#02.おばあちゃん視点
味気ないので、お付きの女性の名をマーサにしました。
ティガー、幸せになりなさい、その子が新しい家族よ』
あぁ気がかりだったあの子に出逢いがあった。
そろそろ私も向こうに行きましょうか。
私は王都の裕福な商家に生まれました。
商才のある兄と人に好かれる弟に挟まれた3人兄弟で、女の子は私だけなので大層可愛がられました。
家は王都の中心から離れた所で庭に大きな樹が立っています。
父はこの大樹を代々我が家の守りとして大切にしています。
ご先祖がこの地で商売を始めて成功したからと聞きました。
だけど、子どもには関係ありません、よく登っては遊んでいました。
そんな私の運命が変わったのはあの時。
街中で貴族の馬車が事故を起こして、乗っていた貴族の男性がケガをされてました。
そこで、治癒魔法を使えた私は、その方へ応急処置を行いました。
後日、御礼にと招かれて気に入られた私は、その貴族さまの後妻にと請われました。
流行り病で妻を亡くし、男の子が残されているそうです。
平民で身分差もありお断りしたのですが、治癒魔法が使えた事、爵位を継ぐ男子が既にいる事で押し切られました。
先妻のお子様は夫と先妻の親族が面倒をみるという事で殆ど交流はありません。
その後、月日が経ち、年の差もありましたが夫も亡くなり、成人されていた先妻のお子様が無事爵位を継がれました。
実子のいない私は、跡目争いにも巻き込まれずある意味自由になりましが、
亡き夫の親族も私の扱いに考慮されているようです。
領地と王都に屋敷がありますが、私は別の道選びました。
それは、実家に戻る事です。
といっても産まれた時の家は既にありません。兄と弟の手で大きくなった商会は王都の中心部に店と住まいを構えており、実家は両親が亡くなった後取り壊しておりす。
土地は我が家の御守りである大樹がありますので手離してはおりませんでした。
幸い貴族さまからの援助と実家に預けて運用していたので資金は大丈夫です。
その土地に私は新たに家を建てました。
もう、歳を取ったので平屋にしました。
そこに私付きでずっと仕えてくれていたマーサがそのまま付いて来てくれました。
この子(と言っても少し歳下なので良い歳なんですが)はも他に身寄りもおらず後妻に収まった時からのお付き合いです。
「もうこうなったら死ぬまでお付き合いしますよ」と笑って言ってくれます。
もう、妹とも思っておりましたので、内緒で私に何かあった時の為、近くに土地を買って小さいですが家を用意できるお金と生活費も準備しましょう。
新居で生活が始まりました。
兄弟の孫が「おばあちゃん遊びに来たよー」と引退した兄や弟と遊びに来てくれますので、思ったよりも賑やかです。
貴族さまとはその後は季節の挨拶程度で揉め事もありません。
広めに作った庭も仕切って近所のお子さんとお母さんの遊び場に開放しました。
芝生の上をヨチヨチ歩きの子どもが今日も集まっています。
そんな穏やかな日々に変化が起きました。
ある日の事、テラスで読書しよう思い庭に出ると、垣根の片隅にうずくまる物が。
マーサを呼び、恐る恐る様子を見るとそれは酷い怪我をした大きな猫。
話に聞いた事がある南方に住む虎かと思うほどの大きさです。
治癒魔法を使って見ますが、老いて私に癒す程の力はもうありません。
しかし、意識を取り戻したのか、猫は此方を見つめます。
その後、身重だったようで3匹産み落としましたが、怪我のせいもあってか2匹は死産でした。
生き残った1匹を舐めてお乳を上げた後私を再度見つめると一声鳴きました。
まるで「この子をお願い」と言うようにか細い声で。
その後眠るかのように息を引き取りました。
ご近所の噂ですと、猛獣がこの地区に入り込んだとの通報で、騎士が見廻りを行なっていたそうです。
その大きさから誤解されて犠牲になったのでしょう。
残されたのは手のひらに乗る小さな命。これも何かの縁です。
この猫にティガーと名付けました。
幸いすくすくと育ちます。
お気に入りなのは私の膝の上で撫でられながら丸まって眠る事。
一声鳴いて私の手をテシテシと叩いて撫でるのを要求する姿が愛おしいです。
子猫はあっという間に育ち膝のうえに収まらなくなりました。
しかし、撫でられるのが好きなのは相変わらず。
就寝時は、必ずベッドにいます。
人見知りに育ち、私とマーサ以外に慣れず、お客様の時は何処かに隠れています。
しかし、離れたかと思うと気がつけば傍にいます。
夏の暑い日はテラス、冬は暖炉の近くのソファ、いつも私の傍らにいます。
もう小さい女の子よりも大きくなり、子供も怖がっていますがティガーも避けるので問題はありません。
来客が帰ると、小さい頃と変わらない仕草でテシテシと触れてきます。
最近体調に変化を感じます。そう長くはないようですね。
気がかりなのはティガーの事。
そこで私は、最近耳にした公爵夫人に連絡をとりました。
何かあった時にはお願いしようと思います。
数日後、カミラ公爵夫人、ご本人がお見えになりました。
無類の猫好きに間違いはないようで、ティガーを見る目も優しさに満ちています。
マーサの家も内緒で手配もすませましたし、これで心残りは有りません。
この家は兄弟が別邸か取り引き先のゲストハウスにでもするとの事。
センスが良くて過ごしやすいと褒めてもらいました。
良ければマーサも此処で引き続き雇ってもらいましょうか。
働かなくても十分に生活できる準備しましたが
仕事好きなので選べる様にしてあげましょう
住み込みでもよし、近所から通うのも良し、
たくさんお世話になったお礼です。
暑い夏を過ごして、ある秋の穏やかな日の午後。
涼しくなって、その毛で暑さが苦手なティガーは、傍らで気持ち良さそうに眠っています。
何か食べている夢でも見ているのかウミャウミャと寝言を言ってます。
思えばこの子のお陰で生活にハリま出来、充実した毎日です。
今日で読み終わりそうな本を手に取ります。
やっと犯人が誰かわかりますね、きっとあの人でしょう。
お茶をいただきながら、最後のページを読み終えました。
まさか!あの人ではありませんでした。
大どんでん返しでした。
面白かったです。
本を閉じて物語を思い浮かべます。
あぁ今日は心地よいですねー。
少し眠たくなりました。
ティガーとあの子が出会いました。
あら!ティガーと同じぐらいの大きさ、ぷくぷくして可愛いわ。
キラキラした目でティガーを見てる。
ふふ、ティガーも気になってる。
大丈夫よ、
この子、私と同じ治癒魔法が使えるみたい。
その子は甘えっ子で撫でられるのが大好きよ
仲良くしてあげてね、一杯遊んであげてね。
あぁ良かった、ここにお願いして本当に良かった。
新しい家族にも出逢えた。
精一杯甘えなさい一緒に駆けっこもできるね。
外で遊んであげられなかったのも心残りだった。
もう私を探さなくても大丈夫よ。
いつも探していたでしょう。
隠れんぼしているみたいで楽しかったわ。
もし生まれ変われるなら猫もいいわね。
『ティガー 幸せになりなさい。』
感動用は一旦この話までです。