強くなろう!
プシェケットに寄生虫がついてないのも確認し、串肉の代金もしっかり払って、とりあえず憂いは払えたかな?
そんでもって、数日なんともなしに過ごしていた。
で、その中で考えていたんだけど、これから俺は強くなろうと思う。特に弱点を補填する形で。
今回、俺の弱さが特に露呈した感じだったからなあ。魔法の対処が出来ないのがとにかく痛すぎる。魔力を見られないせいで、発動タイミングも分からないし、止めることも出来ない。挙げ句、魔法を使えないとダメージを与えられない相手だと、無力ときた。
もし、北に向かうとするなら最低限、魔法、魔力関連の力をどうにかして身につけたい。
ただ、アンデッドはそこら辺の技能の修得がかなり難しい。
だから進化するべきなんだろうなあ。
そう思ってラフレシアに相談したら、
《『死神ノ権能』関連の進化をするかもだし、それだと高確率で魔法を使えるタイプがあるかもよ》
と言っていた。
なんか魔物がする進化って得たスキルを効率よく使える形態に肉体ごと変化するんだって。だから、まだそのスキルを上手く扱えない状態なら、それをある程度使えるようになるんだってよ。んで、『死神ノ権能』はティターニアさんの代理を(一応名目上)するためだから、魔力の扱いに特化した形があるかもしれないんだってさ。
というわけで、進化するために戦うことにします!
とりあえず今のところ、暇だしね。アンサムに会いに行って、なんか魔物が多いところとか教えてもらおー。
……え? 暇じゃないだろ? ミアエルのお見舞い?
しーまーしーたー! 毎日ちらっと顔出してるし、プシェケットに会いに行った日だって城を出る前と戻ってきてすぐにしましたー! でも、まだ目覚めてないんですぅ! 逃げてるとかそんなのないですぅ!
いざとなったら、今だってリディアにリードを握らせてるし、無理にでも連れて行かれるだろう。
ちなみにだが、容態は安定しているし、いつまでも目を覚まさないなんてことはないようだ。
それで話を戻すと――、アンサムの居場所を色んな人に訊いて、運動やら訓練しているらしいのでそっちに出向く。
訓練場につくと、雄々しい男共が隊列を組んで槍を振るっていたり、模擬戦、個人でのトレーニングをしていた。うーむ、なんとも暑苦しい。
物々しくもあるここで、豚連れた魔女とか場違い感すごいな。
あっ、でも、場違いな人が他にもいた。
ドレスを着た女の子――セレーネ王女だ。用意された椅子に座って、訓練を眺めている。その隣には変わらずイユーさんが侍っていた。
視線の先には――やっぱり、アンサムも……いたけど……、あれ? ルナ王妃がいるね。でも、あっちはドレスじゃなくって、パンツスタイルで上も最低限の防具をつけて、動きやすそうな上着を着ていた。
しかも見学じゃなくて普通に模擬戦してるし。……なんか楽しそう。
まあ、そっちはいいや。
どうやら俺達は、当たり前だが相当目立っているので、アンサムもすぐに俺達に気付いて駆け寄ってきた。
普通王子様に駆け寄らせるべきじゃないんだろうけど、俺は作法なんて分からんから、どうしようもない。リディアも特に気にしている様子もないし。
金髪イケメンと化したアンサムが俺の前にやってきて、一言。
「……なんで豚なんだ?」
(豚になりたかったからだよ!)
魂の繋がりはもうなくなったけど、アンサムは念話を普通に使えるみたいだから、聞こえている前提で返す。
ちゃんと繋げてくれたみたいで、苦笑されてしまった。
「そうか。――それで、どうしたんだ?」
何かあったから尋ねてきたとすぐに察してくれた。本当に優秀な王子様で助かるぜ。
かくかくしかじかと説明すると、うーん、と唸りながら軽く腕を組んだ。
「討伐案件はいくつかあったんだけどよ、ほとんど指示出しちまってるからな」
(まだの方は?)
「色々と無理だな」
なんか政治に関わったりするやつだろうか。重役に知られているから、それ故にこっそり解決出来ないみたいな感じかな。上に行くほど、メンツって大事になってくるからねー、仕方ないか。
魔物退治は、適当に、というわけにはいかない。特にプレイフォートはアントベアーの蜜を使ってお菓子産業にしているみたいだし、そういうのが他にあってもおかしくはない。
(ゴブリンでもいいけど……)
「……討伐案件まで報告されるほど数がいねえんだよなあ。逆に捕獲してくれるように頼まれてはいるけどよ」
(捕獲? 何故?)
「ゴブリンは代胎って言って他種族の雌の子宮を使って繁殖すんだ。一応、それで出産すると子供が産まれた判定になんだよ。だから牛とかは乳が搾れるようになる。何気に身体へ負担がかからねえから、ちょっと老いて出産適性年齢じゃない家畜に産ませたりすんだ」
ほへー。……やばいな。ゴブリンは略奪種族とか言われてるらしいけど、特性まで使ってしゃぶりつくす人間の方が『らしく』思えてしまう。
――そんな人間の業は置いておくとして、……捕獲じゃ意味がないなあ。
「――なら、すでに決まっているところに同行させるのはどうでしょう?」
――アンサムが悩んでいると、その後ろから声がかけられる。セレーネお姫様だ。相変わらず笑顔を浮かべている。ただ、綺麗な、ってわけではなく悪戯っぽい感じ。
実はアンサムがこっちに駆け寄ってきたのを気付いていて、ちらちら見て、ついにやってきたのだ。もちろん斜め後ろにはイユーさんもいるよ。
「……同行? ……誰とだ?」
「色々な問題があって降板になった『あの騎士』の代わりに名乗りを上げた侯爵令嬢がいるでしょう? 色々と特例続きですし、一人二人――この場合は一匹でしょうか?」
冗談めかしてそう言ったので、俺も冗談で頭を差し出したら、お姫様が頭を撫でてくれた。やったね。
「なので御兄様が指示を出せば、増えても問題ないかと」
「あー……あれか……でもなあ、あいつなぁ……」
アンサムがすっごい渋い顔してる。どうしたの? そんなに問題がある子なの?
「確かに同行させるのには適していない性格ですが、調べていたら問題がありまして。――もしかしたらその彼女に『事故』が起こる可能性があるかもしれないんです」
「マジかよ。……さっそく、『暗部』使ってんのか?」
「誰も使おうとしませんでしたし。それにまた彼らをアンサム御兄様の敵に使われでもしたら厄介じゃないですか」
おおっと? これは聞いちゃいけない話かな? 耳が良いから聞こえちゃうけど、本来可動しない耳をペタンとして聞いてませんアピールをしておく。
お姫様がそんな俺をちらっと見て、少し可笑しそうに笑う。
「ふふっ。だからお二人にご協力を願うのがよろしいかと。実力も申し分ありませんし。――それと彼女も多少、身の程を弁えてもらいたいですしね。……兵士としての能力があって将来性があるのに、将として求められる重要な一部分が欠けてるんですよ」
このままじゃ、むしろ邪魔になるのでいりませんよね、とちょっと冷たい感じに言っていた。
なんかよく分かんないけど、怖いなーと思った。
リディア? リディアはお姫様のエスっ気を感じ取って興奮していたよ。いつも通りだね。
次回更新は10月10日19時を予定しています。もしかしたら少し早くなるかもしれません。




