マゾにクソガキを引き合わせてはならない
魔物の討伐は、次の日の夕方になった。
今日も今日とて豚である。
人になろうかなーと考えたんだけど、お姫様から聞かされた『作戦』を遂行するためには、人よりも動物のままが良いと思ったから豚のままだ。品種は昨日と同じ大ヨークシャーだ。よく見る白色(見る人によってはピンク?)のやつ。
そこはどうでもいいか。
んでね、なんかねー、お姫様に依頼されたんだけどねー、今から会う侯爵令嬢が危険な目に遭う(かもしれないって、『たぶん』的な感じを強調していた。確実な『計画』ではないのかな?)、ギリギリな感じに救って欲しいんだって。すぐ救うのはNGだってよ。なんでもその子、かなりのなんというか……クソガキらしくって、人をぞんざいに扱うとどうなるか思い知らせて欲しいんだってさ。
最悪死んでも良いって。お姫様はそういうこと言うから怖いよなー。
まあ、そっちは俺にとってサブミッションだから気軽にやろう(リディアは気張ってた)。
今日は魔物の討伐をやってレベルを上げるのだ。
俺のレベルは41だ。本当は40だったんだけど、クレセントの友達(?)がいらなくなったので、処したら上がったのだ。ちなみに二人ほど牢屋を貸してもらって、そこに突っ込んでる。いずれ人間に化ける時に皮膚が必要だからな(貴族なので身バレが面倒だから顔は変えてある)。
スキルはこんな感じかな?
形態:ピュアキュア
属性:『寄生者』
最上位スキル:『死神ノ権能』
統合スキル:『※侵蝕』『※潜伏』
通常スキル:『※怪力』『卵胞血虫』『※振動感知』『※聴覚強化』『※水泳』『自己再生』『毒性操作』『※気化散布』『※吸血』『※走行』『※絶叫』『※粘液』『補助脳』『遠隔操作』『擬態』『分裂体』『部位生成』『神経毒』『触手爆弾』『営巣』『麻酔』『骨成形』『発電器官』『発光』『精神汚染』『四足歩行』
感情スキル:『人心』
色々手に入れたなあ、って思う。
あっ、そういや『死神ノ権能』についてリディアに訊いてたんだった。
『死神ノ権能』は魂関連のスキルを統合されたものだ。んで、最上位スキルっていうのは取り込んだ個々の能力――もしくは一点集中でかなり強化されるスキルなんだって。最上位スキルって大体そんな感じらしいよ。統合されるとき、属性も追加されてるし(属性におけるマイナス要素はないらしい)、たぶん、それでブーストされてるんだろうね。
魂関連の能力は大体使えるらしい。ただ、適性がない場合だと無理だって。俺の場合は『魂回収』が出来ない感じかな。
んで、最上位スキルには特殊効果なるものがあって、大量の魔力を消費する代わりに防御不能な効果を発動出来るんだって。
――ただ、俺はまだ使えないみたい。それを使うための内在魔力を有していないんだって。
解放されていないから、リディアもちょっと分からないみたい。
ただ、ちょっと多く魔力を消費する特殊効果っぽいものがあるらしく、それは分かったから教えて貰った。
なんか相手の魂を生きたまま引き抜くんだってよ。
こわっ。
ただし、特殊効果ではなくあくまでちょっと強い能力なだけだからレジストはされるんだってさ。
でも、魂を引き抜いても廃人にはなるけど、相手は死なないらしい。理由は知らん。魂について細かい説明が必要で長くなりそうだったから。
……効果的には、吸○鬼のキスみたいな感じか? そういえばあれって小説版と映画版で雰囲気変わってるよな。小説版だとするする地面を移動する感じで、あんなスタイリッシュに飛んでるイメージないんだよな。魂を口で吸う場合はガチキスするっぽい描写もあるし。どっちも好きだけれども。
それは良いとして、今日退治する魔物についてだ。
ベアーイーターなる存在だ。
なんでもアントベアーの天敵で、巣に潜り込んで根こそぎ食らい尽くしてしまうらしい。
放っておくと大惨事になるため、定期的に退治はしていたようだが(主要産業だからクレセント政権時でも王妃や宰相がやりくりを頑張ってはいたらしい)、どうにも数多くなってきたようで付近に上位種か繁殖用の巣が出来たのでは、と睨まれたらしい。
そして、調査の結果、とある郊外の洞穴をねぐらに繁殖していたようだ。
ベアーイーターってどんな存在なんだろうって、アンサムにざっくり聞いた感じだと、なんか蛇っぽい感じらしいんだよね。ただ、なんかがしゃがしゃする鎧? みたいな付属物があるらしい。
(どんな魔物なん?)
詳しく知ってるかなと思って、リディアに問うと首を傾げてしまう。
「最近の外の魔物についてはあまり……管理してないと数世代で形がまるっきり変わってきちゃうから……」
そりゃ魔物だからそうか。種族として安定してても進化とかで大幅に変わるかもだし、進化以外で突然変異も……なくもないのかな?
こういう場合は、ラフレシアかな?
(ラフレシア、どうなん?)
《……ちらっとこっちの話は聞いたことあるかな。確か、ベースが蛇のムカデっぽい感じだったかな》
……ヘビムカデか。……なんか恐ろしいな。
食べても大丈夫だと良いんだけど……。
俺がそんな心配をしていると、太陽が落ちかけて闇に染まりかけた中、ぽうっと小さく揺らめく松明の灯りが見える。五十人くらいかな? 強そうで偉そうな大人の男が一人いて、強そうでちょっと偉そうな女の子とそうでもなさそうな女の子がちらほらいる感じ。あとは若い偉そうでちょっと強そうな青年っぽいのと偉そうじゃなさそうな男の子がほぼ全員みたいな?
大体、てかほとんど貴族だな! 偉そうじゃない青年少女らに寄り添ってる男の子と女の子は、佇まいがイユーさんっぽいから執事かメイドさんかな? んで……その中で俺らをきつく睨み上げてる偉そうな女の子が……。
「遅いんじゃない!?」
たぶん件の侯爵令嬢ちゃんだろうなあ。
それなりに、がたいのいい男の子達に囲まれると小さく見えるけど、隣のメイドさんよりかは頭一つ大きい。すらりとした体型で、軽装の皮防具がとても似合っている。邪魔にならない程度にちょっとひらひらがついていたり、細かい刺繍が施されているのはご愛敬だな。
んで、顔つきは……んまあ、とっても悪そうっ。自信に満ちた意地悪い顔をしておりますわ。
「くっ……」
(耐えろリディア)
リディアが胸キュンしたようで、少しよろめいてしまった。この距離でマゾが反応するとは奴は相当なサディストということだろうか。
素晴らしく綺麗な金髪はとても長く、それを細めのドリルツインテールにしている。ドリドリしたツインテールをぽいんぽいんと弾ませて、踏まれたら痛そうなブーツでずかずかと地面を踏みしめながら近づいてくる。
侯爵令嬢ちゃんはリディアの前で立ち止まると、下から覗き込むような(リディアの方がちょっと背が高い)、値踏みの視線を向ける。
一応素顔を隠すためフードを目深に被っているので、この暗がりでは陰になって余計見えないだろう。
それが気に入らなかったのだろう、侯爵令嬢ちゃんが顔をしかめた。
「ワタクシの前で顔を隠すなんて無礼だとは思わないの!?」
「あ、あの、……私、アンサム王子に……これで、良いって言われて……その――」
リディアがいつもと違い、おどおどとした様子で手を擦り合わせながら言う。今日はこういう性格設定らしい。バックアードの真似とかでも思ったけど、演技派だよなあ。そういうスキル持ってたりするのかな?
「あら、そう――それなら、仕方ないわね……」
そう言って、クルッと振り向いた――っていうか、低い位置にいた俺は見えてたんだけど、足払いをリディアに仕掛けやがったよ。すぱん、って言うぐらいの鋭いやつ。
「わっ!?」
リディアがどてんと尻餅をついて、そのまま後ろに一回転して俯せに丸まってしまう。……受け身取ったのかな? なんか芸術的な転がり――いや、これはっ。わざとだな! やりやがった!
遠巻きに見ていた貴族達の何人かから笑い声が聞こえてくる。俺の耳でなくても、微かに届くくらいだだろう。……ああ、リディアめ……笑われるためにあんなに転がったのか……。
「あら、どうしたのかしら?」
侯爵令嬢ちゃんが肩越しに振り返る。
リディアはというと、丸まりながらふるふると震えている。息が少し、荒い。やばい。ちょっと快楽感じちゃってるよ……。
「――突然転んで、大変ねえ。ぬかるみにはまっちゃったのぉ?」
遠巻き貴族達のクスクス声が大きくなる。や、やめるんだっ! 仮にもアンサム王子が派遣した魔物使い(という名目)なんだぞ! 苛めるな! 喜ぶだろ!
「うー!」
俺は居ても立ってもいられなくなって、リディアを庇うように侯爵令嬢ちゃんとの間に身体を差し込む。
「…………これが貴方の魔物――――く、ぷっ――見れば見るほど完全に豚じゃない! あははっ、鈍くさそうな貴方にお似合いねえ!」
「うー!」
なんだと完全な豚って褒めやがってこのやろーやんのかーおらーん! 的な感じにブイブイ鼻を近づけていったら、蹴られたね。横っ面、どこーんって。
「ううー!」
ずざーっと俺は滑るように転がる。俺って蹴られることに定評あるんかな。
侯爵令嬢ちゃんが鼻を鳴らして嘲笑う。
「汚い顔を近づけないで欲しいわ。貴方に触れられるほどワタクシの脚は安くないの。――まあ、特別に、ブーツに触らせてあげたけど。感謝して?」
ついでにブーツの靴底を拭くように俺の顔をグリグリと踏んできた。いやん。
《マスター!?》
これにはラフレシアもびっくり。
「う、うー……」
俺はぷるぷる震えながら、なおも挑戦的な目で侯爵令嬢ちゃんを睨み見上げる。しかし、侯爵令嬢ちゃんは俺に一辺の脅威も感じていないようで、見下したような目で見つめてくる。
「何、その目…………。……。……ふんっ、何もしないの? ……だったら、ちょっと重くて固いくらいの豚じゃないの。どこかの露天で買ったのかしら? 主人を守るくらいちょーっと頭が良いらしいけど――――ただのざこじゃない」
「うー!」
「あははっ、いっちょう前に怒ってるの? おもしろーい! じゃあ、もっと言ってあげる。ざこ、ざこ、ざぁこ、ざぁああこ!」
「うぅぅううううう!」
俺の怒りの震えが、頂点に達する。しかし、豚の俺には何一つ手を出せない。言われるがまま、言葉の暴力を受けるしかなく、ついに、涙してみる。それが侯爵令嬢ちゃん、そして周りの嘲笑を煽るのであった。
《マスター……。…………な、なに、あい――》
ラフレシアが何やら魂の中で声を荒げている。怒ってくれようとしているのかな?
――いや、それよりも……、
(ざぁこ、いただきましたぁ!)
ひゃっほおー、これはなんとも素晴らしい。まさかこんなコテコテの悪いクソガキがいるなんてっ! FUUU! 最高だぜ! 良い物みれたー。
とかなんとか俺が思っていると――、
《おい》
(ん?)
ラフレシアが、ドスの利いた声をだしたんだけど。なんで? こわっ。
(どうしたのラフレシア? 怖いよ?)
《いや、私の方が怖いわ。今、泣いてんじゃん。悔し涙流してんじゃん。なんで内心、喜んでんの? 肉体と精神の乖離が激しいんだけど》
(これぇ? 感情を感じるよねー。嗜虐心めっちゃ煽るよねー。ふふっ、リディアに向かったであろう精神ダメージを半分以上引き受けたぜ!)
(くっ――アハリちゃんめ――でも、これはこれで――くっ、ふぅっ……)
古の魔女の精神が紛れ込んできたが、無視だ。構うとそれはそれで快感を増幅させるからな。まあ無視してもそれはそれで楽しむのが、この古のマゾなんだが。
(それよりこんな見事なクソガキ初めてみたんだけど。おもしろーい)
どうやら相当なサディストなのは間違いないようで、俺がぷるぷる震えて怒って、うーうー言っていると愉快そうに笑って罵ってくるんだ。いやー、ここまで見事な子はいないね。
《……苛つかないの?》
そう言ったラフレシアはかなり不機嫌そうだ。いまなお続く罵倒にかなりお怒りのご様子。
(別に? 最初からそのつもりで弄られる風な感じに振る舞ってるし。……それに、まだ完全にこの子の人となりも分かんないし)
《……さいてーな奴でしょ?》
(完全にそうだったとしたら、『あの』お姫様がSOSださんでしょ。もしかしたら更生の余地有りかもよ?)
《そうかなー》
ラフレシアは半信半疑だ。
いやー、もしかしたらあるかもよ。だって吸血鬼が実はすごいワルじゃない可能性があって、俺の魂の中にいる妖精は、前よりなんか柔和になった感じがするし。この子、もしかしたらずっと敵対的な可能性もあったからね。……俺を庇うなんて本来しないはずだろうし。
人の奥底の内面はどうなってるか分からないし、どう変わるか分からんもんだよ。
変わらなかったら、その時はその時だし。
のんびり、罵られながら行こう。それに目的は俺のレベルアップだし、これはあくまで寄り道だ。結果がどうなろうと、俺は気にしない。
次回更新は17日19時の予定です。もしかしたら早くなるか、何か別の部分に差し込まれるかもしれません。




