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転生したら、アンデッド!  作者: 三ノ神龍司
第三幕 終わらぬ物語の行方
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第三十一章 やることが多くない?

 俺は気絶しているハイマさんをオミクレーくん達と同様に触手を材料にラッピングしていた。殺す気はないよ? でもね、せっかくなんだ、人質にするんだよ! ぐへへ、卑怯だなんだと言われようと、殺し以外のことだったらなんだってやるぜ。


 伸縮性の触手に包まれたら力ではどうにも出来ない。まあ、ハイマさんは血で刃物とか造れるからあんまり意味ないんだけど。


《ルイス将軍、来たよ》


 俺がハイマさんをラッピングし終えると、後ろからガサガサと音がして、ルイス将軍がやってきた。鎧とか来てなくて、かなりの軽装備。ただ、武器はそうでもない。布が巻かれた金属製の棍棒を背負っていた。腰には剣を差しているけど……どっちがメインでどっちがサブだろう。


 ルイス将軍は、鼻を押さえて俺に近づいてきた。


「すげえ臭いすんな、ここ」


《毒撒き散らしたんで。俺、この人倒しました。軍の偉い人です》


「おお、すげえな。しかも殺してねえのか。……いや、お前はその方が良いのか?」


《殺傷力低い力が多いし、まあ、生かしておいた方が俺の能力的に良いですからね。とりあえず人質に使います》


「そっちは任せる。で、俺ぁどうすりゃいい?」


 俺はルイス将軍に持って貰っていたラフレシアを受け取り、魂内に収めておく。


《向こうで四天王の一人と戦っている人がいるので、その人と交代してください。俺は、……その人にハイマさん……この吸血鬼の人を運んでもらって、バルトゥラロメウスを攪乱(かくらん)してもらおうかと考えてます。その間に補給して、バルトゥラロメウスとかち合おうかな、と》


「そうかい。ところでアンサムからは、出来れば魔王の妹を止めて欲しいとは言われてんだけどよ。なんか誘導してる奴がいるから、お前にそいつを捜索してもらいてえみてえだぜ」


《そっちは……ルイス将軍が、四天王トラサァンに勝ってもらって、かつ俺がバルトゥラロメウスと話し合いを終えないと無理っすね。今、仲間がその妹の子供を連れてるんで、それでどうにかならないですかね》


「フーフシャーだろ? 道中で一応、会ったけどよ、どうにもチビ共の具合が良くないらしいんで、あんまり無茶して進めねえようだぜ。それに妹の方はかなり興奮してるから、一回どうにかして落ち着かせねえと駄目だとよ」


 リディアがいるからリディアで……とか思ったけど、俺の魂内がすごい震えた。ああ、うん、分かったって。魔王の妹とかち合わせるとリディアが大怪我負うか死ぬ可能性があるんだよな。だから俺が出張る必要があると。


 ……面倒臭いけど、これ放置してリディアになんかあったら、ミチサキ・ルカを解放しても反逆されるかもしれないんだよな。


 うーん、チャート見直す?


 バルトゥラロメウスは今、こっちに向かってきてんだよな。つまり本来、大群で向かって捕捉して貰う必要があったけど、今はそれは必須ではない。だからこのまま補給せずに向かえば良いのか?


 んでもって、話し合い&ルイス将軍が戦う時間稼ぎをする、と。


 えーっと、そうするとダラーさんが浮くから、……フーフシャーさんの護衛? いや、一応、ドクターがいるから必要がないな。


 なんかアスカを戦場に落とされて、人狼の国が滅ぶかもしれないらしいから、アスカのところにダラーさんを向かわせて阻止してもらう?


 その方が良いかもね。


 話し合い&ルイス将軍の戦いが終わったら、俺は……一旦、ああ、そうだ、どっちにしろリディアに一回会いに行ってアンゼルムにもらった魔道具に魔力を入れてもらわないといけないんだ。


 だからどっちにしろ……人狼の国に行って、魔王の妹を止めないといけない。


 リディアが生きてること必須になったんだな。


 んでリディアを助ける&魔力を込めたらアスカのところに行って、狂界内に侵入と。あっ。駄目だ。魔道具に魔力を留めておける時間が三分だけだから、リディアについてきてもらわないといけない。……だとすると怪我を負われちゃうと駄目か。出来うる限り……出来るならこのまま向かうべきなんだよなあ。でもそうするとバルトゥラロメウスを誰が止めるのって話になるし、ダラーさんをそこで使ったら、アスカが転移される可能性があるわけだ。だから、今まで通りの方が良いまである。でもこの無駄が逆に悪い方に向かいそうで……。


 うーむ、割り振りが大変だ。


 一応、ラフレシアと相談してみると――、


《おおむね、そんな感じで良いんじゃない?》


 もしものために、ダラーさんに自分ラフレシアを預けることを検討するべきかも、と提案された。その方がいいかな。止められずアスカを人狼の国に落とされた場合、最低限リディアやフェリスとか知り合いは退避させられるかもしれんし。


 なーんか、立ち寄る場所が多いな。……どうにかならんもんか、と色々と考えてたら良いこと思いついた。ちょっと賭けになるけど、必要行程を省いて短縮出来る。


 ただ、失敗するとルイス将軍に迷惑がかかるので、俺の計画を話しておく。


「いいんじゃね? そんときゃ、大声で失敗したって言ってくれや。全力で逃げるからよ」


《じゃ、そんな感じでよろしくです》


 ということで、俺は準備を開始して、ルイス将軍はトラサァンと戦いに行った。どっちも死なないように祈りながら。









 トラサァンの高速で振り下ろされる巨大な腕が、地面に激突すると爆音と共に地面が爆散する。その(つぶて)だけで、並の存在は砕け散ってしまうだろう。


 幸いにして、ダラーはそんな強力無比な一撃を避けきっていた。だが、ほぼ紙一重で、だが。


 ダラーはずいぶん長い間やって来なかった血の全身鎧を纏っていた。ハイマに比べると装甲は薄いが、手や足などの強化に特化しており、最低限の防御と最速の機動を誇っていた。


 この状態であれば、トラサァンの攻撃を躱すことが出来るようになる。


 しかし、躱すだけだ。ダラーの攻撃は通らない。血の手甲があれば、並の吸血鬼なら血の鎧や腕を防御として噛ませたところで、振動を伝えてダメージを与えることが出来る。ハイマにも、それなりな有効打となり得るだろう。レーあたりだと逆に殺してしまうかもしれない程度には威力が上がる。


 だが、トラサァンの装甲は分厚すぎるのだ。攻撃を当てたとしても、意味がない。


 しかもダラーが速いと言ってもトラサァンが遅いわけではない。血の鎧は身体能力を補助する機能もあり、トラサァンのそれは巨体ながらもダラーの目に見えぬほどの素早さの一段階下がる程度の素早さがあるのだ。


 それもダラーはほぼ全力なのに対して、トラサァンは通常時でそれだ。


 勝ち目のない戦いで、本来なら瞬殺されるかもしれなかった。だが、ハイマかトラサァン本人の意思か分からないが殺さないように手加減してくれているようなのだ。


 どのみちこのまま戦闘を継続していけば、力を使い果たすのはダラーなのだから、手加減をしていても手抜きではない。


 ――負けて連れ戻されても、牢にしばらく入れられるだけで酷い扱いは受けないかもしれない。


 だが、甘んじて負けを受け入れるつもりはなかった。


 ここでトラサァンを通したら、アハリートが殺されてしまうかもしれない。


 それは絶対にあってはならない。助けると誓った――それ以前に、あれはダラーにとって希望になりうる存在かもしれなかった。


 アハリートに協力しようとしたのは、何もお人好しだからではない。と、言っても騙すつもりもなく、隠している目的を言わないのは単純に図々しいのでは、と思ったのだ。


 何故ならダラーの『願い』はアスカの内部に入るのと同等に危険な行為になるかもしれない。だから最低限、こちらの要求を口にするためには……命を賭けて誠意を見せないといけない。


(――って言ってもこのままじゃ、ちょっときついかもな)


 援軍が来るらしいが、出来れば早く来てほしいものだ――とそんなことを思っていたら、何か近くから強力な魔力の反応――それも大気中の魔力が動いていないことから内在魔力を使用した何かしらのスキルを使ったものを感知した。


 瞬間、ダラーの目の前にいたトラサァンが、激しい轟音と共に吹っ飛んだのだ。


「は?」


 感知には反応していたが、何が起こったかダラーの目に捉えきれなかった。


 今までトラサァンがいた場所には、一人の男が立っている。馬鹿でかい金属製の棍棒を片手に、トラサァンが吹っ飛んでいた方を見ていた。ちなみにもう一方の肩には、アハリートのものと思しき触手で造られた皮袋があった。中には魂の気配があって……それはハイマのものと酷似していた。


「全力で殴ったつもりなんだがな。血の鎧っての、厄介すぎね? ダメージ通った気がしねえんだが」


 眉をひそめながら、男――ルイスが言う。


「あんたは……」


「お前がダラーか? 援軍だ。それとこれ持ってけや」


 そう言って皮袋と……持ち手のような皮袋がついた小さなラッパを投げて寄越された。


「これは?」


「人質っぽいものとラッパだそうだ。なんかそれ鳴らしながら、バルトゥラロメウスに見つかりながら捕まらないようにぬけて、『鳥籠の魔神』んとこに行って欲しいんだとよ。そこについたら魔神が人狼の国に飛ばされないようにしててくれって」


「……大体分かったが……このラッパを鳴らすのは、何故?」


「ラッパについては知らね。なんか企んでるみてえだぜ。知らない方が下手に演技するより良いみたいなこと言ってたな。まっ、他のこと知りたきゃ教えられるが……時間あるか?」


「たぶんない」


 とりあえず皮袋を肩に担ぎ、ラッパを片手に持っておく。視線はトラサァンの方に向けられていた。何本か木をへし折ったらしく、葉擦れと轟音が立ち続けに響き渡っていた。


 トラサァンの血の鎧は、丸い血の塊になっていた。一番防御に適した形に瞬時に変わったのだろう。――ダラーが攻撃した時は大した変化がなかったことから、ルイスの攻撃は如何に強力なもので格が違うことが知れた。


 ダラーは援軍に対して、期待はしていなかったが、あれを見て十分過ぎるほどの人材が寄越されたことを知る。


「あんた名前は?」


「ルイスだ」


「……結構前から引きこもってた俺でも知ってる名だ」


「そりゃ光栄」


 ルイスがおどけるように肩をすくめる。


 外から戻ってきた仲間から、人間側に化け物が現れたと聞かされた。なんでも魂を食らう悪食で、王種に至り、なおもレベルを上げ続けていると。


 半信半疑だったが、納得の『化け物』だ。


 ……トラサァンを倒せるかもしれない。それに、今の攻撃で恐らく――、


「……もしかしたら、『起こした』かもな」


「あ? 誰を?」


「今の人だよ。……ずっと寝てたんだよ、あの人」


「マジか」


 ルイスが驚いた顔をして、血の塊に目を向ける。


「い、てて……」


 と、血の塊が突如として何かに吸い込まれるかのように消えていき――そこに一人の男が現れた。青白い肌の頭髪が腰まで伸びた、二メートルほどの筋肉質の半裸の大男だ。


 その大男がふらつきながら、頭をさすっている。


「最悪な目覚めだな、おい。いや、俺が自分で目覚ましの設定決めてたんだがよ」


 大男はため息をつき、振り返ってルイスとダラーを視界に収めた。


「…………」


 大男――トラサァンはルイスを見て、敵だと判断したのか軽く構えて、近くにいるダラーと彼が抱える皮袋――その魂を見て、眉をひそめて首を傾げた。


「どういう状況だ?」


 トラサァンが困った笑みを浮かべると、ダラーもつられて苦笑してしまう。


「えーっとすみません。ちょっと俺、反逆しまして……」


「……あー……………………。そうか……。……『サン』、絡みでか?」


「……はい。始祖様を『倒せて』、もしかしたらあいつを救えるかもしれない能力を持つ奴がいたんです」


「……そうか。……まあ、うん、ただ、俺は一応、止める。全力でやる。……俺もプルクラには、しっかりと義を果たさねえといけないからな。こうなったら、逃げるつもりはねえんだ」


「……分かってます」


 自他共に奇妙に見える会話を繰り広げる二人だ。


 ダラーはルイスに顔を向ける。


「ルイス……将軍? 頼んでも良いか?」


「それが俺の役割だからな。お前もしっかりやれよ。……そうそう、アドバイスだがもしそのサンだがいうやつが女だったら、……あれだ、後悔はすんなよ」


「余計なお世話だ」


 ダラーが鼻で笑うと、同じくルイスも笑う。


「かもな」


 それを最後にダラーは、走り去って行く。トラサァンはそれを見送り、姿が見えなくなってからルイスへと目を移す。


「やるか?」


「だな。決着は早い方が良い」


 二体の王種の戦いが始まる。

次回更新は9月11日23時の予定です。早めに投稿するかもしれません。その場合は8月29日23時辺りにします。

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