夜風を浴びて
登場人物紹介
王妃
名前はルナ・レバールド。王都プレイフォートで王妃をしている。長い間、気苦労があったため、少々、幸薄そうな雰囲気が漂う。最近は仲が悪かったはずのセレーネに積極的に話しかけられはじめているので、困惑しているものの内心嬉しがっている。
フーフシャー
前魔王の子供であり、現魔王の姉(魔王は弟)、三姉妹の次女にあたる。淫魔の王種であり、かなりトリッキーな能力を持つ。性に奔放ではあるものの、あくまで種族的な『癖』であり、本人は割と真面目。
ラフレシアが泣き叫んでいるせいで、俺の魂がわんわんと反響し、震えている。防音性能は抜群だから音は外に漏れてないけど、このままだと俺は休眠出来ないので、泣き止むまで適当にぶらつくことにした。
つっても、夜中だし、人のお城ん中だからあっちこっち好き勝手に行くわけにもいかない。
変なことして、体液落としちゃってバイオハザード起こすのも駄目だろうし。
だから、誰かを訪ねるとか狭いところにぎゅうぎゅう詰めになるとか、壁や天井を這うなんてこともしない。
今日は、あれだ。いい夜だから……なんか塔っぽいところで夜風浴びようかなー。
そんなことを思いながら、上へ上へと向かって、運良く迷わずに塔までやってくると……声が聞こえてきた。
二人が雑談している。
この声は……王妃様とフーフシャーさんかな?
……とりあえずなんかエッチな感じじゃないのは確かだ。もしフーフシャーさんが致していたら、すぐさま回れ右しないといけなかった。見たいのは山々だけど確実に巻き込まれるだろうしね。
しかし、王妃様とかあ。かなり珍しい組み合わせのような気がしないでもない。
さすがに小さな声&壁越しなせいで、俺の耳の良さでも途切れ途切れに聞こえる。……他人の話を盗み聞きする趣味はあんまりないから、名残惜しそうにお尻を振りながらバックしようか悩んでいた。けど……「北で妹は――」「何故あの魔族は――」とか気になることが耳に入ってきたから…………盗み聞きすることにした。
俺はそろそろと塔の屋上へと上り、頭を出してキョロッと辺りを見渡して……寝間着姿の王妃様と下着姿の痴女を発見したら――こっちも見つかっちゃった。
いや、二人とも背を向けてたのよ。なのにさ、痴女――フーフシャーさんがバッと振り返ってきて目が合っちゃった。
「あっ、アハリートくん」
「え?」
みたいな感じで王妃様にも見られて、…………すすすっと下がることにした。
お邪魔しましたー、みたいな感じで去ろうとしたけど、とっとっと走ってくる音が聞こえて、角からフーフシャーさんが顔を出して覗き込んできた。
「どうしたの? こっち来ても良いわよ?」
淫魔からは逃げられない!
とまあ、そのままフーフシャーさんに胴体に腕を回されて抱っこされて、連れて行かれるのであった。腕力が強いな。こんなんでも、俺、筋肉の塊だから結構重いはずなんだけど……。
「うー」
「……犬……? いや、話には聞いていたけれど……。何故……?」
王妃様がぽそっと呟いていた。
気分です。
「うー」
俺がうなり声をあげると、フーフシャーさんが首を傾げてしまった。
「…………? ラフレシアちゃんは?」
「うーうー」
説明が面倒臭いから、眠ってる体にした。
伏せして、目をつぶって、ぐーぐー的なうなり声を上げたら、理解してくれたようだ。
んで、俺はこうなったら二人が何をしていたのか確かめてみることにした。
「うー?」
王妃様とフーフシャーさんを交互に見やる。
「ちょっと夜のお散歩していたら、王妃様が先客でいて、それでお話していたのよ」
「正直、同盟どころか敵対している国(?)のサキュバスが夜中に城内を歩いているというのは問題なのですが……」
そりゃそうだ。……そういう意味では、魔物な俺もあんま歩かん方が良いのかな?
「そこら辺は、自覚はあるわ。けどここ一週間は眠れない子がいっぱいいるんじゃないかと思ってね。昼間だと忙しそうだし。私も誰かとお話がしたかったから……。実際、王妃様とアハリートくんと会えたし」
「…………。まあ、色々ありましたからね。……そういえばゾンビの貴方は寝るのですか?」
「うー」
寝ますよ、一応、と頷いておく。けど、がっつり寝られることはないから、夢とか見られんけども。
「へえー。アンデッドの生態って、あまり知らないから色々と教えて貰おうかしら、ベッドでね!」
フーフシャーさんが片目をつむって、親指を立てて後ろをくいっと指した。
「うー」
しませんけれども。
「下品ですよ」
王妃様も呆れてため息をついた。
「サキュバスは、会話の始めと中と終わりに卑猥なことを言う掟でもあるんですか?」
「種族的な癖ね。卑猥なことを色々と言いたくなっちゃうのよ。服もまともに着れないし」
フーフシャーさんも小さくため息をついた。……色々悩んでらっしゃるのかな?
「その言い方だと、初めはサキュバスではないような感じですけれど」
「違うわね、最初デーモンっていう種族だったわ。途中で仕方なくサキュバスになったのよ。うちの姉と妹が脳筋でねー……。搦め手も使えないと大変かなあと思って、ね」
そうなのね。……意外に真面目なのか、フーフシャーさんって。
あっ、そういえばフーフシャーさんって王種っぽいけど、どれくらい生きてるんだろ。なんか進化すると寿命も延びる的なことを、勇者の村で聞いたことがあるんだよな。
意外にかなりの年齢だったりするのかな。……女性だし、気軽に訊かんけども。
……ただ、長生きしているならリディアと関わり合いになってそうなんだよな。五百年以上生きてるなら、たぶん妖精達と争う関係で手を組んでそうではある。
そういうコネって今後必要になってきそうだ。俺もタイタンと争うならな。
「それでさっきの続きだけれど――アハリートくんも一緒で構わないわよね。場合によっては力を借りると思うし」
「別に良いですよ。『雑談』ですから、……本格的なお話は正式な場を設けましょう」
盗み聞きとかされちゃうからね。まさに、俺がやろうとしていたし!
「それで――貴方の妹を止めることは叶いそうですか?」
「今のところは無理ね。もう怒りが煮詰まって、憎悪に至っているもの。少なくとも人狼を滅ぼさない限りは止まりそうはないわね」
フーフシャーさんの脳筋の妹の話? なんか北で魔王軍が侵攻してきているって話だったような気がするけど――フーフシャーさんを見る限りだと単純なことではなさそうだね。でなきゃ、普通に敵になってるだろうし。
「……あの子の子供達がどこにいるか、分かれば良いんだけど。……たぶんまだ何人かは生きているはず。……だからチェスターを捕まえられたのは僥倖ね。たぶん、吸血鬼が関わってるはずだから」
質問が出来んから、詳しい話は聞けないけども、――フーフシャーさんの妹が暴走してて、その原因が『子供』を攫われたってことかな。
フーフシャーさんはそれを探しにここまで来たってことか。
「うー! うー!」
そういうことなら俺も頑張りますよー、と唸ったらフーフシャーさんが撫でてくれた。
「手伝ってくれるの? ありがとう」
「魔界からの侵攻を止められるなら、こちらとしては有り難いことなので、協力はしますよ」
「本当に助かるわ。――それで西の方はどうかしら? あっちもあっちで気になるのよねえ。光の種族が滅ぼされたって話だけど、むしろ姉――というか私達はこっそり友好関係を築いていたし」
「やはりですか……」
王妃様が悩ましげに眉をひそめる。
おっ、光の種族の話だ。これは気になる。ミアエルから詳しく聞いたわけじゃないけど、魔物に滅ぼされたーって話だけど……そうじゃないっぽいなあ。魔族との関係的にはむしろ逆な感じらしいけど……どういうことだろう。
「こちらも正確はことは分かりません。ごたごたもあって、人をちゃんと動かせませんでしたから。王やアンサム王子と連携が取れる今なら、西や北に何かしらアクションを取れるでしょう」
「なら助かるんだけど。光の種族の族長が生きていれば良いんだけど……少なくとも、あの人は戦争を起こすなんてしないはずだから。……そういう意味では煽動している奴は絶対に違うし、接触しない方が良いわね」
なるほどねー。……ただ、『そいつ』ならオーベロンさんが言っていたラフレシア――フラワー達の『罪』とかいうなんか感情を操るらしい能力を持つ奴と一緒にいる可能性はあるな。もし西の共和国に行くとしたら、それを踏まえて色々と考えなきゃな。
……もしかしたらそいつがミアエルのお兄ちゃんの可能性もなくはないんだし。……いや、ないか? ミアエルのお兄ちゃんは、『出来損ない』で光の種族である金髪金目の特徴がないらしいから……神輿にはならんのかな?
うーん、難しい。
と、俺が悩んでいるといつの間にやら、フーフシャーさんが俺の股間をぽんぽんしていた。
「玉が……ないのね」
「隙あらばシモに行くのやめません?」
やめません?
「無理ね。もはや無意識だったもの」
それはそれで難儀な種族だな、淫魔って。
「ただ、私に関しては相手の遺伝子は重要で、出来れば摂りたいのよねえ。その種族に変身出来るようになるから。――やっぱりアンデッドは難しいのかしら」
卵なら俺の身体に無数にあるけど、それはあくまで寄生虫のだしな。たぶん、生命を司る能力だろうし、死に片足突っ込んだようなアンデッドは相性悪いんじゃなかろうか。
王妃様もサキュバスの生態に興味を持ったようで首を傾げた。
「ちなみに今は人ですか?」
「人よ。一応言っておくけど、元の種族にはならないわよ。肌の色が違うし、それを見ると嫌われることがあるから、やりたくないの」
緑とか青肌なのかね。……二次元ならともかく、リアルでは受け入れられるかなあ。まあ、俺はゼノモーフとかにも頑張れば興奮出来るし、普通に受け入れられるかもしれんけども。
王妃様がこくりと頷く。
「無理強いはしませんよ。感性によっては受け入れられないというのは確かにありますし、無理をすることが正しいかと言えばそうでもありませんからね」
全生命体、皆友達ってなれば良いんだろうけど、そんな都合の良いことならないしね。
「うー」
なので、賛同を示すように頷いておく。
「ありがとう」
フーフシャーさんが綺麗な笑顔を浮かべる。
「三人でベッド行く?」
「そろそろ戻りますね。部屋に、一人で」
「うー」
じゃあ俺もー。ラフレシアも泣き止んで、今はすーすー寝てるし。俺も寝よー。
「あーん、待ってー」
俺と王妃様は二人して、城の中に戻っていくのであった。
次回の更新は26日、19時の予定です。




