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転生したら、アンデッド!  作者: 三ノ神龍司
第三幕 終わらぬ物語の行方
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第三十三章 化け物と化け物

 ルイスは攻めあぐねていた。


 本来なら、特攻を仕掛けて強力な一撃を加えて終わり、という戦い方を常としている。継戦が困難な能力であるためと、単純にそうやった方が簡単に片が付くからだ。


 それに多少、無茶をしたところで能力で回復出来るため、突っ込んだ方が勝率が高い。


 しかし、トラサァン相手ではそうはいかない。先ほどの広範囲に渡る攻撃――そして本人の防御力からして仕留めきれず致命的なカウンターを食らう恐れがあった。


 さらに今は、何らかの強化を自身に施したのだ。恐らくは能力の強化だろうが、どんな能力が強化されているかは未知数。……心臓に何らかの負荷をかけて、血、身体能力などの強化を施しているのか。その上がり幅はどれほどか。


 ルイスと言えど、それを知らねば勝てない。


 短期決戦が望ましいが、安易に攻めては負ける。――ただ、トラサァンの言い草からして、あの強化は大きな負荷がかかっているはず。ならば、向こうも時間がないはずで、先行を取るのは――、


「行くぜ」


 トラサァンからだ。


 ――グッと力を込めたのを見たと同時に、針状の血が全身に浮き上がり、弾ける。


「――っ!」


 ルイスは、瞬時に遮蔽となる木の陰に飛び込み、その血の針を避けた。――貫いてくる効果は幸いにしてなかった。だが、血の針には細い糸がついている。ミシミシと周りの木々が軋む音を立てた。


 木陰の外は蜘蛛の糸のような強靱な血の糸が張り巡らされている。


 ルイスは剣を抜いて、動体視力と腕力を極限まで強化。刃を滑らせ――斬るのではなく、通すように切り裂き、駆け抜けていく。


 血の糸は硬いが、その細さ故か、若干ながら鋼より柔らかい。そのため、『上手いこと』剣を扱えれば、斬ることが出来た。


(一応、俺ぁは剣豪だしな)


 ――と、高速で駆け巡りながら血の糸を切り裂いていると、トラサァンが回転を始めた。めりめりと木が張り裂ける音、根が土から引き抜かれ、大地が裏返っていく。


 トラサァンを中心に、木の竜巻が吹き荒れた。


 ルイスは歯を食いしばり、その暴風林の『抜け道』をしっかりと見定めて、跳ね回るようにして、トラサァンに向かって詰めていく。


 十数メートルまで近づいた刹那、ルイスはトラサァンと確かに目が合った。同時に、ルイスに向かって巨大な血の銛が形成され、射出される。


 明らかに勢いが先ほどよりも数倍、増している。


 それでも速度に至っては、まだルイスに分があり、ギリギリで避けることが出来た。


 だが、血の銛の柄とも言える部分が――ルイスの真横をまさに通っているそれが――蠢き、無数の針を生やしていたのだ。


 トラサァンの攻撃で厄介なのは、トラサァン自身と繋がっている攻撃に対して直接攻撃を受ける――貫かれたりすると、能力で打開が難しいということ。仮に能力を発動しても、レジストされて体内に入り込んだ血の槍を抜くことが難しいのだ。つまり、刺されたら死ぬ。


 出来うるなら、とにかく避けることが望ましい。しかし、トラサァンも自身が優位に立てる術を当たり前だが理解していて、広範囲に渡る攻撃を行い、避け続けることを難しくしてくる。


 そして、現在、避ける術がなく、ほぼ詰んでいた。


 無数に生える針が凄まじい速度で迫ってきて、ルイスを串刺しにする。最低限、頭と心臓を守っていたが、他は全身を貫いていた。


(強化は、使えねえが――胃は……よし、いけんな)


 ルイスは吐くために胃を動かす。すると、胃に入っていて、溶けていたトラサァンの血が吸い込まれていく。


「は?」


 これにはトラサァンも動きを止めてしまう。


 ずごごご、と胃から血を吸い上げ、しかし口にはせり上げず、即座に『消化』して体内に取り込んでいく。


 すでに発動していた『餓虎ノ狂宴』により、肉体は急速に回復していく。


 そのまま血は吸い込まれて、全身を刺し貫いていた針状の血も細っていくほど、吸われていく。


「俺でもレジスト出来ないって……お前の胃、やばいな!? てか、なんで吸える!?」


「悪食なもんでね」


 血の針を剣や金棒で破壊して、そのままさらに血を吸い上げようとするが、さすがにトラサァンも引いてきた。全ての血を自身に戻していく。


 トラサァンが頭を振る。


「……ほんと、王種との戦いは何が起こるか分からないな。参るぜ」


「それはこっちの台詞だ。……時間ないからこっちからも行かせてもらうぜ」


 ルイスが構えると同時に、肌が白くなり牙が伸び――そして、心臓の鼓動が響くほどになり始める。


「……能力のコピー。……だが、そいつをまともに扱うには大量の血が必要だぜ」


「元よりまともに扱うつもりはねえよ」


 確かに全身を巡る血は、かなりの速さで消費されていく。全能感があるのに、衰えが同時にやってきて、続けていくのは不味いと分かる。だが、幸いにしていこの力は魔力を消費しないタイプのようだ。


 食いだめでもある程度対応出来るほか、血を取り込んだおかげで『戦神ノ加護』を併用しても十秒は無理が出来る。


 勝負は一瞬で決まる。――決めねばならない。


 ルイスは金棒を構え、全力で突撃する。これしか出来ない。ただ素早く詰め寄り、力の限り殴打する、もっとも単純な最適解なのだ。


 だが、ただ殴るだけでは有効打にならないのが、トラサァンだ。絶妙な防御力の高さから、『ただ殴るだけ』では時間が過ぎてしまうだろう。もしかしたら勝てるかもしれないが、かなりのギャンブルになる。


 それに生きて逃げるためには、余力を残しておかないといけない。


 だからそのために、無力化する方法を考えてはみた。しかし通用するかは不明。


 ルイスは爆速で、消えるように動き、トラサァンの真横につく。トラサァンは気付いているが、反応は出来ていない。頭に金棒を振り下ろし、粉砕するつもりで叩きつけた。


 だが、叩きつけた瞬間、血が弾けるように金棒を弾いてくる。


「――やっぱ自動防御かよ!」


 想定はしていた。これでダメージを軽減していたのだろう。しかし、先ほどよりより防御力が上がっていた。恐らく、心臓の鼓動を早めた結果だろう。血を射出する速度が上がっていたから、その兼ね合いで自動防御の『威力』的なものが強化されてしまったのだ。


 そして、血の射出は単純に攻撃や防御にだけ使うものではない。


 トラサァンの脚や背中から血が噴き出す。――推進力として使えるのだろう。


 トラサァンの鋭い血の槍が生えた腕がルイスの心臓を捉える。ルイスはなんとかそれを紙一重で避け、回転を加えながらトラサァンの胴体に金棒を叩きつける。


 血の反発を受けるが――無理矢理、力を込めて振り抜いてやる。


「ぐぉ!?」


 トラサァンの身体がくの字に曲がり、呻き声を上げる。無理矢理やればギリギリ攻撃は届く。ならば、さらに全力を尽くすべきだ。


 ルイスは極限まで身体能力の強化を施し、さらに今トラサァンがやった血の噴射を使い、推進力を得る。その状態で金棒を槍のように構えて突撃する。


 ――トラサァンは血の槍であえてルイスの心臓を狙ってきた。故に心臓は――無論、今まさに稼働している以上――攻撃を受けると不味いのだ。


 トラサァンは瞬時にルイスの狙いを見抜くも、回避行動を移す間もなく攻めてきたため、迎撃を取るほかなかった。


 金棒がトラサァンの胸に当たるが、血の鎧とその自動防御機能により、ほんの少しの隙が出来て両腕で金棒を捕らえることが出来た。


 だが、ルイスの力は強く、トラサァンでは押し返せなかった。そのまま身体は浮き、巨木にそのまま身体を叩きつけるはめになった。


「ぐ、ぅ――!」


 ――トラサァンは弾けない、が軌道を逸らすことは出来る。だからさらに火力を上げなければ、逃れられてしまう。


 これは千載一遇のチャンス。


 だからルイスは失血する覚悟で、血を噴出し――さらにダメ押しで衝撃を発生させるスキルを使って、心臓を狙い撃つ。運が良ければ、手が回らずにレジズとされないかもしれない。


 血の鎧に金棒がめり込み――衝撃波がレジストされずに、トラサァンの心臓に到達した。


 ――と、同時に金棒を無理矢理逸らされ、ルイスは止められずに、勢いに任せて転がってしまう。


 さすがに限界だったため、ルイスはあらゆる身体強化を解いて、立ち上がって振り返る。これ以上の戦闘は、全力でやったら一秒も持たないだろう。全力でやらなければそれなりに持つが、トラサァン相手では力不足だ。


 だから、決まってて欲しいのだが――、


 そう願いながらルイスは木の陰にいるトラサァンに注意を凝らす。


 するとトラサァンが、立ち上がり、木に寄りかかりながら姿を現す。ペッと血を吐き出す。――心臓の鼓動は止まっているが、吸血鬼は心臓が止まったら動けなくなるはず。だからまだ戦えるのだろうか。


 ルイスは、敗色濃厚だな、と思いつつもとりあえず形だけでも臨戦態勢を取る。


 トラサァンが手の平を向け、首を振ってきた。


「いや、降参だ。これ以上は無理だ。心臓、止まって戦えん」


「……。普通、吸血鬼って心臓止められたら行動不能になるんじゃねえの?」


「普通はな。俺は一応、動けるようにスキルも手に入れてるからな。ただそう簡単に動かせるわけでもないから全力で戦えない」


「…………そうか」


 だとするなら、大金星ではなかろうか。アハリートには出来れば殺さないでくれと頼まれていたし、どのくらい動けなくなるかは分からないが、追ってこさせないようにする、という条件も満たした。


 まあ、本当かどうか分からないが、正直ルイスとしても無理は出来ないため、退くことにした。


「じゃあ、俺は帰らせてもらう。腹減った」


「もし次、うちの国と戦うことになったら、どうにかしてバルを当てたいな、本当に」


「それは勘弁してくれや」


 それは餓死確実になる奴だ。そうでなくても、長時間拘束で無力化されての捕虜コースまっしぐらだ。


「つーか、お前とも戦いたくねえよ」


 何か違えば、負けていたのはこっちだったのだ。


 別にルイスは戦闘狂というわけではないため、強者とはやり合いたくない。強い相手とは一期一会で済ませたいものだ。


「俺もだよ」


 トラサァンもそう言っていた。だから二度と会うことはないだろう。


 ルイスはそう願いながら、ふらふらと覚束ない足で補給部隊と合流に向かうのであった。

次回更新は9月18日23時の予定です。

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