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転生したら、アンデッド!  作者: 三ノ神龍司
第一幕 死の森に生まれたゾンビと古の魔女
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第十章 リディアの焦燥

リディアはミアエルと共に、ゾンビの彼に示された方へと向かっていた。二人の足取りはそれほど速くはない。起伏がある森の中ということもあり、移動速度が制限されていたのだ。何よりも小さな身体のミアエルにはこの舗装されていない道を行くのは、かなり辛いだろう。

 

 けど、だからと言ってミアエルを置いていくことなんて危なすぎて出来ないし、村に戻るのも時間がかかり過ぎる。

 

 リディアの転移は自分だけしか移動できないため、ミアエルと共に移動するしかなかった。一応、他者にもかけられる転移魔法はあるにはあるが、それは攻撃用でこの世界のいずこかに飛ばすというものなのだ。それはスキル化も出来ていないため、使える訳がない。

 

 空を飛ぶことは出来るが、あくまで浮かび、吹っ飛ぶだけで細やかな制御は出来ない。森の中でそんな力を使ったら、ミアエルが危険だ。それに無意識に魔法に抵抗されて落下される心配もある。

 

 (やっぱりゾンビちゃんを説得して、ゾンビちゃんとミアエルちゃんを一緒にして、ちょっと危険でも私が転移すれば良かったかなあ)

 

 そう思っても後の祭りなのだが。

 

 先ほどゾンビが向かった方から激しい衝撃音がしたのを聞いて、リディアも少し焦っていた。ゾンビが対峙している相手は上位個体の魔物かもしれない。まさか王種ではないと思うが、それに近い存在と戦っているかも知れない。

 

 最悪なのは、あの『カエル』だろう。

 

 ……この近辺には、アンデッドを優先的に食らうアンデッドイーターのフロッグ種が生息しているのだ。最近、最上位個体――王種が誕生していたはずだ。

 

 だとしたら危ない。彼の成長が圧倒的に早いと言っても生まれたばかりでは、上位個体を相手にして勝てるわけがない。ましてや、ここに住むフロッグ種はこの近辺のアンデッドが多すぎるため、アンデッド特攻持ちとして、過去に自分が造りだしてしまったのだから。

 

 だから援護のために早く彼の元に行くべきなのだ。けどミアエルをぞんざいには扱えない。

 

 そんな焦りを増していくリディアの『物体感知』にこちらに向かってくる個体を捉えた。警戒する。かなりの速度で向かってくる。

 

 可能性としてはゾンビの彼が助けた者だとは思うが。

 

 リディアが注意しながら、進んでいるとついにその向かってきた者と出会う。

 

 胸の大きな獣人の少女だった。

 

 ……頭の上にピコピコと動く耳があり、お尻にはふさふさの尻尾がついている。

 ……中々に可愛らしい。艶やかな白と黒が混じり合った髪に透き通った青色の目をしている。整った顔立ちに大きめの胸が特徴的だ。胸に布を巻いただけのようなベアトップにホットパンツというかなりラフな格好をしていた。腰に差す二刀のごついダガーはラフな姿にとてもあっている。

 

 少女が、こちらを見て、少し戸惑ったような顔をしている。

 

 「えっと……ボクに、『あの』助けを寄越してくれた人? ……てっきり仲間はアンデッドかと思ったんだけど」

 

 ワーウルフの少女のその言葉にミアエルは向けていた手の平を下ろす。リディアはそれを確認してからワーウルフの少女に微笑みかけた。

 

 「んー、寄越した、とは違うかなん。あれは自発的に動いた感じだしねえ。……こっちも急いでるから簡潔に。黒髪のゾンビちゃんと出会った?」

 

 「あ、ああ。そいつに助けられた。キングフロッグに追われてて、途中であいつに助けられたんだ」

 

 「……キングフロッグに」

 

 最悪の展開か。キングフロッグならば、進化の際に『衝撃操作』を得ているはず。それによって打撃に滅法強くなっているだろう。進化系図によっては魔法の一種である『土操作』を使える可能性がある。その場合、彼の生存率は一気に下がってしまうだろう。

 

 逃げることすら叶わないかもしれない。

 

 ――一瞬、リディアはこのワーウルフの少女にミアエルを預けて、ゾンビの元へ転移しようと思ってしまった。だが思いとどまる。さすがに出会ったばかりの者に彼同様今後大切になってくるであろうミアエルを任せるのはあまりにも危険だ。

 

 ならば、三人で移動するしか手はない。しかしそれではやはり間に合わないかもしれない。

 

 そう思っているとワーウルフの少女はリディアとミアエルに背を向けてしゃがむ。

 

 「急いでるならボクの背中に乗って。もう一人はボクが前に抱えるから」

 

 「んにゃ? そんな抱えて走れちゃう?」

 

 「強化スキルの『獣化』は今日はまだ使ってなかったからね。戦うのは無理だけど、二人を運ぶくらいわけないさ。……魔女さんはどうか分からないけど、そっちのちっこいのはボクより強いのは確かだろうし」

 

 ワーウルフの少女は、ミアエルの顔を見て、そう言った。

 

 ……ミアエルを光の種族だとすぐ気付いたのか。それなりに知識はある様だ。亜人は集落によっては閉鎖的で一昔前の生活をしていることもあるが、彼女の集落は色々な情報にオープンなのだろう。

 

 ……ここら辺にはそのような亜人の集落はなかったはず。人と関わりがある獣人の集落で一番近いのは、北の王都よりさらに北にあるワーウルフとヴァンパイアが住まう土地だろう。

 

 最近の情勢については詳しくは知らない。だが、人類に対して友好的な関係を築いているらしい彼の地のワーウルフがここまできたというのなら、何やら理由があるはず。

 

 気になる――――が、忘れてはならない。今はあのゾンビを助けなければ。

 

 「じゃあお言葉に甘えちゃおう。ミアエルちゃん、行こう」

 

 「うん!」

 

 ワーウルフの少女は地に手をつけて、呟く。

 

 「――――『獣化』」

 

 すると全身が厚い毛皮に覆われていき、体長が二メートルある大きな狼へと変貌する。

 

 ミアエルがガバリとワーウルフの少女の背へ乗り、リディアもふわりと浮かんで彼女の背にまたがる。

 

 ワーウルフの少女は二人が乗ると、地を蹴り、一気に加速し、瞬く間に森を駆け抜けていく。

 

 リディアはワーウルフの少女に掴まりながら、祈る。

 

 (ゾンビちゃん無事でね)

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