魔法のお勉強!
ミアエルが目覚めてから、数日が経ち、完全に元気を取り戻すことが出来たようだ。回復魔法で良い感じに回復出来たみたいだな。傷とかも残っていないようだし、良きだ。
でもあまり無理をするのもあれだから、激しい運動はしないようにする。
というのもあって、今日はミアエルと一緒に魔法のお勉強をしたいと思います。
講師はもちろんリディア先生をお呼びしました。
俺とミアエルは、リディアに手をパチパチとする。
「先生、がんばりまーす」
(おねしゃーす)
「お願いしまーす」
場所は、城の訓練場の一角だ。ちょうど良い広さのところを貸し切りにしてもらってる。違う場所で兵士の方々が訓練されているけれど、……悪くは思われていないかな? ここ数日、リディアも通っていたみたいで強さが知れ渡ったみたいだから、許されてるっぽいな。
あと光の種族の子供と変な動物が魔法を学ぶというおかしな光景に興味があるっぽく、ちらちら興味深げにこっちを見ているよ。
ちなみに俺は人間(の姿を)やめてます。
(チャーミングな犬で失礼っ)
半円状の丸い耳に全体的にふかふか丸々としたフォルムが特徴的だ。毛色は茶色をベースに黒い毛が混じっている。目元が特徴的で、リディアとシナジーを持たせるために目元にアイシャドーっぽい黒っぽい模様が入っている。
元の生物となったモノの毛と皮は使っていない。『性質変化』と『体色変化』を駆使してそれっぽく見せているのだ。
小さくなるのが面倒だったから牛くらいの大きさだ。今はお尻を地面にぺたんとつけている。何気に手と手を合わせられるから、犬と言っても手をパチパチ出来るのだ。雑にだが物も掴める。
リディアがジッと俺を見つめてくる。
「…………タヌキじゃなくて?」
(犬だ)
「でも……」
(イっっっっっっっっヌ!)
「そっか……」
リディアが遠い目をしちゃった。
《酷いゴリ押しを見た。……まあ、狸もイヌ科らしいし》
そんなこんなありつつ、魔法のお勉強、開始だ。
「アハリちゃんは魔法についてはほぼ初めて、ということで根幹たる魔力について説明させてもらうね」
まず、ざっくりと魔力について説明してもらうことになった。
「魔力は、大まかにわけて二つの種類があります。まず大気魔力――今、空中に漂っている魔力で――これが基本的に魔法を形作る時に使う物だよ。それでもう一つが内在魔力、人それぞれに宿る魔力だね。魔法を使う際に重要なのが、この内在魔力で、これを大気魔力に混ぜ合わせて使います」
(混ぜ合わせる?)
「そう。実はそうしないと大気魔力を操ることが出来ないの。ちなみに内在魔力の比率は1以下でも十分かなん」
(少なくても問題ないんだ)
操るならもっと多いもんだと思ってた。
「操るだけなら問題ないよん。ただ、比率が低いとその造った魔法に自分もダメージを受けちゃうから、そうしないために、時として比率を上げてあげることが大事って感じかなあ」
なるほど、たとえば小規模ならともかく自分を巻き込むレベルの大規模な魔法となると、内在魔力の比率を上げて、自分にダメージがないようにする、みたいな感じか。
《ただ、内在魔力はそんな量があるってわけじゃないから考えて使わないといけないよ。……リディアは内在魔力お化けだから頭おかしい使い方出来るけど》
ラフレシアはそう補足してくれる。……うむ、レベル10000となるとやっぱり格が違うんか。
「それで、魔法を使うわけだけど……魔法の一番面倒なところは、魔法を発現するにあたって、魔力濃度を『発現する現象、物体に合わせて』調節しなきゃいけないことかな」
(……なんか一気に難しくなった気がする)
俺がそう言うと、リディアもそう思っていたのか困ったように笑う。
「言葉にするとどうもね。実際、見て貰った方がいいかも」
リディアは手の平を上に向ける。すると開いた手の上に、靄っぽいもの(最近、俺の視界に見え始めたもの)――これが魔力なんだろう――が集まっていく。溜まっていってすごく『濃く』なった。形は丸っぽい。
「《火》」
そうリディアが言うと、ボッと丸い形の火の玉が現れる。
リディアが即座に手をどけると同時に地面に吸い寄せられるように落ちていき(普通にものに火がついた時の挙動だ)、その途中で火が魔力に戻っちゃった。……火になっていた魔力の塊というか、濃度は多少流れつつも滞留している。
「今の濃度がミクロ的な現象を発現させるために使われる濃度だね」
(火の濃度じゃないんだ)
「火とか、氷とか、土とかそれぞれ決まった濃度があればなんか良い感じなんだけど、実際の分類はそんなんじゃないんだよねえ」
リディアがちょっと残念そう。……属性、良いよね。確かにないのは厨二的にはマイナスだ。
「分類は現象系。ここから濃度の上限下限によって、多少なりと細かい差異はあっても特定の現象が発現するっていうのはないかな。現象系は形は自在だし、内在魔力の比率を上げれば自分に食らわないとかの特徴はあるけども、安定感がなくって消滅しやすい感じかなあ」
(火の他には……気体とか?)
「そうだね……うーんと、区切っているけど、あくまで区切っているだけで……水とかだと気体、液体、固体で濃度が変わってくるんだよねえ。粒子的な動き方で決まってくるとは思われているけど、そこら辺は難しいから省くね」
そうだね。粒子っていうと……量子力学、不確定性原理的なものが混じってくると俺の頭では理解出来ん。
「それで――そうだ、一旦、ざっくりとした分類の話をしようかなん。現在の魔法の種類には今言った現象系、他には物体系、空間系、法則系の四つがあるの」
おっ、なんかそれっぽくなってきたぞ。
現象系は今説明してもらったから良いか。
物体系は、いわゆる固体を発現させる魔法だな。鉄とかなんかそういう塊を出す感じ。安定感はあって消えにくいけど、追加効果を与える際に融通が利きにくいっていう弱点があるっぽい。それと消えにくい故にレジストされやすいっていうのがあるな(現象系はレジストされる前に消えるから『免疫』を得られにくいみたいだな)。ただ、魔法って相手に近いほど制御権とか奪われて消されやすいらしい。けど、物体系は安定感があって、相手にくっついてもすぐ消されないらしいからぶっ刺すとか叩きつけるとか文字通りの物理的に扱うのが良いみたい。レジストされやすいけど、されにくいとか、ちょいと混乱するな。
空間系は……いわゆる拡張空間全般だな。拡張した空間も便利だけど拡張した空間の外壁とかを破壊すると爆発するらしいから、実は使いどころが少ない系統であるらしい。ただ、魔物とかはこれを活用していることが多くて、良い感じに異次元とかと作って肉体を収容したり、アントベアーみたいに巣を大きくするために使っていたりするみたいだ。俺は割と覚えていた方が良い部類かもな。
んで、法則系が、リディアいわく割と重要であるらしい。これは目に見えるものじゃなく、その上、単体で発動させるものではないようだ。
いわゆる物体や現象に命令、ルールを与えてその通りに動かすことが出来る系統らしい。
「たとえば、今やった火は、火として発現させても、普通に燃えるだけだよね? そこに真っ直ぐ飛んで行く、っていう命令を与えることで、『ファイアーボール』みたいなものになるわけ」
(なるほど、そうやって『魔法っぽい』ことが出来るんだな。……あれ? でも、魔法って濃度によって発現するものが決まるんだろ? んで、法則系も濃度が決まってて……どうやって命令を付与すんの?)
「その場合は先に法則系の魔法を使っておいて、火を発現して混ぜられるようにするか、その逆かなん。一度発現、発動すれば濃度はあまり関係なくなるから、そこで混ぜる感じで」
うーん、思ったより面倒くさいな。
(なんかあれだな。魔法って……なんていうか、プログラミングみたいな感じがする)
俺がそう言うとリディアが笑う。
「認識としては合ってるよ。スキルは効果が決まってるけど、発動がかなり速く威力も強いアプリで、魔法が一から組み立ててあらゆる動作をさせることが出来るけど、時間がかかってしまうプログラミングみたいな感じ。そういう意味では実戦で使うならスキルの方が断然良いの」
そりゃそうだろうな。毎回一から小難しいことして造り上げるより、すぐさま使える力の方が良いわけだ。つっても、普通の生き物はスキルをそうポンポン得られるわけじゃない。だから魔法を使う必要性がある、と。
……そういう意味では俺のチート具合には感謝だな。
「ただ、毎度毎度、時間をかけて魔法を使うのは正直、実戦に不向き過ぎるから魔力の特徴を用いて、色々と短縮するべきかなあ」
(短縮?)
「そう。まず魔力の性質としてこの世の万物を『模倣』することが出来るの。それでそのための情報を蓄えることが出来るから……その情報を引き出す、もしくは情報のストック、って言えば良いかな――そういうのを予め用意しておいて魔法を使うのが一般的かなん。で、それを使うのが詠唱とかそういうの。――擬似的なスキル化、みたいに思ってもらっていいよん」
(ふへー)
なんか奥が深いな。……いや、深すぎるな。覚えてもすぐには応用出来そうにないわ。リディアもそこんとこは分かっているようで「まあでもこれは応用だからね」と付け足してくれた。
「今回は、魔法を使ってみるところから初めてみよう」
(頑張るぞー)
俺は前脚を握って、身体を傾けながら腕を上げる。
魔法ってのは、かなり難しいものだ。何が難しいって、『覚える』必要があるってこと。濃度やら内在魔力の比率やら、――スキルと違って反復練習が必要な技術だ、これは。
確かに、これは学がないと上手く扱えんわな。多少、個人によって扱いやすい系統に適性みたいなものもあるらしいけど、あるからって簡単に使えるようになるわけではないようだし。
《だから魔道具って便利だし、研究されてるんだよね》
そうラフレシアが言うように魔道具っていう外付けスキルが自在に使えるようになれば、人類は発展するだろうね。だからこそ、多少なりと抑制しなきゃならないんだろうけど。もし魔道具が扱いやすいものになれば、魔物は駆逐されてしまうだろうから。
そんなことを考えている俺だが、火の魔法をちょっと扱えるようになったよ。そんでもってちょっと実験と称して、『性質変化』のスキルと合わせた結果――全身を炎上させることが出来た。
(ファイヤーイっヌ!)
俺の全身の毛が炎へと代わり、煌々と燃えている。しかし、燃え尽きることもなく、俺にダメージを与えることもない。でも、他の人にはダメージを与えるし、足元の地面は焦げ付いてるので注意が必要だ。
こんな姿になったから、周りから一際目を引いてしまっている。ちなみにミアエルはすごい笑ってるよ。
「これは、なんとも……」
《あれだ、日本童話『カチカチ山』のウサギに燃やされたタヌキ》
「そんな元ネタが……」
リディアとラフレシアがなんか言っておりますが、俺は狸じゃありませんー。犬ですう。
しっかし、この形態、割と便利かもな。火で炙れば大抵の敵にダメージ与えられるし、有効的な手段だ。……分裂した触手くんたワームくん達にもこの効果を一時的にでも与えられたら、破壊工作に磨きがかかるな。毒以外の嫌がらせ手段を持つのもいいかもね。
それになんかこう、色々してたら本来手に入らなかったスキルとかも手に入れられるかもだし。
さて、そろそろ火を消すか。
『性質変化』と同調しているから、変える要領でやれば火も簡単に消える。俺の身体は元のもこもこ丸々に戻るのであった。
ふー、はしゃいだから休憩休憩(疲れとか感じないけど)。
俺はぺたんと座りながら、ぼーっと辺りを観察する。ミアエルも魔法の訓練を真面目に頑張っている。俺と違ってこんな無茶出来ないから、地道に反復練習をしている。幼女に対して……なんというか格好悪いけど、少しだけ優越感があるぞい。
……つっても、うーむ、魔力の集め方が速いし、綺麗だな。俺はそれなりに出力的なものがあるおかげか、濃い感じにはすぐ出来るんだけど、かなり大雑把な感じなんだ。濃さにもムラがあるし。細かい調整が出来ないから、繊細な魔法はまだ使えない。たぶん『魔力操作』のスキルを手に入れても、そこは変わらないかも。いわゆるそこら辺の適性がないっぽいんだよね。
だから俺が将来的に光魔法を使えることはなさそう。
光魔法の使い方について訊いてみたんだけど……やっぱり難しそうだったんだ。
どんな難しさかっていうと、光魔法って魔力を散らす効果があるんだけど、その関係上、発現した瞬間に自分が操っている魔力を含めて消しちゃうらしいんだ。
どういうことかっていうと、魔法って規模によって大気魔力の大きさを決めて、発動――発現、みたいな感じにして使うのが普通なんだ。で、この発動して発現って、いわゆる点火したみたいなもんで、一点に火をつけてぐあーっと残りの魔力に広がるっぽいんだよ。練度が上がれば、一気にボッと変えられるらしいけど、限度がある。
だから、光魔法を使う際は、自分のその『限度』をしっかりと把握した上で、『分けて』発現しなきゃならないらしい。
なんか前言ってたけど、光魔法の手順は発現、収束、発射っていうのを踏まなきゃならない。さらに光魔法はやっぱり性質上、発現していられる時間もかなり短いらしいから(魔力の供給も出来ない)、手順を素早く行わなければならないんだ。最悪発射する前に手元から消えて、内在魔力だけ無駄に消費しちゃったってことになりかねない。
これを聞いで、あっ、無理だわってなったね。少なくとも魔法をちゃんと練習しない限りは使うことは夢のまた夢ということだ。
だから光魔法を使える人というのは、すんごいということなのだ(そしてティターニアさんがヤベえってことが改めて分かった)。
光魔法のスキルを得たところでそう簡単には……いや、一連の動作を行ってくれる可能性がわずかにあるか? でも、スキルの動作にかまけた動きは、駄目だって聞くし、うーむ。
「あっ、アハリちゃん」
俺が考え込んでいると、リディアが近寄ってきて、俺のお尻を指さす。
「お尻の下から煙上がってるよ」
(わぁお)
地面が熱せられていたのだろう、俺のお尻の下から黙々と煙が上がっていた。いやん、燻されちゃってる。香ばしい匂いが辺りに…………やべえ、ルイス将軍がこっちを見ている……!
消さなきゃ、食われちゃう、食われちゃうよ……!
(リディア、鎮火して鎮火ー! 俺、美味しく食べられちゃうかもっ)
「そんなアハリちゃんを食べようだなんて……」
《……マスター、ちょっと触手をお尻に生やしてみない?》
「……ちょっと小腹が空いたなあ」
なんか内と外から不穏な声が聞こえてきたんですけどー!
いやー消してーいやー助けてー。
俺は必死になって、自分のお尻をリディアに向けてフリフリする。お尻の毛はチリチリと燃えかけている。――んで、ちょっとミス。お尻を振ったことで、若干延焼しかけた。
……一応言っておくが、この火は魔力とか関係ない二次的なものだから俺には消せない。発動して、その結果、違うモノに起こった変化は管轄外になるということだ。
ちなみに落ち着いているように見えるが、めっちゃ焦って暴れてます。
「わっ、わ、落ち着いて――――うーんと、よし、ミアエルちゃん、お水!」
パタパタ暴れる俺をリディアが魔法を使って抑え込み、ミアエルになんか頼んだ。
「うん! 《水玉になってぶよんぶよん》!」
なんかミアエルが面白い詠唱をすると俺の近くに大っきな水の塊が玉状になって現れた。それは地面に落ちると中々の弾力でぼよんぼよんと跳ねて留まる。
俺はリディアにその水玉にお尻から突っ込まれて、なんとか鎮火した。
じゅう、と音が鳴り、俺のお尻の火が容易く消える。
ふいー、一安心だ。なんか「くっ……」とか《……あー》とか残念そうな声が聞こえるけど、知ったことではない。俺を食べようとするでないよ。これでも危険生物なんですよ?
俺はペコペコとリディアとミアエルに頭を下げる。
(ありがとねー)
「どうも。ミアエルちゃん、アハリちゃんがありがとう、だって」
「どういたしまして」
ニコッと笑いかけてくれるミアエルだ。
良い子だ。そして何気にミアエルに助けられている俺である。
……これだと駄目なんだけどなあ、とそんなことを思いながら、改めて魔法の勉強をするのであった。
次回の更新は1月9日19時を予定しています。




