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人ならざる者に与えた優しさとその代償㉒

 神殿の中でティターニアが発光しながら、ぷかぷかと浮いている。そんな彼女の前には、アスカや四天王の吸血鬼達がいた。


『強くなるつもりなら、『方向性』が大事になってきます。よほど魂が強くない限り、スキルは得られませんからね。アンデッドならなおさら、気をつけなければならないでしょう』


「たとえばどんなのが良い感じ?」


 アスカが首を傾げながら問うと、ティターニアは真面目張りながら応える。


「貴方であれば、魔力の特性を考慮して――回復系、……透過なども良いかもしれませんね。もしくは法則系を用いれば、確実にかけられます。ただ、貴方自身ノーガードという点を忘れてはいけませんよ。それを補う力もまた必要でしょう」


「なるほど」


 全てを強くするというのは、不可能なのだ。だからこそ、自分に合った力を手に入れなければならない。一点特化型とはまた違うが、能力配分を考えると何かを尖らせるべきなのだろう。


「皆は決まってる?」


 アスカは後ろに控えている四天王達に問いかけてみた。


 プルクラが片手を挙げて、笑顔で真っ先に応えた。


「とりあえず進化先はデイウォーカーにするつもりです! 昼間でもアスカ様と一緒にいられますからね。――スキルに関しては……特性などはよく分からないのでまだ明確にはなってはいませんが……。……ただ、ティターニア? 私、記憶をコピーして保管する能力が欲しいんだけど」


『別に構いませんが、『スキル創造』で得た力は、正常動作がしないので注意が必要ですよ。使えたとしても、適性がなければあまり力を発揮出来ませんし』


「使えるか使えないかは、実際手に入れてから試してみるから。使えなかったらその時はその時。――でも、使えたらアスカ様の記憶をコピーしておくんです。……ふふっ、そうなればいつでもアスカ様と一緒のようなもの……」


「きもい」


「はぇ!? アスカ様!?」


 プルクラ自身、己の発言の気持ち悪さは多少なりとも自覚はしていたし、それをツッコまれるだろうと予想はしていた。だが、真っ先にその感想を言われたのがアスカだったため、驚いてしまう。


「あまり、人に記憶は見せたくない。……ので、この嫌な気持ちが『きもい』だと思う」


「やめてください! なんか……なんか、アスカ様にそう言われるのが一番ダメージが大きいのですが!? というか、パックはどうなるんです!?」


《僕に飛び火した》


 アスカの肩にパックが現れ、可笑しそうに笑う。


 そんなパックをアスカはなんとなしに撫でながら、口を開いた。


「……あんまり気にならない。なんでだろう?」


「許されている……? おのれ、パックめ……」


 プルクラがギギギギッと力強く歯を食いしばっていた。血涙をも流しそうな雰囲気がある。相変わらずパックは笑っている。


《怖いから》


「なんでなんだろう?」


《そしてこの子はマイペースに聞くし。……さようなら!》


 パックがパッと姿を消してしまった。


「いなくなった……」


「逃げたな……」


『…………』


 わちゃわちゃとしているプルクラとアスカを見ながら、ティターニアは小さく鼻息を漏らす。


 ――若干戸惑いがあった。こういう騒がしさは、今までなかったのだ。うるさい、という訳ではない。


 ……リディアやフラワー、パックは落ち着いているため、こんな風に騒がしくなることはなかった。魔物達もこんな騒々しくしない。……というか、徒党を組むことがあまりなく、会話をすることがあまりないのだ。必要最低限というか、その程度だ。


 まあ、悪くはなかった。見ていると面白くすら感じた。


 でも、話が先に進まないので、プルクラとアスカは放置しておく。


 ティターニアが視線を他の四天王――ちょうどトラサァンと視線が合った(バルトゥラロメウスはおどおどとして視線を逸らしており、アンゼルムはこの薄暗さが心地良いのか、舟をこいでいる)。


『何か質問はありますか?』


「いや、よく分かんねえから、専門的な話をされても理解出来るか分かんねえけどよ。……あー、吸血鬼ってどんな力を手に入れられんだ?」


『吸血鬼、という種族に限定すれば、血を操る力でしょうね。アンデッド系は生者などを襲う性質故に育てたことがなく、あまりデータはないのですが……分かっている範囲では、『血器錬成』がポピュラーなスキルになるでしょうか』


 いわゆる血を操る術だ。しかし、それだけに留まらず、血を鉄の硬度にして、武器として扱うことも可能である。変幻自在で、かつ鉄と同じ硬さにも出来るため吸血鬼の主力戦闘のスキルと言えるだろう。


 それを説明すると、トラサァンは、うーむと考え込む。


「そんな自分の血、使っても大丈夫なのか?」


『そこは魔力で自身の血をコピーして、操るべきでしょう。魔力で模倣したものは安定性はありませんが、それで城を築いて置いておくわけでもないなら問題はないでしょうね』


 自分自身から離せば離すほど、安定性が低くなり、消えやすくなるため、使い方には注意が必要だが 。魔法やスキルなどを遠距離に向けて活用するには、また別の技術が必要になってくる。

 

 ただ、ここら辺の詳しい話は今のトラサァンには必要ないため、口にしないでおく。


『それとスキルを得る適性について話を戻しますが……アンデッド、という括りで言えば、魂関連の能力、法則系魔法、肉体変化などに適性があるはずです』


「あー、肉体変化は……筋肉を増やしたりか?」


『使い方によっては出来るでしょうね。吸血鬼は、肉体を持ちながら、訓練すれば自在に身体を霧や別の動物へと変化させることが出来ます。しかしその自由度故に『日の光に弱い』という呪いに等しいものを請け負っています』


「デイウォーカーはその光による力を克服したもので、ナイトウォーカーはそのままで変化しやすくなってんのか?」


『そうとも言えますが――ナイトウォーカーは日の光という弱点がかなり強くなっていますね。下手をすれば、一瞬日の光に当たっただけでも塵になってしまうかもしれません』


「駄目じゃねえか、それ?」


『そうとも言えませんよ。その分、魔力の適性が高くなっているようで、大気魔力の吸収効率などからほぼ無尽蔵に魔力を使えますし、魔法の出力は桁違いなものとなるでしょう。夜においては最強と言えるでしょうね』


 ナイトウォーカーは、その存在が『魔力』というものに近づいていると言えよう。抵抗(レジスト)能力も高めで、仮にリディアであっても真っ向からなら力負けするかもしれない。


 ――もっともリディアは元から魔法の出力に関してはあまり高くないようだが。それを補うような処理能力の高さや精錬された技術によって力強く見えているだけなのだ。


「…………ちなみに、僕は、ナイトウォーカーにするつもり……」


 アンゼルムが、ぽそっと声を漏らした。――眠っているようでしっかりと話を聞いているようだ。


「そうなのか。不便そうだけどな。今でさえ、昼間に外に出られねえことに、こうやきもきしてっからよ」


「僕はインドア派だから……それに魔力がたくさんあると、研究が出来そうな気がするし……」


「それならお前にあってんのかな。……バルは決まってっか?」


「ぼ、ぼ、僕ですか!?」


 バルトゥラロメウスは名指しされて、ビクッと跳び上がってしまった。


 トラサァンは、なんだか申し訳なくなって苦笑してしまう。そういう気質であるなら仕方ないのだが、出来れば普通に話せるようになりたいものだ。


 アンゼルムとは生前に、それなりに親交はあったが、バルトゥラロメウスとは、年齢差もあってかあまり関わり合いになっていなかったのだ。


 たぶん他の二人もそうだろう。だから一番、馴染むのに時間がかかるかもしれない。


「えっと……うーん……ど、どうしよう……僕、戦うのとか苦手で……」


「なら、不死性を高めるとかか?」


「……法則系の魔法を自分にかけるとか?」


 そう言うのはアンゼルムだ。


『ちなみに『絶対』という効果がある法則は『反転効果』というものが発生します。これは術者の思惑が達成出来ない絶対効果が現れることがほとんどのため、注意が必要ですね。皆さんが言う、いわゆる『呪い』と呼ばれるものです』


「絶対は無理なんだ?」


 アンゼルムがティターニアに問いかける。どうやら興味が湧いたようで、目を開いてティターニアを真っ直ぐ見ていた。


『無理、ということはないと思います。ただ、かけた対象などの魔力が足らないと発生する、と仮定しています。というのも、絶対効果が敷かれる『魔神』や『偽神化』の力があるためで――』


 そうティターニアが詳しい専門的な話をし始め、アンゼルムが今までにないくらい真剣な顔で聞きながら頷き、質問をしだした。


 そして、その話を同じく真剣に聞いているバルトゥラロメウスだったが――、


「う? ――? うぅ……」


 話についていけなくなって、悲しそうな顔をしてしまった。


 そんな彼の頭にトラサァンは手を乗せる。


「気にすんな気にすんな。俺らは俺らで地道にやっていこうぜ」


「……僕って役に立つんでしょうか」


 トラサァンの手の下で、バルトゥラロメウスがしょんぼりしていた。


「そこはお前の頑張り次第だな。というか、リーダーはマスコット役でお前を抜擢したから、今のところ一番役に立ってるかもな」


「うぅ……良いのかな……そもそもマスコット役ってなんだろう……」


 それは確かに疑問でもあるが……たぶん、アスカはそこら辺は全く何も考えていないだろう。そもそもトラサァンも『筋肉役』という意味が分からない役職をもらっているのだ。


「気にしなくても良いと思うぜ。魔王が指名されるまで、あと数年はあるらしいからな。気長とまでは言えねえけど、その頃にはなんとかなんだろ」


 そもそも自分達が戦うかどうか分からないのだ。アスカが来る前にパックから事前に話を聞いていたのだが、どうやら勇者とも協力関係が結べそうで、あちらはあちらでフラワーを用いてのレベル上げを行うようだ。そのため、本来行うはずの虐殺などは必要ないらしい。


 トラサァンとしては、正直有り難く思っていた。人ではなくなったが、人としての精神を持ち合わせているので、人殺しにはかなりの抵抗があったのだ。


 ――ただ、魔王が指名されるまで怠けるなんてことはするつもりはない。決まった未来なんて起こりえないのだ。


 そう思うのは、明日を信じていたのに、魔獣によって殺されかけ――今は吸血鬼として生きることになっているからだ。


 何が起こるか分からない。――でも、備えておけば、対処できるかもしれない。少なくとも、魔獣に襲われたあの時、強くあったのならば、誰も死なせずにすんだのだから。


 ……今度は少なくとも、弱いまま何かを失ったりはしたくなかった。


「今からでも強くなろうぜ。……役に立てるようになって、リーダーを死なせないようにしないとな」


 トラサァンは、バルトゥラロメウスの頭をくしゃくしゃと撫でる。


「わわ――えっと、は、はい!」


 おどおどとしていたバルトゥラロメウスであったが、今だけはしっかりと力強く返事をして、頷いていた。

次回の更新は7月25日19時を予定しています。

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