人ならざる者に与えた優しさとその代償⑬
埋葬と生き残った人達の最低限のケアを終える(比較的大きな町に何かしらの換金性の高いものを渡して送った)。
それで、これからどこに行くか、という話なのだが――。
アスカはリディアに首を傾げる。
「それで? どこに行くの? ティターンに寄った後という意味で」
「んーとねー。北東辺りの魔界で戦闘技術の底上げかな。その最中に何度かフラワーの力でレベルアップを繰り返して戦えるようにする感じが理想的かなー」
《あっ、北東というとティターニアの所に行くつもりでしょうが、今、マスターは貴方の拠点の一つに向かっていますよ》
そうリディアの肩にとまっているフラワーが言うと、リディアも軽く首を傾げる。
「あら? お茶会の時期ではないよね? なんかあった?」
《さあ? 確かに時期的に早いとは思ってましたけど……。えっと、マスターは今、ここから近い拠点に移動してましたよ。でもちょうどいいかもしれませんね。下手に彼女達を魔物達の巣窟に連れ込むよりかはマシかもしれません》
フラワーは、ちらりとアスカ含め四天王の吸血鬼達を一瞥する。
「そうかもね。……けど、何かあったのかなー……って」
二人はもう一方の肩にとまっていたパックに顔を向けた。けれど彼は、ふいっと視線を逸らす。
《シラナイナー》
「えー」
《嘘でしょう》
パックはこの世のあらゆる事象を観測している存在なのだ。知らない、などとは二人からすればあり得ないことであった。
リディアは顔を逸らし続けているパックの頬を指先でふにふにと押す(同じくアスカが自分の肩にとまっているパックの頬を指先でふにふにしだした)。
(どうしたの)
《ティターニア関連で、特に向こうが何かしら秘密にしていることを僕から伝えることはあまりしたくないんだ》
パックが疲れたように、口には出さず、リディアの心にそう返す。フラワーに聞かせたくないらしい。
(…………。あー)
なんとなく察せた。もし、パックがティターニアが秘密裏に進めていることをバラしてしまえば、それがリディアやフラワー関連であった場合、確実にバラしたのがパックもしくはオーベロンであることがバレてしまう。
ティターニアは恐らくパックが言ったとしても、オーベロンに食ってかかるはずだ。それは容易に想像出来る。
『まあ、我が輩はそれでも構わんがな』
オーベロンがパッと現れて、それだけ言うとまた消えてしまう。
《オーベロン?》
フラワーがいきなり現れて消えたオーベロンを見て、不思議そうにしていた。いきなり現れていきなりどこかに行くのは彼のお家芸のようなものなので、特に驚きはしない。――まあ、それを知らない四天王は驚いていたが(アスカは特に気にせずパックをふにふにしていた)。
(それで、結局、ティターニアは何をしようとしているの?)
《うーん……》
パックは返答に困ってしまう。けれどその反応を見たリディアは軽く吐息をついた。
(なるほど、私関連ね)
《うー……》
リディアは地味に察しが良すぎた。さらに『魔女ノ夜会』を軽く使って思考を加速させて、――結論まで達してしまう。
(……フラワーの構想とか聞いてたし、それをティターニアに話したんだろうね。で、国作りの『象徴』としてティターニアは候補として私を選んだ、と)
《……ちょっとやめてくれない?》
心を読める者が心を読まれてしまうのは、中々に屈辱的でパックの頬がぷくーっと膨らんでしまう。
リディアは申し訳なさそうに眉を下げる。
(ごめんごめん。……じゃあ、まあ、うん……気が向いたら行こうかなあ)
《それ、『行きたくない』し『やりたくない』って言ってるようなものでしょ。実際そう思ってるし》
「ははは……」
《……そういう結論になるから、言いたくはなかったんだ》
リディアは大抵の面倒事を背負ってくれるが、上に立つような役割を背負うことを苦手としている。力はあれど、それを冷徹に振るう性格をしていないのだ。
ただ、リディアもティターニアが頼もうとしていることがとても大切なことであることは分かっている。替えが利きにくいため、どうしても頼らざるを得なかった、というところも理解していた。
理解していても、替えがいるかもしれないなら……そう思ってしまって腰が引けているようなのだ。
それにリディアはもしティターニアと対面して、頼まれたら断れないという自分の性格もよく分かっていたのだ。だから先延ばしにしたいと思っていた。
――駄目なことだと分かりつつ、リディアは『逃げる』ことを選択してしまう。
今回は執筆時間が取れずかなり短め。
ちょっと忙しさに尾をひきそうなので、次回は5月23日の19時となります。もし時間が取れれば16日頃にはあげたいのですが……予定は不明です。




