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転生したら、アンデッド!  作者: 三ノ神龍司
第三幕 終わらぬ物語の行方
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第三十五章 真実はいつも嘘に塗れている

 バルトゥラロメウスは林の中を駆けていた。


 北の戦場を偵察していたら、呼び戻されたのだ。どうやらジルドレイ国内でテロがあったらしい。それもなんとも馬鹿げたことなのだが、無数の豚が糞を撒き散らして複数の階層を汚染したのだとか。


 そして、現在、その豚は地上に逃走し――しかも、魔族の子供も連れ出して、さらにアンゼルムの部下であるブルートを支配してしまったのだとか。


 かなりの被害を受けてしまったようだ。


 国の危機だ。だから、まず魔族の子供を連れている者達を足止めすべきなのだろうが、監視部隊は早々にやられて行方が掴めないらしい。


 それと先ほど連絡が入ったのだが、豚と戦っていたハイマが負けて、捕虜となってしまったかもしれないとのこと。


 そして同じく敵と――ダラーが寝返ったというあり得ない情報も受けた――交戦していたトラサァンの下にプレイフォートの将軍、ルイスが増援としてやってきたというのだ。


 ……ルイスは能力がある程度判明しており、足止めが出来ればそれだけで勝てるらしい。だから、トラサァンの代わりに対峙するべきなのだが……。


 捕虜にされたかもしれないハイマも救出するべきで、もしかしたらダラーが連れているかもしれないとのこと。それと豚の捕捉も重要で――とやるべきことが多い。


 とりあえず今は、トラサァンの下へ向かうべきなのだが――。


「前方より、何者かが接近してきます!」


 行動を共にしていた感知に長けた仲間が、そう報告してくる。感覚を共有して、位置を把握する。場合によっては一時的に動きを止めるために能力を使うが――。


 その相手は、ダラーだった。


 謎の大きなヌメヌメしたモノを抱えながら走ってきていた。――と、こちらを視認した瞬間、距離を取ってきて、大きく迂回するように逃げ出してしまった。


「すいっませぇえええええん!!」


 ダラーは、そう叫びながら全力で駆け抜ける。


「バル様、あの袋の中身、ハイマさんです!」


「え!?」


 だとしたら止めた方が良いのだろうか。というかなんのためにハイマを連れて――どこに――と、ダラーの向かう先は、アスカが鎮座する方角だった。


『中身がハイマ隊長に偽装した『豚』の可能性があります』


「止めた方が良いの?」


『今のところは』


「――なら追いかけないと――」


 もう能力の範囲外に行ってしまったから、どうにかして追いつく必要がある。ダラーは素早い部類で、人間を抱えていたところで速度は大して落ちないだろう。


 だから何かしらのスキルで足止めする必要があるが――、


「タシオン、重力波を前方に――」


《待たれよ!!》


「!?」


 木陰からフラワーの声がして、とてもあの妖精とは思えない鹿骨頭の醜い化け物がひょっこりと姿を現した。


『……あれが『豚』です……!』


「ぶ、豚……?」


 オペレーターにそう言われ、バルトゥラロメウスは困惑してしまう。とても豚とは思えない見た目をしていたからだ。一応、姿を変えるとは聞いていたが、それでも混乱してしまう。


《ぶひぃ……!》


 鹿骨頭――もといアハリートは迫真の豚の鳴き声をした。……豚、なのだろうか、とバルトゥラロメウスは真面目にそんなことを思ってしまう。


『魂を確認しましたが、『豚』で間違いはないです。……けど、魂の性質を偽装出来るため、信頼性はありません』


「……仮に本物だった場合、背を向けても大丈夫?」


『恐らく隊長以外やられます』


「なら、捕らえて本物かどうか調べるしかないね。一旦、連絡出来なくなるけど、伝達よろしく」


『分かりました。気をつけてください』


 そうオペレーターが言った直後に、バルトゥラロメウスは片手を挙げる。同時に周りを囲っていた仲間が手慣れた様子で距離を開けた。


 そして、全員が範囲外に逃れたのを確認した瞬間に最上位スキル『泥濘ノ幽囚』を発動した。


《――っ、わわっ》


 アハリートがよろけるが、踏みとどまる。


《……わぁ、マジかぁ……話には聞いてたけど……》


 きょろきょろと周囲を見回した後、ため息をついて鹿骨頭に手をやり頭を抱えていた。


 結界が張り巡らされた。完全にこの座標に固定されてしまい、バルトゥラロメウスが解除しない限り何人たりとも内外に干渉することが出来なくなった。


 そして、この空間内では如何なる暴力行為で影響を受けなくなる。仮に暴力行為でなくても、身体的、精神的に変容がある場合も効果が及ばない。


 ちなみにだが、暴力を為した場合、痛みはあり、それによって『無気力』になるのはその場限りではない。


 バルトゥラロメウスはミトン状の分厚い手袋に器用にもナイフと縄を持ち、アハリートに向かい合う。


「今から、貴方を拘束します!」


《あー……えーっと……とりあえず、周りの音は外に漏れてない……? にしても、音、聞こえづらいなあ。仕方ないけど……はぁ》


 アハリートは深いため息をついて、バルトゥラロメウスと向き合う。すぅ、とアハリートが息を吸うように音を立てて――、


《アンゼルムの恋人は始祖の人狼で名前はアルテミスーーーーーーーーーーーーーー!!!》


「!!!???」


 突然の叫びにバルトゥラロメウスが思わずナイフを取り落としそうになってしまう。


「え?」


《だからアンゼルムの恋人の名前はアルテミス……》


「じゃなくて、なんでそんなこと突然叫ぶの!? ていうかなんで知ってるの!?」


《アンゼルムに教えて貰ったから。これ言えば、たぶん話を聞いてくれるだろうって……》


「な、なんで……?」


《なんか色々あって、結果的に私達が役に立つみたいな判断された感じ?》


「……………………やりそう……!」


 嘘だと言いたいバルトゥラロメウスだったが、そういうところが信頼のないアンゼルムだ。というか、アンゼルムの恋人の名前なんて知ってるのは、ごく一部だ。


 ダラーやブルートも知ってはいるだろうが、そもそもそんなことを二人が豚に教えることも逆に訊くこともないだろう。意図的に教えそうなのは……やっぱりアンゼルムだ。


 だとするならば、やっぱり信憑性が高く――ブルートもやっぱり向こうに味方しているということになる。ただ、ブルートに関しては悪感情故に敵に回ったかどうかで言えばそうではないだろう。


 ブルートを昔から知っているが、不真面目そうな雰囲気でありながらかなり真面目な男だ。それに研究熱心ではあるものの、倫理観がないわけではない。


 今でこそ獣人は『遊び』で造られたことになっているが、そもそも当初造られる予定だったのは人狼だけだ。それにアンゼルムらの本来の目的は人類強化計画の一環だったのだ。町単位で同意を得ており、つつがなく進行していたのをバルトゥラロメウスは知っている。


 後に獣人の技術が、悪辣な貴族達によって悪用されたのをプルクラが利用して、政界の浄化及び魔力量の多い人狼を増やし利用する名目で現在のような構図になった。


 まあ、その名目のせいでブルートが汚名を被ってしまい、落ちぶれてしまったのだが。ただ、安易に裏切る者ではないため、豚がアンゼルムに接触したのならば、送り出された可能性すらある。


 ――つまるところ、この豚はアンゼルムの協力を得ている、という結論に達するバルトゥラロメウスであった。


 その関係で、ハイマ含め他の吸血鬼達が殺されたり再起不能な状態に陥ることもないだろうとは思う。


 もっともそう簡単に信じられるものではないが……軽く話をしても大丈夫だろう、とは思えた。


「……何が目的?」


《『鳥籠』の中について教えて貰いたいの》


「…………どうして」


《入る予定だから。……方法はともかくとして『アスカを回収』することが出来るかもしれない》


「……!」


 その応えは予想だにしていなかった。だからこそ――思わずアハリートを睨んでしまう。


 そうしたいと願っても、千年間叶わなかった目的を――苦渋の思いで殺すという目的に変えざるを得なかった者からすれば、あまりにも馬鹿にした言葉だった。


 でも、頭ごなしに否定はしない。アンゼルムがもし、信用したのならそれに足る能力を有しているということなのだから。少なくとも魂に関する能力はあるらしいから、虚言と切って捨てるには尚早かもしれない。


「どうやって?」


《魂の情報を読み取って別の器に入れることが出来る。あのアスカ相手に出来るかどうかは分からないけど、可能性はわずかにあると思う》


「……それを信じられると思う?」


《信じられなければ別にそれでも良いけど。最低限の情報は訊いてるから。あくまで中に入って生き残った本人から聞けば何か別のことが分かると思っただけだし》


「…………」


 そう言われるとなんとも言えない気持ちになる。


 ということは、そのためだけに危険を冒してやってきたというのだろうか。いや、目的は他にあるのだろう。ルイスに横やりを入れられたくないから、時間稼ぎのためでもあるはず。


 こちらとしても、この豚を足止め出来るのは十分は成果ではあるはず。少なくとも本体が範囲内に入っているのは間違いないのだ。


 この結界内では全ての接続は断ち切られるため、たとえ『魂支配』であろうと操ることが出来なくなる。本体が結界内にいれば、操れるのだが、結局捕らえているということになるのだ。


 この後、この豚が何を――いや、本人も言っている以上、アスカの狂界内に入るのだろう。……そうすると、足止めするのは問題がある? 一応、放置していた方が良いのだろうか。ただ、デタラメを言っている可能性もあるし、時間稼ぎをする必要もあるのなら、下手に解放するとこちらの興味を引くために別の被害を出されるかもしれない。


 ……こちらとしては、陣形を整えて豚を無力化する方向で持っていくべきだろう。


 なので、バルトゥラロメウスは自然に背中に回した片手のハンドサインを用いて、結界外の味方に指示を出す。


 さて、そのための時間稼ぎをこちらもするとしよう。


「……特別に、話を聞かせてあげる」









 バルトゥラロメウスが嘘偽りなく、しばらく話をしていると、陣形が完成したとの連絡が仲間からあった。


 行動に移そうかと考えていると、仲間が慌てたように伝えてきた。


『トラサァン様が、負けた』


 これには焦ってしまう。幸い『命があり、心臓が一時的に止まっただけ』との報告を受けたので取り乱すことはなかった。


 ただ、トラサァンが負けてしまったのはバルトゥラロメウスにとって衝撃的な出来事だった。さすがに寝たままやられたわけではないだろう。そもそもトラサァンに勝つためには最低限、攻撃を本体に通す必要がある。そして、起こしてからが本番だ。


 つまり、ルイスはトラサァンを起こした上でさらにあの防御能力を突き破ったことになる。


(やっぱり僕が当たらないといけなかったんだ)


 ――今すぐ、目の前の豚を捕縛して、場合によってはルイスを狩りに行くべきだろうか。そこは司令部の指示に従うが――魔王の妹を止められる可能性を野放しにしておくべきではないため、最低限足止めする必要があるだろう。


 バルトゥラロメウスは、ハンドサインを送ってそろそろ『泥濘ノ幽囚』を解くことを仲間に伝える。司令部からも一度能力を解いて、場合によっては豚を拘束するように命令を受けた。


『泥濘ノ幽囚』の効果により、結界内ではなくともバルトゥラロメウスは死なないが、逆に相手を傷つけることは出来なくなっている。だから縋り付けば、最低限、動きを止めることが出来る。


 その間に自分事、豚を拘束してしまえば任務完了だ。


「……話は大体終わりかな。何か分かったことはあった?」


《それなりに。…………鳥籠から抜け出せたのも、あくまで不死身であっただけでオーケー?》


「うん。時間まで逃げ続けるように言っていた子が、アスカ様のエネルギー切れと同時に取り込まれたから、僕が外に出られたのは特殊だっただけみたい」


 いくつか実験を繰り返した結果、アスカに取り込まれてしまったら、たとえ『主役』であったとしても生き残るのは不可能に近いということが分かったのだ。だから侵入するのは、ほぼ死と同義である。


《……やっぱり外に出るためには倒さないといけないのかあ》


「たとえ入ったところで君達が生きてでてくることは出来ない」


《かもね。……でも、騙せるかもしれないし。死んだふりは得意だから》


 ……それはかなり説得力があった。短い報告ではあるものの、姿形のみならず魂の性質すら誤魔化して逃げていたらしいのだ。もしかしたら騙せるかもしれない。


「それでここも切り抜ける?」


《……その言い方だと、見逃す気は?》


「ないよ。……確かにアスカ様を救ってくれるなら嬉しいよ。……でも、ポッと出で話を聞いただけの子に何が分かるの? ……僕らの千年はそこまで軽くない」


 それに自分達から逃げられない程度では、どのみち生き残ることは出来ないだろう。


《……じゃあ、ここでネタばらしだ》


「……?」


 豚が胸元に手を当てて、自らの肉を掴んで引き裂いた。みちみちと肉が裂けていき――その中から……ハイマが現れた。


「え!? ハイマ!?」


 これには動揺を隠せない。これはどういうことだ。ハイマを纏っていた? 人質? だとするなら、無理矢理飛びついて、どうにかして引き剥がすべきか――? そもそもあれは本物? そんなことを考えていると、豚がため息をついた。


《あと一つ言っておくと、私の本体は……マスターはここにはいないよ。本体は結界内にはいない》


「それはあり得ない! だったら君はなんなの!?」


《自律型の特殊な個体って言えば良いかな? ここだと『魂支配』も断ち切られるかもしれないとは考えていたから、このハイマって人に私を入れておいたってわけ。ちなみにこの人は『魂支配』してるから、下手に手を出さないで欲しいかも》


「――本物のハイマ――? それに『魂支配』も……? でも、『魂支配』は可能性として考えられていたけど、あり得ない! あれは強い力だけど、相手を支配するのにはたとえ相手が無抵抗でも時間がかかるんだ!」


 それはすでにいくつかの実験結果によって判明している。そしてハイマが囚われた後の経過時間からして、『魂支配』は出来ていないとしていた。


 ただ、かけられたのは繋がりから分かっていたらしく、もしもに備えて(繋がりによって他の者に何かしらの影響を受けることを考慮して)ハイマの繋がりは全て断ち切られていた。だからその後、何をされたかは分かってはいなかった。


《色々と『抜け道』が分かってね、私のマスターはそれを使った感じ。まあ、万能ではないけど。かなり脆弱性が高くなった諸刃の剣だから倒した相手じゃないと危険なんだよね》


「――――っ」


 どうする。どうするべきか。あのハイマが実は偽物で、本物がダラーに連れられているか他に隠されているなら、みすみす逃がすには悪手だ。


 でも、だからと言ってここで延々と捉え続けているのも駄目な気がする。


 嘘か真か、判断材料があれば良いのだが――生憎と、そんなものはない。


《好きなだけ考えて。ただ、こっちに攻撃しないことはおすすめする。この人を傷つけるだけだから》


「……うぅ――!」


 バルトゥラロメウスは拳を握りなら、呻き声を上げることしか出来なかった。

次回更新は10月2日23時の予定です。

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