分からせるために必要なこと①
リディアに多少、微調整されながら俺は教師のおじさんが戦うベアーイーターの一体に向かって行った。
教師のおじさんが侯爵令嬢ちゃんの代わりで、俺が六班の代わり、みたいな認識で良いのかな?
実際、ちょうど良く六班が今までいた方面にベアーイーターを流されてきたし。
ただ、俺はベアーイーターにはあんまり脅威に思われてなくて、特に問題なく頭に降り立つことに成功したよ。
とりあえず腹の下から触手を生やし、振り落とされてないようにしがみつきつつ、甲殻の間に覗く肉に触れる。
「!?」
ベアーイーターがそこで異変に気付くが、もう遅い。ぞぞぞっ、と黒い血管が瞬く間に広がり――抵抗する間もなく、その全身を俺の支配下に置かれてしまう。
んー、やっぱり普通の魔物だと『魔力操作』も大して使えないみたいだな。だからほんとさくさく『侵蝕』が成功する。
「うー!」
俺が唸り声を上げると、教師のおじさんがちらりと俺と――大人しくなったベアーイーターを見て、新たな生け贄を流してくれた。
俺は支配したベアーイーターの頭の上に乗りながら、向かってくるベアーイーターに突撃をかます。
雑にぶつからせ、揉みくちゃになりつつ、俺は支配するために新鮮なベアーイーターに触手を伸ばす。だが、野生の本能か何かしらの感覚器官に俺の異常性を感知したのか、俺の支配下においた奴と絡まり合いながら、俺へと顔を向け、顎肢を展開してぶっ刺してきた。触手で支配下においた奴に張り付いていた俺を引き剥がすように頭をグイッと動かしてくる。
うーむ、やっぱり『侵蝕』って柔らかい肉質部分じゃないと通りが悪いなあ。刺さった顎肢に『侵蝕』かけてんだけど、甲殻部分だと間接の薄めな場所からでも効きが悪い。
俺は引き剥がされ、地面に叩きつけられながらそんなことを思う。
あと、普通にベアーイーターって頭良いのね。
俺のこと安易に食べようともしないし、なんか叩きつけられた場所がどうにも支配下においた奴と今戦っている奴のちょうどいい隙間だったんだ。下手すりゃ二体の間に挟まれて、このまま甲殻でゴリゴリとすり潰されそうだ。
まあ、律儀に潰されるいわれはないから、そのまま地面に潜り込んで逃げつつ、死角から飛び出して脇腹に触手を張り付けて――『侵蝕』……をかけたけど、痛みに危機を覚えたらしくって、ぐいんっと慌てて身を捻られて逃げられてしまった。
中々に難しい。
こりゃ駄目だ、と思って、俺はそこらに散らばってたベアーイーターの死体の一つに駆け寄り、『侵蝕』する。雑にそれを操って、荒れ狂うベアーイーターに巻き付かせた。
死体だと逐次操らないといけないし、『遠隔操作』だとかなりぎこちない動きだけど……動きを阻害するのには十分過ぎる役目を担ってくれる。
二体の仲間に巻き付かれて身動きが取れなくなったベアーイーターの身体に触手を伸ばして――今度は逃げられないように背中に這い乗って、触手を巻き付けて張り付く。
そのまま二体目(死体はカウントしないでおく)の『侵蝕』を成功させる。
さて、二体いれば、雑に命令を与えれば、良い感じに抑えてくれるだろう。あとは消化試合だ。
《……なんというか、改めて思うけど、マスターって本当にえげつない能力してるよね》
(俺も改めて思うけど、そうだね。俺に対して一定の能力以下の集団は、完全にカモだな)
またやってきたベアーイーターを、もはや流れ作業で支配しつつ(これで三体目だ)、俺はラフレシアにそう返す。
最近、強い奴ばっかり相手にしてたせいで自信なくしかけてたけど、俺も多少強いよな?
……いや、強いっていうよりかは『厄介』なのか。
なんたって対処出来なければ、どんどん勢力を増やしてしまうのだから。
まあ、どれだけ勢力が膨れ上がろうと結局、『俺』を殺せば止まる集団だから、厄介の域を出ないんだろうけど。
(……そういえば『侵蝕』して支配した奴に、ラフレシアって入って操れるかな?)
《さあ? ていうか、それは出来たとしてもあんまり意味ないかも。私が入ってわざわざ操るより、ただ命令を与えておけばいいわけだし。それよりも私を正しく『運用』するなら魔道具を手に入れた方が良いと思うよ》
(やっぱそれが良いのかなあ)
アンサムから報酬を得た後、魔道具をちょっと揃えてみようかな。オーダーメイド出来るなら、身体の中に仕込めるようにちょうど良い大きさにするんだけど。
……そこら辺は、ベラさんに頼もうかな。なんかあの人、魔道具の研究家っぽいし。お城にいるかなあ。
五体ほど支配すると、結構邪魔になってきた。これ以上、増やすと逆に効率悪くなるな。
なので、ちょっと合間合間に余裕があったからベアーイーターの甲殻を引っぺがして、自分の身体に余すことなくつけてみた。
ふるあーまーぴっぐ、だぜっ。
「うっ! ――う? うー……」
あっ、でも、これ……想像以上に、う、動きにくい……。あっ、駄目だ、転ぶ……。
俺は、こてんと転んでしまう。
むむっ、手足の可動域は最低限ちゃんと確保すべきだな。
《何やってんの》
ラフレシアは四苦八苦している俺に、軽く笑う。
甲殻を減らして、それなりに動きやすくしたところで、次に殻がなくなったベアーイーターをとぐろ状にして肉体を癒着させる(内臓まで溶かして殺さないように注意する)。んで、他のベアーイーターを生きたまま溶かして、複数のワームに変える。それも甲殻つきの、ちょっと強そうな奴にしてみた(黒い血管が走ったクリーンな劣化タイプだけど)。
そいつらをとぐろを巻いたベアーイーターの中にしまっておく。あっ、口だけが出入り口だとあれだから、ちょっと点々と穴を空けて顔をだせるようにしておこう。
よしっ、これで簡易的な『巣』の完成だっ!
おおー、元気に動き回ってるぜ! この『巣』が気に入ったのか、時々、にょきっと顔を覗かせる愛い奴らである。
《ぐっろ》
うげー、とラフレシアが呻き声を上げてしまった。ちなみにそれは一般的な反応らしく、周りの……俺を観察していた六班と侯爵令嬢ちゃんはラフレシアと似たような反応してた。
『熟練度が一定まで溜まりました。スキル『外骨格』を取得しました』
おっ、なんか良さげなスキルを手に入れたー。
早速、むーっと力を込めて使ってみると――おぉ、身体にベアーイーターと似たような甲殻が浮き上がってきた。
……ただ、ちょーっと感覚的に消耗が大きい気がする。事前準備として纏うのは良いけど、肉体の補給が出来ない状況下で使う力ではないかな。
でも、これならゼノモーフごっこが出来るぜっ。
そんな風に実験する余裕が出来たから、色々と試してみると面白いことが分かった。まず、生きたまま生物をワームに変えると、どうにも魂が壊れてしまうようだ(前に荒くれ者達の屋敷を巣にした時、分かってはいた)。一応、倒した扱いになるため、俺のレベルが上がった(4体ほど倒して現在、43だ)。
それで『面白い』のは、相手を殺すとその肉体は丸々『壊れた魂の器』になるのだ。ここがなんとも絶妙なところで、魔道具のような『空っぽな魂』ではなく、『壊れた魂の器』になっているのだ。なんというか、アンデッドが持っている魂に近い。その上で、アンデッドには至っていない……言い得て妙なんだけど、生命力が満たされていない死んだ状態なんだ。正確にはこの状態は『空っぽの壊れた魂の器』だろうか。……うん、なげえから『壊れた魂の器』で良いな。
俺はそのことをラフレシアに一通り伝えてみた。
(ラフレシア、これはどういうこっちゃ)
《『壊れてる』っていう認識は合ってるよ。なんであれ、魂を持っている存在は、『死ぬ』と同時に魂の器が『壊れる』みたい。……これが厄介なところでね、仮にこの肉体を完全に修復して『復活魔法』を使っても、生き返らないの。あと、魔道具にも適応されるんだけど、バラしても『壊れた魂の器』がこびりついてきて、新しい部品として他の魔道具とかに活用することも出来なくなるみたい》
だから、『壊れた魂の器』は再利用が難しいらしい。魔道具を扱う際はこれがとってもネックになっているんだって。どうやっても捨てるしかないらしいから。
……これ、『死神ノ権能』の力で引き抜けるかなあ。
ちょっと試してみたけど――――出来そうだけど、今は無理だな。この魂を奪う――『奪魂』(?)は『魂支配』よりかは早く出来そうだけど、若干時間がかかる雰囲気がある。さすがにまだ流れてくるベアーイーターの対処をしなきゃいけないから、そこまで遊んではいられない。
《仮にマスターが空っぽな魂に自分のスキルを転写出来るようになっても、壊れた魂には出来ないから注意が必要だよ》
(……この『壊れた魂の器』ってアンデッドに近いから、そこら辺のスキルなら詰め込めるのかな?)
《もしかしたらね。『壊れた魂の器』は『適性』の問題でアンデッドのスキルしか受け入れられなくなってるのかも。試したことはないけど。そもそも『壊れた魂の器』は活用しにくいから、すぐに廃棄するからさ。あとアンデッドのスキル転写だけど魔道具ばっかりに色んなスキルを転写しようとしたけど、生き物には試そうと考えもしなかったし。……覚えてもいなかったし》
ぽそっと最後に呟いたけど、そこは気にしないでおく。
それに『それ』は割と残酷なことだから、ラフレシア――妖精達はあんまり好んでやろうとはしないだろうね。
仮にやったところで、アンデッドを造るだけだしなあ。普通のゾンビが出来上がるだけだし……俺に襲いかかってくるだろうから、わざわざ造る必要性はないだろう。
ただ『壊れた魂の器』を持っている=死んでいる、とはならないんだよな。実際、ワーム達には生命活動があるし。んで、あいつらがアンデッドであるかというと……そうでもない。現在は『空っぽな壊れた魂の器』になっているから、仮に支配を解いても俺には襲いかかってこないんじゃなかろうか。
あのワーム達は『変な魂を持って生きている変な生物』みたいな感じだな。この世界ではかなり珍しい生き物なんじゃないかな。まあ、だからって活用法があるかと言えば、逆に何も出来なくなってるからどうしようもない存在ではあるんだけど。
でも、造った以上は俺はあいつらを――愛するのだっ。
(あのワーム達、いっぱいなでなでしようか)
《そんなん間近でやられたら私の精神がガリガリ削れるからやめて。せめて寝てる時にして》
ラフレシアのガチの拒絶であった。
残念だ。可愛いのに……。
でも、仕方ない……。
ということで、また新しいベアーイーターが送られて来たので、ワームくん達を突撃させまーす。複数のワームを身体にぶちこんだ際の挙動を確認するぞー。
――そんなこんなでクリーンな劣化ワームくん達はぷちぷちとその儚い命を散らせていったのだった(ちゃんと何体かは生きてベアーイーターの中に入れたよ)。
やっぱりワームを複数体入れると競合しちゃうみたい。それと劣化ワームは大きすぎる相手だと、身体全体を動かすことが出来ないみたいだな。
ちなみにだが、俺自身は肉を蓄えて巨大な身体になって動けるけど、大きさには限界がある。大体、縦横4メートルくらいが限界みたいだ。それ以上だと動かすには『遠隔操作』が必要になるみたい。だから無闇矢鱈に大きくしたところで意味がないようだ。
『『遠隔操作』の熟練度が上限に達しました。派生して『五感共有』、『スキル共有』を取得しました』
あら、なんかすごいスキルを手に入れちゃったぞ。
……ちょっとだけ使ってみようか。
『五感共有』!
ワームくん達の視覚を――――――はい、目がないので見えませんね。音は……若干、感じるけど、…………うーん、感じる程度かあ。なんとなく相手の位置は掴めるけど、精度は低いな。ただ、逆に俺の今見ているものや音を見せて、誘導は可能だからそっち方面の使い方が主だな。
むしろ、この場合はベアーイーターとかの方が良いかな。視覚と聴覚は良いとして…………皮膚感覚は……うーん、駄目だ。これは単に『侵蝕』しちゃったからなのか、俺に皮膚感覚がないからなのかどうなんだろう。ここら辺はもうちょい実験しないとな。
それと『スキル共有』は……………………うーん、これもぶっ壊れって感じじゃなさそう。俺のスキルを使わせることが出来るけど、発動した際の効果が著しく低い(『侵蝕』を使ってみたけど、かなりノロノロな侵蝕速度だった)。『適性』も関係してくるのかベアーイーターに至っては、俺のスキルはほとんど使えなかった。
俺はベアーイーターのスキルらしきものを扱えたけど……やっぱり元の効果より低そうなんだよなあ。それに、いつもは覚え立てでも、そのスキルの使い方は分かるのに相手のスキルの使い方は、いまいちわからなかった。
遠隔だからそうなのか……まあ、補助程度に考えておくかな。何かしらで統合スキルになれば効果も上がりそうだから、そっちに期待だ。
さて、こっちも落ち着いてきたし、なんかリディア達も色々とやっている様子だ。
どうやら六班を編成し直しているようだな。
そのための話し合いをリディアや侯爵令嬢ちゃん、六班の皆でやってるみたい。
リディアがおどおど演技をしながら、話し始める。
「そ、それで私が小隊長を務めさせていただきます。それでまず、とりあえず最低限のベアーイーターの知識共有を……」
けれど、そこで黙っていられない侯爵令嬢ちゃんだ。
「待ちなさいよ! あんたが小隊長ならワタクシは何!?」
「待機で」
「!?」
ざっくり、真っ直ぐ、はっきりそう言われて侯爵令嬢ちゃんはたじろいでしまう。脅しにかかろうとしたところがあるんだろう。けど、リディアはあえてこの時はビビらず、目線も逸らさずにしかもほぼ間を置かずに言ったのだ。
そして侯爵令嬢ちゃんが口を開く前に言う。
「イリティさんは、『緊急時』に備えて見ていてください。それが重要なことは分かるはずですよね?」
「ぐっ――」
侯爵令嬢ちゃんの顔が赤くなる。この煽りには、よほど身に染みているのか言い返せない。
「それではお願いします。まず、皆さんにベアーイーターについて――」
「――っ。そんな悠長なことをしているヒマはあるの!?」
「ありますよ。『あの子』は優秀ですから。むしろ、時間が経てば余裕が増えていきますから。……あの子は信頼出来ます」
(ぐへへ、だってよ)
そう言ってもらえるのは、うれしー。
《よかったねー》
ラフレシアも雑にそう言ってくれるのも、これまた嬉しいモノだ。前だったら《はんっ》とか鼻を鳴らしてただろうし。
侯爵令嬢ちゃんが俺をキッと睨み付けるように見てくる。なので、横顔を向けつつ、プリティなお尻をフリフリしてみた。
「――! くっ」
この煽りは、侯爵令嬢ちゃんの堪忍袋の緒にダメージを与えた。
《いいぞーもっとやれー!》
ラフレシアはとってもご機嫌だ。
と、六班の一人がおずおずと手を挙げた。
「えー、あー、あの……あの魔物は……なに――なんですか?」
おっ、ちょっとお上品な言い方にしてくれたぞ。リディアに対して多少の敬意が生まれたのだろうか。リディアが微笑みを浮かべる。
「あれは豚に見えますけど、擬態しただけの全くの別物の生き物(?)です。体内に虫を飼って、それらを駆使しながら、相手を支配するのに特化しています」
「虫使い?」
「そうですね。かなり強い支配能力を持っています。ですが強力故にかなり危険です。あの魔物は基本的に人に敵意は向けませんが――あの体内はそうではありません。あのワーム以外にも体内に寄生虫を持っているので絶対にあの子の力が及んだものには近づかないように。――それで魔物全般に言えることですが、強力故に危険であると同時にそれが弱点になることがあります。……さっき、あの子がたぶん冗談で甲殻を全身に纏って転んだのを見ていたと思いますが――」
リディアがそう言うと、六班の皆がクスクスと笑う。でも、それはさっきリディアが転んだのを見て笑った邪悪なものじゃない。
なんて言えばいいか分からないけど、結構綺麗な感情を元にしているね。
(ラフレシアー、あれって面白かった?)
《面白いっていうより、可愛かったよ》
(そっかー)
ペットがコロコロしてると可愛いのと一緒か?
「――外骨格を纏っていて、防御力が高くなっていてもその弊害があります。動き辛くなるのは目に見えて分かりますよね。それに気門を出さなければいけないために、位置がとても特定しやすくなっています。――それで皆さんが頭を潰した後に側面を焼くのは、ベアーイーターのその気門を塞ぐためでもあります。そうしないとずっと息をし続けますからね」
その気門って部分から呼吸するのは虫の特徴らしいね。別に甲殻纏ってなくても、ついてるらしいけど……。
「ふんっ」
侯爵令嬢ちゃんが「そんな当たり前のことっ」的な感じに鼻を鳴らしていた。けど、六班のほとんどの子が感心したように声を漏らしていた。
それを見た侯爵令嬢ちゃんの眉根が寄ってしまう。
「あんた達、知らなかったの!?」
「え――あ……」
これには六班の皆がバツの悪そうに目を逸らしてしまう。
「こんなの常識じゃない! これは命がけの魔物討伐なのよ! ワタクシ達は――」
「もちろん常識ですが」
リディアが遮った。
それほど大きな声じゃなかったけれど、侯爵令嬢ちゃんが息継ぎするタイミングを見計らってスッと言葉を入れたのだ。
「――っ」
絶妙過ぎて、息が詰まったのか侯爵令嬢ちゃんは二の句を継げなくなってしまう。
しかも、リディアはすごい笑顔だ。――なんかこええ。
「そういう情報のすり合わせももちろん大事ですよね? 勝手に『当たり前のこと』として情報共有をしないで、死地に行かせるのは『常識』でしょうか?」
「――う――……くぅ――!」
侯爵令嬢ちゃんの怒りのボルテージが溜まっていくが、リディアの言い分にぐうの音も出ないのか、言葉を口に出来なかった。……怒り狂うと思ったけど、聞き入れて納得はしてるし、意外に殊勝だね。
「なので少し黙っていてください。出来ればイリティさんは、私の説明を聞きつつ、『あの子』を見てやってください。『もしかしたら』があるかもしれないので」
「……!」
リディアにそう言われ、侯爵令嬢ちゃんが歯を食いしばり、拳をぎゅうっと握った。痛いとこ何度も突っつくねえ。
怒りにぷるぷると震えながら――それでもやっぱり言い分には納得しているのか、俺の方をギッと見つめてきた。
本当に、聞き分けは良いんだな、あの子。正論なら真っ向から受け入れるタイプか。意識はかなり高いみたいだな。だから伸びているんだろうけど。でも同時に、相手に自分と同等の能力や努力を『当たり前』に求めちゃうタイプなんだろうか。
(それにしてもリディアって何気にレスバ強いってか、普通に強めの言葉で威圧することあるよね)
《優しいし優柔不断ではあるけど、やるときはやるからね》
確かにヤる時は怖いくらいにヤるからね。一応魔法使いなのに、バックアードを近接でのしてたし。あれはマジで怖かった。
(それは別として、俺ぁ、相手sageは良くないと思うんすよね!)
《えー、ちょっとくらい良いんじゃない? ……踏みつけられて暴言吐かれた時のこと許しても良い気持ちになったし》
それはカタルシス感じちゃったからでは?
――ただ、侯爵令嬢ちゃんを黙らせるのは違う部分でも効果的だったのは言うまでもないんだけど。
六班の皆は、今のでリディアを一目置くようになっていたし。
それだけ侯爵令嬢ちゃんは『強い』存在だったってことだろう。
……だから、その地位が下がるのは少々、怖くもある。
古今東西、煙たがられてる権力者がその力を失うと大抵悲惨な目に遭うモノだ。
……今回はそれをわざとやってはいるんだけどね。これもお姫様の要望だ。
なんか、ある行動に誘導しやすくするためであり、今後の『意識を縛る』ためのものでもあるんだって。
侯爵令嬢ちゃんじゃなく、他の皆の。
いや、どういうことだってばよ。これについてはお姫様は教えてくれなかったんだよな。
なんかこわいわー、お姫様、こわいわー。
――俺がここにはいないお姫様にビビっていると、リディアが六班の編成を終えて、戦線に復帰するところだった。
「…………」
――そんな六班を――明らかに意気揚々としているのを見つめながら、侯爵令嬢ちゃんはとても悔しそうに……どこか悲しそうに唇を噛んで見つめていたのだった。
――これ、もう少しで終わらないかなあ、と俺はそんなことを思いつつベアーイーターを退治してレベルを44に上げるのであった。
次回更新は10月31日19時を予定しています。




