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転生したら、アンデッド!  作者: 三ノ神龍司
第三幕 終わらぬ物語の行方
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第五十二章 キミのための物語

(ひゃっはー! 試行錯誤なんてチンパンジーでもできんだよ! 今のトレンドは潜在学習よ! ふっひゃあ!)


《突然どうしたよ、マスター》


 ラフレシアが割と心配そうに声をかけてきた。


(いや、ループしてんのにループ学習出来ないことに腹立ったの)


 何度も繰り返せるっていうのは、経験を積む上で有利に働くからね。それが出来ないのは辛い。


 ただ、繰り返すからってそれを当てにしちゃ駄目なんだけどね。実際のところ試行錯誤――本質を理解せず分かるまで、やれるまで繰り返すっていうのは経験としては最悪なやり方らしい。


 必要なところだけ丸暗記、経験するより、その物事の本質を理解した方が記憶しやすく、応用も利くのだ。


 そもそもループだって意味なく何度も繰り返すのは辛いだろうしな。かのアインシュタインだって「同じことを繰り返しながら、違う答えを求めているなんて、狂ってる」って言ってたらしいし。


(そこんとこミチサキ・ルカさんはどうなんすかね)


《繰り返しは私達には認識出来ないけど、それほど無闇に繰り返せることでもないから、少なくとも違った結果になってるなら考えてるんじゃない?》


(そうなん?)


《不滅の勇者がやってるのは本質的にはループとは違うし。セーブ&ロードに近いかも》


 俺は首を傾げてしまう。


(一緒じゃないの?)


《一緒じゃないよ。この世界のとある時間を保存して、それを元にロードしてるの。時間を戻してるわけじゃなくて、進んだ時間軸をそのままに世界を『過去の情報で上書き』してるっていうのが正解かも》


 なんかエグい話、唐突にされたんですけど。それって繰り返す度に元の世界の皆を……いや、考えるのはよそう。


(……それだと異世界から魂がやってきてるらしい俺とかどうなるん?)


《そこは唯一繰り返さない――ていうかある種、核である『制定者』が決めてるか……マスターの根源である魂は異空間にあるから……いや、そもそも魂があるわけじゃなくて『マスターの情報が異空間に保存されてて』条件を満たせば何度もやってくるのかも》


 これまた衝撃的なエグい話をされましたわー。言ってしまえば、俺は何度も再生可能ということになる。もしかしたら、違う別の俺が何体も生まれる可能性があるわけだ。


 うわー……それは……、


(同じ時期に俺が現れなきゃ別にいいや)


《マスターならそう言うと思った》


 ラフレシアは短い間柄ながらも俺のことを理解してくれているようだ。嬉しいっ。


 俺は別に俺自身の魂や肉体に唯一性やらを求めていないしな。同時期に現れなきゃ別にどうでもいいわ。


 それよりも、今この瞬間生きていけるか分からないしな。そっちのが重要!


 さーて、俺が考えた作戦はどうなることやら。






 俺はしっかりと姿を整えつつ、ソウルレスアスカの前まで行く。


 パックくん監修の下、『不死ノ王』の姿になるべく似せている。割と――ていうか、ほぼ人間の姿をしている。ちょっとイケメンですな。


 どうやら『不死ノ王』は日常形態と戦闘形態を使い分けてたみたい。エネルギー保持の名目と……あと、人間と暮らしやすくするためだろうね。


 俺だったら特に話す必要がなかったら――話すことを人間以外で許されるなら、遠慮なく犬やら豚になって過ごすけど。絶対、そっちの方が気楽そうだし。


 でも、一般的に言えば人間的な精神を持つなら人間の姿でいたいんだろうね。その気持ちは分からんでもない。


 んで、切り離した饅頭下半身には後ろに控えて貰ってる。……そういやさっき確認してなかったけど下半身の上半身三人衆は大丈夫だったのかね。勇者に挽肉にされた側の半身にいたんだけど。……一応、三人いるけど……元の奴らなのかなんなのか。ちなみに豚は反対側だったから無事だった。おしっこ漏らしながら白目剥いて気絶してるけど。


 まあ、いいや。


 俺はアスカを見据え、笑みを浮かべ、頭へと手を伸ばす。


「ただい――」


 その瞬間、俺は自身の側頭部を弾け飛ばす。頭丸々ではなく、風穴を開ける感じだ。致命傷でありながら上手く行けば助けられて、放置すれば死ぬ感じにする。


 そのまま地面にべしゃりと倒れ込む。


『え?』


 あっ、反応した。ソウルレスの方じゃなくて館内放送っぽい方のアスカだ。


 魂は隠さないし、抜け出させない。それでは死亡判定を食らって、狂界が終わってしまうから。


 ――幸い、しばらく経っても終わる気配はない。んでもって、何か周囲の気配が焦れているようなそんな感覚があるようなないような。……けど、反応は鈍い。やっぱりもっと他のことをやるか。


(ということで、ラフレシアかもーん)


《はいはい》


 ラフレシアが面倒臭そうに答えると、事前に隠して設置していた方から飛んできて、倒れ伏す俺に乗る。


 ラフレシアは俺の身体に耳を当て、べしべしと叩く。


《生きてますかー? 死んでますかー? 魂取りますよー。おりゃ!》


 小さい手を俺の身体に突っ込み、引き抜くと明るいエネルギーの塊がまとわりつく。


 無論、俺のじゃなくて俺が生成している無印魂達の一つ。


《うわ、スカだ、スカ。早く本体、抜けろ、しーね、しーね――ふふっ》


 すぽんすぽん、とラフレシアが魂を抜いては捨て、抜いては捨てる。……なんか楽しそうってか興奮してる? ……なに、もしかして普段大切にしてる魂を雑に扱うことの背徳感から、ちょっとした性的興奮覚えてる? まさかね。


『駄目――』


 か細い声がそう言ってくる。平坦なようでわずかに焦りが混じっているような声色だ。


 そこでラフレシアが止まり、宙を見上げる。


《なんで? 別に良いじゃん、誰も助けるつもりないんだし》ちらりとソウルレスアスカを見やる。《どうでも良いんでしょ、こいつのこと》


 うーん、俺が指示したとはいえ、意地悪だー。


『……』


 アスカがまごついたように黙る。何も言わないけど、反応はよろしい。どうしたいか分からない、そんな印象を受ける。


《だったら私が魂を取って、有効活用する方がこれのためでしょ。実際、邪魔なんでしょ、これ。なら良いじゃん》


『……そんなこと、ない』


《じゃあ、なんで助けないの?》


『それは……それ、は……?』


 アスカの声に不思議そうな色が混じる。……あっ、これ、マジで分かってない奴だ。


 あと一歩かな? 会話出来てるし、パックくん、行くかい?


 俺が心の中でそう思うと、饅頭下半身の口からパックくんがフワリと飛んできて、ソウルレスアスカと距離をおいて対面する。空じゃなくて、そっちを見るのね。


《これはキミの物語だよ、アスカ。キミが――他の誰でもない、キミ自身が変えたかった物語なんだ。……だからいくら他人に『彼』を任したところでそれは正解じゃない》


『パック……? ……でも、『彼』は……そうしないと、戻ってこない……『彼』は、戻ってこなかったから、『彼』じゃ駄目、で……? ……?』


 すごい矛盾抱えてますね。『不死ノ王』じゃないといけないのに、『不死ノ王』じゃ帰ってこないから、『不死ノ王』じゃない他人に『不死ノ王』をさせるしかないっていう。うーんゲシュタルト崩壊!


《考え方が違うんじゃないかな。キミが『彼』に戻ってきて欲しいなら、キミが『彼』を助ければ良いんだ》


『なるほど』


 割と物わかりの良い返答が来た。まあ、否定してごねるタイプっぽくはなかったし、妥当か? ……魔神になってもある意味狂ってなかったってことか。特殊な精神だったからってのもあるのかな。何かしらの注意さえ向けられれば、良かったってことだな。


『でも、当時の私は弱い』


《別に当時のキミじゃなくても良いと思うよ。強くても別に誰も文句は言わない》


『確かに』


 うむ、とアスカが頷いた感じがする。


『じゃあやる。あとパック。パックが『彼』の言葉を作って。私じゃ分からない』


 その言葉にパックくんが固まりかけるが、ゆっくりと頷いた。


《いいよ、やろう》


『おーけい。――それでは、新たな演劇を開幕します。四人と一人のエキストラに最上位スキルが配られます。なおエキストラの最上位スキルはエネルギーの関係上『理ノ調律』のみとなります。それではごゆるりと。じりりりりりりりり!』


 その瞬間、ソウルレスだったアスカに魂が宿った。


 そして俺に駆け寄ってきて、一瞬にして怪我を治す。


 んでもってアスカは俺をひっくり返し、俺とラフレシアを首を傾げながら見下ろす。


「貴方は誰?」


《しがないゾンビです。貴女の魂のコピーが欲しいです。それで妖精化して、外に連れ出して四天王に合わせようと思います。良いですか?》


「はい、良いですよ」


 二つ返事で答えてくれたぜ、やった。


 それじゃあ、俺も『不死ノ王』役頑張るかあ、と思っていると――なんか遠くの方――それも勇者と魔王の出現ポイントから爆音が響いてくる。


《何事!?》


「『彼』が戦ってるのかも」


 アスカがあっけらかんと言う。


《どういうこと!?》


「貴方は『彼』じゃないから、本物の『彼』に出てきてもらった。『彼』が死んだら、それで終わり、また最初から」


 確かに四人と一人とか言ってたなあ、そういえば!?


 ラフレシアが空を見上げて、ため息をついた。


《ちなみに魂のエネルギー的に次はないと思うよ。さすがに五人の最上位スキルはやり過ぎ。よくて一人と半日程度しかないよ》


「お馬鹿さんかよ!? 他の奴らは弱くするか、せめてこっちから始めなさいよ!」


 俺は思わずアスカの頭をぺちんと叩いてしまった。


「あうち」


「行くぞ! うわーん、もういやー! 死なないで、『不死ノ王』ー!」


 俺は頭を押さえるアスカの手を引き、半泣きで駆け出す。


 それと戦ってる奴らが四人いる。つまり初手でリディアもいるってこった。


 馬鹿なの?


 死ぬの? 


 うえーん。


 そしてその時、アスカに電撃が走ったように目を見開いた。


「……! 次回、『不死ノ王』死す! でゅえるすたんばい!」


「うるせーばか!」


「あうち」


 俺は妄言を吐くアスカの頭をぺちこんと叩き、饅頭下半身と融合すると全速力で戦場へと向かうのであった。

次回更新は2月26日23時の予定です。もし早く書けたら2月19日23時に投稿するかもしれません。



※ちょっとした補足。

ミチサキ・ルカのループに関すること。


1.記憶を保持したままループ出来るのがミチサキ・ルカ。


2.ループ用の能力を保持し、発動するのがウェイト(記憶は数個の単語のみ持ち越せる)。


3.そもそもループせずに世界に存在することが出来て、ウェイトの能力を世界規模にしているのが『制定者』ゼド。

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