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ご飯をくださいな

 俺はビッグな狸の姿でアンサムがいる執務室に向かっていた。……犬じゃないかって? うるせー狸だよ、悪いかこんにゃろー!


 アンサムは、昼間はダイエットを兼ねた戦闘訓練を行っていて、夜は執務室でお仕事をしている。まあ、昼夜共にお仕事をしている場合もあるらしいけど。それにあちこち歩き回ってもいるらしい。


 とりあえず、今日は執務室にいるということで会いに行った次第だ。


 こっそり覗き見るとアンサムは良い感じの豪奢な執務室の机に一人で向かっていて、黙々と羽ペンという素晴らしいモノを使いながら、紙になにやら書いてる。


 小気味良いカリカリという音を途切れさせるのは申し訳ないが、こちらも遊びではない。


 ということで改めてノックして返事をもらったあと、ドアの隙間からひょっこり顔を出して……、


(婆さんや、飯はまだか?)


「おじいさん、さっき食べたでしょ――――どうした?」


 こういうジョークに乗ってくれるから俺、アンサムのこと好きよ。それでいて、ちゃんと真面目な用があるって分かってくれてるっぽいから、本当に助かるわ。


 机の前まで行き、座る。


(ちょっとお願いがあるんだけど……)


 かくかくしかじか、ぬるっちょっと説明するとアンサムは「うーん」と唸る。


「北にか。……バルトゥラロメウスと話すために……。あれに関しては師匠と相性が最悪で、かと言って師匠以外で吸血鬼側の強者と当てられないから、『仮に』吸血鬼達と戦うとしたら二の足踏むことになるんだよな」


 そうなんか。……まあ、確かにルイス将軍って燃費悪そうだもんね。戦いながら補給する感じなんだろうけど、それを封じられたら簡単に負けちゃうのは想像に難くない。


「だから相手して貰えるのは助かる。それに吸血鬼側の切り札である『鳥籠の魔神』を倒して貰えるなら願ったり叶ったりだな」


(アスカ……『鳥籠の魔神』って吸血鬼側の切り札なの?)


「町一つ消し飛ばせる決戦兵器だよ。実際、過去の人狼と吸血鬼の戦争で一度使われたことがあったらしいぜ。戦場のど真ん中に転移させて、人狼の部隊を一網打尽にしたとか」


 わぁお、恐ろしい。…………ん? そうやって使ったっていうことは、どうやったらアスカが動くのか知ってるのかな? ……それに仮にもアスカをそんな武器みたいな扱いすることをよくプルクラが許したな。


(また使われたらやばくないか?)


「本来なら使えないんだけどな。つーのも人狼が戦争に勝った後、『鳥籠の魔神』がいる土地を厳重に管理してるからだそうだ。まあ、今、色々とゴタゴタがあって管理が緩んでるせいで吸血鬼がちらほら侵入してるっていう報告が上がってるな」


 ……うーん、不穏過ぎるなあ。確実にアスカを『使おう』としているだろう。


 魔族と人狼が戦っている戦場のど真ん中に落とされでもしたら、とんでもないことになるだろうな。


「だから今の状況で、こっちとしても兵を無闇に送り込むことはしたくねえんだわ。かと言って、魔族を無視出来るかっていうとそうでもないんだけどな」


(そういやなんで魔族って攻めてきてんの?)


 フーフシャーさんは敵意なくてむしろ和平を望んでるっぽいんだよね。今北にいる妹さん(?)がなんか暴走している、とは聞いたけども。


《あっ、それは私も知りたいかも。詳しい話はタイタン側も知らなかったから》


 俺の頭ににょっきりと生えてきたラフレシアがそう言う。


「あー、それなあ……あんまり気分の良い話じゃねえんだわ」


(それでも良いよ、頑張って聞く)


「ならいいけどよ。……どうにもフーフシャーの妹の子供が攫われたらしくってよ。半数が死んで半数が未だ見つかってないんだとよ。で、それを探す&復讐のためにこっちに進軍してるらしいんだ。だから魔王でも止められねえようなんだ」


 ――詳しい話は本当に胸糞が悪かった。なんでも人狼側の陣地に張り付けにされた子供の死体があったり――一度和平に応じて、やってきた妹さんに出されたスープに子供の肉が使われていたりともう外道も外道な仕打ちをしまくったらしい。


 結果的に煮詰まった憎悪はもはや洗い流せるモノではなく、暴走に近い状態になってしまったらしいのだ。


 フーフシャーさんの言葉もまともに聞けないほどのようだ。だからフーフシャーさんはこっちにきて、子供の情報を探ろうとしたらしいな。


 ……一番の問題は、まだ半数が見つかっていないことだろう。だから妹さんは希望も捨てられなくて、止まることが出来ない。……本当えげつないな。


「だから俺としては、子供を見つけたいと思ってんだ。一人でも生きていれば、もしかしたら止まる可能性がある。少なくともフーフシャーの話を聞ける状態になってくれれば、万々歳だ」


(そっちとしては最優先は、妹さんの子供を見つけること?)


「そうだな。魔族側が退いてくれりゃあ、そもそも兵を送り込む必要もなくなって当面、『鳥籠の魔神』の脅威に怯える必要はなくなるからな」


 プレイフォート側からすれば、一番はそこかあ。


(でも子供の居場所が分からない)


「そうだ。捜し物が得意な人狼が躍起になっても見つからない。……で、最後の隠し場所が……」


(……吸血鬼がいる領土か)


 ……あらまあ、なんとなく俺の役割が見えちゃったよ。


(……俺、潜入すべき?)


「話が早くて助かるな。つっても危険だから、断ってもいいぜ。別に『鳥籠の魔神』を倒す方でも良いしな。食糧を調達するのには時間はかかると思うが、約束は出来る」


(まあ、食糧調達は進めてくれると助かる。……ただ、潜入もやらせてもらうかな)


「良いのか?」


 アンサムにちょっと意外そうな顔をされた。


(うん。てか、まず吸血鬼側と敵対したいんだわ。だから潜入して、色々と破壊工作して、俺参上して、逃げて――どっかの戦場でバルトゥラロメウスと会って、『鳥籠の魔神』に安全に入れる方法を聞き出す)


「潜入中に会ったら聞けば良いんじゃねえか? 変身出来るんだしよ」


(出来たらするけど、敵地のど真ん中で相手を逃げられなくする奴と当たりたくないし。……まあ、他の奴から話を聞くのも良いけどな。『鳥籠の魔神』の起動方法を知るだけでも十分……とは言えないけど良い感じだし)


 もしかしたらチェスターが知ってるかもね。訊いてみようか。


 アンサムにする頼み事はこんな感じかな? あとは特にないはず……。またなんかあったら、やってこようか。でも、面倒事をギリギリに頼み込むのは迷惑になるから、ちゃんと事前事前の行動を心がけよう。


(そういや西側にもなんかする予定とかあんの?)


 一応、そこら辺も訊いておこう。


 するとアンサムがなんとなくバツが悪そうな顔をしてしまった。


「まあな。北のカーナーフ帝国が混乱に乗じて進軍してきてるらしい。だからこっちとしては共和国に加勢して戦争を終わらせたいと思ってんだ。軍を動かすのは本当に最悪の時だけだけどな」


(『共和国』に? 獣人側にじゃなくて?)


「うちは人狼と仲良くしている以上、獣人側に直接的な加勢をするのは難しいんだよ。西は他の亜人もいるが……別に率先して共和国と戦ってるのはいねえみたいだしな」


 政治的な理由で獣人側にはどうしても味方できないって感じか。まあ、人狼の件がなくてもプシェママの弁だと獣人側も形振り構ってない様子だし、下手に加勢するのは憚られるかもね。それになんか煽動している光の種族の奴ってもしかしたら悪っぽい感じらしいし、獣人とつるむなら慎重にせんといかんかも。


「一番はこっちが介入するんじゃなく、何かしらの方法で共和国と獣人達が一時的な休戦にでも持って行けたら良いんだが、何分、良い案がなくってな。……乱暴な方法としては獣人側の『神輿』の暗殺。……で、こっちの息がかかった『光の種族』に鞍替えってなところだな」


(ある意味穏便には終わりそうだけど、上手く行きそうにないな。まず、それをするための人材……暗殺は……暗部か……俺だろ? それで鞍替え用の光の種族って今のところミアエルしかいないじゃん)


「そうなんだよ」


 アンサムが申し訳なさそうに笑う。


 これに関しては、なんともはやって感じだな。見るからにアンサムとしても取りたくない手段……てか、俺らに遠慮してる感じだ。まあ、完璧に汚れ仕事だし、そりゃそうか。


 ……この案ってたぶんお姫様がちょこっと囓ってない? いや、むしろ頬張ってすらいそう。


(俺は北に行くから、すぐに行くのは厳しいからな。そこは待つか代替案用意しといてくれ。行く予定はあるけど順番は変えるつもりはない。ミアエルに頼むならしっかりとした護衛つけてくれよ)


「怒ってねえの?」


(別に。俺の能力は汚れ仕事に向いてるってのは理解してるし。ミアエルに関しても……俺は別に保護者じゃないし)


《いや、多少保護者面しといたら? 懐かれてる以上、そこら辺の責任は放棄しちゃだめだと思う。それにそんな放っておくみたいな態度を取ると悲しまれるよ》


 ラフレシアにそう言われてしまう。


(そう? だったら、ミアエルに頼むなら都度、誰をつけるかとか俺に通してくれ)


「分かった。…………助かる」


 アンサムに軽く頭を下げられた。


 ぷぷー、この王子様、狸に頭下げてら。――と、真面目な話の最中なので冗談はやめておこう。


(こんな感じかな。……あっ、なんか西側で耳寄りな情報あったら教えてくれると嬉しい)


「……お前が興味持ちそうな情報とか分からねえんだが。たとえば?」


(ミアエルの弟のなんか黒髪少年の話とか、…………なんか『神輿』とは別で戦争を裏で煽動してる可能性がある奴とかなんかの話があればなーって)


「前者はともかく後者はなんだそれ。そんなのがいるって確証があんのか?」


(かなりの情報通の人からアバウトに教えて貰ったからいないことはないと思う。んでその人が言うにはそいつのこと放っておくと世界が滅ぶんだってよ)


「スケールデカくね? 信憑性のねえ怪しい陰謀論にしか思えねえんだが」


 本当にそうだよね。でも、冗談じゃないかもしれないから困る。世界が滅ぶ原因がその『妖精の罪が産んだ存在』で結果が『人造勇者』によるものだという。そういや人造勇者について訊いてなかったな。後で訊いておくか。


(まあそんな気にしなくてもいいや。俺も見つけられたらハッピー、良かった嬉しいね、くらいにしか考えてないし)


「……確かに信憑性がねえとは言ったが、世界が滅ぶって言われてんのに、軽いなおい」


(深く、考えないようにしてるんだ)


《自称小市民精神だかららしい》


「そうか」


 ラフレシアの言葉にアンサムが苦笑する。なんだ、そのマジで言ってんのかこいつみたいな反応。犬とか豚とか狸になったりするけどな、俺は普通なんですよ。


(話はこんくらいかな。お邪魔だろうし、帰る)


「おう、またな」


 ということで話が終わったので帰ることにしました。あとはフェリスと……ミアエルにも声をかけとかないとかな。今日はそれなりに遅いので明日以降になると思うけども。

次回更新は1月16日23時の予定です。

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