第四章 実は話してる間、ずっと搾ってた
フーフシャーさんとは合流する予定はなかったが、会ってしまったらせっかくだし正体を明かしておこう。黙ったまま関わったところで淫魔の力が及ばない俺に興味を寄せるか、正体に気付くかどっちかだから正直に話しておいた方が良い。
クロフィくんには悪いが、一人で相手をしたいとの旨を伝えて出て行って貰う。フーフシャーさんも、無理矢理くんずほぐれつにするつもりがないようで、諭してくれたよ。
俺が言ったら、イヤイヤしていたのにフーフシャーさんがお願いしたら、渋々引き下がった。うーむ、相当良い思いしたみたいね。
そういやフーフシャーさんがちらっと言ってたけど、フーフシャーさんの淫魔の力は万能を求めたせいで寝て色々したところで相手を束縛する能力は乏しいんだってよ。普通の淫魔は――上位種ならば、相手と関係を結べば奴隷みたい出来るらしい。でもフーフシャーさんには、行為をしたところで契約とか呪いみたいな力はなく、いわゆる中毒に近い感じにするっぽい。
だから警戒心の強い相手だとか、敵対心を持ってる相手だと暴力行為も混じるせいで危険らしい。まあ、押し倒してやべえ体液流し込んで『色々』すれば大抵の相手は頭あっぱっぱーになるようだから、集団じゃなかったら今のクロフィくんのようにしてしまえるようだけど。
と、言う訳でかくがくしかじかぬるっちょんっと説明する。
フーフシャーさんは小首を傾げる。
「あら、アハリートくんだったのね。通りでなびかないと思ったし――その可愛い声でなんとなくは気付いていたけど」
《やっぱり? 可愛い?》
俺は片手を後頭部に当て、もう片方の手を腰に当てて、くねんと尻を振る。
「せくすぃね。もちろんラフレシアちゃんの声は可愛いけど……姿はどうにかならなかったのかしら。いや、私は別に一般的な美醜は気にしない方だけど」
《僕は精神が男の子なので、男の子に少しでも好かれる可能性をなくしたいのです》
「男の子は精子なのは、その通りよね。あと同じ性別同士でも問題ないと思うわよ?」
《応えになってねえよ。耳と認識能力が腐ってんのか》
「今のラフレシアちゃん?」
《そうっす》
俺は頷いておく。
フーフシャーさんはケラケラと笑う。
「そう。元気そうで何より。で、男の子のアハリートくんに質問。今の私はどう?」
今のフーフシャーさんは全裸だ。
だけど俺は顔を観察っ。瞳の色は赤に近い茶色をしている(クロフィくんやダラーさんも同じ感じ。道ですれ違った人達は赤色が多かった。大人で光に弱い感じだと赤色が多いのかな?)。んで、頭髪は色素が抜けた白金っぽい感じでストレートだけれども、じっとりとした感じがする。
肌は病的に白く、色が違う口とか血管とか目立つね。んで、フーフシャーさんは相変わらず黄金比で象られたってくらい綺麗なぼんきゅっぼんってしてるんだ。淫魔って性格はだらしないけど、体つきは引き締まってるっぽいね。俺に性欲はないけど、普通に目を奪われちゃう。
俺は親指を立てる。
《グッド。綺麗でふ》
「それだけなのねー。本当に性がないと『攻撃』しても駄目ね」
はふー、と色っぽくため息をつくフーフシャーさんだ。
『攻撃』って何かしら淫魔的ななんかをしたんだろうね(フーフシャーさんは淫魔の力を使うのをそう形容してる)。結構、強力なのやったみたいで、人型以外の――この家畜小屋にいる山羊さんが雄雌問わず、はふはふ息を荒げだした。やだ、出生率上がっちゃう!
《無闇矢鱈にミルクを増産させない方がよろしいのでは?》
「大丈夫大丈夫、雄雌共に私に興味が向いてるから」
山羊に囲まれるの? 淫乱オブザデッドでも始まるのかな? それとも山羊オブザデッド? くっ、このタイトル……是非とも見てみたい映画だ……!
フーフシャーさんが片目をつむって、親指を立ててきた。
「ちなみに私はいつだってミルクを搾れるわよっ」
これまた返答に困ることを…………いや、待てよ。
《それって体液だから、『淫毒』みたいな効果あるんですか?》
「ん? もちろん。あっ、それなら直接――」
よーし、それなら抵抗は少なそうだ。というわけで俺は簡易的に触手を袋状にして、二つほどフーフシャーさんに突き出す。
《はい、よければこれに搾って貰えます? 淫魔の『淫毒』欲しいです》
フーフシャーさんがピタッと止まって、えーみたいな顔してうなだれるように俯いたが、素直に袋を受け取ってくれた。
「――くっ――――でもっ! それはそれで興奮するっ!」
良かった良かった、喜んで貰えたみたいだ。これで皆ハッピーになれる、やったねっ。
フーフシャーさんに母乳を出して貰いながら、話を進めることにした。かなりシュールだけど仕方ないんだ。だってクロフィくんが覗いてるっぽくて、何かしらのプレイをしてないと怪しまれるからね。
それはそれとして、母乳を貰った後、どう摂取しよう。飲むのはなんかなあ。けど他の方法は……液体に『侵蝕』って意味がないからチーズとかにするべきなんだけど、時間もかかるし効果がなくなりそう。
……スカスカにした海綿体に吸わせて吸収しようかしら。なんか負けた気分になるけど、それが一番良さそうだよね。
ふふっ、まあなんであれ良い収穫だ。話の流れ的にもほぼ無償で採れたし。
これを幻覚系の毒と合わせて、無味無臭で散布しようぜっ。とっても平和に国が乱れるだろうなあ。
《――そんなわけでこの国は無血でなんか混乱に陥るわけなんですよ》
「素晴らしいわね」
俺が、ざっくりと説明するとフーフシャーさんがキリッとした顔で言う(その間にも母乳がぶしゃーってしてる。勢いすごいな)。
「その手の混乱なら私も乗っかれるかもね。情報収集もあまり上手くいってないから、動ける状況はありがたいわ」
《クロフィくんの記憶は読まないんですか?》
ちょっと意外。速効で眠らせて記憶読んでると思ってたのに。
「やらないわ。重要そうな情報を持ってないだろうしね。それに記憶は無闇に見るものじゃないわ。特に夢を介すると相手の感情も感じるハメになるから同情しちゃうのよ」
……らしいね。ミアエルの時もそうだったっぽいし。
「相手は敵。私は妹の子供を救わなきゃならないの。……だからあの子を壊すことになるのもいとわない」
フーフシャーさんは自分に言い聞かせるように言う。
困ったもんだ。これは俺にも言えることだから注意しないとな。ダラーさんやらに、同情的ななんか感情を向けちゃってるし。
スパイってのは、大変そうね。だから何かしらの信念を持つのは大事なのかね。あと優先順位?
なんであれ、大変そうだからあんまり口は挟まないようにしよう。傷つけちゃ駄目ーとか頭あっぱっぱーはよろしくないーとかは代案があれば口にしよう。
ちなみに記憶を見るだけなら俺は『ソウルオブサーバー』がある。まあ、俺がやるかフーフシャーさんがやるかの違いになるだけだから、これまた意味がない。
んでー、フーフシャーさんのプランとしては、順々にまぐわう相手を増やしていくか、吸血鬼に変わってこっそり行動していくみたい。
「ただ、問題となるのは『はぐれ』だと重要な下層まで行くのが難しいことね」
なんでも吸血鬼は基本的に『四天王』を頂点とした派閥に別れてるんだって。
その派閥に入るためには上位者と『契約』という名の魂レベルでの隷属をしなきゃいけないっぽくて、まあいわゆる主従関係(俺の『魂支配』に近いもの)を結ばないといけないみたい。そうすることでスパイやらのあぶり出しをするようだな。
だからこそフーフシャーさんは大っぴらに行動出来ないし、吸血鬼の人員をここに送り込むのも出来ないらしいんだ。
派閥に入らないことももちろん出来るけど、出世街道からもろ外れることになる。それに当たり前だけど重要な施設の出入りは出来ない。
俺は新参者っていう体だから、多少猶予はあるんでその間に魂を生成して、人形作成して、それで成り代われれば契約しても特に問題ない。場合によっては、相手の体内に入り込んで相手そのものに成り代わることも考えている。
「今はアハリートくんの『混乱』待ちね。こっちもこっちで出来る限りのことはするけど」
俺の役割ってかなり重要ね。大勢の命が俺の肩に……とか考えるの面倒なのでやめておく。責任放棄じゃなく、そもそもそんなもん背負った記憶はないからな。あくまで、どんな形であれ『魔神を倒して勇者を解放』をすれば道程はどうなっても良いんだ。
まあ、無茶やりすぎるとオーベロンさんとパックくんに愛想つかされちゃうから気をつけないといけないんだけども。
それと後味的な意味で死人をあまり出さないようにするのがベストなんだけどね。
《じゃあ、こっちも頑張ってみます》
誰かしらの四天王に直通出来れば、万々歳なんだけども。
さすがに四天王に直接絡むのは無理だから、上位者を選別して接触するのもありかも。ダラーさんに訊けば答えてくれるかしら。
※ちょっとした補足。
一人で複数の従者を持つことがあり、それが力の証でもある。ただし、力のない従者が何人いても意味がないので、優秀な者が求められる。なので優秀な者は引く手数多だが、下級の吸血鬼は『はぐれ』になっている者が割といる(『裏切り検査』の名目で一時的に契約して即座に破棄されることがある)。
次回更新は3月6日23時を予定としています。場合によっては2月27日23時に更新するかもしれません。




