第一章 吸血鬼の国に潜入!
突然だけど、中世って森が多いらしいね。資源になったり天然の城塞として使われたりしてたらしいよ。特に城塞部分は重要で、森では軍隊が進軍しにくい上に迷いやすいらしいね。
プレイフォートみたいに交易のために整備をする必要がないなら、森で固めてた方がずっと良いんだろうね。
だから、吸血鬼の国――ジルドレイは、領土が小さいこともあってか、ほぼ全域が森に覆われている。……むしろ、森以外のところがないんじゃなかろうか。
吸血鬼は基本的に日の光に弱い。デイウォーカーという日光に強い進化先があるものの、アンデッドであるが故にその形態に至るには相当な時間がかかる。そのため、どうしても日を遮る方法が必須となってくるのだ。
んで、その答えが、鬱蒼とした森にして光を遮ること。魔法も使ってしっかり光を遮っているから、すっごい暗いんだ。ついでに山岳地帯であるため、とんでもない悪路になっている。
さらに、『家』がない。少なくとも人間が住まうような家屋は一切ないのだ。いわゆるイメージにあるような古い大きなお城があって、その最上階で棺桶の中で寝ている、なんてこともない。
じゃあ、吸血鬼はどこに過ごしているの? ――ってなるんだけど、答えは……地下だ。
基本『潜土』――もしくは魔法を用いて、特定の場所にて地下に潜り、そこを拠点としている。このおかげか人狼達も正確な場所が分からず――分かったとしても、侵入するのが難しくなっている。
吸血鬼以外は侵入することは出来ないだろう。
って言っても、俺はその場所を分かってるんだけど。チェスターっていう吸血鬼から色々と聞き出したのだ。他にも色々とジルドレイについて聞いているから、あとは現地を見て溶け込めればグッドだな。
……森の中、とある場所にて青白い顔をして牙を伸ばした吸血鬼風のミチサキ・ルカの姿にて、とある一角を睨んでいた。耳に手を当て、かがみ込む。
(こちらアハリート、潜入ポイントに到着した)
《……………………。……そのスパイごっこ私もやらなきゃ駄目?》
俺の中に宿る妖精、ラフレシアは呆れた調子でそう返す。――俺とラフレシア以外にはこの場にいないし、何かしら繋がっている訳ではない。完全な単独潜入となっている。
かなりドキドキだ。一歩間違えたら、俺は死ぬからな。
ちなみにだが、北に向かったのはリディアとフェリスの二人だ。一緒に人狼の国に行っている。他、アンサムなどプレイフォート組――っていうか国としては魔族と抗戦する体で軍を動かすらしい。どうするかの詳しい話は知らん。プレイフォートと関わりがあるのは、食糧を届けてもらう部分だけだな。合流位置もしっかり決まっている。
西にはミアエルが行ったが……まあ、そこは良いだろう。しっかりと対策はしたし、スーヤとかその他にもついて行ってもらっているから、問題ないはず。
……今回の任務がただの殲滅作業なら、俺やリディアが適当に暴れるだけですむんだけどな。――そういえばリディアだが、北に行くことをミチサキ・ルカにめっちゃ反対されたよ。反応に力使うって話だったのに、リディアが北行くってなったらビッ、ビッ、ビッ! って震えてきたんだよ(そのせいでたぶんしばらく反応は出来なくなった)。
つまりリディアが死ぬ可能性があるらしい。
だから、西とか死の森に行ってもらたいたかったんだろうね。
けど、フーフシャーさんの妹や吸血鬼の対応はリディアがいるといないとでは被害の度合いが全く変わってくるということで、アンサムとかお姫様に頼まれてしまったんだ。
んで結果的にほぼ動かないことを条件に北に向かうことになった。アスカのこともあるから、前線にいると取り込まれる危険も考慮して、切り札って扱いになってる。これが今んところ妥当だろうね。
西ではリディアの力はあんまり意味ないし。……というか、獣人達を虐殺とかリディアには出来ないだろうから、下手に向かわせても悲劇しかならないんだ。俺以上にミアエルとかお兄ちゃんとか止められないだろうしね。その結果が望まぬ虐殺とかだったら目も当てられない。
まだ、最悪魔族の部隊をぶっ潰しても良いとフーフシャーさんからお許しを貰ってるから(ただし妹は殺さないようにとのこと)、北に行った方がマシなんだ。
あっ、そのフーフシャーさんだけど俺と別口で吸血鬼の国を嗅ぎ回るらしい。
その方が都合が良いんだろう。フーフシャーさんは妹さんの子供を見つけなきゃならないが、俺は程よい破壊工作をして暴れ回る予定だからだ。これほど同行しにくく、良い感じの囮はいないだろうよ。
ちなみにだが、大勢の死者が出るような破壊工作はよろしくない。この行為の目的は、バルトゥラロメウスと吸血鬼の国から離れた地点にて交戦し、――会話するためだ。
無闇矢鱈に誰彼構わず殺しまくっては、たぶんバルトゥラロメウスは俺の言葉に一切耳を傾けないだろう。だから、くっそ最悪な、指名手配されるレベルの悪戯をして、なおかつ俺の言葉を聞いてくれることを言わなきゃならない。
……一応だが国内で話すことは極力しない。っていうのも、バルトゥラロメウスの能力は他者をその場に縛り付けるものであり、敵地内部で捉まってしまえば俺は殺されかねないからだ。
……特に地面に潜る以上、『潜伏』による脱出は難しくなっているから余計に捕まってしまうリスクは避けたいのだ。
無論、観察して話が通じそうだったら接触することも考えるけど。そこはケースバイケースだな。
んでー、まず潜入なんだけど……どうしようね。潜入場所は分かってるんだけど、どういう風に潜り込もう。一部ぽっかりと地面の草が禿げてるところが、『潜土』ポイントなんだけど入り口である以上、絶対下では見張りがいるんだよね。
実際、チェスターから聞いた限りだと一人以上は門番みたいなのがいるみたい。
……ジルドレイは十メートルほど下にある。だから『潜伏』の効果範囲外で、出入り口以外の侵入が難しいのだ。吸血鬼に化けているけど、見つかったら誤魔化すためでこの姿で動けるとは思っていない。チェスターの姿はどうかっていうと、それやるとたぶん問いかけられたらすぐバレる。主に声で。で、侵入したのがバレて警戒態勢になるかもなのだ。
悪戯するなら侵入したこと自体バレていないのが好ましい。まあこれは高望みし過ぎだな。
(大佐、どうする?)
《あー、うん、えー、コードネーム、タコ。吸血鬼が出てきたところで、その顔を真似て入るか……会話でも聞いて良い感じのなんか裏口とか探れ。他、決めたプランに沿うように》
(了解)
ということで待機してます。
焦りは禁物。さすがに一年誰も出てこないとかないからね。……ないよね?
……んで、幸い~一年後、なんていうことにはならなかった。
数十分程度待っていたら、出入り口からにょっきりと二人の吸血鬼が生えてきた。お兄さんっぽい見た目だけど、吸血鬼だから見た目は信用出来ない。
俺は地面に出来る限り埋まり、観察する(気をつけないといけないのは出入り口以外の十メートル圏内の地面下はスカスカな上に落下地点が割と高所+棘罠が設置されているらしいから落ちないようにしなければならない)。
「ったく、購入した山羊の数を一匹ちょろまかされてたなんてあるか?」
「全くだ。そのせいで俺らまで上の連中に怒られちまうし」
はあ、とため息をつく二人だ。
「人手不足だからってガキなんかに仕事を任せておくべきじゃないな。もしかしたら食っちまったかもしれないからな」
「違いない。じゃあ、気をつけてけよ。人狼共がこの辺を嗅ぎ回ってるだろうからな」
「問題ないだろ。たとえ見つかっても奴らじゃここには入れないって。昔見栄で作って住んでた城とかと違ってさ」
なんか昔、吸血鬼は普通に城とか家を地上に建てて住んでたらしいね。けど太陽の光が入るわ、人狼達には簡単に侵入されるわってことで今のスタイルに落ち着いたみたい。種族ごとにおける利便性とかって大事ね。それも命が関わるならなおさらだ。
俺も地中にいた方が何かと良いし、魔力が多いところじゃないと困るのだ。そういう意味では吸血鬼の生活スタイルって俺に合ってるんだよな。
吸血鬼の独りがぼふんと霧に変わり、森の奥に消えていった。
……ふむ。どうしようね。たぶん、もう一人は見送りみたいな感じですぐ戻るはず。体内に入り込んで行くのも良いが、そうすると処理(殺しを)しないといけなくなるからな……一か八か山羊に化けてみるか。
俺は『性質変化』と『体色変化』を上手い具合に使い、山羊へと変身する。
……ディテールは悪くはない。じっくり見られなければバレないはず。けど、……うーむ、俺なんかがこんな半端な山羊に変身して良いのだろうか。不死身じゃないのに。ちょっとそこが不安。
まあ仕方ないから、我慢しよう。
俺はテクテクテクとその身を晒す。
「ん?」
見られた――ので、俺もそっちに視線を送りバチッと目を合わせる。
《ンメェェ》
ラフレシアに頑張って山羊っぽい声を出してもらいました。
「……子山羊……の声にしては身体がデカいな……ここら辺に迷い込んだのか……?」
声の甲高さと身体の大きさに少々脳がバグってしまった吸血鬼さんだ。さてどうなる。こっそり俺を食ったらお前は色んな意味で終わりだが、食べずに入れてくれるなら見逃してもいいぞっ。
吸血鬼さんは……手をぺっぺっと振ってきた。
「しっしっ、あっちいけ。変なの入れるわけにはいかないんだ。……この辺でまともな山羊なんているわけないしな」
もーうー用心深いー。
ちくしょー、もうちょっと雑で良いと俺は思うんですよ。なんでそんなに真面目にやろうとしてんすか。この世界の奴って大抵、こんなんばっかー。
俺は腹が立ったので、わちゃわちゃとこの吸血鬼さんに纏わり付いてみた。
「おいおいやめろ――いや、邪険にしたのは悪かったって。――つーか、こっちの言葉分かってる時点で普通の山羊じゃないな」
《メェエエ!》
もう頷いちゃえ。
「魔物かよ。かと言って凶暴なわけじゃないんだな。良いか? ここは危ないからな。吸血鬼の領土で俺以外だと食われちまうかもしれない。だから悪いことは言わない。ここからは離れとけ」
やだっ、良い人っ。あー、駄目だなあ、この人殺せんわー。
……分かってたことだけど、吸血鬼にも普通の人や良い人とかいるんだね。……まあ、そりゃそうだよな。種族単位で悪い奴なんてそうそういるわけがない。文化とか受け入れられない部分はあるだろうけど、個性ってのはあるはずだから。レッテルなんて貼っちゃ駄目だね。
つっても、その種族と仲良くするつもりがない――むしろ戦うつもりなら理解しない方が良いんだろうけど。まあ、知っちゃったなら仕方ない。
よし、プランBだ! ――ちゃんとありますよ! プランBはちゃんとあります!
俺は吸血鬼さんの服をがぶっと噛んで、引っ張る。
「おいおいどうした」
《ンメェエ、ンメエエ!》
んで、一度離して、距離も取ってから振り返って《メエエエ!》と鳴く。
「…………呼んでるのか?」
ふうむ、と吸血鬼さんが悩む。警戒しているようだけど、俺の必死さに意を決したのかついてきてくれた。
プランC辺りなら人気のないところで襲って姿を奪うところだけど、プランBは割と平和的手段だ。ただし、俺という存在が侵入したという痕跡が残ってしまうのがネックだな。……これまた仕方ないんだ。だって吸血鬼さんは良い人で、なおかつ警戒心が強いんだもん。
俺は吸血鬼さんを連れて、少し歩く。
太い木の陰に回り込み、《メェエ!》と声を上げて顔を出す。で、すぐ引っ込めた。
「全くなんだってんだ」
ふう、とため息をつきながらも足取りや目つきは周囲を警戒しており、いつ襲われても対応出来そうだった。……実際襲うにしても不意をつけなさそうで大変だったかもね。
吸血鬼さんは注意深く木の陰から顔を出すと――そこには木に寄りかかって気を失った女の子がいた。ボロボロで傷だらけだ。
「お、おい!?」
吸血鬼さんがそんな女の子を見て、慌てて駆け寄る。そして顔をペタペタッと触り、ちょっとくいっと口を広げて牙を確認。手首を取り、脈を確認。吸血鬼は若干ながら脈があるからね。
「――流れの奴か……まだ生きているな。……仕方ない……ありがとな、山羊」
吸血鬼さんは俺の頭をポンポンして、女の子を抱え上げると連れて行く。山羊はそんな『俺達』を眺めながら、誰も見ていないのを確認して――特定のポイントに移動させる。『俺が今まで入っていた』身体である以上、寄生虫が宿って危険だ。だから離れるならばしっかり処理するか隠しとかないといけない。今回は隠しとく。バレないといいけどなあ。
――ということで、俺は『吸血鬼の女の子』に化けて潜入することが出来た。さーて、この潜入はどういう結果になるか。ドキドキだな。
次回更新は2月6日23時の予定です




