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分からせるために必要なこと③

 洞窟の中で、休憩することになった。


 侯爵令嬢ちゃんは、一人歩き回って警戒していた。疲れていないようだけど、頑張り過ぎな気がするなー。もうちょっと人を顎で使う感じで良いんでないの? 


 ――と、そんなことを思っていると先ほど不穏な会話をしていた数人の生徒達が緊張した面もちで目配せをして、頷き合う。そして、そろりそろりと集団から離れていき、穴の前で何やら悩んでいる侯爵令嬢ちゃんに近づいて行く。


 集団からは視界が通りにくい場所だ。何かあっても、たぶん事故に遭う侯爵令嬢ちゃん、本人がいなければ……まあ、事故で済ませることが出来るかもね。


(リディア、……そろそろかも)


(……。分かった。『もしも』の時はすぐに追いかけて、あの子の回収をお願い。私は、皆を外に誘導するから。――ベアーイーターに関しては臨機応変に)


 高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変に行くべきだろう。一応、洞窟に入る前にリディアやラフレシアにベアーイーターの上位種について聞いていたから……なんとか……出来ないかもなあ。なんか聞いた限りだと、さすがにバックアードやチェスターとかまではいかないまでも、俺と相性悪い可能性が高いっぽい。


 だから逃げられたら逃げる! いのちをだいじに! 


 少年達の陰に侯爵令嬢ちゃんが完璧に隠れてしまう。これがなんかエッチなあれだったら、口押さえられて陰に連れ込まれて、いやーんなことになるんだろうなあ。


 ……ただ、薄着じゃないし、革防具着ているから、引き裂けないし脱がしにくいよね。素手で革を引き裂けたら、そいつは人間じゃなくて化け物だ。たぶん俺みたいに皮被ってる。


「――!?」


 幸い(?)にもエッチな展開にはならず、叩かれるような音が聞こえてきて、侯爵令嬢ちゃんの息を呑むような声が聞こえてきて、そのまま転がり落ちてしまう。


 悲鳴は上げなかった。でも、上げたとしても、すぐに掻き消されちゃったかも。少年達が、声を上げたから。


「あぁあ! お、落ちた!」


「た、大変だ! イ、イリティが――隊長が、穴に――!」


 三人くらいいて、二人が叫んで一人はあわあわしている。演技の練習でも頑張ったのか、中々迫真の出来だ。顔を真っ青にして…………あれ、演技じゃない? もしかして、心臓ばっくばくかな? まあ、イリティと自分達の命を天秤にかけた結果だから、本意ではないのかもね。


 まあ、別にそんな葛藤があろうとどうでも良いけど。


 騒がしくなりかけているところで、俺は『潜伏』で地面に潜り、侯爵令嬢ちゃんの後を追う。


 難しいと思うけど、酷い怪我じゃないと良いなあ。即死も勘弁してくれ。


 大怪我だったら、最悪、俺の『侵蝕』で傷は塞ぐけれども……。あまり有用な手ではないからな。


 侯爵令嬢ちゃんは、ズザザザザと滑るように落ちて行っている。そして、ずああ、と止まった。……魂は、まだあるから死んではいないな。でも、音的にずいぶん物理的に削られただろうから、見るのが怖いなあ。俺、グロすぎるのは苦手だから。グリーンインフェルノ、序盤の序盤しか観れなかったもん。


 ――ワームとか『巣』はどうだって? ワームは虫だから拒否反応はあるのは分かるけど……『巣』は綺麗だろがい! バ○オRE:2のG成体の巣とか、見とれるほどだろがい!


「……ったく、なに、よ――」


 あっ、小声ながら喋れてる。


 顔面をすりおろされてることはなさそうだ。


 なので、俺は離れた位置に降り立つ。うーん、『潜伏』の高度制限に触れずにいて助かった。


 ここもそれなりに広い空間だったっぽくって、数メートルの高さからドスンと音を立ててしまう。


「――!? え!? ――あんたは……」


「うっ!」


 俺が来た、と集中線が付きそうな勢いでバッと顔を向ける。決まったぜ。


 すでに灯りをつけていたようで、侯爵令嬢ちゃんの頭の上辺りに、ぼうっと光の玉が浮かんでいる。


 ……んで、ざっと見た限り酷い怪我はなさそう。手足が変な方向に向いてるとかもない。いや、でもさすがにこういう時って捻挫とかしてるだろうから、俺に乗ってもいいよ、みたいなことやるか。


 俺は侯爵令嬢ちゃんに近寄り、くいっとお尻を振りながらジェスチャーで背に乗ってもいいよ、とする。


「……なによ」


 けど、侯爵令嬢ちゃんはすっくりと立ち上がる。……足をくじいた様子はなし。……もしかしたら、すぐに「いたっ」とか言う可能性も…………ないっすね。普通に足トントンしてるし。


(……この世界の人間って、あんなに滑り落ちても、怪我しないの?)


《普通は怪我するんじゃないかなあ。少なくとも、ほぼ無傷っていうのはおかしいと思う》


 ……頭を下にして落ちてったよな。でも顔面に被害ないし……滑り落ちてる最中に体勢整えて、ダメージ抑えたってことか。どんだけ優秀なんだ。なんだよー、俺がお近づきになる淑女って大抵、スペック高い気がするんですがー。


「つっ――」


 と、思ったら侯爵令嬢ちゃんが痛がった。おっ、常人っぽい反応だっ! 


 ……どうやら、手が少々、ずたずたっとなってしまったようで遅れて血と痛みがやってきたようだ。ぽたぽたと血が垂れる。


 これは、俺はどうしようもないなあ、と見ていると侯爵令嬢ちゃんはポケットからハンカチを取り出すと、キュッと手に巻いて止血した。


 ……ほんと、冷静……。


 そして剣を引き抜き、素振りする。……どうやら気に入らない様子で眉をひそめていた。


「痛みで少し反応が鈍くなるわね。…………で、これ、戻れるの」


 ふー、とため息をついた。滑り落ちた穴を見上げて、上がれないことをすぐに悟ると振り返って、暗闇に続く道に目を凝らす。


 さっきの道より狭くて、土とか多くてなんかの根っことか伸びてる。……いや、マジでなんの根っこだ、これ。地上って結構、遠いはずだから木ではないよな。


 ……今は、考えないでおくか。


「……奥まであるみたいだけど……ここも微妙に通り道っぽいのよね。一度、巣を経由しないといけない可能性も……」


「うー」


 なんだよー、俺を無視するなよー、と唸ったら、すっごい面倒臭そうな顔を向けられた。


「…………。……いや、本当になんでいるの」


「うー」


 でも、喋れないので唸るだけだ。あんまりラフレシアは使いたくない。察しが良い奴はすぐにティターニアさんの妖精だって思い至るかもしれないからな。この世界の奴らはどいつもこいつも優秀過ぎるんだよ。だから用心に越したことはない。


 それにたぶん、ここまで優秀なら『念話』を使えるだろう。


「うー、うー」


「……ここまで『まとも』に対応出来るなら……『念話』なら、まあ、通じるはずだけど……」


 またため息をつく。


「発動に魔力を食うし、繋げ続けるのにもそれなりの魔力を使わないといけないから、わざわざ貴重な内在魔力を消費したくないんだけど」


(そうなんだ)


《リディアみたいに気軽に使ったり、ずっと繋げ続けたりするのは異常なんだよ》


 いわく、それなりに鍛えた大人でも、使い方を覚えたとしても『使用』が難しいらしい。アンサムはしっかり鍛えるから使えるっぽいな。……んで、なんか普通っぽいのに普通に使えてるスーヤってやっぱり普通に強いのか?


 ……勇者の村にいる皆って基本的にレベル高いのかなあ。まあ、常にアンデッドの脅威にさらされてるわけだから、弱いわけはないのだが。


 つまりだ、この世は強いのって大事ってことだ。強くなくても、俺に魔力を消費する価値がなければ、侯爵令嬢ちゃんは歯牙にもかけてくれないわけだ。


 うーん、……まず、灯りをつけてみようか。


 俺は自分の頭頂部から、にゅっとチョウチンアンコウみたいな玉がついた触覚を生やして、そこから光を発する。


 ぱー、と侯爵令嬢ちゃんが出している光より強い光が辺りを照らす。


 これでどうよっ!


「うーっ!」


 バッと侯爵令嬢ちゃんに顔を向ける。


 えぇ……、みたいな顔された。


「……変な虫造るし、甲殻纏うし、挙げ句に頭から光出すとか、本当にあんたってなんなの?」


 そして三度目のため息だ。幸運逃げちゃうよ?


 信頼してもらえたのか、侯爵令嬢ちゃんは自分で造った光の玉を消した。そして小さく鼻息を漏らす。


「……手伝ってくれるってことでいいのね。……ご主人はいいわけ?」


「うー」


 とりあえず頷いておく。


 あれは放っておいても良いんじゃないかな? 


「……そっ」


 そう言って、歩き出してしまった。『念話』を繋げてくれた様子もない。


 なんだよー、会話しようぜー。


「うー」


 俺は侯爵令嬢ちゃんの後をついて行く。


「…………」


 でもー、応えてくれないー。


 俺は侯爵令嬢ちゃんの横について、見上げながら唸り声を上げる。


「うっう、うー、うーうう、うー」


「……何? 何かあったわけ?」


「うーう」


 首を横に振る。ただ、うーうー言ってただけです。


「なにそれ」


 侯爵令嬢ちゃんがもにゃっとした顔をする。笑いそうな、けれどそうでもない微妙な顔だ。


「……何故かフレンドリーだけどワタクシ、あんたの顔、踏んづけたんだけど……」


「う?」


 え? なに? 踏みたいの? 俺は侯爵令嬢ちゃんが唐突に誰かを踏みたくなる性癖の持ち主である可能性を考慮して、地面にコロンと横たわった。禁断症状とか起こされても困るしね。


「うっ」


「いや、『そうじゃない』から。なんで踏まれようとするの。変態?」


 望んで踏まれようとする変態は俺のご主人である、あのマゾです。俺はそんな性癖ありません。


(……あっ、でもザコって言う単語を連呼して欲しいかも)


《人それを変態と言う》


(違うやい、罵られたいんじゃないやい)


 クソガキのザコ連呼って貴重なんすよ。


「うー」


 踏むつもりはないようだし、とりあえず起き上がってみた。


「……」


 侯爵令嬢ちゃんがジッと俺のことを見つめてくる。不穏な空気とかはなく、むしろ肩から力を抜いていた。


「…………話してみて」


 そう、侯爵令嬢ちゃんが言う。


 おっ、もしかして『念話』を繋げてくれた?


(今日の朝ご飯は、生肉とリンゴを食べました)


「……なんの報告よ」


(俺の食べるものが割とまともかつ、平和に満ちあふれているということを伝えようと思った)


 敵意をもたれないとても平和な報告であったはず。ちなみに、俺は基本的に寄生虫とか怖くないから生肉を食べるようにしてる。あと、バランス良く野菜とかだな。一応、魔物だとしても栄養バランスをしっかり考えた食事にするべきらしい。健康的な肉体は、日々の食事から考えていかないとな。


「……本当にまともな感じに返してくれるのね。想像より語調がはっきりしてる……」


(何がまともか知らんけども、人間に近い精神は持ってる)


 精神は人間である、とは断言しない。そこら辺の説明面倒臭いし。


「見た目豚なのに」


(豚ほど人間に近い生き物はいないんだぞっ)


 俺が豚になっているのは、ジョークに近いところもあるが、他のことも色々と考えてなっているのだ。その一つに、豚の皮膚や目、臓器などが人間に近いから人間に化ける時、使えるかも思ったのだ。


 前世でも、豚の皮膚や臓器移植とか話が結構あるしな(俺が生きてた頃に実用化はまだされていなかった。豚本来が持つレトロウィルスの問題を何度解決しても次から次へとポンポン出てくるんだってさ)。


 そんな豚の身体を使って人間に化けられるなら、とっても安上がりになるだろう。


 俺は皮膚をそのまま流用しても拒絶反応とか特にないしな。


 あと、単純に相手の油断を誘いやすいし。今後、レパートリーを増やすために他の動物にもなっていく予定だ。出来れば、雰囲気的に弱そうな奴がいいな。何がいいかなー。


「なにそれ」


 侯爵令嬢ちゃんが信じてないように笑う。


 弱々しいけど、邪悪さがない綺麗な感じ。……うーむ、心が相当弱ってんのかしらね。まあ、仲間に殺されかけたわけだし、仕方ないのかもしれないけども。


(それでどうする? 仮にベアーイーターと遭ったら、逃げる?)


「……状況による。余力が十分にあれば、そのまま戦うけど……」


(別にそれでも良いけど、俺は全身ガチガチに固めてる奴には弱いからな)


 なんかベアーイーターの上位種には、そんなのがいるらしいよ。いわゆる弱点がなくなっちゃったやつ。それが出てきたら、逃げることを考えるべきだろう。まあ、頑張って酸で溶かしたりすればいけるかもしれないけど、時間かかるからやられる危険が増えるんだよなあ。


「あんたって基本的な攻撃力が低いの?」


(普通。力は強い方だけど、本来の体格とかは人間より多少デカくて重い程度だから、さらにデカい化け物相手には不利ってだけだ。触手があるから、それで蛸みたいな戦い方すればいいかもだけど)


「……たこ?」


 侯爵令嬢ちゃんに首を傾げられてしまった。


(ん? この辺って海とかないの?)


「なによ、『うみ』って」


(ラフレシア!?)


 どういうこと!? 侯爵令嬢ちゃん、ガチで知らないって感じだぞ。この近辺がすごい内陸部とかだとしても、絶対、情報くらいはあるだろうに。


《……あー、なんというか……この世界の根本に関わるから、詳しくは伝えないけど、この世界にはマスターが知ってるような海はないよ。塩湖とかはあるけど……》


(大丈夫なん? なんか環境的なあれとか)


《問題ないんじゃない? そこら辺のシステムは正常に稼働してるし……『制定者』も注意してるだろうし。手順さえ踏めば、全体に影響を与えられるようになる狭い世界だから、ここは》


 ……なんか色々とあるのね。


《……マスターが探してた『冒険者ギルド』がない理由の一つでもあるんだよね。この世界には冒険をするだけの旨味とロマンがどこにもないの》


 つまらない『箱庭』のような狭い世界、とラフレシアがそんなことを言う。


 ……この世界ってたぶん地球ではないんだろうなあ。その可能性は考えていたけれど。まあ、詳しくは分からないし、訊く気もない。


「……なんか違う声、聞こえた?」


 侯爵令嬢ちゃんが眉をひそめている。


(気にすんな。まあ、なんであれ、俺は触手を使って締め付けて甲殻を砕けるかもしれないし、強い酸で溶かすことも出来るから、何も出来ないってわけじゃない。柔らかい肉質部分に触れられれば、あとは好き勝手に出来るし)


「そうすれば、敵を支配出来るってわけね。……数の有利はそこで覆せるなら……」


 むーん、と侯爵令嬢ちゃんが考え込む。


 倒せるなら倒せるでそれに越したことはないんだけどね。俺としても上位種を倒せれば、進化出来るかもだし、今回の目的はそれだ。実際、侯爵令嬢ちゃんを助けるのはサブ目的に過ぎない。


 さすがにここまで来て見捨てるなんて真似、目覚めが悪くなるからやらんけども。


(戦う時って俺が前衛ー?)


「いや、その時は…………いや、あんたが前にいないと意味がないわね」


 そうよね。俺は敵に触れないといけないから後にいちゃ意味が無い。


(んじゃ、支援よろー。あっ、でも危なくなったら自己判断で逃げるからな。そん時は言うけども。うっうー! って唸るから)


「……なによ、戦う前から逃げる話とか。いくじなしね」


(生き残る方が何よりも大事よ。俺は相手を操り続けないといけないから、そもそも死んじゃいかんし。知性がある相手だと、俺を真っ先に狙ってくるだろうからな)


「…………それは、そうね……」


(なるべくそっちのことは見捨てないようにはするけども。でも、俺の限界はとんでもなく短いから気をつけろよ)


「……分かった」


 侯爵令嬢ちゃんは、小さく笑う。ちょっと嬉しそう?


「……出来ないなら、出来ないって言って貰えるのは、それはそれで助かるかも」


(普通は無理じゃない? プライドがあるだろうし。俺はそういうのを気にしないけども)


 侯爵令嬢ちゃんがゆっくりと歩き出したから、その横を共に歩いて行く。


「魔物だものね」


(割と気が楽)


 社会って枠組みを考えずにいられるのは、精神的ストレスが低くなるんだよね。俺は別に人間であることに固執してないし。そこら辺のプライドがないから、平気で豚とか犬になって、そう振る舞うし――場合によっちゃ犬食いだってするぞ。


(…………んで、一応訊くけども、人間としてプライドを持つお嬢さんは、戻ったらどうするつもりだ?)


「……戻ったら……」


 侯爵令嬢ちゃんを殺そうとした相手が何人かいるわけだし、そのことを無視出来ないだろう。少なくとも放っておいたらまた同じ事をされそうになるかもだし。そいつに悪意がなくても、――むしろ負い目があるし、侯爵令嬢ちゃんに黙ってられたら、いつそのことでどんなことになるのか、とか思っちゃって精神ストレスがやばいからな。


 何かしら対処しなきゃならない。


「……誰かは分かってるから糾弾するつもり。……先生なら話を聞いてくれるだろうし」


 教師のおじさんって優しいのね。――でもさ、その言い方だと、仲間は信じてくれないって言ってるようなものじゃない?


(仲間は信じてくれない?)


「…………。うるさいな」


(おーけー、黙る)


 踏み込み過ぎちゃったな。


 その後、無言でしばらく歩き続ける。……たぶん、この先に巣があるな。音が大きくなってきたし、魂も見えた。音の数は三体、魂は無数にあるけども一体の内にたくさん宿ってる感じ。たぶん卵か?


 とりあえずそのことを侯爵令嬢ちゃんに伝えておく。


「分かった。……索敵も出来るんだ」


(音と魂がある奴は分かる。ていうか俺は奇襲特化型だから、先に相手の位置が分からんとどうにもならんし。…………偵察行ってこようか?)


「そうしてもらえると助かるかも」


(了解)


 俺は地面にずぶずぶと埋まっていくと、侯爵令嬢ちゃんが俺をジッと見つめてきて、口元をもにょらせる。そしてなんとか一言、口に出した。


「気をつけて」


「うー」


 俺は頷いて、偵察に向かうのであった。








 ずずず、地面に潜って進む。


 侯爵令嬢ちゃんはその場から動かず待機している。


 ……こういう場合って、俺は大丈夫だけど侯爵令嬢ちゃんが襲われるパターンとかあるよな。まあ、対応は出来るだろうから心配することはないんだろうけど。


 しばらく進むと音と魂の発生源に辿り着く。


 こっそりしながら、地面から頭を出して、辺りを確認する。


 光を出すのが怖いから、目では確認出来ないけど……その空間にいれば音だけで広さとか物とかの位置を把握出来るからな。


 ……巣は結構、広い。ドーム状になっていて、天井もかなり高い。その中で、ベアーイーターが三体ほどいる。


 二体の大きさは普通のベアーイーターと同じくらいだ。だけど、全身甲殻を纏っている。……俺にとって最悪なタイプだな。しかも、そんなガチガチに固めながらも、普通のベアーイーターよりスムーズに動いてる。


《『性質変化』……違うかな。固いままスムーズに動けてるなら『仮想変質』のスキル持ちかも》


(ざっくり説明すると?)


《元の性質を保ったまま、違う性質を追加、って言った方がいいのかな? ――することが出来るの。固いまま、滑らかに動けるようになるとか》


(自分にとって都合の良い感じに変化出来るのか)


 チートかよ。上位種ってそんなばっかだよな。


 ……んで、奥にいるのが……たぶん『クイーン』だ。最奥でとぐろを巻いて、ほとんど動かない。……こっちも甲殻を全身に纏っていて隙がないな。……その甲殻は、周りにいる奴らより分厚く思える。そのとぐろの中には、無数の魂が見て取れることから、たぶん卵を囲ってるのか。


 あれが全部産まれると厄介だなあ。


 やっぱり今のうちに倒しておくべきなんだろう。


 ……ちょっと戦って無理そうだったら、逃げてリディアに頼もうかな。


 それが一番、確実だろう。


 さて、戻ろうか。顔を出しているせいで、向こうも感知してきたのか、警戒し出してきた。これ以上の観察は危険だ。地面に潜られて追っかけてこられでもしたら怖いし。


 ということで、一度、侯爵令嬢ちゃんのところに戻ることにした。









 戻った後も侯爵令嬢ちゃんは、特に変わりなかった。ただ、魔力の消費を抑えるためか、真っ暗闇の中にいたのは、なんていうか徹底してるなあと思った。


 そんでもって、侯爵令嬢ちゃんに俺が知り得た情報を伝える。


 これには侯爵令嬢ちゃんも唸ってしまう。


「……逆に皆をここに連れて来ない方が良かったのかも。集団戦をやるのに、最悪のタイプだ。対処を少しでも間違えれば、鏖殺(おうさつ)される」


(そんなに?)


「仮にその甲殻を全身に纏った奴が、ムカデの足を伸ばして、突っ込んできたら? たぶん『硬化』とかも持ってるだろうし、革の防具なんて簡単に引き裂かれる」


 あー、確かにそうかもな。しかも、普通の人間ってダメージ負ったら、そう簡単に回復出来ないしな。


(倒せる?)


「ワタクシは、『斬鉄』を使えるからダメージは与えられる。けど、ダメージを与えるために接近するのが難しい」


(じゃあ、逃げることを考えようか。俺が足止めの殿で――)


「だめっ!」


「う!?」


 やーん、耳がキーンてした。油断してるときに、大声出さないでよー。


(突然の大声よしてくれぃ)


「あっ、ご、ごめん……」


 侯爵令嬢ちゃんが、しゅんっと気落ちする。


(俺の逃げ性能は高いから心配すんなし。嫌がらせも得意だし……なんやかんやと上位種を倒すために来たからな。攻撃が通るならやれるだけやりたいんだ)


「……いや…………もし、もし……怒らせて逃げられて、外まで連れて行かれて皆に引き合わせたら、それはそれで問題があるから……」


 そこは問題なさそうだけどね。リディアなら瞬殺してくれるだろう。……あんまり力があることを知られちゃ不味いだろうけど、そういう緊急時なら仕方ないと思うしやってくれるだろう。


 つっても、それは言えないんだけどね。


(じゃあ、どうすんの?)


「ワタクシも、手伝う。ただ、支援に徹しさせてもらうから。チャンスがあったら切り込む感じで」


(良いんじゃない? んで、どうするか話を詰めようか。俺、作戦とか立てられんからよろしく)


「ええ……!」


 侯爵令嬢ちゃんが意気込む。……あんまり気張らないようにね。って言っても、たぶん大丈夫かもね。


 それじゃあ、二人で頑張ってみようか。

次回の更新は11月13日19時の予定です。場合によっては早くなるかもしれません。

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