第十六章 終わりなく続き、しかし変わりゆく
俺の前に立つプルクラの圧がすごい。なんか失敗したら即座に殺してきそうな、そんな気配をムンムンと感じる。
……こういう場面に何度も遭遇しているからかさ、最近俺は思うんだよ。人型になって人と会話すんの糞面倒臭えって。……今みたいな頭使って会話しなきゃいけない状況がとっても嫌。
あぁああ、早く豚になって飼料もしゃもしゃしたい。無造作に寝たい! 昔から人外になりたいって思ってたけどもそういう俗世から逃れたいっていう気持ちが、わずかながらあったんだ。
会話するなら脳死会話がしたい。喋るなっていうなら触手の塊になって地面でのたうち回りたい。
……俺は、アンゼルムに目を向ける。あいかわらず床で寝ている。
俺は、なんとなしに床に寝転がる。
「……いや、なにしてんのよ」
プルクラが突然床に横たわった俺を見下ろしながらきつい口調で言う。
なんすか!? 俺が床に寝ちゃ、駄目だって言うんすか!?
俺はバッとアンゼルムを見やると、優しい目をして頷いてくれた。聖人かよ。
俺はプルクラを訴えかけるように見上げる。
《ほら……》
「……馬鹿が増えると手に負えないんだけど」
革靴でぎゅむりと顔を踏まれてしまった。でも侯爵令嬢ちゃんと違って、ちょっと容赦ない。頭蓋骨がメキメキ言ってるんですが。
はい、まあ、ふざけるのも大概にしましょう。このまま欲望に身を任せたままだと、頭部がスプラッタになる。
《……はぁ。じゃあ、話しますか》
「ため息つきたいのはこっちなんだけど?」
そう言いつつも足をどけてくれた。
俺は渋々立ち上がる。
《それで現状なんですが……》
何話せば良いんだろうね。ていうか、俺がここに来た目的ってアンゼルムと会って……何するんだっけ? 勢いに任せてきたから特に何も考えてなかった。
てか、なし崩しにアスカの狂界への入り方と起動の仕方も手に入れたし。さっきサンくんが手の平大の球を持ってきてくれた。これに手を当てて魔力を込めれば良いらしい。ちなみに魔力を込めるのは一人限定だそうだ。二人以上魔力を込める機構にするとやっぱり魔力の消費ロスがデカくなってしまうらしく、一人限定にしているようだ。
……あれ? もう、普通に帰れば良くない? 俺、外に出れば良くない?
《……アスカの狂界内部がどうなってるかは?》
パックくんがこっそりと言ってくれる。
ああ、それあったよね。……でも、パックくんが教えてくれたら済む話なのでは? 大体においてそれが真理ではあるよね。もう俺、怖い人とか賢い人みたいな、なんか色々と優れた人と対峙するの面倒になってきたんですけど。
そう思ったらパックくん消えちゃった……。……ふーむ、誰にも味方出来ないっていうのも難儀なもんだ。
仕方ない訊くか。
《……アスカの内部ってどうなってるんですか?》
「……殺したい……」
いきなりプルクラがビキッた。
《うぇい!?》
なになにどうしたどうした!? 情緒不安定過ぎて怖いんだが! もうそりゃバ○キャラみたいに血管ビキビキよ。こわいよ!
俺が突然のプルクラの豹変に怯えていると、アンゼルムが口を開いた。
「『リーダーの中』って言葉が気に入らなかったんだと思う。プルクラはリーダーに対するセンシティブなの、基本駄目」
《面倒臭いな!?》
思わずラフレシアが声出しちゃったよ。これは取り直さなくては!
《すみません――えーっと、貴方のとこの始祖さんが造った狂界に入るにはどうしたらいいんですか?》
「…………ふー。…………なんでそんなこと教えなきゃいけないのよ」
感情が元にシフトしたけど――これはこれで取り付く島もなさそー。てか、そうよね。なんでそんなこと教えるのかって話だよね。うーん、こういう場合、どうすれば良いんだろう。
このすこしの間でラフレシアと相談しーましょ。
(こっちが何するか、何できるか言って良いのかな?)
《それ言っても今のプルクラは脅しにかかってくるんじゃない? 全部分捕れば良いっていうならそうするかもよ、プルクラは。交渉するなら、まず自分の立場を同等かそれ以上するかだね。少なくとも、向こうが今、分捕ったら損するようなものを提示しないと》
プルクラに対して……何もないや。アンゼルムはたぶん話を聞いてくれるかもね。……ふむ、そうだ。アンゼルムを味方につけよう。
《知りたいので。――ということで、俺の美味しいカードを一つオープン! 俺は『獣神フェリス』と友達です!》
「ほんとに!?」
おぉ、びっくり。アンゼルムが想像以上に食いついた。横たわっていたアンゼルムはぴょこんと立ち上がって、ぴょんと一回飛んで若干近づいてきた。
……改めて全体を見たけど……寝袋みたいな服だな、あれ。
《呼ばれてたことも聞いてました。実のところ、呼ばれてどうするか困ってたみたいです》
「呼ばれてって――ちょっとその話は聞いてないけど?」
プルクラはアンゼルムに振り返るけど、当人は目も耳もくれず、ふすふすと興奮している。
「僕、そこら辺の交渉とか苦手だからなあ。やっぱりそうだよね、普通に呼んでも来てくれないよね? うーん、どうしよ、どうしよ――彼女の『偽神化』を是非とも観たいんだよ」
《『偽神化』……そこら辺の詳しい話は知らないんですよね。元から持ってた系ですか?》
「そう、生まれながらにして、ね。人狼は元々僕の最上位スキルを『限定感染』によって遺伝させて、魔力の底上げをした種族なんだ。世代を超えるごとに魔力が上がるか、もしくは突然変異を起こすことでもしかしたら、偽神化に近い能力を手に入れられるかも、と思ってたけど――ついに現れたんだ。でも、彼女の能力は聞いた限りじゃ『世界』を創る力とはまた違っていて――、いやいや、違う、というのはそもそも間違いかもしれない。もしかしたら最上位スキルを低レベルで手に入れた状態と一緒の可能性もあるんだよね。まあ、なんであれそういうスキルを得て、発動出来たのは、実のところ成功例がなかったんだ。だからこれはすごいことなんだよ? リディアって知ってるよね? 彼女も一応、偽神化のスキルは持ってるらしいんだけど、合わなくて発動することは出来ていないんだ。やっぱり魔物であることか、何かしら別のファクターが考えられるけど――やっぱりまず彼女に会ってスキルをちゃんと観て確認することが大事だと思うんだよ!」
めっちゃ早口で話してくれました。さっきまで眠そうな目をしていたのに、もう目が爛々になって、かっ開いてる。
《どうしましょうね。現状、連れてくるのは無理じゃないですか? この戦争が良い感じに終わりさえすれば――》
ん? なんか頭部が変な感じ。
そんでその一瞬で、視界と聴覚がぶっ飛んだ。……あー、これ頭吹っ飛んだな。幸い脳味噌は体内に入れてるから大丈夫だけど――。……今の変な感じ、魂とか『魔力感知』とは違った感覚だった。……だとすると『死線感知』かな? 脳は元から身体にあったから、単に『俺が死ぬ』って条件じゃなさそう。死ぬかも知れない攻撃に関する予知か。でもそれだと他の攻撃に反応しそうだけど。それとも相手側のなんかを感知したか。まあ、今は良いや。
(ラフレシア、死んだふりで)
《了解》
魂を抜けた感じにしつつ、ばったーんとうつ伏せに倒れ込む。んでこっそりと背中に耳をにょきっと生やしておく。
「――プルクラ!?」
アンゼルムが驚いたような声を上げて、倒れ伏している俺に慌てて駆け寄ってきた。
ふむ? やっぱりプルクラがやったのか。……戦争を止める、が失言だったか。それと普通にアンゼルムを懐柔しようとしたのが間違いだった感じかな。
たぶんしばらく暇になるから、ラフレシアに話しかける。
(やっぱり交渉は難しかったのかね)
《だろうね。たぶんアスカに関することを言っても、怒るだけだと思うよ。仮にこっちの案が良かったとしてももう結構、やり過ぎちゃってるっぽいし、退けない位置にいるんじゃない?》
末期みたいな感じか。最善はプルクラをここから追い出すことだったかな?
ぼーっと考えていると続いて、アンゼルムの慌てた声が聞こえてくる。
「死ん……じゃってる? 魂、抜けてる――何するんだよ、プルクラ!」
「何って当たり前じゃない。あんた、あのまま放っておいたらこいつの味方するでしょ」
「当たり前じゃん!? この子が『獣神』と橋渡ししてくれるかもしれなかったんだよ!?」
その真っ直ぐ過ぎる答えに、プルクラが特大のため息をついた。
「あんたに敵になられると困るんだけど。こっちに刃向かうことはないだろうけど、さすがに出て行かれるのは困るから。……その獣神って奴について、考えてあげるから出てくのだけはやめて」
「…………。でも、その手段って誘拐とかでしょ。嫌だよ、今の今まで君の要望には応えたけど、僕は人狼を今みたいに扱うのは正直反対なんだから」
「……。……扱いを変えるのは難しいわ。……ところでその獣神が……仮にここにいて、『偽神化』について解明出来れば、魔神についても何か分かるの?」
「どうなるかは分からないよ。『世界』の構築について分かるかも知れないけど、絶対とは言い切れないし今回はデータが手に入るだけかもしれないし」
「一つ進むのにまた何百年もかけなきゃいけないわけ?」
「そうだよ。……まだ続けるしかないんだ。今度からはリーダーに対してのアクセスも変えるべきだよ。今まではバル以外のデータがなさすぎる。……『あの子』が戻って来れなかったら、強さは関係ないかもしれないんだ」
「……また振り出しってわけ?」
プルクラが疲れたような笑い声を上げる。そんな不安定なプルクラを見て、アンゼルムが心配そうな顔をした。
「――プルクラ……」
けれど何かが切れる直前に、プルクラがアンゼルムに手の平を向けて首を横に振る。
「……いや、大丈夫よ。やるしかないのは分かってる。……アスカ様を救うって決めたんだから。だけど、あと何百年、何千年も続けたら……私達は本当に、このまま『私達のまま』続けていられるのかしら? 今みたいに、誰か別の相手にほだされたりしない? ――私達はそんな失敗を見てきたじゃない」
「……まあ、良くも悪くも変わるだろうね」
《…………》
プルクラの言葉に、ラフレシアが微かに唸った。なんとも言えないよね、これは。色々と試行錯誤しているようだけど、このまま好転しないかもしれない。そして最悪、四天王が仲違いしてしまうかもしれない。
実際、俺の言葉にアンゼルムは結構揺らいだしね。
プルクラはきっと色々と綻びを感じているんだろう。……これは確かに、見ず知らずの相手に交渉したいとは思えないだろうな。よく分からない詐欺師に頼ったら、全てが崩壊するかもしれない、って感じなのかもね。
アンゼルムは肩をすくめる。
「……信頼すべき相手として……どうする? トラサァンを起こす?」
「別にいいわよ、あんな意気地なし。ていうか、最初に逃げたじゃない」
プルクラは拗ねたように呟く。
「それに王種――それも魔王ぐらいに当たらないと起きないだろうし、今のままが逆にあいつのためにも良いし。あのままの方が役に立つでしょ」
「それで良いなら別に良いけど」
「…………」
アンゼルムの含みを持たせたような言葉に、プルクラは無言でドスッとなんか叩いていた。
(……なるほど。この長い間に、プルクラとトラサァンとの間に、そういうあれが……)
《くっ――無駄に甘酸っぱい……!》
図らずも糞の役にも立たない情報ゲットだぜ!
「……はあ、もう戻るわ」
プルクラはそう言って、踵を返そうとする――が、なんか音的に立ち止まって、もしかして見られてるのかな? なんかさっきの嫌な感じが全身にビンビンするんですがー。
「なんか気持ち悪い虫も出てるし、細切れにしとく?」
「やめて。体内に魔道具が残ってるし、回収しないと。もしかしたらさっきやってたステルスとか、他の魔道具があるかもだし。色々と役に立つと思う」
「そっ。取り出した魔道具について、調べ終わったら報告書をまとめて提出して」
嫌な気配がなくなった。んでプルクラの足音が遠ざかって行く。で、たぶん転移門を通ったんだろう、あるところを境に魂の気配もパッと消えてしまった。
ふーむ、一難去ったと思っても良いのかな?
しかし、このまま起き上がっても大丈夫かな。まあ、起き上がるしかないんだろうけど。
アンゼルムが優しいことに賭けるしかないな。下手に暴れたら消し炭にされるし、良心を期待しましょ。
それにこのまま寝てたらバラされて魔道具取られちゃうし。
……今思うと、俺は俺で敵地で捕まったり倒れちゃ不味いんだな。スキル調べてコピー取られたり、魔道具鹵獲されたりしたらかなりヤベーことになる。
『熟練度が一定まで溜まりました。スキル『死んだふり』を取得しました』
はいどーも。
ということで、俺はゆっくりと片手を挙げて、指をピロピロする。
「わ!?」
俺の搬送を命じられたサンくん、含め数名の助手くん&ちゃん達が驚いた声を上げる。
「う、動いてる?」
「……魂ないけど」
アンゼルムもこれには困惑しているようだ。
良かった良かった、驚いてとっさに消滅されられることもなかった。ということで頭部を再生する。頭部を再生しながらいちいち一般的なものに変えるのが面倒だったから、初期顔――鹿骨っぽい頭を象る。
《びっくりしました》
「こっちもびっくりしたよ。死んでたんじゃないの? 君、それが本体じゃないの?」
《色々とトリックがあるんですよ》
魂を弄くれるのって色々と便利なんだよね。特にそうやって生死を判断してくれる相手にはとっても役に立つ。
《まあ、死んだふりが得意なんです》
スキルまで手に入れちゃうくらい常套手段化しちゃってるんですわ。
「そっかー。ところでその身体、バラしちゃ駄目?」
《駄目です》
「そっかー……」
しょぼんとしておりますが、当たり前でしょうに。頭部吹っ飛ばしても生きてるから、ちょっとバラバラにしても問題ないとか思ってるんだろうな。その通りだけど。
《もし色々と終わって、普通に会えるなら俺の身体の構造、見せても良いですけど》
「ほんとに!?」
《はい、出来ればフェリスも連れて来られると良いですね。ところで帰して貰っても良いですか? 場所は……ドクターのところで》
そこは無難よな。……たぶんダラーさんもいる可能性あるし。ただ怖いのは転移門を開けたら秘密警察が雪崩れ込んでくる可能性があるんだよな。
プルクラは俺が死んだと思ってるから、年配の吸血鬼さんに代わって部隊を退かせてるとは思うけど。
アンゼルムが俺を見ながら首を傾げる。どうしました?
「あれ? 僕に何か訊きたいこととか頼みたいこととかあるんじゃないの?」
《あるにはあるんですけど、あんまり俺に協力するとプルクラさんとの関係が悪化するかもしれませんよね。今、あの人に俺のこと伝えてないだけでも嬉しいので無理は言わないです》
プルクラが突撃してこないってことはアンゼルムは報告をしてないんだろうな。たぶん四天王同士なら即座に連絡する手段がないわけないし。
「見た目に反して内面が良心的過ぎる……」
サンくんがボソッと呟く。
まあ、誠意を見せないと信用されないからね。ましてやこの見た目だ、そういうのを怠るのはいけない。
アンゼルムが俺を見ながら、微かに唸る。
「やっぱりパックに認められただけあるね。ある意味僕もそうだし――そうだね、そういう仲ということで一つだけ伝えておこうかな」
《なんです?》
「大したことじゃないけどね、知ってるのと知ってないのとじゃ変わってくるかもしれないこと」
なんじゃろ、気になる。
「僕らの目的はリーダーを救うこと。でもその方法は……『殺す』こと」
アンゼルムは神妙な顔でそう言った。空気が重く沈んだような気配がする。周りの助手くん&ちゃん達は……気配こそ重いものの誰一人として驚いてはいなかった。
やっぱり皆知ってて、そのつもりで動いてたってことなのか。
《……殺すんですか? ……でも、なぜ?》
「今のところそれ以外に出来ないからだよ。ずっと今まで研究をしていたんだ。魔神を元に戻す方法――レベルを下げたり、退化させたり――一応、一定の成果はあげられたんだけど――ちなみに『制定者』には『退化研究』については断ってる。流布させないことを条件にね――けど大きな問題が立ちはだかったんだ」
《問題?》
「そもそも今のリーダーに対して、その手段が取れない。退化させる行為は攻撃と見なされて反撃されちゃうんだ。リーダーの魔力の性質は変わらないから、通りやすいんだけど攻撃の威力と規模が大きく防ぎようがないんだよ」
《…………》
なるほど、そりゃそうか。いわゆる弱体化に等しい行為を許すはずないよね。話が通じるならともかく、今のアスカは本能に忠実な存在と言えるから。
それにたぶん退化って魂に働きかける力だよね。他人の魂に何かしらするのって時間かかるから、ましてやそれが魔神だったらどうにも出来ないだろう。……いや、透明の魔力だと割とすぐに通じるか? ラフレシアがそうだったし。
「その課題はどうしてもクリア出来なくて……リーダーを殺すことに方向転換することになった。――プルクラがそう決めた」
《プルクラさんが?》
それはかなり意外だ。いやまあ、プルクラが言わなかったら殺すなんて手段、選ばれるはずがないんだろうけど。
「リーダーが狂界内で何をしているか知っていたからね。過去の後悔を引きずり続け、延々と続かせるくらいなら終わらせようとしたんだ。でも、外から攻撃しても周りを食い尽くして再生し続けるだけだから――中に入って未練を晴らして消えて貰おうとしたんだ」
《……後悔を晴らせば消えるんでしょうか》
「分からない、けど可能性はある。まあ、成功はしてないけどね。レベルが100以上の王種を何度も中に入れてみたけど時間の差はあれ、いつかは死んでしまうんだ。何が起こってるか分からないから、アプローチを変えてみるべきなんだけど……」
アンゼルムは俺をジッと見つめてくる。
「君は生きて帰ってくることが出来るかな? もしかしたら君のステルス能力ならリーダーを倒すことは出来なくても、騙して逃げることは出来るかもしれない。バルと違って他者に攻撃が出来るなら――十分だ。それで何かが分かれば、対策を打てるかもしれない」
ふーむ、色々とあったんだなあ。……しかし、アスカを殺すつもりだったとは。なんとなく察してはいたけどさ。なんか救うに対しての反応が悪い感じがしたんだよ。なんか「救う……はんっ!」みたいな自嘲してるのが伝わってきていた。
そんな諦めた相手に、無神経に救うんですかー救いますーとか言ったら、うざがられるのは当然よな。
……下手にプルクラに、俺がやろうとしてること言わなくて良かったかも。確実にブチ切れられて瞬殺されてた。
ただ、アンゼルムには言っておこうかな。一応知っておいてもらおう。
《ちょっと言いたいことが一つ》
俺は手を挙げた。
んで、かくかくしかじかぷるんちょと説明する。
アンゼルムは俺の話を聞いて、天井を見上げていた。
「なるほど、パックが君に味方するわけだ。『その方法』なら確かに色んな人が報われる」
《ある意味残酷だし、認められることじゃないけど。訊いた限りじゃ半分以上マスターの欲望が混じってるし》
そう言ったのはラフレシアだ。俺の頭の上にぴょこっと小さな顔を出し、そう言った後、すぐさま戻って行ってしまった。
そのラフレシアの頭部を見たアンゼルムは吐息をつく。
「やっぱりフラワーもいるんだね。タイタン側じゃないよね。君についた経緯は?」
《ざっくり言うと鹵獲しました。魂ごと俺に縛り付けたら、なんか色々あって眷属になっちゃいまして》
「そんなことってあるんだ。面白いね」
アンゼルムがクスクスと笑う。なんか若干ながら俺に対する固さが取れたかな? 親密度が上がったのかもね。
「僕は人の内心についての考察とか苦手だから、今の情報で君を信じることにするよ。直接的な協力は出来ないけどある程度バックアップもする。リーダーの狂界内についての話をしようかな。――その上でバルに会って詳しく訊くべきかも。実際に入ったことがあるのと又聞きなのは、また違うからね。今、バルは国外に――たぶん北の戦場付近にいるから探してみると良いよ」
《連絡は取れますか?》
「残念、ここでは取れないんだ。ここは外部とほぼ完璧に隔離されていてね。僕が外に出るとたぶんすぐバレてプルクラが飛んでくるから、期待はしないで欲しいかな」
……ふーむ、だとするならやっぱり計画通りに暴れることにするか。フーフシャーさんの件もあるし、豚になりましょう。
んでー、俺はアンゼルムにアスカの狂界について訊き――次のフェーズに移ることにした。
次回更新は5月29日の23時を予定しています。早く書ければ22日に投稿するかもしれません。




