第二十一章 同居人が割と特異な存在だった
もぐもぐ食べて、どんどん増えるー。
嗜好品食料庫って、思ってたより備蓄があったよ。乾物が主なものだけど。何気に需要があるみたいで、かなり溜め込まれていた。一トンは軽くあるんじゃなかろうか。
拡張された空間には、たくさんの乾燥されたお肉がぶら下がってた。
俺はそんなお肉をムシャムシャしながら、ポンポンと『分裂体』の豚達を生み出していた。
俺は食い物でふえーるー。でーもーお水ではーふえーないー。栄養がーないーからー。だからグレムリンは超すごーいー。
それにあの子らって深夜になんか食うと進化するしね。生物としてイカれてるよ。是非とも見習いたい。
今の俺はグレムリンっていうよりかは、グラボイズかなあ? それも第二形態。
豚さん達がどんどんと増えていく。まあ、さすがに魂はぶっ込めないけど、問題ないだろう。
不思議なことに魂がなくても、『スキル共有』は出来るみたいだけどね。魂があるのに対してさらーに弱くなる感じだけど。
それに俺の魔力が消費されてるわけじゃないみたいだから、まあお得ではある。
そもそもスキルを使う時って大抵、内在魔力を消費してる感じはしないんだよね。
そういえばそこが不思議でもある。時間もあるし、ちょっと気になったのでラフレシアに、かくかくしかじかぷるんちょと尋ねてみた。
《それは……前にスキルってなんか情報が詰めこまれてるーみたいな話をしたよね?》
(取り入れるとその情報で狂うし、なんか仮に他人のスキルを奪っても使えないことに関係してるんだっけ?)
《そう。本来スキルって長い時間をかけて、情報を魂に蓄積させてある種独立した一つの機構……なんていうかなあ、マスターが分かるように言うと『アプリ』みたいなものなんだよね》
なんか前に同じ感じの話聞いたような気がする。リディアになんか聞いたんだっけか?
《スキルって本当に独立したものでさ、魔力を蓄える機能も普通にあって、無理せず使う限りじゃ内在魔力を消費することって稀なんだよね》
なるほどー。すごい出力で使わないなら、内在魔力まで消費しないと。だから俺は気兼ねなく『侵蝕』とか乱発できるわけね。
……そういう機能があるからこそ得ることも難しいのか。だけど俺の場合は、たぶんスキルを構成するであろう魔力――それを蓄える魂のキャパがデカいから、簡単に得られるのだろう。
(『スキル共有』も相手側にそんなスキルの機能そのものを擬似的に与える感じなのかな? でも魂がないのに、なんでなんだろう)
《まあ、魂に関してはまだまだ分からないことがたくさんあるからね。というかあくまで魂はそういうスキルを蓄えたりする器なだけであって、特殊な力を使う際の全てではないしね》
(どういうこと? なんか例外とかあんの?)
《いるじゃん。マスターに宿ってるワームの子とか》
(ああ、そういやワームくんって魂ないのに、他人操れるし、身体ん中透過して移動してるね)
これまた灯台もと暗しだわ。特異な存在が間近にいましたわよ。
《たぶん私みたいに寄生した相手の魂を利用する能力を持ってるのかもね。……マスターが肉体と魂が切り離された時もその子は弾き出される様子もなかったし……場合によってはその状況下でもマスターが動ける手段にもなり得るかもね》
身体と魂が切り離された……あれか、ラフレシアの前の主人――ロミーに銃でぶち抜かれてた時な。なるほど、ワームくんを上手く活用すれば魔力の供給を絶たれた時に緊急脱出が出来るかもしれんのか。
ただ、そこら辺は完全にワームくんに頑張ってもらわないといけなくなるから、しっかりとしつけていかないと駄目だな。
ちなみにだけど、ワームくんは独自の意思はあるんだけど、かなり懐こいです。
普通に俺に懐いてきてくれるんだよ。なんでか分かんないけど。たまに体外に出てなでなでしてやるとすごい喜ぶ。そこをラフレシアに見られて、引かれたりしたこともあったけど、……まあ気にならんし今後もやめん。
少なくともそんなこんながあるから、ワームくんが俺を傷つけることはないと思う。
俺の顔面の皮膚を食い千切って貰おうとしたとき、かなり嫌がられたくらいだし(モンスターパニックでありそうな展開をやりたかった)。
(……ワームくんはチートとはまた違う……言うなれば、この世界の理を利用する……TASさん!?)
《そのタスさんっていうのよく分からないけど、そんな感じだと思うよ》
(今後、『アハリートは死にましたが、敵を倒したので問題ありません』とかやれるかな)
《それは本末転倒じゃない?》
(目的のために手段は問わない、それがTASさんなんだよ)
《タスさんこわっ》
俺が全てを悟った優しさ溢れる感じに言うと、ラフレシアが震え上がった。
最終的に無を取得したり、エンディングを引き寄せたり出来るようになると良いね。リアルで『エンディングだぞ、泣けよ』をやりたーい。
ワームくんには是非とも頑張ってもらいたいものだ。
食料を食い尽くして、たくさんの豚達が食料庫を占領している。
はあはあ、すごくいい、すごくいいよ……! モンスターの巣にされちゃった感がすごく出てる……! あぁ、贅沢を言うなら、何も知らない一般人がここに入ってきて、一斉にモンスターに見られるっていう場面をやりたいよ!
《……マスターキモイ》
どうもマスター=キモイです。普段息してないのに、息を荒げちゃうとキモく見えるようです。
(ワームくんをしっかり入れて、位置把握も完璧? 漏れはない?)
《大丈夫だと思うけど。確認するなら手早くね》
ノルマを素早く達成しつつ、不良がないようにする――うーむ、お仕事してるみたい。
異世界でもこんなスキルが必要になるとは……いや、この能力はどんな場面でも必要になる万能な力なのか?
こういう場合は効率も大事だから、普通に『遠隔操作』で動かせばいいか。
(みんなー、はい、一斉にくるんと回って)
豚達が蹄をかつかつさせながら、その場で回ってくれる。そして、回ってくれない奴を数体発見。位置把握は出来てるけど、『遠隔操作』がかかってない奴とそもそもレッサーワームくんが入ってないのがいた。
あれぇ? 『遠隔操作』がついてないのはともかくとして、レッサーワームくんが入ってないのはどういうこった。セットで造って入れたつもりなんだけどなあ。こういう凡ミスって普通にやらかすのなんでなんだろ。
今後もやらかすかもね。寄生虫ごと生成するなら、そういう心配もなく位置の確認を出来るんだけど。まあ、それも離れ過ぎたら意味がないんだけど。それはレッサーワームくん入りも同じだ。そして寄生虫を持つ奴らは俺の支配がなくなると独自に動いて寄生虫を周囲に感染させようとする。
だから中継役の魂持ち&ラフレシア入りが必要になってくるのだ。あと普通に魂持ちがいれば相手を攪乱することが出来るしね。
あーとー必要なのはー……一応、ドクターに連絡入れておくか。
(ドクタードクター、状況はどうですかー?)
(ちょうど今、魔族の子供がいるらしいとこに着いた。奴ら大慌てで、特に問題なくこれたぜ)
なんか悪い笑いしてそうな声色で言っていた。こういうの好きなのかしら、ドクターって。
(知らされてる奴が限定されてんだろうな。扉も隠されて――幸いなのは所長のとこみたいに別の空間に行く必要があるとかじゃないのが救いか。まあ、あれだと行ける奴が限定されるから、かなり面倒になるしな)
転移って繋げるのもそうだけど、その繋がった空間を通る時も色々と問題があるんだよね。なんか聞いた話だと、異空間って高濃度な魔力が満ちてて危険なんだって。自分ごと転移する場合だとかなり危険らしいね。門みたいに繋げた場合でもその境目がかなり高濃度な魔力の膜があるっぽい。あと、途中で門を閉じたら切断されちゃうらしいから、ちゃんと維持できる人じゃないと駄目みたいだよ。
(で、対面なわけだが……こりゃひでえな、檻に入れてんのかよ……)
ドクターの心の声におちゃらけた雰囲気がなくなった。
(衰弱して――)――「って待て待て、俺は一応、医者だ。だから安心してくれ。いや、まあ気持ちは分からないでもないが……。一刻も争うかもしれないから、診せて欲しいんだわ」
なんかフーフシャーさんと争ってる? ていうか、フーフシャーさんが若干ながら取り乱してるのか。子供達の現状がかなり悪いらしいし、仕方ないだろうけど。
「最低限の食事しかやってなかったみてえだな。ギリ、外まで耐えられるか? この檻と……手枷と足枷は、俺なら取れるな。 ――よし。……で、連れてく方法だが、このチビら、自分じゃ動けねえだろうから……おぉ?」
なんかドクターが驚いた。
「なんだその姿……子供を乗せて連れて歩く魔物? ……魂の性質まで変わってんな。フラクシッドみたいに偽装してるわけじゃねえみたいだな。すごいな、おい」
なんかドクターが感嘆してる。フーフシャーさんが変身したみたいだな。……どんな姿になったんだろ、気になるー。『五感共有』とか記憶を見て姿を確認することも出来るけど、まあ、今は良い。あとに取っておけば、頑張れる力になるし。
俺はドクターに問いかけてみる。
(じゃあ、俺ら、もうちょい派手に暴れた方が良い?)
(頼むわ。この人、ちょっと目立つようになったからもっと多くの目を引き寄せて貰えたら助かるかもな)
(らじゃー)
ということで、通信終わり。で、そんな折、ラフレシアが語りかけてくる。
《……マスター三階層にガスマスクみたいなのをつけた吸血鬼がやってきたよ。あとこっちにも全身防護服をつけたのも。……動きが今までのと明らかに違うから、もしかしたら軍かも》
(こっからが本番ってわけか。がんばろーか)




