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進化するぜー

 王都の郊外よりももっと外側の森に来ているよ。ベアーアントの林ではない。あそこは何気に人の手が入っているから、草木とか背が低いし、枝葉も歩くのに邪魔になるのはほとんどない。


 でも、そこより外側の森はそういうのがほとんどないから、もうほんと鬱蒼としてる。最低限ある道から外れると、地面は草に飲み込まれて、下手すると膝辺り――場合によっては腰まで達するほどだ。


 平地なのに高低差も何気にえぐいんだよね。べこぉ、ぼこぉ、ぼこぼこぉ、みたいな感じでぶっとい木の根とかがせり出したり、折れた倒木やその株が苔むしたり、地面と一体化して高低差を造り上げてるっぽい。


 目線に木の枝とかあるのも、うざったいね。あと、背の低い木が結構あるんよ。


 それと基本的にここの森の木って細いんだよね。だから密集していることが多くって枝葉が縦横無尽に頭の上を伸びているせいで、昼間なのに暗い。


 そんな道から外れた整備もろくにされていない森だからこそ、誰も来ないということで。


 つっても、このままじゃ俺はともかくとして他の人は大変だから、リディアにちゃちゃっと雑に整備してもらった。


 木々をぶっちり抜いて貰って、どすんと平らにして雑に作ってた。けど、それにしてはかなり綺麗な空き地が完成だ。


 ……リディアって、ほんとなんというか……大抵のこと出来るから、甘えたくなってしまうな。……ただ、こう何でもかんでも頼むともし何かの理由で離れた時とか苦労しそうになるから、あんまり頼り切りにならない方が良いんだよな。


 ……うーむ、チート、というか力を持つ人間に身を寄せる理由が理解出来た気がする。


 こうして、村や町、ひいては国が作られていくんですね。


 世界の、そんな真理が分かった今日この頃だ。


 さて、俺はリディアを中心に村も町も国も作る気がないので、ほどほどにしよう。


 ――いや、もうちょっとリディアに頼っちゃうか。知識面で。


(リディア、リディアー。俺の進化先に『ジト』って奴があったんだけど、なんか知らない? ラフレシアが言うには、王種っぽいんだって。王種のなんか名前って、伝説系のなんかあれらしいじゃん?)


 リディアは皆が座る観覧席をこしらえながら、視線を上に向けて考え込む。


「ジト……ジト……、……私が思いつく限りでは『奇術師ジト』かなあ」


(奇術師? ……人?)


「一応。チェコの伝説に出てくる奇術師でそういうのがいるんだよね。もっと詳しい話は私が読んだ本とは別にあるらしいんだけど、そっちは手をつけなかったなあ。――それで、『奇術師ジト』はある意味ではアハリちゃんらしい進化先かもね」


(ほーん?)


「簡単に説明すると、変身能力に長けてる印象かなあ。自身はもちろんのこと、他人も簡単に別の何かに変えちゃうことも出来たらしい。それと動物も操ってたりしてたかなん?」


 まんま俺の能力の発展型みたいな感じか。それに他人も変身させるかあ。その上、動物も操れるとなると攪乱に特化してるんだろうか。


「こんな感じかなあ。もっと聞く? 逸話とか」


(今はいいや。時間が出来た時にでも、また)


 そういう知識は持ってても意味がないだろうけど、心が豊かになって失いかけた子供心を再燃させてくれる。だからヒマがある時、是非仕入れたい。あと、その追加効果で妄想が捗るのだ。


 ただ、今回はジトは選ばん。まだ王種になるわけにはいかない。少なくとも俺はあと、五回は変身を残しているのだ。……この意味が分かるか?


 そう、すごい楽しいってことだ。


 出来うる限り、変身しまくってやるのだ。だから王種にはなりたくない。


(そういえば、リディア? 魔物って進化すれば身体大きくなるみたいな感じじゃん?)


「まあ、一般的にはそうだね」


(なら、アスカって実はデカかったりしたの? 俺の脳内では普通の女の子のイメージだったんだけど)


「うーん、どうだろ。ずっと一緒にいたわけじゃなかったからなあ」


《最後に見た時は、普通の人間っぽい姿をしてた。吸血鬼は大体、人寄りだから大きな変化はなかったんじゃないかな。人狼はそんな感じのはずだし》


 ラフレシアがそう継ぐ。


 つまり、技術的なものを強化していったって感じだろうか。回復に関しても魔法を基礎にしていったのなら、別に俺みたいに本物の血肉を摂取する必要はなかったわけだし。


《それか肺を空間拡張していたから、そこにもしかしたら『収納』していた可能性はなくはないかも》


(ああ、そういうことも出来てたんだっけか)


 実はアスカはすごいデカかったかもしれないわけだ。でも、対峙したイェネオの能力からするにデカいと不利になるだろうから縮めていたって感じだろうか。


 ……うむ、身体を小さくするのに、ちょっと危険だけど体内の空間拡張も考えた方が良いのかもね。


 俺は悶々と考えながら、豚皮を脱いで、元の姿に戻る。


『ピュアキュア』というのは、全身が白い分厚い皮膚に覆われたゾンビだ。様々な機能がある尾をいくつも生やしている。それは人を救うのに使えない手術道具となっている。


 テンタクルの頃からある背中の無数のフジツボ状の突起からは、刺胞触手が生えている。この細い糸状の触手に触れたものは痛みにのたうち回ることになるのだ。


 んで、基本的な触手には所々、牙のような針がついており、たぶん相手の皮膚に引っかけて逃がさないようにするためのものじゃないかな。まあ、最近使っている触手には牙針は危ないからくっつけてはいないんだけど。


 つぶらな瞳に、丸い口に牙がたくさん生えている。この腐った巨○兵みたいな口ってあんま使ったことないんだよね。食いついて離れないのには便利だけど、普段食いとかはかなり面倒そうだったし。でも、好きな口ではある。


 俺はそんなピュアキュアの肉体で片手を後頭部に当てて、もう一方の手を腰に当ててセクシーポーズを取る。


(どう?)


「えーと……」「気持ち悪いな」《キモイ》「思ってた以上に、やばいなって」「キモいな」「意外に珍味かもしれねえけどなあ」「…………」「触手が相変わらずエッチ!」「……想像以上に、なんというか……あれ、ですね」


 三者三様、色んなキモイという表現を含んだ感想をもらったよ。照れるね。


 ちなみに今の発言は、順番にリディア、スーヤ、ラフレシア、フェリス、アンサム、ルイス将軍、ベラさん、フーフシャーさん、王妃様だ。


 ラフレシアを抜いた前半四人は、俺が生まれた時からの昔馴染み(?)で後半三人は、あんまり接点がないから来たのが意外かもな。


 ルイス将軍は、どっかから話を聞きつけて野次馬として来たっぽい。斬り落とされたはずの腕は、マジで再生してて細いけど完全に生えてる。ヤバいね。しかも俺を食料として見てる……。なんだ、この感覚は……これが、被捕食者の恐怖……?


 ベラさんはなんとなく呼んでみた。近々お話してみたかったし、良い機会かもって思って。俺のこと怖がってたけど、強い人達が周りにいれば多少、安心出来るかなあって。ちなみに今はね、すっごいビビって震えてる。


 フーフシャーさんも普通に誘ったよ。……ちなみになんだけど「え!? そんなエッチなこと、見せてくれるの!?」って言われたんだよね。……なに、魔物の進化ってすごい助平なことなの? えーやだー、俺、露出狂じゃないんだけどー。けどまあ良いかってことで見せるんだけども。エッチなことしてあげられないし、これで喜ぶんならいくらでも見せるよ。


 王妃様はなんかお姫様に自分の代わりに見てきて欲しいって涙ながらに頼まれたらしいよ。最初は第三王子様に頼もうとしたらしいけど、ルイス将軍がここに来るってことでこれなくなって、王妃様に白羽の矢が立ったっぽい。


 王妃様と王子様が二人も王都から出ても良いのかなあ、って思ったけどなんか王様に息抜きしてこいって言われたっぽい。――王妃様はそういう訳でか最近は良く、訓練場に出向いてるらしいね。


 んでは、進化に移ろうか。


 俺の今、進化出来るのは、


 『グリム・リーパー』

 『フォールン・エンジェル』

 『マッド・ドクター』

 『バッド・ナース』

 『ジト』


 その中で、ラフレシアのおすすめなのは『死神ノ権能』というスキルにより分岐した『グリム・リーパー』と『フォールン・エンジェル』だ。


 どこがおすすめポイントかっていうと、たぶんこの二つの進化先は、魔法が使える可能性が高いということ。それぞれに特徴があって、『グリム・リーパー』が魂関連のスキルの伸びが良い――場合によっては命を操ることが出来るようになるかもしれない。それに魂を操るということはスキルも操れて、場合によっては複製、付与とかやれて、色んな幅が広がるかも。


『フォールン・エンジェル』は魔法能力の特化っぽいね。ラフレシアが言うには、光魔法も使えるようになるらしいから、攻撃特化なイメージがある。……ティターニアさんに近づくかもしれないから、妖精を生成出来るようにもなるかもね。強さを求めるなら、この進化だろう。


『マッド・ドクター』と『バッド・ナース』はピュアキュアの派生先だ。


『マッド・ドクター』は今生えてる尻尾の手術道具の強化、もしくは増加するかもしれないって。メスみたいな鋭いガチものの刃物とか使えるかもね。改造とか……武器人間……ああ、ロマンだ、実にロマンに満ち溢れている。是非ともフランケンシュタイン博士みたいな存在になりたいものだ。


『バッド・ナース』は薬品……いわゆる毒系特化……デバフ関連かもね。統合スキル『薬毒』なんて手に入れたから、いらん進化と思われるが、逆に毒、もしくは薬方面の力が伸びるのはありがたいかも。


(ラフレシア。……『バッド・ナース』になったら、こう、なんか……短距離のワープとか出来るようにならないかな)


《……それはないんじゃない? 空間系能力の関連性がないし》


(ないかあ。『マッド・ドクター』は電撃とか使えそうなのにな。幻覚とかも見せられそう)


《……? まあ、そうだね》


 でも、変なところに喚び出されて永遠と変な儀式とかしたくないしな。ないものねだりはやめておこう。


『ジト』は能力も分かったし、王種だし……これはなしだな。ちょっと興味があるけれど、その『ちょっと』で残り五回の進化を棒に振るのはなんだかなあ、って感じがするし。


 出来るなら先に進んで道化よりも王になりたいからな。


 さて、何に進化するかだが、…………目的とか生き残ることを考えると………………『マッド・ドクター』と『バッド・ナース』は残念ながら選べない。選びたいけど! 俺の趣味嗜好から是非とも選びたいけど!


 武器人間とかづぐりだいよおおおおおおおおおお!!!!


 ……………………涙を飲んで、『グリム・リーパー』と『フォールン・エンジェル』のどっちかにする。……ただなあ、これなあ、悪いってわけじゃないけど、名前の語感から格好良い、綺麗ってイメージがあるんよ。


 俺の進化経路を見て貰えば分かるけど、出来ればデロデロしたのになりたいのよ。何故って? そういうの大好きだから。モンスターやゾンビはデロデロしてなきゃいけないよ。綺麗なゾンビはそれはもうただのブードゥ教の方のゾンビだよ。俺に奴隷になれってんのか(被害妄想)! そんなことを思った奴はゾンビパウダーでもなめてろ馬鹿野郎(酷い暴言)!


 ……はあ。…………いや、まあね、ワガママ言ってもしょうがないのは分かってるんだけどさあ。今後のためにも、ちゃんとするべきなんだ。


 ……だから真面目に考えよう。


 まずどっちにするか。魂系――たぶんトリッキー特化か攻撃特化か。


 それについて、決めるための質問をラフレシアにしよう。


(ラフレシア、一つ答えにくいこと訊きたいんだけど)


《何? 答えるかは、ものによるし、下ネタとかだったら触手を一本食い千切る》


 こわっ。


(下ネタではない。……ティターニアさんの身体を手に入れた後ってさ、アスカに挑んだ?)


《…………》


 ラフレシアの空気が固まる。


 答えはほとんど決まっている。けど、確証が欲しい。


 ラフレシアがため息をついた。


《挑んだ。でも倒せなかった。……再生力が強すぎる上に、削っても周囲のものを手当たり次第……石も土も、なんでもかんでも取り込もうとして……逃げるしか出来なかったよ》


(そっか。ありがとう)


 だとするならば、やっぱり攻撃に特化し過ぎても駄目か。それに、もしティターニアさんと対峙したとき、純粋にあの人の存在に近づいたところで意味が無いかもしれないのだ。


 能力値なら越えられるかもしれない。そして、倒せるかもしれない。しかし、倒しては意味が無いのだ。俺がすべきことは『救う』こと。一瞬にして相手を塵にする力を有して、何の意味があるというのか。


 ……それにアスカにしても、たぶん『魂』をどう取り扱うかが重要になってくるはず。アスカ本人であれ、……今、吸血鬼の国を牛耳っているかもしれないプルクラであれ。


 ……だから俺は……、


(『グリム・リーパー』になる)


『確認しました。『グリム・リーパー』へと進化します』


 そう機械的な声が聞こえ、俺の意識は薄れて行くのであった。










 ベラは、ビクつきながら視線の先の魔物を見つめていた。


 アハリートという魔物は、かくんと顔を地面に向けて、進化を開始していた。


 怖い、だが、それと同時に興味深くもあって、目が離せなかった。


 魔物の進化は、まず見ることが出来ない。何故ならまず、進化が出来るレベルに到達するのが稀で、さらに基本的に無防備になってしまうため、それを知らない無進化の魔物くらいしか他者の前で姿を現さないからだ。


 そのため、魔物の進化を拝むことはまず出来ない。


 一応、持ってきていたノートにペンを走らせる。


 周囲の魔力が吸い寄せられ、アハリートを取り囲んだ。そして繭のようなものを造り上げ、覆い隠してしまった。さらに魔力が集まっていくが――繭が巨大化しないところを見るに、恐らく本体に吸収されていっているのだろう。


(……魔力で構成されるみたいですな。……つまり、進化直後は、とても不安定で……安定させるために、凶暴になる可能性が高いかもしれない、ということ)


 進化直後は、エネルギーの補給を行うために、手当たり次第動植物を食らうかもしれないのだ。ただ、その進化直後の精神状態や身体の強度如何によっては、そうならないかもしれない。ゆっくりと身体を正していく場合もあるのであれば、仮に地域調査を実施したところで、進化直後の魔物がいるかどうかは分からない。


(その点で言えば、アハリート殿は良くも悪くも、理性的であるが故に基準にはなりえないでしょうな)


 だから、魔物の行動において進化したか否かについてはあまり参考にはならない。行動に関することで判断するためには様々な魔物の進化を観察して情報を溜めていく必要がある。そしてそれはとてつもなく時間がかかるもので――少なくとも魔道具研究家であるベラがやれることではない。


(……拙者に出来るのは、今回の魔力濃度を計測して、その値に達した場合に反応する魔道具の作成をすべきでしょうな。……だけど進化するそれぞれの段階で魔力濃度に変化があるかもしれないから、その点を考慮…………やっぱり何度か進化をみなければいけませんなあ)


 しかし、魔物の進化は早々見られないというジレンマ。ただ、今回の記録は無駄にならないだろう。とにかく情報を溜めていくことで、いつか誰かのためになるかもしれないのだから。


 仮に自分の見たもの、感じたものが間違っていたとしても問題ない。トライアル&エラーで少しずつ進むのが人間であるのだから。


 そうこうしている間に繭が解かれていく。時間もそんなにかからないところ見るに、探して見つかるものではないのだろうな、と思いながらペンを動かすベラであった。











『『グリム・リーパー』への進化が完了しました。進化により『魔力感知』『魔塊』『呪言』『鬼胎』『死線感知』『ソウルオブサーバー』を取得しました。――『ソウルオブサーバー』が『死神ノ権能』に統合されます』。


 変化が終わり、俺の目が覚める。


 ……むっ、目線の位置が高くなっているな。身体を見下ろしてみると、やや太く長い腕が地面についている。……骨っぽいなんか硬いのが所々について……、いやこれは身体の全体を覆っているのかな? んでもって、その内部っつーか、筋肉とかは触手にほぼ置きかわっちゃってんな。完全に力を抜くと、ぐにょんぐにょんすることから、タコっぽくなっちゃってんね。うん、これ、ほぼ白いタコだわ。


 目もびよーんと伸ばして、カメレオンみたいに色んなところが見える……ん? なんかおかしいと思ったら、視界が三つありますね。『実際に見てみる』と額に目ん玉がついてるわ。


 その顔は鹿の骨っぽい格好良い感じのものに覆われていて、……まあ、なんというか『死神』っぽく見えなくもない。ちなみに第三の目のさらに上に『発光』するぶよぶよ玉があった。


 全体の形はゴリラっぽいかな? 二足歩行ももちろん出来るけど、四足歩行もしやすいみたいな感じ。


 尻尾は……うーむ、数が減っていた。『麻酔』の袋と針つき触手と『精神汚染』用の蕾っぽい触手はあるんだけど、蓮コラ触手と『発電器官』用の奴がなくなっちゃってた。蓮コラは別に良いんだけど、『発電器官』はどこに…………むっ、肩にそれらしいのが……あっ、出てきた出てきた、場所が変わったのね。それに両側に二本ずつあって、プラグが増量されてんね。


 連コラも良く見れば、手の甲にある骨にびっしり針が埋まっていたよ。しかも、これ、……うん、射出出来る。使い勝手が良くなったな。


 ピュアキュア時代の尻尾は他の所――俺にとって使いやすい場所に移ったりしたみたいだ。


 全体的に見ると、身長は三メートルほど。手をついていれば二メートルちょいか。横幅もあるから、それなりデカいだろう。


 少なくとも、視線の先にいるリディア達はかなり小さく見える。


「アハリちゃん大丈夫?」


 リディアがそう訊いてきた。


 ……うむ、デカくなったからスーヤ、フェリス、アンサム、フーフシャーさん以外は緊張してんね。……剣に手を当てられてるの怖いから、ちゃんと返事しないと。


「――だい、じょ――――!?」


 声、出た!?


 今、声出たよ! いつも、声を出してるんだけど、どうしても、うーうーと呻き声しか出なかったのに。まさかここに来て、声が出るとは!


「ごれ、ずご――」


「アハリちゃんストップ!」


 俺が嬉しさを言葉で表現しようとしたら、リディアにストップを食らってしまった。これには首を傾げてしまうが――――なんか、あれ? スーヤもフェリスも、アンサムも怯えてる感じが……それ以外の王妃様とかはもはや剣を抜いている。


 すごい殺気立ってるぞい。何故じゃ。


 リディアがジッと俺を見てくる。……なんかそういえば、視界になんか変な揺らぎがあるのが見えるな。それが濃くなって、俺の中に入り込んできていた。


 しばらくリディアが俺を見ていると、「あー」と声を漏らしてしまった。


「『呪言』と『鬼胎』っていうのを覚えてるね。たぶんこれが原因?」


《恐らく。……私の声はスキルの効果が乗ってない?》


「問題ないよ。……詳しい効果は分かる?」


《『呪言』は言葉の通りをよくする、法則系――それも呪い寄りの力かな。……これだけなら問題はないんだけど、『鬼胎』のせいだね》


(なんじゃ、それは)


 俺は心の中で訊いてみる。


《相手を恐れさせる効果を付与する、これも法則系のスキル。本来は武器とかに付与して、斬りつけた相手にほんの少しの恐怖心を与える力なんだけど…………この効果が『呪言』と合わさっちゃってるっぽいね。そのせいで、マスターが『喋る』と問答無用で相手に恐怖心を与えてしまうっぽい》


(なんじゃいそりゃあ!?)


 これは、ええーってなっちゃうのは無理ないと思う。


(レジストは?)


《されない。もはやそういう『普通の現象』になってる。……それが法則系の強いところで……駄目なところかな》


(うーうーとも言えない?)


《たぶん言ったら恐れられるよ》


 つまり俺は声を出すことすら許されなくなったと。


(…………これは…………ラフレシア、皆にちょっと失礼、って言って。感情を表現したい)


《マスターが今の感情を表現したいって。ちょっとなんかするみたいだけど気にしないで》


 そうラフレシアに伝えて貰った後、俺は振り返り、腕を振り上げると思い切り地面に叩きつけた。


(なんでだこんちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!)


《どんまいマスター》


「どんまいアハリちゃん」


 思いの丈を心の中でぶちまけた俺は、頭に出てきたラフレシアとリディアにポンと手を当てられるのであった。

次回の更新は未定です。

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