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転生したら、アンデッド!  作者: 三ノ神龍司
第一幕 死の森に生まれたゾンビと古の魔女
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第十三章 フェリスの目的

 どうもアハリートの名前をもらったゾンビです。


 けれど、長いので普段はアハリという愛称で呼ばれることとなった次第だ。

 

 まあ、ミアエルは変わらず『ゾンビさん』だったけれども。別に名前が嫌なんじゃなくて、呼びやすいから、らしい。


 確かにアハリートさんやアハリさんでは少しかしこまった感じがするので、ゾンビさんの方がいいかもな、と納得。


 あと、ミアエルはどうにも俺をペット以上、友達未満の存在としてみているところがあるからな。

 

 ちなみに、こっそりリディアから聞いたんだけど、やっぱりミアエルが言ったあれらの名前はペットにつけるやつっぽい。昔、俺みたいな転生者がつけてた有名なペットの名前なんだと。

 

 ……ミアエルからすると、俺を人間的な呼び方にするのに何かしら違和感があるのだろう。……うん、冷静に語ってはいるけれど、俺の心情としては、かなり複雑だ。

 

 フェリスは普通にアハリートと呼び、名付け親のリディアは通常はアハリちゃんの愛称でよぶことになった。

 

 んで、問題も終わったことだし、今は帰ってスキルを確認したいなあ、と思っているところだ。スキル、色々増えたからね。改めて名称の確認と新たに得た『侵蝕』と『潜伏』の詳細も知りたい。あと、あれだ、熟練度の譲渡に関する話もリディアと話合わねばならない。

 

 ……けれど、そう簡単に帰れそうになくなってしまった。

 

 それはフェリスがした爆弾発言が原因だ。

 

 「……アンサムって奴、知らない?」

 

 その言葉のせいで、少々この場が混乱に陥りそうになってしまったのは言うまでもない。

 ミアエルがフェリスに殺意の込めた眼差しを向け、手の平を彼女に向ける。

 その手には光が収束していく。

 

 「死ぃねぇええええええええええええええ!」

 

 「はいええええええええええええええええ!?」

 

 「あらまあ、ミアエルちゃん、すとーっぷ」

 

 ミアエルがフェリスに光魔法を放とうとして、それをリディアが阻止する。

 フェリスが漏らしてしまいそうなほど怯えて、頭を抱えてうずくまってしまった。

 

 ……なんでこう、この獣娘は地雷を踏み抜くのだろう。いや、いずれの事柄も事前情報がないものばかりだったから、単に運が悪いだけなんだろうけど。

 

 なんというか、この間の悪さというべきものは、もはや天性とも言えるな。

 で、この一件でフェリスとミアエルの溝が一層深まってしまった。

 

 ちなみに俺は傍観していたよ。さすがにミアエルの攻撃を防ぐ手段がないからね。食らったら致命傷確実だもん。……うむ、そう考えると光魔法を防ぐ手段は欲しいなあ、と思う今日この頃だ。

 

 さて、それではフェリスが何故、奴隷商人を探しているか訊かなくては。事と次第によっては、――――うん、まあ、この先は言うべきではないだろうな。

 

 でも、フェリスが悪い奴だとは思えない。魔物ではあるけれど、人に対して敵意はないみたいだし。短い付き合いではあるものの、何か事情があるのはすぐに分かる。

 

 でもミアエルにとっては、奴隷商人の居場所を訊く魔物イコール買い手、ってイメージになってしまうのも仕方ないんだろうけど。ミアエルのフェリスに対する印象も今のところ最悪だし、うん、仕方ないと言えば仕方ない。でも、いきなり殺しかけちゃいかんよ。せめて半殺しじゃないと。

 

 なんとかリディアが場を収めて、改めてフェリスに話を促す。ビクビクしながらも、フェリスはゆっくりと口を開いてくれた。

 

 「え、えっと……あの、その、ここから北の王都は知ってる……?」

 

 「最近の世情については知らないけれど、魔族の侵攻を抑える要であったのは知っているかなあ」

 

 魔王に付き従う知性ある魔物達――魔族というらしいが――は、ここより北の魔力の濃い大地――魔界を住処としているらしい。高濃度の魔力により自然発生した彼らは普通の生き物では生きていけない厳しい大地でも生存を可能にしている。ただ、そんな土地のせいか、強者が力を持ち支配するという群雄割拠なところらしい。

 

 その弱肉強食の中で、数百年ごとに『魔王』なる絶対的な存在が生まれるらしい。

 

 魔王は魔物達をまとめることが出来る存在で、大軍を伴って人の地に侵攻するようだ。

 

 今世もどうやらその魔王なる魔物が生まれ、魔物達をとりまとめ、魔族なる集団として人間達に敵対している。

 

 そんな魔王の存在を数年前に感知した模様だ。それで戦いになってるんだって。

 

 で、どうやら人間側が厳しい様子。人間側でも強い存在――勇者が生まれるようだが、どうやら未だ、その勇者が誕生していないとのこと。

 

 ……あれ? この俺の身体になっている勇者って最近死んだんじゃないのかな? あんまり痛んでないし、最近、何かの拍子にやられてしまったと思ったんだけど。でも、今の話じゃ、この勇者は今回現れた奴じゃないっぽい。

 

 つまり前回現れた勇者になるってことで、数百年前の人間ってことだ。けどこのみずみずしさっておかしくない? 死んでる間はスキルなんてないんだからさ。

 

 それとも勇者になって、世界に認知される前にいきなり死んだってこと? でも、リディアの言葉の端々から推測するにそうでもなさそうなんだよなあ。

 

 どういうこっちゃ。

 

 まあ、今は話の途中だし、皆の中では『勇者は最近までいない』らしいから、水は差さんけども。あと勇者関連はなんか危ない地雷の可能性があるから訊くなら慎重に行きたい。

 

 ……それで話しは戻すが勇者がいないせいで魔王やそれに準ずる強力な個体に対抗出来ない国が多くあったようだ。人間って一定以上の力を得るのが難しいみたい。勇者が現れると人類にバフ効果がついて、一定の強さを持つ人間も現れて能力が伸びやすくなるっぽい。

 

 けど今はそれがないせいで不利になってるそうな。なんでも普通の魔族と良い勝負をしていても、魔王や強い個体が出てきたら一気にやられてしまうことがあるようだ。強力な脳筋野郎とかに範囲系のスキルでゴリ押しされたら、やばくなるみたい。

 

 幸い、強い奴らがそれなりにいて、保っている方だとか。かなりギリギリらしいけどな。

 

 そのギリギリ保たせているのが、王都プレイフォートというところらしい。

 

 んで、その王都と同盟関係を結んでいるのがフェリスのワーウルフとヴァンパイアが住まう国なんだとか。

 

 ……ん? あれ? 少し疑問が出てきた。これはちょっと知らないとダメかな?

 

 (なんで魔物が人と組んでいるんだ? どっちかっていうと本来はワーウルフとヴァンパイアって魔族側なんじゃないのか?)

 

 「それはねえ、その魔族っていうのが『高濃度の魔力により自然発生した魔物』が大半でそれ以外の繁殖によって増えた魔物を下に見ているんだよねえ。そうだよね?」

 

 「まあね。でも最近は、実はそうでもなかったりするけどね。けど、ボクらみたいな人間から魔物になったルーツを持つ亜人みたいなのは、普通の人間と同じに見られてるんだよ。どっちみち魔族側に加担しても良くて種族ごと隷属させられるんじゃないかな」

 

 へえー、魔物にも色々あるんだな。

 

 だとすると、俺みたいなアンデッドも自然発生とはちょっと違うから、魔族からは迫害の対象なんだろうか。

 うーん、ゾンビ故に人間の中では暮らせないし、かと言って最終手段とか考えていた魔物達の集団――魔族の中にも入れんとは。ああ、一応、フェリスらワーウルフやヴァンパイアの中では暮らせるっぽいけど……厳しい世情らしいから、安心して暮らせるって訳ではなさそうだなあ。今聞く限りだと戦いの最前線っぽいし。

 

 最悪、俺も魔族と戦わないといけなくなるのかね。

 戦争嫌だなあ。でも、仕方ないならどうしようもないんだけど。奴隷とか嫌だし。

 

 ……あー、悩むなー。……まあ、今考えることではないから、ちょっと脇に置いておくけども。

 

 「それでなんだけど、同盟組んでるプレイフォートの様子が最近、おかしくてさ、兵士の交代の時とか援軍要請した時とか物資要請した時とか、ほとんど良いのが寄越されないんだ。来ても物資は今までの最低限よりもっと少なくて、交代のとか援軍も新兵や老兵ばっかでただでさえヤバい戦線がさらにヤバくなってんの」

 

 「最近までは、ちゃんと兵隊とか物資とかは送られて来てたんだ?」

 

 「数は少ないけど、兵士達の質は良かったよ。物資も戦線維持、場合によっては押し込めるぐらいには兵站は充分確保できてた」

 

 だが、数ヶ月前より境に一気に質が落ちてしまったようだ。フェリスらが王都に対して、進言を行ったようだが、おざなりな対応をされてしまったらしい。

 

 フェリスらは当たり前だがおかしく思ったようだ。もしかしたら王都の現状は思ったより逼迫しているのではと危惧して密偵を放って調べて見たら――。

 

 「そんな様子はぜーんぜんなかった。むしろ一般の人間達は平時よりも良い生活していて、魔族はまだ来ないと思ってたし、上の連中は……なんというか、この危ない戦況下でアホみたいに贅沢な生活をしてたんだよ。他にも王子が魔族を娶ったとか嫌な噂も色々聞いたりしたし」

 

 フェリスはあからさまに不機嫌な顔をする。無理もない。自分達は危ない状況だというのに、連中は平時よりも贅沢をしていたらしいのだから。

 

 ――でも。

 

 「さすがにおかしいと思ったよ。だって本来、そんな馬鹿なことは起きないと思ってたんだ。だって王都の頂点に立つ奴は絶対にそんなことをしない。それを信じられる奴だったから」

 

 「……もしかして、その人って……」

 

 「そう、アンサム・レバールド。プレイフォートの王子で、ボクらが危ない時に前線に出てきて戦線を押し返してくれたこともある聖騎士。今世で勇者にもっとも近い男」

 

 ちょっと衝撃だ。

 

 アンサム、奴は聖なる騎士だったのか? いやー見た目に寄らず、すごい奴だったんだなあ……とは思えないな、さすがに。

 

 そんなにすごい奴だったら、なんで奴隷商人やってるのかって話だし、リッチが強いと言っても魔王がいるかもしれない前線に出張る奴が、たかが少し強い程度の骸骨に怯えるなんておかしい(リディアがそれ以上に怖かったとしても、だ)。


 絶対に名前が同じなだけの別人だろう。

 

 そう思っていたら、フェリスは案外あっさり頷く。

 

 「皆が知ってる奴が王都のアンサムと同一人物だとは思ってないよ。……明らかに奴隷商人のアンサムは悪い奴っぽいし。実際、アンサム本人は王都にいたみたいだし。……けど、人が変わったって噂があってね。で、調べてく内に同名の奴隷商人が現れるようになったらしくて、もしかして何か関係ないか調べにきたわけ」

 

 なるほどなー。

 

 ……ちょっとばかし、気になったので王都の方のアンサムの容姿を訊いてみたら、細身の長身にブロンド髪に碧眼、見た目は完璧なる貴公子なんだと。ヴァンパイアの姫君が一目惚れして、求婚するぐらいに整った容姿をしていたようだ。

 

 うん、完璧に人違いだな。俺の知るアンサムは小太りの……けれどどこかダンディーな雰囲気を醸し出すおっさんだから。

 

 「……なるほどねえ」

 

 けど、リディアは俺とは違う見解に至ったようだ。

 

 「あの子、何か呪いにかかってたのを見たから訳ありかと思ったら、なるほどなるほど、何やらきな臭いかもねえ」

 

 リディアによるまさかの衝撃的発言だ。それにはフェリスも目を見開く。

 

 「呪い? それってどんな呪いか分かる?」

 

 「ちゃんと調べてみた訳じゃないから、どうとも言えないかなあ。でも、予想するに魂の入れ替えが行われた可能性があるかにゃ」

 

 「魂の入れ替え?」

 

 「うん、そうだよん。魂の入れ替えってのはね――」

 

 リディアいわく、魂の入れ替えとは、有り体に言えば身体のチェンジだそうだ。術者は精神を交換したい対象を選び、小難しい儀式を行い、入れ替わりを実行するらしい。

 

 この入れ替えは『呪い』という強力な魔法の一種らしい。そしてこの呪いは手順やら何やら手間がかかって難しいが、かけられてしまうと防ぐのは難しく、解きにくくもあるようだ。

 

 ただ呪いはかけた側にも、かなり面倒なことになる力なんだとか。かけた後も、色々と制約がついてしまうようだ。

 

 その一つとして術者は入れ替わった対象を支配出来るが、直接的、間接的手段でもって殺すことはできない。また対象に対して命令をすることができるが、対象が確実に死ぬような命令は出せない。さらに対象が死ななければ、乗り移った人間の名前を口にすることが出来ず、名乗ると絶対に元の名前を強制的に口にしてしまうんだとか。この場合、偽名も呪いの制約により使えないようだ。口語だけではなく、筆記でもダメだそうだ。また入れ替わると術者は相手のスキルを奪うことが出来るようだが、奪ったスキルには何かしらの制限がかかってしまうんだとか。制限の解除は対象の死が条件なようだ。だからどうにかして、対象を死ぬような状況に身を置かせないといけないようだ。

 

 ただ、休みなく動かすことや殺し合いを延々と続けさせるような確実性がある死の命令は出来ない。故に確実に死亡しないが、判断の誤りで死亡する事柄に身をやつせないといけないんだとか。少なくともその当人がやり遂げることが出来る事柄しか任せられないらしい。面倒臭い。

 

 「呪いってのは面倒臭いけど、その分、効力が半端なく強いからねえ。……一度かかると解くのも難しいんだよん。呪いを解くには、術者を殺すっていう手段は絶対に取っちゃダメだし、どうにかして術者本人に呪いを解かせるようにさせないといけないんだよねえ」

 

 とんでもなく面倒臭いな、それ。最悪、身体を取り返せないことだってあり得るんじゃないのか?

 

 ……あのアンサムが実は、王都の王子様ねえ。で、命令されたから魔物相手の危険な奴隷商人をやっている、と。

 

 確かに、思えば見た目に寄らず妙に頭が回る部分もあったし、それに、だ。

 

 (なあ、光魔法って一般的に使えるもんなのか?)

 

 「使える物ではないよん。というか、魔法そのものが難しいものだから、知識だけでもそれなりに文化水準が高くて裕福な国ではないと学ぶのは難しいかなあ。……学ぶとしても中堅商人程度じゃ無理だし――ましてや奴隷商人程度が気軽に覚えられるものではないね。光魔法なんて初級でも、かなり難しいから普通の人が知ることなんて出来ないと思うよ」

 

 あのアンサムは実際に光魔法を使ったわけではない。もしかしたら、広域浄化魔法を使えると言ったのも単なるハッタリの可能性がある。でも、地中であいつの話を聞いていた時、妙に光魔法について詳しかった。あいつは一般的に知ることが出来ない知識を有していたのだ。

 

 あのアンサムが王都のアンサムと中身が入れ替わった存在かどうかは判断出来ない。でも、その可能性がある以上、確かめるべきだろうな。少なくともこのまま王都にいるという偽物(?)のアンサムを放っておくとフェリスの国が滅びかねないし。俺が唯一、住めるであろう国が滅ぶのはいただけない。

 

 アンサムに会いに行って事実を確かめることになるが――このままだと、アンサム、あいつ死ぬな。あいつ、リッチに会ったら殺される。本来、ミアエルを連れていかなきゃいけないのに、騙されて俺らに横取りされたからな。

 

 よし、あのアンサムをひとまず救うか。

 

 ……ただ、ここでおおっぴらにアンサム助けに行くーとは宣言は出来ない。ちょっと複雑な表情をしている幼女、もといミアエルがいるから。ミアエルのアンサムに対する印象は本当に最悪だから。

 

 聡い子だし、今の話聞いて、事情は理解出来ているんだろうけど、心情的には受け入れられないだろう。俺がミアエルと同じ立場だったら、許せる気がしないし。

 

 だから、こっそり助けに行くべきだろう。

 

 (リディア。少し早いけど、リッチの居場所、教えてくれるか? ……倒しに行ってくる)

 

 (おっけー。……ミアエルちゃんは任せてちょ。とりあえず出発は明日にしてもらっていいかなん? それでも充分間に合うし)

 

 本当に、リディアは空気が読めて助かるよ。ありがたい。

 

 それに明日出発するのには賛成だ。リディアにはスキルについて訊きたいことがあるしな。

 

 そうして、俺はリッチと戦うことを決意するのだった。

 

 あとついでにアンサムも助けようと思う。そっちは基本フェリスに任せるつもりだけど。

 

 ……さて、頑張らせてもらおうか。

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