第五十一章 強化された再生怪人と実際に戦ったら……
うぉおおおお、勇者と魔王をぶっ殺してやる(人生で二回目)!
はい、ということでまた勇者と魔王に戦いを挑みます。『統合スキル』を得たことでどこまで強くなったか見物だな。そんなに戦闘力が上がってないことを祈ってる。
相変わらずの、だかだかダッシュで真正面から向かってる。
ちなみになんだけど、この戦いでは完全な隠蔽、もしくは死んだふりはしない予定だ。もしかしたら、アスカが俺を検知出来なくなった瞬間に、この狂界が消えてしまうかもしれないからだ。
なのでお得意の死んだふりは、封印せざるを得ない。
まあ、俺がこの狂界からいなくなった、って思われなければやりようはあるんだけどね。つってもそれが有効かって言われると状況によるから難しい。
勇者と魔王の姿が見えてきた。姿は変わらず軽装大剣装備のお兄さんと老人風爬虫類だ。
俺は挨拶がてら、上半身共の腕を一本もぎ取って、投げ付けてやった。
ぐりゅんぐりゅんと回転しながら、並び立つ勇者と魔王の間に落ちていく。無論、二人は警戒しており、勇者はすぐさま横に大きく跳び(なんかさっきより凄い素早い)、魔王は甲羅の盾を自らの前に持ってきた。そんでもって、その甲羅の盾がすんごくでっかくなって、魔王を完全に隠してしまう。
で、投げ付けた腕はというとやっぱり爆発をして、辺りを白い霧に包む――はずだった。だが、霧は広がらず甲羅の盾に収束し、瞬時に俺に向かって跳ね返される。
俺は自ら出した白い霧に包まれて……濡れた。
ダメージは受けない。だってこれただの水だもん。
相手は反射を使ってくるのは分かってたし、相手の能力を把握するために無害な攻撃を仕掛けてみたのだ。カスレフ(鏡使ってくる転生者(?))と戦った時に反射の厄介さは分かってたからな。
で、今の奴らについて、大まかに分かったのは勇者の身体能力はさっきより格段に上がっていること。魔王の甲羅の盾は伸縮可能――恐らく強度も大幅に上がっていることだろう。
一番強力なスキルが統合スキルだけだというが、十分な脅威だ。
恐らく、王種中期ほどの実力を備えていると思っても良いだろう。油断は絶対にしてはいけない。
統合スキルだって十分にヤバいからね。
(定石は威力高い攻撃をぶっぱ?)
《あの盾がどれくらいのものを跳ね返せるかによるね。ちなみに盾の耐久値を越えるダメージを受けたら壊れるけど、それは腐食系の毒でも問題ないから。あと基本的に反射って魔法とか気体系の攻撃を想定しているものだから、固形物は跳ね返ってくるのに若干、猶予はあるよ》
(うーむ、あの盾を機能不全に陥らせる毒は……まあ、俺は普通に『酸液』出せたな、そういや)
相手を殺す気なら、そういう毒をばしばし使うべきかもね。それにこの狂界の中なら、寄生虫をばらまいた後の心配とかしなくて良いから気が楽だ。好きなように暴れられる。
『薬毒』で現実にある&俺自身が体内で作成出来る劇物を高速で生成させ、饅頭下半身に溜め込む。
イメージは王水。雑に体内で作れる硫酸や塩酸を、これまた雑に配合して作り出す。てきとーにやっても作れるからスキルってすごいね。
リディアに教えてもらったマジック酸とかフルオロなんちゃら酸とか強い酸らしいから作れるようになりたいね。
「うぼぉええええええええええ!!」
俺は饅頭下半身のデカい口から、半固形物状の酸――ほぼゲロを魔王に向かって吐きつける。
それはさながらカオナシのゲロ攻撃のよう。
「!」
魔王が丸い大きな盾を生成するも、全ては受けきることは出来なかった。無駄に範囲を広くしたから、盾で受けきれず、真横や後方の地面に跳ね飛んでしまう。
――ラフレシアの言うとおり、気体系じゃないと収束されんみたいね。多少吸い込まれるような挙動はしていたけど、吸い込みきれなかったもよう。
そして、跳ね返すのに時間がかかるようで、盾が煙を上げて溶けて――恐らく反射する機能を失ってしまったのだろう、ググッと跳ね返りそうだったゲロの酸がそのまま居座り盾を溶かす。。
魔王が酸を防いだ盾が溶けきる前に、違う盾の一つを『自分にぶつけるように』使って距離を取った。――おお、上手い。自身の耐久とか加味しての移動法か。
……ただ、一瞬遅いな。揮発性の高く、吸引したら不味い毒もついでに混ぜていたから、それを吸ってわずかに動きを鈍らせている。
だが、魔王はそれ以上、退いたり守りを堅めることをしなかった。
口から、やや大きな黒飴みたいな球を吐き出すと、背後に放る。するとそこにあった甲羅の盾に当たり、反射。さらにもう一つの甲羅の盾があって、それが反射され――連続でぶつかる音が鳴る。
(……反射を利用した物理攻撃……上手いな)
瞬く間に高速になった球が、ついに俺に向かって射出される。
鹿骨頭に死線が走る。でも、速いし、そもそも避けきれん。仕方がないので甘んじて受け入れると、鹿骨頭の額をぶち抜いて――貫通せずに埋まる。
「《火砲》」
魔王がそう呟いた瞬間だった。
ぼぉん、と俺の頭部が爆散する。
(あっぶねえ! 液体燃料詰まった饅頭下半身とかだったらヤバかったぞ! てか、くそ、耳きーんとする。自分でやった爆発音は平気なのに!)
《心構えとか内在魔力的な効果とかあったのかもね》
俺の弱点って爆音か。耳が機能不全になると、一気に弱体化するな。今は魂や魔力を感知出来るから、敵そのものは見失わないけど……その精度は耳より低い。だから魔法とかスキルを使ってそうな音が分からなくなるから耳を潰されるのはしんどいかも。
全方位の視界は確保されているけど、聴覚で先読みとか出来てたんだなーって捉えられない勇者を見て思ってる。
魔王は遠距離から攻撃を仕掛けることに決めたようで――対して勇者は逆に距離を詰めてくる。
馬鹿でかい大剣を横に構えて――それを俺から離れたまま振ってきた。すると大剣が空中で何かに激突し、恐らく爆音が鳴って――衝撃波が俺を襲う。
俺の巨体が数メートル後ろに吹っ飛ばされてしまう。てか、衝撃波を受けた前面が軽くメシャっと潰れちゃったんだが!?
(何事!?)
《『無突』を大気にぶつけて、衝撃波を伝播させてきたんだと思う》
あいつら一気に応用力アップしてないっすか!?
やばいぞこれ、ジリ貧だ。――今気付いたけど、俺って遠距離の有効打ってほとんどないんだよな。だから距離を取られると途端に何も出来なくなる。触手爆弾も、基本的に爆発メインというよりは毒攻撃に近くあの速度の勇者や反射持ちの魔王には威力も速度も弱くて効かない。
近づかなきゃいけない。でなきゃこのままなぶり殺しだ。
俺は饅頭下半身の後部にノズルを形成し、そこから液体燃料を噴射――着火させて前に向かってぶっ飛ぶ。
「!?」
向かった先は魔王。いきなりの超加速にビビったらしい。
それでも盾を使って防ごうとしてくるが、加速+触手の殴打で辛うじてぶち破ることに成功。ただ、一発殴るごとに触手を扱っていた上半身の一部が弾け飛んでしまう。盾が耐久値を越えて壊れても反射はするようだ。
魔王が、距離を取ろうとしてくるが、その前に俺は上半身共をいくつか千切って、あらゆる方向に飛ばす。
魔王には逃げられるが、放り投げた上半身の一体が背後から近づけた。けれど、魔王は冷静にあの球を使って、あと少しで掴まれそうにも関わらず的確かつ冷静に頭部を爆散させてくる。
でも、生憎ながら俺の上半身共の核は頭にはないし(そもそも動かせる)、さらに言うならワームくんだって入っているのだ。
頭部からいきなりワームくんが現れ、魔王の腕にかじりつく。
「なんと――」
魔王がしわがれた声で呟く。
そこに俺は突撃する。甲羅の盾を次々にぶち破り、そのまま饅頭下半身の口を大きく開けてぶつかるように噛みついてやった。
上半身を丸かじりし、そのまま食い潰し(意外に固くてすぐには千切れなかった)、ゲロ酸を浸してから吐き出す。
「ぐがぁあああああああああああああ!」
ナパーム並にヤバい取れないゲロ酸に魔王がたまらず叫ぶ。肌は爛れて筋肉や骨が見えるレベルだけど――死なねえな、くそ。
そしてトドメを刺す前に勇者が――魔王の盾を使って、加速してくるのが見えた。
死線が正中に走る。どうやら縦に一刀両断されてしまうらしい。
だから俺は自分から液体燃料も使って、爆発させて自ら縦に分かたれた。
「なっ――」
勇者の大剣が空を切る。驚きの表情を浮かべるが、すぐさま、俺の魂がある方を感知したのか返す刃で大剣を叩きつけようとしてくる。
なので俺は『放電』した。
俺の全身から神経のような紫電が周囲に走り抜ける。
「んぐぅ!?」
勇者はそれを間近で食らい、筋肉を硬直させ――かけるが、何かのスキルを使ったのか構わず動いてくる。
大剣を半身にぶつけてくる。衝撃が走り、ぶつけられた半身が一瞬にして細々した無数の肉片に変わる。――だが、その前に死線を感じていた俺は、もう一方の半身繋がることに成功していた。間一髪魂の移動が行われ、そしてギリギリで移動したためかもう一方の半身には衝撃は伝播しなかった。
俺は無数の触手を勇者に向かって、滅茶苦茶に振り下ろす。
勇者は皮肉にも衝撃を発生させたために、ほんのわずかに体勢を崩してしまったため、受けきることが出来なかった。
ごしゃりと一発、大剣を持つ肩にクリティカルし、関節が外れ――大剣を取り落とす。そのまま絶え間ない二撃三撃目が頭部を胸の位置まで潰し、頑丈そうな筋骨隆々な身体をぺしゃんこにてしまうことで絶命に至らしめた。
俺は勇者が死んだのを確認した瞬間、その肉体を取り込んで、まだ動いている魔王に跳びかかり押し潰す。
魔王は生きてはいたが、俺にとっては幸いなことに反撃する余力はなかったらしい。
そのまま潰して殺した後に吸収して、少しでも肉体の足しにする。
「うがぁああう!! 勝ったぞおおおおおおおおお!」
俺はかなり興奮して、そう叫ぶ。
――いや、だって興奮するよ。今、マジで死にそうになってたし。心臓がなくても、心の心臓がばっくばくよ。
とりあえずダバダバと無様な動きで散った肉片を集めまくる。――うん、高揚すると動き含め、すぐには戻らんね。
なんとか元通りになって、一息ついた。
そして俺はラフレシアに言う。
(もう戦いたくないんだが。次、絶対死ぬんだが)
《今のでもリディアが参戦してたらヤバかったかもね》
そう言われて、ハッと辺りを見回すけど、幸いにしてリディアは現れなかったよ。ここでリディア登場は中々にきつい。一対一なら勝機は…………いや、飛ばれて遠距離から攻撃されたら終わりだから、そもそも勝ち目ねえわ。飛べるならそのアドバンテージ取らないわけないし。
俺もジェット噴射で空は飛べるけど、縦横無尽に動けるであろうリディア相手では圧倒的不利は変わらない。
(……次がもし始まって、最上位スキルの防御不可な一撃必殺食らわないように間合いはかってーとかやり始めたら、今度こそリディアやってくるだろうなあ)
《最上位スキルの特殊効果がある以上、下手に攻め込めないしね。向こうはこっちを殺せば良いから使いやすいけど、こっちは二人以上相手にするから、下手にその手は切れないし》
最上位スキルの特殊効果ってほぼ、タイマン専用なんよね。『死神ノ権能』は自身を中心に広がる範囲効果だから二人以上巻き込めるかもだけど、効果がほぼ一瞬だから倒せるのは片方だけっていうね。んで、そっから内在魔力を枯渇した状態で戦わないといけないという。
うん、無理過ぎる。
(よしっ、出来る限りのリハーサルして戻るぞ。今回で終わらせてやる)
《相談だけで実際にリハーサルはやらないようにね。たぶんアスカは見てるから、バレたら動揺をさせなくなる》
(ほぼぶっつけ本番っていう……)
……本当に試行錯誤は出来ないみたい。もういやですわ。
次回更新は2月12日23時の予定です。場合によっては2月5日23時頃になるかもしれません。




