第十八章 なんかそういうプレイみたいになった
※注意 ここから何章かほど、汚い話が続くかもしれません。
一階層、迷宮深部にて俺は豚になっていた。
あー、落ち着くなあ、この四足歩行。二足歩行と違って安定感のあるこの姿勢、もう転ぶことはないだろうというくらいドッシリと構えられる。
それに鈍足な俺であるけれども、四足歩行なら無理矢理力一杯進めば、それなりに速く移動出来るのだ。
肌の色は、迷彩を意識して茶色くしている。黒ではないよ。相手は基本的に暗闇に適応しているからね(『暗視』の見え方に依るんだけど。色に頼らない感じなら意味なさそう)。
身体は全体的にいつもよりデカくしている。そして、シルクハットみたいなかぶり物をして、ωみたいな口ひげを生やしていた。
いわゆる紳士っぽい見た目だな。全力でふざけた感を出して、相手をおちょくっているようなスタイルにしている。うんこ撒き散らす予定なのだ、とことん煽るような姿で行くぞ。
まあ、口ひげはともかく、シルクハットの方は骨で造っていて、ある程度防御力はあるのだが。もしもの時はこれで防ぐことも出来るだろう。カモフラージュとして薄く生地も張ってるから、初見では防具だとは思われないだろう。
んで、尻尾はいつものくるりんとしたものではなく、やや太く垂れ下がったような形になっている。これの説明は後でだな。
ああ、ダラーさんとドクターは農場に向かったよ。フーフシャーさんがまだ農場にいれば、ドクターと合流させて作戦決行する流れだ。いなかったら、俺が暴れ出した後にすこし探してもらって――それでも見つからなかったら地上に行く感じにしてもらった。
一応、ダラーさんにはラフレシアが入った小さな生き物を渡しておいた。ダラーさんにはすぐに外に出て貰って、俺が国外に脱出した時の手助けをしてもらう予定だ。
俺のテロ行為に関してはノータッチでいてもらう。護衛なんてされたら、『フラクシッド』が生きているとバレちゃうかもしれないしな。
それに今はまだダラーさんに関しては何の裁きも加えられてないけど(レーっていう人が見つからないか意識不明だから指揮系統が混乱してるんだと思う)、時間が経てば必ず『フラクシッド』に加担した責務を負わせられるからな。だったらその前に国外脱出して貰った方が良い。
そんでもって、ラフレシア入りの生物を放して貰って、アンサムに頼んでいた補給部隊と合流、もしくは人狼陣営へと行ってもらって情報伝達する(両方行えればベスト)。
ちなみにドクターの許可を貰って、『魂支配』させて貰ったよ。まあ、アンサムにやった時のように操る訳ではなく、繋がるためだ。
こうしておけば、ドクターが相手に捕まった時とかの、もしもの時の言い訳にもなるしね。ちゃんと再度合流した時に解く予定だ。
ラフレシアは俺とダラーさんへの二体生成して、『魂支配』をドクターに一つと他三つは各部隊リーダー格に定めた豚達に繋げている。
んで、造った豚達はラフレシアが『一人』で操る。さすがに俺には無理だ。同時多発的に複数の複雑な動きをさせるなんてな。俺自身の近くに配置したのに関しては無理ない限りは操るけども、――基本的にそこら辺は無数の同一体を操ってきたラフレシアに任せよう。
つっても、全部の豚と完全に繋がってる訳じゃないからかなり勝手が違うようで練習の時も四苦八苦してたけど。
俺は『分裂体』で肉体を造って、真っ新な魂を造ってぶち込んでる訳だけども、完全な同期をしているわけじゃないからな。
良い感じに操れる『魂支配』も枠に限りがあるし。
もうちょい分裂した肉体と同期する能力を磨くべきか。まあ、今更言っても仕方ないけれど。
さて、要所の確認は済んだし、最後の試運転でもしましょうか。
(ラフレシアー、見て見てー)
《ん?》
ラフレシアが豚の群れを頑張って操作している最中に声をかける。
(うんちー……ぶりぶりぶりぃ!)
俺はそれはもう元気よくうんちをしたね。俺のプリティなお尻から、ちょっと柔らかめの茶色い物体が、ぼとぼととと勢い良く落ちていく。
《もうやだぁこのますたぁ》
ラフレシアが泣いちゃったっ。かわいそー(他人事)。
(試運転は大事だよ? ラフレシアも、そいつらがちゃんと出せるか確かめるんだぞ。糞詰まりしてたら駄目だからなっ)
実際、うんちを出すの大事。特に本体である俺に関しては、寄生虫の心配があるからな。ちゃんとうんこが詰まった部分には寄生虫は入って来ないようにしていたから、うんちには一切の成虫、幼虫のみならず卵すら宿っていない。
ただ、戦闘中に不意の損傷を腹に受けると混じる危険性があるから、注意は怠ってはいけない。
《やだよぉ、やだよぉ――! ……マスター、これやっぱり止めにしない? なんかもうちょっと違うこと出来るでしょ》
(……淫毒使う? それか幻覚性のちょっと依存性のある薬とか)
《不殺のチョイスが極端しかないの、どういうことなの》
どういうことなんざましょね。
『薬毒』で色んな薬と毒を造り出せるようになったけども、下手に複雑なものにすると自己生産するのが難しくなっちゃうから。魔力で造ると、簡単に防がれてあまり効果が望めないしね。
(うんこ以外に催涙液とか軽い爆発性の物質詰めこんだのもいるし、上手く使って)
《そりゃ使うけどさ、メインがうんこって……》
でも、うんこ以外に効果的なのないんだよな。冗談はそんなに言ってない。
ジルドレイって結構、綺麗なんだ。たぶん地下でこもっているからこそ、そういう衛生には気を遣っているんだと思う。
あと、実はジルドレイって香水みたいな香りの文化ってないんだよね。消臭については、色々とやっているけど、上書きするような強い香りを扱っている様子はなかったんだ。
たぶん吸血鬼って嗅覚がそれなりに鋭くて、閉塞感がある場所だから、強い匂いってあんまりよろしくないんだろう。
だから、臭いで責めるのって間違いじゃないんだ。
これは交渉でも使えたりする。バルトゥラロメウスに会うときにうんこの臭いを上書き出来る香水とかを取引の道具にするつもりだった。
アンゼルムに協力してもらって、その必要はなくなったけども。四天王の間のみに分かる質問内容を手に入れたから。まあ、もしものために一応持っていくけども。
(ラフレシア、そいつらこっちにお尻向けて一列に並ばせて)
《……嫌な予感がする。無視したい……》
それでも素直にやってくるラフレシアちゃんだ。それなりに慣れてきたようで、十数体いる豚達は一斉に動き出し、訓練された軍隊並にザッザッと動く。……格好良いな。
ふーむ、壁に顔を向けて、尻を向ける豚の群れは、壮観だな。めっちゃ可愛い。動物のお尻って可愛くってめっちゃ好きなんよ。うーむ、いつまでも見ていられるし、暇があればかぶりつきたい。
しかし、今はそんな余裕はない。このリハーサルはさっさと終わらせて、他の準備に進まないといけない。本番に移るのは早いほどいい。
(はい、この豚は尻尾に特徴を持たせてます)
《……ちょっと太いよね》
全体の形は三角形で、下に行くほど細くなっている。そんで本来なら見えるお尻の穴がその尻尾によって完全に見えなくさせられていた。
これには動物のお尻が大好きな愛好家が台パンするのもやむなしだ。なに隠してんねん! ふざけんなや! 造形くらいしっかりせいや! と。だが待って欲しい。別に俺はお尻の穴を見せびらかすのが恥ずかしいとかそういう理由でこの尻尾を選んだのではない。
カバの尻尾、そう言えば分かる人はピンとくるだろう。
(カバの尻尾をモデルにしたんだけどね、見た目通り筋肉がしっかりしててさ、かなり自由に可動すんだよね。ちょっと尻尾の主導権借りるね)
尻尾を動かすだけなら俺でも出来る。伊達に複数の触手を操ってるわけではないのだ。
んで、全ての豚の尻尾を一斉に動かす。尻尾がくるんと丸まって、お尻の穴が丸見えになる。これだけではなく、割と自由度が高く、左右に振ることももちろん出来るのだ。
振ってみたよ。太さがあるから勢い良く振ると何気に風切り音がすごい。
《あっ、ちょっと可愛いかも》
(ふふっ、そうでしょー。……はい、じゃあ、うんこして)
《……私は、耳を、疑った》
あまりにも精神にクリティカルしたせいで、地の文みたいな言葉遣いになっちゃった。
(ほら、うんこして! うんこを今、するんだよ!)
《今、うんこしたら……したら……!》
ラフレシアが戦慄している。
びばばばば、と豚達の尻尾が左右に振れている。まあ、あれを見て、うんこしたらどうなるか想像出来ない奴はいないだろう。
(そう。これがカバさんスタイルだ。カバってマーキングのために尻尾でうんこを散らすんだよね)
前世ではそういう動画もあって、あれを見た時は、おー散ってるなーすごいなーと感心しながら視聴していたものだ。……なんでそんな動画見ていたかって? 動物癒やし系の動画を見ていたらおすすめに出てきて、思わず吸い寄せられたのだ。
《……まず尻尾止めて。そうしたら、頑張るから……! いきなりあれは難易度高すぎる……》
(何を腑抜けたことをっ! お前が悩んでいる間に仲間の命が失われるかもしれないんだぞ! うんこをすることで牽制出来る! 尻を向けながら、前進することで助かるかもしれないんだ!)
《それはもはや後進――! ううぅ、うぅ――ふぐう――!》
ラフレシアが精神の限界を迎えて嗚咽を漏らしちゃった。ツッコミすらままならない。
まあ、でもガチにうんこをしないと作戦として成立しないから、ラフレシアには頑張って貰わないと。これに関しては振り切れて貰わないと本当に困る。
《おぅ、ふぐぅ――うぁあ、あぅあ――!》
なまじ女の子な精神と人間的な常識があるせいで、マジで踏み出せないみたいだな。
この後にうんこを液状化して射撃したり、催涙効果や自爆能力のある豚の扱いも慣れなきゃいけないというのに。ついでに淫毒も使うかも。せっかく貰ったのに使わないの勿体ないし。
ちなみに基本的にどの豚のうんこにも催涙効果は少なからず含んでいる。さすがにただの滅茶苦茶臭いうんこ(誇張ではなくかなり臭くなるよう頑張った)だけでは、慣れられてしまうからな。鼻って簡単に馬鹿になるから。
だから多少刺激性とかの相手にとって『危険』を含ませておかないといけないのだ。ダメージのない攻撃ほど怖くないものはない。
どこまで危険性を増すか考え物だな。ガスマスクやら全身防護服をつけての対応がどのくらいの早さでやられるか。それによって毒性を増さないといけなくなるかも。……服だけ溶かす酸液があればなあ。フーフシャーさんにそういうのないか尋ねとくべきだった。
うーむ、特定の繊維だけを溶かすように……リディアになんか良い感じの化学ないか訊いてみようかなあ。そもそもエロいこと抜きに、相手を全裸にするのって『知的生物』には有効だし。
まあ、今の俺に出来るのは激臭と催涙しかない。
ダラーさんいわくレーっていう人がいない今なら、対策考案、編成に時間がかかるとは言っていたけれども。数時間は猶予はあると思って良いようだ。
ただ、対策されなくても途中で形振り構わず突っ込んできて殺されることも想定しないといけない。慣れとか、うんこをぶっかけられた被害者が発狂して突撃してくることだってあり得るのだ。
そう、うんこをするだけと侮ってはいけない。考えなきゃいけないことはたくさんあるのだ。だからさっさとリハーサルを終わらせないといけない。
(ほらやりな! お前がうんこすることで、ドクターやフーフシャーさん、魔族の子供が救われるんだよ!)
《うんこで救われた人の心境は如何なるものか! あぁあああああああああああああ!》
――ラフレシアが叫び声を上げると、……ついに、ついに、うんこをした。
豚たちが一斉にうんこをして、それが尻尾によって撒き散らされる。それはさながらカーテンもしくは壁のように豚達を守るかのように散っている。
これされて近寄りたいと思う奴いたら、相当頭イカレてると思う。
《ア、アハハ、しちゃった……私、うんこしちゃった……》
ラフレシアが豚達に意図的にうんこをさせて、放心しちゃってる。
うんこ漏らしの童貞捨てちゃったね。一度捨てれば、あれだ、いわゆる『はしか』みたいなものだ。一度乗り越えれば、もう普通にうんこ出来るようになる。そんな風に、と○ろ(弟)さんも似たようなこと言ってたし。それか、童貞うんぬんはビスケ○ト・オリバさんさんかな? ビルでクライマー突き落としてうんこも落としてやろうぜ!
なんであれこれで話を進められる。
(よーし次はうんちを応用した戦い方だっ)
《おふぅ……。くっ……! これほどっ――! マスターに反旗を翻したい思ったのは――初めてかもしれないっ!》
捕まえたばかりで敵対してた時よりも? だとしたらかなりやばいな。
(そうかぁ。じゃあ次行くぞ)
《無慈悲!》
だって不殺するならこうするしかないんだもん。誰も傷つけないことをパックくんが望んでいる――つまりこれはパックくんがやって欲しかったことなんだ!
《…………》
なんか頭の上から圧力を感じたけれど、無視です、無視。
次回更新は6月5日23時の予定です。




