退く。
《かなり警戒されてる――だから早めに倒そうとしてるね》
それに勇者からすれば俺は比較的倒しやすい相手ではあるものね。
《アスカ! 勇者の相手頼む!》
「おーけー」
アスカは結構雑に投げたけど、華麗に着地し、そのまま勇者へと向かって行く。勇者は俺にまだわずかな執着を見せていたが、アスカが突っ込んできたのを見て、仕方なしと言った様子でアスカに照準を変えてくれた。
俺は魔王を見やる。ついでに『不死ノ王』も確認。――なんか魔王達と違って虚ろっていうか、空っぽな感じがするな。こいつ、どんな感じの性質しているんだ?
《アスカは『不死ノ王』の再現がどうしても出来ないから、ほぼ空っぽ。ただ強いってだけの……言うなれば完全なNPC、かな。でも記憶とか経験は蓄積出来るのはたぶん勇者や魔王と一緒だから……話は通じるかもね》
《俺、アスカと貴方の味方ですう! おら、魔王、俺と相手せんかい!》
俺はダカダカと魔王へと迫っていく。
「儂をご指名か」
爬虫類魔王はそう呟き、俺へと注意を割く。けど、まだ『不死ノ王』とも戦ってるし、意図的に離れてはくれないらしい。お前の相手はこの俺か――的な感じで一対一でやってくれないわけね。当たり前か。
このまま近くで戦うのは、色々とやりづらい。
《アスカぁ! ――えっと、パックくん、アスカ、吹っ飛ばす力なかったっけ?》
《『厄災渦巻く盃』で風を巻き起こせるよ》
《それ、それやって――えっと、パックくん、魔王いける?》
《防がれるね。少なくとも大抵の攻撃は防げる自信を持ってる》
《じゃあ『不死ノ王』とリディアに『厄災渦巻く盃』やって吹っ飛ばして!》
そう俺が頼むとアスカは頷いて、口を開ける。
「おーけぃ。《『厄災渦巻く盃』――『嵐よ、来い』》」
アスカの口から渦巻く竜巻が現れて、それが『不死ノ王』とリディアにぶつかり、二人を吹っ飛ばした(というか指示出しておいてなんだけど、躊躇しないのな。さすがだ)。
――つっても、リディアは普通に無効化してきていたけど、『不死ノ王』が機転を利かせてくれたのか、自ら風に乗って空飛ぶリディアに襲いかかって――それをリディアが避けつつ、と言った感じで離れてくれた。
まあ、百メートル程度だ。でも十分だろう。
そんなこんなで俺は魔王と対峙する。
とりあえず、頭を下げる。
《どうもやらせていただきます》
「今度はやけに丁寧じゃの。どうした」
《話が出来そうだったので、とりあえず挨拶だけでもしようかなーと》
挨拶は大事、古事記だかにもなんか書かれているらしいし。
そう俺が言うと、魔王はくつくつと笑う。――うん、普通に感情がある。前回とは丸っきり違う。
「面白い奴がきよった。儂らが相手にするのは、いつも気が狂ったような吸血鬼ばかりでな。――まあ、まともなのは一番最初の男の子がいたが……あれはどうなったんじゃろうな。何やっても死なんかったら、生きてる可能性もなくはないが」
《その子供っぽいのは一応元気に生きてますよ》
精神的に元気かどうかは不明だが、肉体的にはバリッバリの現役張ってるっぽいし。元気判定で問題ない!
「そうか。――さて、この世界は何かが変わったようじゃが……結局儂らは殺されるのかえ?」
《……残念ながら。それがルールですので》
「…………。なら言葉は不要じゃな」
《ええ。――一応、一つ。俺が勝ったら、色々と選ぶ権利が得られるかもです。もし『その時が来たら』もう一度、どうするか訊きます》
「? よく分からんが、まあええ。始めようぞ。――生憎と手は抜けんからな。そういう『ルール』じゃ」
魔王が皮肉っぽく笑うと、構えを取った。俺も触手を出し、色々と『噴出させる』準備を整える。




