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とある女神の切なる願い

 オーベロンさんの話を聞き終え、俺はしばし静かに佇む。


 うーん、やっぱりティターニアさんは封印されちゃったのか。ただ、話を聞く感じだとフラワー型の妖精はそのせいで数がかなり制限されてるっぽいな。だから世界中に散らばって監視してる、なんてことはなさそう。ここにも奴らの目がっっ! みたいな心配がないなら、割と大胆に動けそうだな。


 それはそうと――、


(ティターニアさんが何言ったか教えてください)


《待ってよ!》


 俺がオーベロンさんに問いかけると、ラフレシアが目の前に飛んできた。


(なんじゃ)


《今の話聞いて、そんな気軽に訊かないでよ! もうちょっとなんかこう――タイミングとかあるでしょ!?》


(ラフレシア?)


 俺はフッと鼻で笑う。


(俺に空気読むとか出来ると思ってんの?)


《畜生が!》


 そーでーす、ちくしょーでーす、って言ったら、頭に乗っかられて殴られたり毛を引っ張られたりしてしまった。禿げちゃう。


 まあ、いつまでもラフレシアに構っていられないので、オーベロンさんに改めて向き合う。何か納得したのか、可笑しそう口元を覆いながら頷いていた。


(良いっすか?)


『そうだな。……確かに、我が輩以外の誰の許可を取る必要もあるまい』


 ちょっと冷たい言い方をすると、ラフレシアは聞くという行為を放棄してしまったからな。今更その権利云々に絡むのもおかしい話だろう。


 それに本人にとって怖い話ってのは、訊くのを早々に決心出来るものじゃないからな。怖がっていつまで経っても耳にすることが出来ないかもしれない。


 ……あと、大抵、そういう『怖いかもしれない話』って意外なほどに怖くない場合が多い。ティターニアさんの人柄とか察するにたぶん、ラフレシアが――フラワー達が恐れるべきことじゃないと思う。


『そうだろうな』


 オーベロンさんが小さく頷き、呟いて――続ける。


『別にもったいぶるつもりもない。ただ、あいつは我が輩に伝えてきた。…………『お願い、どうか――この子達を助けてあげて』と』


 オーベロンさんはそう言って、深いため息をついた。

 ……。なるほどね。

 ……寄り添います?


『いや、いい』


 手の平を向けられてしまった。口元には弱々しいけど笑みを浮かべてくれていた。


 ――うーむ、これは確かにオーベロンさんにとって辛い真実かもね。好きだった相手の願いを叶えられないどころか、願われた相手……フラワー達に敵意向け続けちゃってたわけなんだから。


 外野からすれば、我慢して警戒を解くために接するべきと思うかもしれないけど――それは他人事の傍目八目に過ぎない。


 仮に俺が同じような状況になったら……ミアエルが誰かに殺されてその誰かと仲良くする必要があるってなっても、たぶんそいつのこと殺すと思う。


 自分の落ち度だろうと、そう思っていたとしても、同時に感じる殺意や敵意、嫌悪は抑えることは出来ないはずだ。……相手が悲哀に満ちて正しかろうが、関係ない。


 どれだけ素晴らしい高説を垂れようとも、人とは身勝手なのだから。どうしたって『間違いと分かっててもそれを選ぶ』ことがたくさんあるんだ。


 だから、俺はオーベロンさんの『過ち』を理解するつもりだ。


 それにここにいる皆がそれだけで、『優しさ』に疑問を持つ必要なんてないはずだ。数千年間違いがなく続いてきたのに、その中の大きく見れば『一つの過ち』で切って捨てるべきだなんて思わなくても良いだろう。


 つーか、優しさを否定するとか俺からすれば、ない。だってリディアが優柔不断で優しくなかったら、俺、あいつと出会った瞬間に殺されてたしな。


 少なくとも、オーベロンさんも世界を滅ぼす存在を見逃す、なんて博打を打たなくていいはずだ。

 ……これから、俺がすべきことは……ティターニアさんの解放だろうか?

 俺の心を読んだオーベロンさんが驚いたように目を見開いた。ちょっと意外だったみたい。


『何故だ?』


 世界救うよりかはマシかなーって思って。そっち方面にはあまり関わりたくないし。そもそも俺にそんな大それたことなんて出来ない。手元にあるものを取りこぼしそうになっただけで泡食ってる奴が、ご大層な理想掲げたら、アホかってなるじゃんか。


 そんな駄目な俺でも友達を助けることくらいは出来るんじゃないかなって思ってる。


『……『友達』か』


 オーベロンさんが優しく笑う。


(嫌じゃないっすか?)


『そんなことはない。…………そうだな。……頼めるか?』


(オッケーでーす)


 オーベロンさんの肩から、ふっと力が抜けた。


『…………。なら一つ助言だ。ティターニアの力にはスキルを消滅させるものもある。光魔法の一つだが、発動が速く、効果範囲も段違いだ。だからリディア達が奴らと敵対した際、近づくことが難しかった。――そこで『制定者』が勇者ミチサキ・ルカに渡したのが『不滅』だ』


 確かそれで、死ねずに肉体に封印されちゃったんだっけか。


『殺せないからこその封印であるが、それ以上に奴らはスキルを消すことが出来なくなる『不滅』の力を恐れた。――もし、奴らと対峙しようと思うならば、ミチサキ・ルカの封印を解くことだな』


(勇者を解放って危なくないですか?)


『さあな。心が読めていた頃は、リディアが言うように『優しい』人間であったが、時を繰り返すうちに変わっていてもおかしくはない。不滅は不変ではない。故に解放するリスクはもちろん存在する』


 そっかー。というか、解放するなら『魔神』を倒さないといけないんだったかな? ――魔界にいるらしい奴らは、かなりやばいらしいし、だったら可能性が高いのは……アスカかなあ。


(……もしアスカんとこに行くことになったら、パックくんを一人連れて行っても良いですか?)


『我が輩は構わんよ』


 そう言って、オーベロンさんがちらりとパックくんに目配せをする。


 パックくんは、口を真一文字にキュッと結びながら、頷いてくれた。


 ――良い感じかな。アスカ攻略にパックくんを連れて行けるなら、たぶん勝率が上がるはず。あとは『観客』にならずにどうやって『主役』に抜擢されるかだ。


 ……やっぱりそこまでは教えてくれませんよね?


『無論だ。我が輩とて貴様に手を貸したいのは山々だが、……他の存在もそれぞれの『思い』のもとに策を講じている。それを蔑ろにするつもりはない』


 ――んー。その言葉はつまり、プルクラは狂ってないってことかな。少なくとも頭がイカレてヒャッハーになってるなら、思いがどうか関係ないだろうし。


『……それがどのような結果になろうとな』


 狂ってなくても狂ったようなことを正気でやろうとしているなら、認めてくれるんかね。まあ、他人を狂ってるとか『巣』を作って荒くれファミリー滅ぼした俺が言うべきことじゃないんだけど。


 さーて、とりあえず一段落したわけだし…………、


(ラフレシア……というか、フラワーが狂ったことについて聞こうー)


《マスターとことん私に優しくないね!?》


『我が輩が語るつもりはないからな。今思ってるように『嘘』だと思われ続けるのは敵わん』


《んぐっ――皆してぇ、皆してぇ……》



 俺とオーベロンさんに苛められたラフレシアが、俺の頭で腹ばいになりながらぱたぱたしている。毛がさっき以上に散っているのは見逃すことにしよう。


 パックくんが迷っているようにおろおろしている。慰めたいだろうけど、色々あったろうから馴れ馴れしくできないんだろうか。……あっ、また図星だったのか俺を睨んで、ぷくーって頬を膨らませた。可愛いー。


 オーベロンさんが進み出てきて、人差し指をラフレシアに向ける。


『少し気が変わった。お前に我が輩が見た、『お前が狂う前のお前自身の記憶』を見せよう。――それをどう思うかはお前の勝手だ』


《うっ――》


 ラフレシアは一瞬、逃げようとしたのか身じろぎしたが――――何を思ったのかそのまま力を抜いてしまった。……逃げたかったら逃げても良かったんだけどね。知りたくないことを知るのは怖いし。今回は本当に『怖い話』だろうしさ。


 俺から逃げるように促しはしないけど。たぶん言ったとしてもラフレシアは俺に対して天邪鬼なところあるし、逃げなくなりそうだ。


 とにかく、ラフレシアが壊れないようにいつでも記憶に制限をかけられるようにしておく。


 ぴたり、とオーベロンさんの指先の本当にさきっちょがラフレシアのおでこにくっつく。


(カスレフ)を覗いた時、お前の目に映るものはなんだ?』


 その問いかけと共に記憶を注ぎ込む力が発動したのか、ラフレシアがビクンと震えた。


 ほとんど一瞬で、すぐにオーベロンさんは離れて、また元の位置に戻って行く。


《あ、あ…………》


 ラフレシアが頭を押さえている。脳内に駆け巡っている記憶を処理しているのだろうか。もし処理が追いつけなかったら、狂乱して壊れる可能性もある。俺は心をドキドキさせつつ、とりあえず頭から転がり落ちないように、触手でリングを作っておく。


 そして――、


《うあぁああああああああああああん!》


 泣いた。

 もうそれは見事に大口開けて、涙流して、ギャン泣きである。


 うーん、精神が乱れてるけど壊そうってわけでもなさそうね。単純に受け入れられない真実を受け入れちゃって、感極まって泣いちゃったって感じがする。


『そんなところだ』


 オーベロンさんもそう言ってるし、問題ないだろう。


 ただ、泣き止む様子はないから……近所迷惑になっちゃうし、俺の魂の中に戻って貰う。

 俺の頭にズボッとラフレシアが沈み込んで行く。スッと泣き声が消えたせいで、部屋がすんごい静かに感じた。


 …………。ラフレシアは話出来なさそうだし、これに関しては後ででいいかな。


(リディアー、この続きはまた今度でもいいー? たぶん、ラフレシアの話を聞かないで、そっちの話聞くと訳分からんことになるし。せっかくだから、辻褄合うようにしようぜ)


「良いと思うよん。私も聞きたいのは、……その話だし」


 じゃあ、一旦お開きだな。


(あっ、リディア、明日辺り空いている時で良いんだけどさ、ちょっとついてきてくんない? 俺、昨日、迷子の親探し歩いててさ、その子に寄生虫ついてないか見て欲しいんだ)


「うーん、別に良いけど、私はそんな感知能力高くないからなあ」


 リディアは困ったように首を傾げていたけれど、ウェイトさんが進み出てきてくれた。


「それでしたら、この国の回復魔法を扱える者を遣わせましょう」


(あっ、良いんですか?)


「はい、お気になさらず」


 笑顔で言ってくれるナイスガイだぜ。

 とりあえず必要なことはこんくらいかな?


(オーベロンさんも、話しする時、来ます?)


『気が乗ったらな』


 行けたら行くみたいなニュアンスだけど……、無理強いしても仕方ない。でも、出来れば一緒にいて、補足とかしてもらいたいものだ。今回、オーベロンさんとパック君がいなかったら、アスカに対する見方がかなり変わっていただろうし。


 …………まっ、いいか。なるようになるだろう。なんかすごい変な話になったら、修正しに来てくれると信じてる。


『その時は信頼に応えよう』


 オーベロンさんがそう言って笑うと消えてしまった。パック君もいつの間にかいなくなっていた。パック君はこの場にいるのかもしれないけどね。


(というわけで、俺もお邪魔しましたーまた明日ー)


「お休みー」


「お休みなさいませ」


 俺は二人に見送られて、部屋を出て行くのであった。

次回の更新は9月19日19時の予定です。

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