第十七章 勇者の村、強襲
アハリート達がバックアードの屋敷に出発してから、一日半が経過した。今はほどほどに夜も更けて村も静まりかえっている。
(アハリちゃん達、順調かなあ。蛙ちゃん達に遭遇してなきゃいいけど)
あの蛙は『感染』スキルを持っていたり、魂が崩壊しているのに動いている者――アンデッドに対して攻撃性を見せる。
普段は温厚でよほど腹を空かしていない場合でなければ、人は襲わないようになっているが、あの二人は見事に『感染』持ちだから確実に襲われるだろう。一応、蛙達と出遭わないルートは教えたから大丈夫だとは思うが。
運良くあの蛙達に襲われず、順調に歩いて行けば大体、二日程度でつけるはずだ。
アンサム救出には充分間に合うだろう。少なくとも、アンサムもただでは殺されないとは思うはずから、ちょうど襲われた後に助けに入れば良い具合になってくれるはずだ。
リディアは、ぼんやりとそんなことを思いながら、ミアエルを寝かしつけていた。
ベッドにて眠るミアエルは、今は安らかな寝顔となっているが、先ほどまでかなりぐずっていたのだ。アハリート達がバックアードの屋敷に向かったと知ったミアエルは自分も行くと言い出したが、却下した。
理由は、アンサムとの確執や敵陣で危険だからと言ったが、――実際は違う。
正直、ミアエルを連れていっても戦力として充分蹂躙し活躍できる。
……ミアエルをあそこに連れて行けないのは、バックアードがやっている実験の副産物で出来てしまったものがあるせいだ。
バックアードは生前のスキルを残したまま、程よく魂を破壊しアンデッド化させ、憑依しやすい状態にしてスキルを手に入れる実験をしている。その実験の初期過程で、あの骸骨は大量の光の種族の死体を手に入れた話をリディアは耳にしていた。高確率でその死体はアンデッドへと変えられてしまっているだろう。
ミアエルは強い。けれど、心までは強くない。もしアンデッドとされた光の種族の中に顔見知りがいたら、彼女はもしかしたら殺せないかもしれない。それが原因で死に繋がるかもしれない。
アンデッド――特にゾンビの恐ろしいところは、高い不死性や凶悪な『感染』があるからではない。何よりも恐ろしいのは生前の姿を知るものが対峙したとき、殺害を躊躇してしまうからだ。
(……事実、私もアハリちゃんに手を出せなかったしねえ)
リディアはミアエルのおでこを撫でながら、自嘲気味に心の中で呟く。
初めてアハリートと遭遇した時、リディアは彼を消滅させる気だった。
……けど、いざ彼の姿を目にして、彼女は手を出せなかった。そして逃げられたのだ。結果としてそれが良い方向に行ったから良かったモノの、最悪の事態も考えられた。
もしあれにアハリートの魂が宿っておらず、完全な魔物だったら。もし凶悪な魔物として進化してしまったら……考えるだけで恐ろしい。
「……数百年前のことだから、吹っ切れたと思ってたけど、やっぱり引きずってるんだねえ。我ながら女々しいなあ」
――僕は貴方と共にありたいと思っている。貴方を苦しめる永遠を僕も受け入れる。だからリディア、僕と――。
遙か昔のことを思い出して、リディアはため息をつく。歯を浮くような台詞を至極真面目な顔で言う普段はふしだらな彼に、当時は苦笑していた気がする。でも、彼は本気で自分のことを思っているのが分かったから自分は彼を――――と、過去のことを考えるのはよそう。もう取り戻せない時間を思い出すのは辛いだけだ。
彼女は思いを振り払うように頭を横に振って立ち上がるとそのまま部屋を出る。
しばらく夜風でも当たっていようかな、と思って家を出たところ、松明を持ってこちらに走ってくる者を発見。武装している姿から、巡回の警備隊の一人だろう。
彼は息を切らしながら、走ってくると、リディアの前で立ち止まり敬礼する。
「リディア様! 夜分遅くに申し訳ありません!」
「どうしたのかなん」
「えっとですね……」
飄々としたリディアに対する男は、やや緊張している。見た目的には男の方が年上に見えるが、実際はリディアより遙かに年下だ。故にこのようなおかしな構図が見られるのだ。
リディアはこの村では特殊な存在だ。
長年生きていることは、もはや周知のこととなっており、崇められる対象となっているほどだ。ただ、掟でも規則でもないため、全員にそのような態度を取られているわけではない。特に幼い子らからは変だけど優しいお姉さんと思われており懐かれている。まあ、年を追うごとに敬われてしまうのだけれど。
その最たる例が目の前の男だ。どうにも余所余所しい。正直、傷つく。
リディアはわざとらしく、よよよ、と悲しむフリをする。
「……そんな余所余所しいと悲しいなあ。スーヤくんも昔はリディアお姉ちゃんって懐いてくれてたのにねえ。小っちゃい頃は泣き虫でいつも私のローブを掴んでついて回って……」
「ちょ――俺が真面目なことを話そうとしているときに、いきなり昔の話はやめてください!」
しみじみと語り出したリディアに男、もといスーヤは顔を真っ赤にして遮る。自分達の昔を知るためにやりにくい相手としても村では有名なリディアなのだ。
「ははは、ごみんにー」
「……まったく、リディア様は昔から、本当に……」
呆れたように言うスーヤだが、緊張は若干解れたようだ。いつもこんな感じでいてくれたらいいのだが。
「それで? 何か問題?」
「はい。実は二つほどあります。一つは迷い人が十名ほど来まして、結界にて浄化を施しましたが、最後にリディア様に状態やスキルの鑑定をしていただきたいのです。今は結界の境付近の小屋にて隔離しています。それで彼らなのですが、どうやら奴隷らしく『彼女』と同時期に逃げた者達のようです……。そのほとんどが十五歳前後の子供でした」
ちらり、とスーヤはリディアの家を――恐らく中にいるミアエルを見やったのだろう。
「なるほど、……ちょっと面倒だねえ。……それに怪しいなあ。こういうのもなんだけど、この森で装備なしの子供が二日以上生きるのはかなり難しいんだよねえ」
「そうなんです。彼らには、あの子のように力があるようには見えなくて……どうやって生き延びたのかは、要領を得なくて、記憶操作をされている様子が見受けられました」
十中八九、バックアードの仕掛けた何かの罠だろう、と考える。記憶操作なんて高等技術が出来るのは、この近辺ではリディアかバックアードぐらいだ。
怪しすぎる、というか罠でしかない。
だが、生きている彼らを見捨てることは出来ない。もし表面上の異常を発見出来なければ、村で保護しないといけないだろう。怪しい、ただそれだけで放逐することは出来ないのだ。
こんな森で暮らしているが、この村は結界のおかげで安全な生活を送れている。
故に善意を遺憾なく発揮出来るから――否、出来るからではない。しなければならないのだ。それはかつてこの村に結界を張った勇者の思いなのだから。救えるべき人を救う、という甘い思い。
甘い理想だ。けれど、その理想に村の人間は――何よりリディアが今も救われている。
「……ちゃんと異常が発見出来るように気合い入れないとねえ。それで二つ目は?」
「彼らを追ってか、大軍のゾンビがやってきています」
「数は?」
「千体ほどです。複数の遺跡の群れを丸々連れてきたような有様です。音を出しての誘導などは効果がありませんでした。恐らく支配能力を持つ魔物が引き連れてきたのかと。その場合、簡易結界内に侵入される恐れがあります。対処しなければ簡易結界内の田畑が荒らされるかもしれません」
「……思惑が透けて見えるねえ」
この村の周辺には、完全に魔物をシャットアウトする浄化の結界の他に、さらに外側には村人達が作った魔物が嫌がる簡易の結界が張られている。
簡易のため物理的な侵入を防ぐことは出来ない。
だが割と効果はあり、大抵の知性なき魔物は、ほとんど入ってこない。ましてやただのゾンビならば、大軍だろうとその範囲に入ってこようとはしないはずだ。
……何者かに操られていない限りは。
「……何が目的か。少なくとも私に力を使わせて、弱体化させるか、もしくは戦える人間を村から引き離している最中に何かやるか、かな。迷い人の子達を使って。……少なくとも本気で敵対するつもりっぽいねえ」
もしかしたら、ミアエルを奪ってしまったことに気付いているのだろうか。それはないと思いたいが。そうであった場合、バックアードとは完全に敵対することになる。
……だからこそ攻撃を仕掛けてこようとしている、とも見ることができるが。でも、もしそうじゃなかったら、…………どうしてくれようか。さすがに大した理由もなくこの村に何かしようと言うのなら、許すことは出来ない。
「それは長老達も考えておいでで、リディア様に対抗する何らかの罠を仕掛けている可能性を考慮して出陣させるのは控えるべきでは、と声が上がっております。今、貴方を失ってしまっては、村の存続にも関わりかねませんから」
リディアは苦笑する。
「割と過保護だねえ、あの子達も。もう私がいなくても大抵のことは出来るでしょうに。……だからここは私が――いや、私だけが出るよ」
「リディア様、それは――!」
「身から出た錆、みたいなものだからねえ。この森にいるアンデッドの支配能力を手に入れたリッチちゃんを味方にして、この付近のアンデッドを無力化出来ればーみたいな甘いことを考えて、あれを許し続けてきたせいでもあるんだろうし。……もうちょっと早めに、実力行使に移れば良かったと思ってるよ」
「確かに俺達はあのリッチを討伐するように言っていましたが、リディア様がこの森を安定させようとしてしているのも分かっています。それが勇者様の思いに応えることであることも」
「――だからこそ強くは言えなかったんだよね。結局の所、私は皆に甘えてたんだよ」
「…………」
申し訳なさそうに言うリディアに、スーヤは何も言うことが出来なかった。
……リディアは己の罪を決して偽らず認める。何故なら彼女は己の過ちに対して罰を望んでいるから。それがある意味で彼女の救いでもあるから。だから彼女を簡単に許してはいけない。彼女を敬愛するならば、なおのこと。
――罰を求めるのはマゾヒズムによるところだが、そのもっと奥の本質は死を望んでいるからだろう。
リディアは不老であって、不死ではない。故に死ぬことは容易だ。だけど彼女には使命や死に対する『とある難題』があり、自害は許されない。
だから村人は、本当なら彼女にどうにかして安息である死を与えるべきなのだろう。
だけど出来ない。『難題』のためではなく、彼女は村のために生きてくれたから。大切な人を失った後でも、この村を見捨てないでいてくれた。だからこそ、村人達は彼女のことを敬い、愛していた。
……そして村人達はその思いが彼女をこの世に繋ぎ止める枷であることも理解していたのだ。
リディアには幸せであって欲しい、死んで欲しくない、――その願いこそが彼女を苦しめることだと知りながら。
村人達はその自分達の邪悪で残酷な愛情を理解し罪悪感を抱いているために、リディアが望みを口にした時は、叶えてやらねばならぬと強迫的な思いを持っている。出来うる限り、彼女を生かすために苦しめたくないと。
そのために死以外の望みならば罰でも褒美なんでも与えなければならないと。
だからこそ、勇者の姿をとるゾンビを村に入れたいと言ったとき、苦肉の思いで交換条件をだしたのだ。本当は決して魔物を――それも危険なゾンビを村の中に入れるなど許してはいけないのに。でも、生前の勇者はこの村の創始者であり、そして、リディアの思い人でもあったのだ。その願いをどうして無下にできよう。
言葉に詰まるスーヤだが、息を吐き出し、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「貴方がどんなことを言っても構いません。貴方には貴方が思うようにして貰いたい。貴方には生きていて欲しいから」
生きていて欲しい、これほどリディアにとって残酷な願いはないだろう。
そしてそれを断れないほどリディアが優しいのも知っていた。彼女が村人達の思惑を理解していながら、断れないことも。
リディアは、微笑み――どこか辛そうな表情を混ぜながら――スーヤの頭に手を置く。
「分かってるよ。……私も『リディアお姉ちゃん』であるのは、嫌じゃないしねえ。まっ、だからこそ頼れるお姉ちゃんとしてここは皆を守るために頑張らないといけないんだよね」
「……リディア様」
「これは私の『お願い』だよ。皆を守らせて」
スーヤはため息をついた。たぶん、ダメだと言っても聞き入れてはくれないだろうな、と諦める。意外に頑固なのだ、この『リディアお姉ちゃん』は。
「…………。分かりました。長老達にはそう伝えておきます」
リディアは微笑んだ後に、バツが悪そうな顔をする。
「ありがとう……ずるくてごめんね。……それと、忠告。異変が起きたら、子供だからって容赦はしちゃダメだよ。…………絶対に死なないこと。これも『お願い』だからね」
「分かっています」
そう言って、スーヤは頷き、足早に去って行く。
リディアはその背を見送った後、一旦家へと戻った。
(……ミアエルちゃんを起こして警戒させておかないとねえ。本当はもっと揺り籠の中にいさせたかったけど、ここで強い心を持って貰うことになるかも。そうしないとこの先、生きていけないから。……復讐なんてもってのほか)
ミアエルは復讐を願っている。生憎とリディアはミアエルの復讐を諫めるつもりはなかった。憎悪というのは簡単に収められるものではないのだから。他人に出来るのはある程度の『道の修正』か『覚悟』をもたせることだけだ。
今回、やらなければならないのは、『覚悟』をもたせることだろう。
修羅の道を歩むのならば、それ相応の強い心を持たなければならない。今日、それが試されることになるだろう。
……乗り越えられなければ、彼女が今後強くなることは絶対にないだろうから。
リディアはミアエルを起こし、そしてこの後始まるだろう最悪の出来事の予想を伝えるのであった。
リディアは最善を尽くした。バックアードが何かを企んでいることを見抜き、ミアエルや村人達には注意喚起して警戒させていた。
――ただ、リディアの能力を持ってしても迷い人である子供達からは異常は発見出来なかった。おかしなスキルを持っている訳でもなかったし、状態異常を引き起こしてもいなかった。
リディアはこの世界の理や魔物について誰よりも真理に近いところにいる。けれど、そんな彼女にも知り得ぬことがあったのだ。
非人道的故に辿り着いた邪悪な知識や技術などだ。
バックアードが『虫』と呼ぶものがある。それは文字通りの細く白い虫――寄生虫だった。突然変異を起こして進化したゾンビが生み出せるようになった寄生虫をベースにしている。
寄生した相手を完全なる支配下におくという凶悪な力を、バックアードは改良し、幾多の実験を繰り返した。
そうした結果、魂の崩壊中にその魂の欠片を取り込むように改良された。そしてその魂を経験値や熟練度として宿主に還元する技術を開発したのだ。
ただバックアードはこの力を使って寄生者に憑依し自らの強化を行うことができなかった。強制的に進化、スキル取得を促すことを目的とした技術で成功に思われたが、思わぬ誤算が生じてしまった。
寄生虫の支配能力が強すぎたのだ。志願してくれた意思ある配下の魂を実験として、その器に移したところ、寄生虫に完全に乗っ取られてしまったのだ。
何度実験しても、この結果は変わらず、さらにはその感染者は知能は低く、単純な命令以外受け付けず、完全な支配下におくことが出来なかった。
その上、寄生虫は脳にいるため、取り除こうとすると外科手術以外の方法は無理で、その場合ではほぼ確実に宿主が死亡してしまうため、お蔵入りとなった技術だった。
幸い何かに役立つだろうと思い、寄生虫は取っていたのだ。そしてバックアードは休眠状態の寄生虫を人間共の脳に埋め込み、村に忍び込ませたのだ。
村の結界で寄生虫が死ぬことはない。
村を守る結界は魔物やそれらに由来する異常を除去する力だ。無論、寄生虫も魔物の一種ではあったが、身体内部に宿っているなら浄化されないようなのだ。
魔物の浄化と解毒の効果は別々の術式になっている。本来は魔物の浄化だけでも解毒の効果を併用できるのだが、魔物への浄化能力を高め、体内に浸透出来るようにすると、人間にも効果を及ぼしてしまうというジレンマがあるのだ。
短期的なら問題ないかもしれないが、日常的に出入りする関係上、健康面で何らかの悪影響を及ぼす場合がある。故に二つの術式が結界に使われている。解毒の効果は液体気体系の魔力の除去による消滅のため、固体である魔物を含めた生物には多少のダメージはあるものの致死的効果がない。そこが今回の穴となっている。
『それ』は静かに進行していった。
――寝静まる子供達の身体がどくん、と揺れる。頭を押さえ、苦しみだし、呻き声を上げる。
リディアの誤算は、何かが原因で子供達がゾンビになったとしても『ハイウォーカー』か『ランナー』が精々だと思っていたのだ。どちらも丈夫になっていることや走ることが出来る厄介な性質を兼ね備えているが、村の警備隊の敵ではないと判断したのだ。
少なくとも集団感染など起こさないだろうと思っていた。
子供達の頭の中で声が響く。
『魂の破損比率により、種族『ゾンビ』に変化しました。『ミュータントパラサイト』による魂の還元を行い、レベルが上がりました。『感染』を取得しました。『感染』の熟練度が上限に達しました。派生して『毒性強化』『気化散布』を取得しました。――『デフュージョン』に進化を開始します』
淡々とした言葉が脳内に響き、そしてゾンビに変化した頃に、進化の選択肢が現れ――しかし、それは強制的に決められてしまった。
ぎち、ぎち、と子供達の肉体が変化していく。
子供三人の胴体がぶくぶくと膨らみ、至る所にフジツボのような隆起したイボが浮かび上がる。そのイボからは噴霧状に体液が溢れ出す。本体の移動速度は通常のゾンビより遅いが、致死性の高い毒体液をまき散らす厄介極まりない『デフュージョン』となる。
他三人が、喉と胸部が肥大化し、顔も蛙のようにのっぺりとして口が大きく裂けてしまう。遠距離へと『溶解液』を飛ばし、肥大した声帯で大声を出し、仲間を呼ぶ『ヴォーメット』になった。
さらに三人が『ランナー』へと変化した。
そして残り一人の身体がぶくぶくと膨らみ、内臓が透けて見えるほど肥大化する。蠕動を繰り返すためか、ふとした拍子に内臓をぶちまけそうな危なっかしげな雰囲気が見て取れる。
その一体以外は、未だ動かず静かにしている。『ランナー』は荒い息を繰り返しているものの暴れ出さない。……待っているのだ、狂乱の狼煙となる一撃を。
太鼓腹状に腹が大きく膨らんだゾンビ――『バースター』は、扉の前に辿り着くと、ごぽんごぽんと大きく身体をくねらせ――次の瞬間、すさまじい衝撃を伴って破裂したのだ。
その爆発は、扉だけではなく、壁ごと吹っ飛ばす。
「うがぁああああああああああああああああああああああああ!」
同時に『ランナー』が叫び声を上げて、血煙舞う空間へと突っ込んでいく。
そして外で見張りをしていた護衛達にのしかかり、喉笛を食い千切り、即死させるとその者らもゾンビへと変えてしまう。しかもそれは『ランナー』だ。『ランナー』が厄介なのは、感染者を『ウォーカー』ではなく『ランナー』に変えてしまうことなのだ。
――こうして、初動は完全にバックアードの目論見通りとなり、その『災厄』は徐々に村を蝕んでいくのであった。