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人ならざる者に与えた優しさとその代償⑭

人物紹介

イェネオ:鉱山都市ティターンにいる兵士の一人。小柄な見た目な少女だが、割と年がいっている模様。見た目によらず戦闘センスが高く、強さは都市の上位に入るほど。勇者候補

 リディア(一体ずつフラワーとパックも一緒)と共にティターンへ行くのは、アスカだけになった。プルクラなど、他の四天王達はティターニアがいるというリディアの拠点へと赴くことになった。そこでレベリングをして――場合によっては北東のティターニアの神殿まで戻って、鍛えることなる。今のままではさすがに弱すぎて、魔界に入るのは自殺行為だったからだ。四天王と呼ぶくらいだ、レベルは50以上、あわよくば王種へと至ってから行くべきだと、その結論に至った。


 それで、アスカはリディアに連れられて、ティターンへ辿り着いた。


 大きな山の麓に町があった。それなりに計画的に作られたためか、当初抱いていた鉱山都市という雑多なイメージにはそぐわない、理路整然と建物があり、道が敷かれている。


 こう、なんというか大通り! 真っ直ぐ! 直角! 十字! いっぱい! 綺麗! みたいな感じだ。

 岩肌を切り開く関係か、石材がふんだんに使われており、大通りは石畳で作られて、馬車の往来がしやすく整備されている。


 山に近づくほど、鉱山の要というべき製錬所の煙突が多くなっていた。その煙突達はどれもが絶えず黒い煙をモクモクと吐きだし、空に流れていく。


 煤の独特なもんわりとした臭いが漂ってくる。フラワーいわく、鼻の中がすぐ黒くなってしまうそうだ。


 これからそんな町の中に入るのだが……、町の出入り口でつまづいてしまった。


 魔物を判定する魔道具に、アスカが引っかかってしまったのだ。


 一応、フラワーが話を通していたようで討伐されるなんてことはないが、なんやかんやと面倒な手続きで時間が取られるらしい。


 そこら辺はフラワーやらリディアがやってくれるため、アスカは適当な椅子に座ってぼんやりと町を眺めていた。


 定期的に鼻の中をペタペタと触って、黒くなっていないか確かめていたが、……すぐにはならないようだ。それに呼吸そのものが少ないから、そもそも黒くなりにくいのかもしれない。


 でも、アスカは鼻の中が黒くなっているのを見てみたかったから、親指の腹を鼻の穴に押しつけていた(鼻をほじったらリディアやフラワーから強く窘められた)。


「やあやあ、お嬢さん、なにしてるの?」


 小柄な女性――イェネオが、ぼんやりと鼻に指を当てているアスカに声をかけてきた。少女っぽくはあるものの、軽装ながらも鎧を纏っており、周りにいる他の兵士達とも遜色ない。


 アスカはイェネオに目の焦点を合わせた。


「鼻が黒くなるかなって思って」


「ああ、それでさっきから鼻の穴触ってんのね」


「鼻ほじったら、リディアとフラワーがやっちゃ駄目だって」


「そりゃあねえ」


 イェネオがケラケラと可笑しそうに笑うと、アスカは不思議そうに首を傾げた。


「なんで駄目なの?」


「なんでかあ……駄目ではないけど、こう……なんていうかな、傍から見ると『なんか駄目』な感じに見えるからかもね。……私も友達とかに部屋見られた時とか、もうちょいシャンとしろーとか言われてさー」


「難しい問題だ」


「ほんとにねー」


 イェネオが笑顔を向けてきたので、アスカもとりあえず笑顔を返してみる。表情を作るのはそれなりに上手いはず。でも、笑顔しか練習していないから、それ以外の表情は作れる自信はなかった。でも、怒った顔とかを使うことにはなりたくないから、これで良いのかもしれない。


 イェネオはマジマジとアスカを見つめ、「ちょっと失礼」と顔をに手を伸ばしてきた。何か攻撃される可能性も考えつつ、でも、この場で下手に暴れたら被害が及んでリディア達に迷惑になることも想定して、イェネオの手を受け入れた。


 ぺたり、ぺたりと頬を触られる。


「冷たいね。……なるほど、アンデッドに間違いはないかな?」


「ゾンビ上がりの吸血鬼だから、血には気をつけて。私も気をつける」


「あら、そういうこと言っちゃうと通行審査に影響しちゃうぞ?」


 しーっとイェネオは口元に指を添えて、囁いてくる。


「今のはなし?」


「どうしよっかなー。……まあ、フラワーが受け入れようとしている子だし……アンデッドにしては敵愾心がないしねー」


「私は心がない……わけではなく、パックいわく、鈍いらしいから? 感じないんだと思う。……でも? ちょっとでも貴女達を嫌いに思ったことはない? かも?」


「ハテナがっ、多いっ」


 またイェネオが笑う。アスカは、よく笑う人だなあ、とぼんやりと見つめていた。


「……リディア……それに、パック、ね。フラワーの話にはちょろっと聞いてるけど、リディアの方はそこにいる美人さんだけど、パックは見たことないんだよね」


 実はパックはあまり人前に姿を現さないようにしているらしい。長年の友人であるリディアや同種であるフラワーや心が鈍いアスカはともかく、普通の人間は心を読まれることを知られるとストレスに感じてしまうんだとか。


 それを考慮して、パックは基本的に人前には姿を現さないようにしているようだ。オーベロンとはまた違った立ち位置にいるようだ。


 また、アスカやほとんどの存在には知られていないことだが、パックはオーベロンの長距離転移のビーコンとしての役割があるため、姿を見られるのはそういう意味から好ましくないのだ。


 アスカはパックに自分のことはあまり口外するなと言われたような気がしたので、詳しいことは言わないようにする。


「……パックは……可愛い」


「可愛いかー、見てみたいなあ」


「…………貴方も同じく可愛い?」


「ありがとー。でも少し疑問形で首傾げたのは気になるー」


 イェネオがアスカの顔を両側から手で挟んでむにゅむにゅしてくる。そして、アスカはしばらくされるがままになっていると、イェネオが名残惜しそうに、一旦離れた。


「――っと、そろそろ時間かな? 話した感じ、たぶん大丈夫そうだし、それを報告してくるかな。あっ、そうそう私はイェネオね。実はこの町で一番強い兵士だったりしますっ」


「すごい。私は……」


 魔王になるつもり、と言おうとして、すぐにそれは好ましくないことかもしれないと思い至る。魔王は人をいっぱい殺す。殺されるのは怖いことだと思う。たぶんだから恐らく相手は人をいっぱい殺す魔王になろうとする自分に不安を抱く可能性があるのでなかろうか。


「弱いけど、強くなろうと模索中」


「おっ、向上心があっていいね。もしよかったら、今度訓練所で鍛えて……手合わせもしてみる? 私らの近くにいると皆安心するだろうし」


 安心――そういうものか、とアスカは思い、とりあえず頷く。


「良いよ」


「んふふ、やる気があって良い良い。――んじゃ改めて、鉱山都市ティターンへようこそ」


「ご丁寧にどうも」


 アスカはぺこりと頭を下げると、イェネオも今は礼儀正しく頭を下げるのであった。


 ちなみに町に入れたのは、5時間ほど後だった。

次回の更新は5月30日を予定としています。

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