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転生したら、アンデッド!  作者: 三ノ神龍司
第三幕 終わらぬ物語の行方
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第五章 しょくに貴賤なし

 ほーれやっとこさー、えんやーこーらー山羊さん、干し草おいしーかー。飼料はおいしーかー。


 俺は元気に干し草用フォークを振るって、あっちやこっちや持っていく。時々バラして、山羊さんの餌にしていた。


 山羊さんの餌は雑草とか干し草とか、なんか色々配合された飼料とかやってた。色々種類あんのはなんでかなーってクロフィくんに訊いてみたら「同じのばっかりだと食べなくなっちゃう」って言ってた。


 飽きるのか。だからなのか時々、売り物にならない果実が卸されてきたらそれをやったりしてるよ。


 果実って与える頻度が少ないから山羊たちにはかなり貴重みたいだね。美味しいってのもあるらしいから、餌箱に突っ込むとすごいがっつくんだ。


 んで、その間不人気になる飼料を俺はつまんで、もしゃもしゃする。うーん、うまい! てーれってれー。


「あー、またフラクシッド、山羊の餌食べてるー」


 同じく作業してるクロフィくんに見つかってしまったっ。


 けれど俺はクロフィくんを見ながら、二、三度つまむ。


「もー、やめなってー。家畜の餌なんて食べてたら笑われちゃうよ?」


《ぶー》


 俺はさらにもしゃもしゃ飼料を食いながら、唸る。なんじゃい! 飼料はトウモロコシを主成分としてるから、栄養があるんじゃい(あとこの飼料特別製で鉄分が豊富な野菜も多め)! あとなんか造血用の栄養素がどうたらこうたら言ってた。


 ちなみにもちろんトウモロコシにも生があるよ。でも俺は乾燥飼料を食うのをやめない!


 もしゃもしゃもしゃ! と口いっぱいに食べてるとさすがにクロフィくんも困ったようにしながらも笑ってしまった。


「よく食べてるけど、美味しいの?」


《ぶー?》


 味は知らん。相変わらず味覚はないからな。そこを誤魔化すと味について訊かれたら困るから、ないことにしておく。


 クロフィくんは「……? …………あっ」と首を傾げた後に、気付いちゃったのかちょっと気まずそうな顔をした。俺に味覚がないことに思い立ってくれたようだ。ちなみに触覚がないことも知ってる。だからだろうね。


「……えーっと、他の人がいる時にあんまり食べないようにしたほうがいいよ。もし、キミが誰かと契約したら、……その人に迷惑かかっちゃうと思うし。契約を続けてくれなくなるよ? だからやめな?」


 部下が家畜の餌を嬉々として食ってたら、そりゃ外聞悪いわな。よく、理解した。


《う゛ん!》


 俺は頷いて飼料を、わしゃっと掴んで、むしゃあと頬張った。


「……うん。……誰もいない時だけ食べてるから分かってるんだろうけど……」


 さすがのクロフィくんもこれには項垂れてしまうのであった。








 そんなわけで俺がジルドレイにやってきて、かれこれ一週間経ったよ。


 地下だけど、一日の経過は、時計があちこちにあるから分かるようになっている。


 んで、農場が暗くなったら俺らの仕事は終わり。担当してる動物を小屋に入れたら、あとは帰宅するのみだ。


 ふいー。お仕事を終えた後のこの開放感がたまらんね。


「……フラクシッドは帰ってて。……僕は、……その……」


 俺が帰ろうとしていると、家畜小屋の入り口に佇んでいるクロフィくんにそう言われる。――他にここを担当してる吸血鬼さん方が数名いらっしゃる。


 フーフシャーさんも頑張って勢力を広げつつあるようだ。つっても、その分発見されるリスクも付きまとうから、やらしい集会は山羊さんのとこだけ限定にしつつ、――こっそり抜け出して色々とやるかもしれない。


 結構、慎重にしてるようだ。『契約』という制度の都合上、少しでも派手なことをするとすぐ情報が漏れそうだからね。そんな理由で頭あっぱっぱーにするには相応のリスクがあるから、中毒で留めてるようだ。


 俺はこくりと頷く。俺は加わらんよ。それにこうした方がクロフィくん達の弱味を握ってることになるしね。うーん、素晴らしいマッチポンプ!


 ああ、そうそう。俺の契約はジルドレイにやってきて次の日にされたよ。なんかキビキビした、どっかの秘密警察っぽい感じの吸血鬼達に囲まれながら。


 けど、すぐに解除された。なんか裏切り者やスパイをあぶり出すためだけの契約のようだ。ちなみにその前に慌てて対応した。頑張って魂を作って、適当な肉の塊にぶちこんで、触れられそうな部分に薄くのばして張り付けておいた。んでーラフレシアに頑張って色々と偽装してもらいました(俺の魂を隠すのもやってもらった)。


 ちょっと疑問に思っていたようだけど、形式的なもので終わった。信頼性が高い魂への隷属という力であるため、追求されることがなかったのだ。


 くくくっ、力を過信しおって! だから足元をすくわれるのだっ。


 なんであれ、俺には少し悠長にしていい時間が生まれた。危険視をされていないなら、良くも悪くも上に情報が行くことはないはず。


(二ヶ月くらいかけて、どっかの派閥でのし上がるのも良さそうかもな)


《安全に上に行くなら、そうした方が良いかもね。ただ、出る杭は打たれない?》


(問題はそこだよなあ。スパイであること抜きにしても、俺って問題ありすぎるから)


 主に寄生虫とか。今んとこドクターとダラーさんしか知らんけども、生活していくなら絶対にバレてしまうことだ。危険性を知らなくても、体内が寄生虫だらけってだけでも敬遠されるだろうね。


 それで高い能力とか示した日には嫉妬で攻撃されるのが目に見えてる。


 新参者がなんか評価されるとさ、あれだよね、悪い先輩に「おうおーう」って絡まれるよね。


(そこは考えても仕方ないから、無視する。んでーどこの派閥に入るか……色々種類あるんだよなあ)


 派閥って四つ以上あるんだよな。四天王を頂点としてるだけで、その下にさらに分化してる感じ。いわゆる仕事内容とか技術体系で分かれてるようだ。アンゼルムで言えば、科学とか魔道具とか医療とか、少なくとも三つ以上はある。


 それに入るにはコネと信用が大事。誰かの下に付く――契約しないといけないけど、力もないどっからきたか分からないような奴と結びたがるのはいないよな。


 コネはダラーさんやドクターから紹介してもらうのがよろしいかな。


 つっても、無条件にって訳にもいかないだろう。最低限、やっていける力を示さないと紹介してもらっても絶対相手が渋る。


《そういうの含めてあの門番の人に訊いてみるべきかもね》


(それが妥当かー)


 今はダラーさん家にご厄介になってる。


 そこは第三階層の居住区の、下級吸血鬼達が暮らす簡素な横穴だ。天井も低くて、土壁もたぶん薄いせいで音が良く聞こえる。うるさくすると壁ドンされそう……。


 灯りは何もなく、全く何も見えない上に左右は狭く、奥に広い。なんというか、完全に寝るためだけの部屋って感じだな。しかもクローゼットっぽいものが一つあるだけでかなり殺風景かも。灯りがなくて良かったな。見えてたら生活感のないかなり冷え込んだ室内が目に映ってたぞ。


 ちなみに寝具は棺桶ではなく、ハンモックだ。気温は安定してて、どっちかっていうと暖かいっぽいからスペース確保も含めて、これが一般的らしい。


 ご飯って基本的に液体だから、皿に盛るなんてする必要もなく、陶器カップに注がれたものを飲むだけだ。だからやっぱり小さなテーブルだけ必要で、それ以外のスペースが必要ない。


 ただ、保存は低温であることが必須だから魔力を溜める機能がついた小さな冷蔵庫が常備してある。つってもそれも壁に埋め込まれて、そんなスペースを圧迫してないんだけど。


 狭いけど、かなり機能的ー。


《魔力を蓄積させる技術を発展させてる……? でも、性質上、魔力は溜めても霧散するはずからコスパは悪いはず。けど……吸血鬼という魔力の扱いに長けた種族だからこそ『ほぼ全員が当たり前に魔力を溜められる』から人間とはまた違った観点でものを見て、そういうものを作ってるのかな……》


 ダラーさんに部屋の設備――その保冷庫について見せて貰った時、ラフレシアがなんかぶつぶつ言ってた。


 冷蔵庫があるとかたまげたなあ。


(こういうのってなんか技術発展として、オーベロンさん達に抑制されないの?)


《されて欲しいけど、人間じゃないし、特定の種族しかまともに扱えない技術だからね。戦闘方面で道具を使い出したらさすがに止めるだろうけど、日常生活で使うものは見逃してるんじゃない?》


 なんかそこら辺の基準とかあるんすかね。


 まあ、いいや。


 そんなこんなでダラーさんと隣り合わせになりながら、コップの牛乳を飲む。俺の今日の夕食は、山羊の血とミルクだ。あと、芋虫。生で食うときもあれば(よく噛むように言われる)、ペースト状にしたものを飲んでるのを見たこともある。


 主食が血やミルクで、副菜として果実を食べたり虫食ったりしてるみたいだな。あと鶏の卵も好んでるっぽい(生卵だ)。


 基本的に生かつ無理矢理液体やペースト状にするから、そういう食習慣がない種族から見たらかなーりゲテモノに見えるはず。特に芋虫のペーストは俺も、おおぅってなっちゃった(慣れたから今では俺自身も作って普通に飲んでるけど)。


 んじゃあ食事中の会話は特に禁止されてないから、質問するか。


《契約は、誰と、すれば、いい、です?》


 直球ストレートだぜっ。基本的に俺はお馬鹿さんっぽい感じで通すつもりだから、読み合いとかしない。これなら相手も納得して、油断してくれるしな。


「あー、そういうのは知り合いからが一番だな。普通なら俺とするのが一番良いが……うーん」


 ダラーさんが首を傾げて唸ってしまう。


《駄目?》


「いや、駄目じゃないんだ。ただ、こういうのは初めが肝心でさ、最初は知り合いとやって、実績積むべきなんだが……。門番の仕事は、なんというかそういうのが積みにくいやつでさ」


 閑職ってやつですかね。確かにジルドレイで門番ってあんまり重要じゃなさそう。同族しかやってこないし。そもそも門の守りがかなり厳重だから侵入が難しいしね。守衛じゃなくて、本当に門の番って感じか。


 確かに上に行きたい俺としてはそれじゃあ駄目だな。


《門番は、どこの派閥、です?》


「守衛、軍事関連はトラサァン様だな。ただ、色々と問題があって、バルトゥラロメウス様が担ってるところがある。というか、あそこの派閥は他と連携してるところがあってな」


《連携?》


「ああ。バルトゥラロメウス様の派閥は補助、支援みたいなところがあってな。……まあ、一言で言えば、雑用みたいな感じなんだ」


 ……こう言っちゃ悪いけど、似合いそう。そんで本人は嬉々としてやってそう。


「研究職がある派閥に、特殊なスキルを提供するためにスキル会得を頑張ることもある。あと、外回りで魔物を捕らえてきたりな。軍事系には、後方支援、密偵をやることもある。政治系では……まあ、あんまりないか?」


 研究系がアンゼルムで軍事系がトラサァン、政治系がプルクラで良いのかな?


《ぼる……ばるとー……バル様の、派閥、どうすれば、入れます?》


 言えない風を醸し出して、バルトゥラロメウスの名前を短く言ったら、ダラーさんは小さく笑った。


「言いにくいよな。それといかつい名前してるけど、見た目はそんなんでもないんだ。優しいし。むしろ、トラサァン様の方が……いや、まあ、あの人も優しいけど……――いや、なんだっけ?」


《バル様、派閥、入る方法》


 検索する単語羅列みたいになっちゃったぜ。


「難しいな。……上を目指すって意味ではな。普通にバルトゥラロメウス様系列の派閥は探せば見つかると思うんだが、重要な派閥は特殊なスキルを求められるし、そういうのは基本的にスカウトされてなるもんなんだ。自分から行ったところで門前払いだろうな」


 ふーむ、なるほどな。直接頼み込むのは難しい感じか。


「初めは……考えずにやるなら軍事系がおすすめだな。魔物生成場でレベルをあげて、魔物との戦闘訓練が出来る場所も併設されてるから、そこで戦ってれば声をかけてくれる人もいるかもな。時間が出来たら、ちょっと覗いてみるか?」


《うん》


 俺は頷くと、ダラーさんは微笑む。


「フラクシッドは向上心があるな。すごく良いことだ。俺の知り合いに軍事派閥で上にいる奴がいるから、声をかけてみようか? ゾンビから進化したなら、血の毒性も強そうで、戦いで有利になるかもだし、将来性はあるだろう。なんか、その寄生虫だかも、ドクターは共生してるかもって言ってたしな」


《偉い人、知り合い?》


「何気に顔は利くんだ、俺は」


 そう言ったダラーさんは得意げではなく、どこか悲しげだった。


「無駄に長く生きてるしな。ちなみに一応、俺、トラサァン様の直系で契約もしてるんだぜ」


 ……マジかい。意外過ぎる。……でもなんでそんな人が閑職らしい門番やってんの?


 訊きたい、が……がっつくのはいかん。


《……。ぶう、ぶー……武勇伝?》


 俺は素っ気なさそうにそう言って、ミルクを飲む。と、案の定ダラーさんが慌てて首を振る。


「いや、ち、違う! ま、まあ、多少自慢ではあるけど……必ずしも長生きで四天王直系が良いわけじゃないんだ。特にトラサァン様と……アンゼルム様んとこはな。……実はドクも……本人には言わないんで欲しいんだが、あの人、アンゼルム様の直系なんだ」


 二度目のマジかい。まあ、アンゼルム直系は落ちぶれるのは分からんでもないけど。聞いた限りじゃ裏切り者扱いで幽閉されてるっぽいしね。


「王種ではないけど、もうほとんどいない高レベルのナイトウォーカーでもあるんだ。正直、あそこでくすぶってるのが勿体ないくらいの人なんだよ、ドクは」


 そうなのねー。


 ……ふむ、ドクターには喧嘩売らないように気をつけよう。ここに来るとき、皆にさんざんナイトウォーカーには手を出すな、対峙したら全力で逃げろ、言われてるからな。


 一応、吸血鬼対策の魔道具を体内に仕込んでるけど、ナイトウォーカーにはそんなの意味ないらしいから。


「バルトゥラロメウス様はそもそもあの人から吸血鬼になった人がいないからな。プルクラ……様は……政治系の派閥はある意味では一番良いところだけど……あそこはやめた方がいい」


《どう、して?》


「……。闇がある。今回の魔族との戦争で、こっちが何かした可能性がある。……それに……どのみち、いつか必ずプルクラ様は『始祖』にその身を捧げる。……それをもう何度も……魔族や人狼達の命を使って……今度はあいつが……そうして次が……」


 ダラーさんが片手で顔を覆ってぶつぶつ呟く。なんか奇妙なことが聞こえたんですけど。プルクラが始祖に身を捧げる? それを何度も? ……どういうこと?


《始祖?》


「え? あ? わ、悪い。始祖は四天王の……親って言えば良いのかな。今は特殊な状態になってて、……まあ、この話はまたあとでだな」


《身を捧げる、って?》


 ちょっと苦しいかもしれないけど、問いかける。やっぱりかダラーさんはすごく渋そうな顔をしてしまった。


「……それは…………悪い、機密事項なんだ。……政治は難しいし、止めた方がいい。ねちっこい奴が多いしな」


 ダラーさんが無理したように笑う。この話はこれでおしまい、と雰囲気が告げている。これ以上、無理に訊いたら関係が悪化しそうだな。やめておこう。ここは空気を読むべきだ。


 ……最悪、ダラーさんの魂でも支配して、情報を引き出そうかなー。気乗りしないけど、もしもの時は仕方ない。まあ、それは本当に最悪の手段だけど。長い間生きてるってんなら、強いだろうし。仮にスキルがなくても、技量はあるだろう。そういうのが厄介なのは良く知ってる。


 ――というわけでなんか色々と謎が出てきたけど、俺は元気に生きようと思います、まる。

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