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人ならざる者に与えた優しさとその代償㉔

 五年の時が経過した。


 劇的な様変わりは、人間、魔物達の間では特に起こらなかった。ただ順調に増えて、強い人間や魔物達が育ち、造られ、……勇者と魔王が選ばれるに至る。


 この世代の勇者は、イェネオだ。魔王は――アスカと狙い通りの人選となった。


 数百年ごとに起こる、いつも通り。でも、いつもと違うのは魔王の勝利が確実ではないことだ。


 けれど、世界の誰もがそれを知ることはないだろう。知っても知らなくても何も変わらないことでもあるのだから。

 そもそも今回の魔王出現は『あること』で一つの町が消し飛ぶまで知られることはなかった。






《気をつけてくださいね》


「……うん」


 イェネオがフラワーにそう言われ、ぎこちない笑顔を浮かべていた。


《……あんな狂人がもし、勝ちでもしたら――『偽神化』を得られず、この世界に留まり続けたら何をするか……。……それに、これは私的なことですが、恐らく今回、『偽神化』を持つ魔物が生まれたら、新たな世界を創られてしまうかもしれません。そしてこの世界は捨てられてしまうでしょう》


 その際に、多くの死者が出る可能性があるという。新しい世界が創られることは良いことであるものの、その『移行』に大きな問題があり、『制定者』は雑な方法でしか問題を解決していないのだ。


 魔晶石の開発が上手く進めば良いらしいが……。


 だから、止められるならば止めるべきだという。


「イェネオちゃん、気をつけてね。……私があの子を選んだばっかりに、尻拭いさせることになってごめんね。……あと、『復活魔法』を完成出来なくてごめん」


「いや、あー、まあ、大丈夫です。死ななければいいだけですし」


 リディアに申し訳なさそうに言われ、イェネオは変わらず笑顔を浮かべながら言う。


 とても難しいことではあるけれど。アスカは人型と言えど完全に育った魔物なのだ。化け物と一対一で戦うことは無謀が過ぎる。――一応、一緒に強くなった味方も同行するが、アスカと共にいる四天王達に阻まれれば、結局、アスカと単身で対峙しなければならなくなる。


 死ぬ気はないが、死ぬだろうな、とそう思ってしまう。少なくともアスカは容赦はしてくれなさそうだ。


「じゃあ、行ってくるね」

 






 

「絶対生き残るぞー、おー」


「おー!」「おー」「お、おー!」「……おー……」


 ティターニアの神殿にて、アスカが鼓舞するように拳を高々と掲げて、四天王達が呼応するように片手を挙げた。


「とりあえず、皆にはイェネオ以外の足止めをしてもらいたいけど。……バルだけで良いかな」


「ふぐぅ!? ――わ、分かりました……!」


 名指しされたバルトゥラロメウスは、ビクッと震え、涙目になりながらも力強く頷く。……別にこれはアスカが意地悪を言っているわけではない。ここ五年でバルトゥラロメウスは、尖った能力を手に入れており、『足止め』においては恐らく世界中でも右に出る者はいないと思われるほどだ。


 他の四天王達も特に反論する様子も見せないことから、バルトゥラロメウスの能力には信を置いているのがうかがえる。


「んで、俺らは遊んでるわけにもいかないよな?」


 そう問いかけたトラサァンにアスカは頷く。


「皆にはパックの案内の下、リディアの近くで待機してて。なんかこっちに向かってきそうになったら、頑張って足止めして」


「……出来るかな……」


 ぽそっとアンゼルムが口にすると、アスカは首を傾げる。


「どうだろう、頑張って欲しい」


「まあ、そこら辺はなんとかします! ……リディアなら、どこかの集落を襲うとか情報を流しておけば二の足を踏むだろうし。……優柔不断の手玉を取るくらい簡単……」


「任せる」


 なんだかプルクラの邪悪な部分が見え隠れしていたが、問題ないだろう。そう思っておく。三人がある意味で一番重要で、難しい役割だ。たぶん、最悪リディアに殺されるかもしれない。土壇場で命乞いすれば、……まあ、なんとか許してもらえそうではあるが。


 さすがにアスカもリディアを相手にするのは、辛いものがあった。


 心情的なものではなく、単純に戦闘能力の差でだ。


 雑な範囲攻撃がアスカにとってかなり対処し辛い。簡単に言えば相性が悪いのだ。本来打ち消せない血の毒も『理ノ調律』を使われてしまえば、無力化されてしまう。肺から出す突風も同じ理由で効かない。


 アスカには、リディアに通る最たる攻撃手段がほぼなく、対応出来たとしても結局ジリ貧になってしまうのは確実だった。


 だから、もしもの場合に備えて、他の皆に足止めしてもらうことになっている。


「じゃあ、各々、頑張ろう」

次回更新は8月8日19時の予定ですが、場合によっては早く投稿するかもしれません。

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