第二十七章 これは、ある意味でドナドナかもしれない
豚とやもりと吸血鬼×2。それと魔族の子供五人に、子供の吸血鬼×2。さて、この集団はなんと呼称しよう。託児所か、……サーカス……ブレーメンの音楽隊は良い感じだけど動物が揃ってないんだよな。
まあ、そこはもっと暇になった時、考えよう。
えーっと、この後の予定は……補給部隊と合流して、食料を摂取後、増えて北に向かう。んでもって、バルトゥラロメウスと接触出来れば御の字。しばらくうろついて会えなければ、人狼の国に向かって、リディアにアスカの狂界へと入るための魔道具に魔力を注入してもらおう。んで、そのままアスカの元へゴーをする。
完璧なプランだな。……不可能じゃないよね? 誰かにこの作戦話して、褒められたと思ったら、「不可能っていう点に目をつぶればよぉ~~」、とか言われないよね?
目下、この作戦が失敗に終わる可能性としては、トラサァンが追いかけてきて殺されること。このメンツじゃ、俺かダラーさんが相手しないとヤバいみたいだし。ハイマさんも確実に来るそうだし、……さすがに本気出さないと死ぬかもしれないなら殺害もやむを得ないかなあ。こればっかりは仕方ない。
一応、いくつか対処はしたんだ。なんかこそこそ俺らについてきた奴がいたから、ボコって無力化した。
そいつはたぶん、俺らの位置を把握する『観測手』らしい。なんでも軍の施設にはこの森の各所に転移出来る装置があるっぽくて、俺らを正確に捕捉してちょうど良い位置にトラサァンとかを転移させるための存在じゃないかって言われてた。
他の『観測手』は俺の『感知』には引っかからないからたぶんもういないとは思うけど。
で、今はダラーさんを先頭に色々と迂回しながら進んでる。軍の転移ポイントを避けつつ、先回りされないように移動しているようだ。
うーん、ダラーさんが味方でいてくれてよかったよ。
もしダラーさんがいなくて、俺とフーフシャーさんだけだったら、死んでたかもしれん。
そういうちょっとしたボタンの掛け違いでガラッと現状が変わるのは、恐ろしくなるよね。
これなら無事に森を抜けて、外に行けそうだ。
「あ?」
俺がそんな立派なフラグを心の中で立てた瞬間、ドクターが小さな声を漏らして、バッと視線をとある方に向けた。
ちなみに今のドクター全身が余すことなく白いです。なんか言うには血液中にある白い血が光を通さないらしいんだってさ。だからそれを増量させて纏えば、通常の血の鎧よりも安全に光を遮ることが出来るらしいよ。
そんな白くて下手すりゃどっち向いてるか定かではないけど、俺の耳が良くて声が聞こえて、クルッと頭が動いたからすぐに気付けた。
(どうしました?)
「……転移の反応と……この魔力反応――おい、待て、これは――ダラー! 『雲集錨』くるぞ!」
『雲集錨』? なんじゃいそりゃあ、と俺は先頭のフーフシャーさんと顔を見合わせてしまう。と、ダラーさんが叫ぶ。
「血の鎖に触れたら、引き寄せられるぞ! もし捕まっても、絶対に『抵抗』しちゃ駄目だ! 一瞬でレジストされる!」
なんじゃいそりゃあ、二回目だ。だが、俺のその疑問もすぐさま、解消される羽目になる。何かが複数空を切る音が聞こえ、そちらに目を向ける。そんで赤い何かが見えたところで、ようやく俺の『魔力感知』に反応した。
……なんか四角錐みたいな尖った先端が、すごい速さでかつ血を這うように草木を避けながら俺らに向かってくる。
その四角錐には鎖がついていて、ずーっと奥まで伸びていた。
……その方向に耳を向けると、すげえ遠くになんかデカい存在を確認――トラサァンか?
その『雲集錨』なるものは、四本、俺らと同数迫ってくる。どうにもあの錨は俺らの位置を正確に把握出来るようで、寸分狂わず一人一人狙ってきていた。
《ダラーさん! これトラサァン!?》
「そうだ!」
《受けます!》
俺は触手を伸ばして、フーフシャーさんを狙っていた錨にわざと触れる。すると錨の先端が俺へ着くと、ぐあっと広がり絡みついてくる。そんで本来俺に向かってきたのも、俺の身体に絡みつき――抗えないほど強い力で引き寄せられる。
ダラーさんの方を見ると、あっちもドクターに向かっていた錨を受け止めていた。
「予定通り、時間を稼ぐ! その間に森を抜けてくれ!」
ダラーさんがそう叫ぶと、同じくグイッと引き寄せられ、俺と二人して森の奥に引きずられていくことになる。
あっ、オミクレーくんとウーくんは人質として有用なドクターとフーフシャーさん組に預けるために切り離しておいた。あとは好きに使ってください。
――さて、気張るか。
俺は森の中を強制的に疾駆させられていた。豚が高速で森の中を脚一本動かさず引きずられていく様は、なんともシュールに見えることだろう。ここが荒野で地面が乾いてたら土煙も上がって、かなり面白いことになっただろうなあ、と想像する。
……この錨、魔力はあれど魂は繋がってないな。……トラサァンに関することは一応、この引きずられている最中にも聞いたんだけど、俺とかなり相性が悪いらしい。少なくとも常に全身に血の鎧を纏っている上に、その血の鎧に全く魂が繋がっていないから、そこから攻略は無理。
魔法を飛ばそうものなら、ちょっと触れただけでもレジストしてくるという脅威の抵抗力の持ち主らしい。いわゆる魔法使い泣かせだな。リディアに対抗出来るもしれないらしい。タイタンがジルドレイと嫌々ながらも裏で同盟を結ぼうとしてたのも、トラサァンを味方につけてリディアを倒したかったっていうのもあるのかもね。
《マスター。『補給部隊』と合流したよ》
(援護頼めたりする?)
そう俺がラフレシアに尋ねると――向こうで質問してるのか、少し間が空く。
《構わないけど、食料半分消費させろ、だって。あと交替したら、絶対にバルトゥラロメウスを近づけさせないように、だってさ》
(……もしかして助けてくれるのルイス将軍?)
《うん》
それは色々と期待が持てそうだ。時間稼ぎ、頑張んないとな。あと、仮に交替したらすぐに補給して爆速で数増やして、北向かって死ぬ気でバルトゥラロメウスを見つけんと。見逃したら不味い。
《それと不味い情報一つ》
(なんじゃい)
《魔王の妹が人狼の国にめがけて突撃を開始したらしいよ》
――その情報を受けた途端、俺の魂内部で『激しい警告』が鳴る。あれだ、ミチサキ・ルカだ。どうやらヤバいらしいね。ただ、この雰囲気は……恐らくだけど、俺が危険とかではなく、リディアが危険かもしれんっていうあれだ。
まあ、魔王の妹って肉弾戦が得意な脳筋らしいし、いわゆるリディアが苦手とするタイプらしい。
それに殺しちゃ駄目だから、事故る可能性もあるらしいんだよね。もしかして以前のループでそういうのあったんかな?
(……どうしようね)
リディアの力は借りたいから、瀕死になられても困るんだけど。でも、まず補給して、北に向かってバルトゥラロメウスを止めなきゃならないし――止める時間は、ルイス将軍がトラサァンを倒すまで。……倒せるのかね。そこに疑問をもっちゃどうしようもないから考えないようにするけど。
《とりあえず、私達だけじゃどうにもならないからルイス将軍とリディアにとにかく頑張ってもらうしかないよね。――で、淫魔になるべく速く人狼の国に行ってもらわないとね》
(なんで妹さん、突撃したんだろう)
《……たぶん、その妹の子供さん達が連れ出されたからじゃない? たぶん吸血鬼側が対策を打ったんだと思う。このままだと、全方位敵だらけになるから、とにかく各方面をボロボロにする気なのかもね。……それと、最悪、アスカを人狼の国に『送る』かもしれない》
それ、いっちゃん最悪なパターンですやん。俺の重責、かなり増したんですけど。少なくとも、俺がアスカの『狂界』内部に入らないと大勢の人命が消える可能性があるわけだろ?
いやー、逃げ出したい。けどそうするとリディアとか死ぬかもしれないし、たぶんそれすると絶対、ミチサキ・ルカはこの世界をリセットするだろうし。そうじゃなくても、俺には協力してくれなくなるだろうな。
俺が進むためには、この件を綺麗に解決せにゃならない。
あー、もう嫌だなあ。そんでこれ終わったら、すぐに西の共和国に行って、ミアエルのこと助けないといかんし。……今すぐそっちに行きたくなっちゃったよ。
……いや駄目だな。弱気になるな! よし、もう、ほんとのほんとに頑張るぞい!
次回更新は8月7日23時の予定です。もしかしたら、早く投稿するかもしれません。




