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第一話 緑の覚醒

 ここはホシが降る国、スラスト。

 神秘に満ちたこの国で、人々は互いに手を取り合い支えあいながら暮らしていた。そう、かくいうこの、少し気弱そうな少年も――。

「おいミドリ。お前、俺たちの代わりに掃除しとけや」

 ――少年は、不良に絡まれていた。


 スラストは落星(ホシ)に導かれる国だ。

 この国では小学校に入学した年から、魔法もしくは武術の勉強をすることが義務付けられている。生まれてくる子どもたちは皆、魔法か武術どちらかの適性を持っている。

 この適性を教えてくれるのが、この国の人が落星(ホシ)と呼んでいる一筋の光だ。落星(ホシ)の特徴は大きく分けて二つ。一つは、五歳の誕生日を迎えた子どもに落ちるということ。もう一つは、二種類の色があるということだ。

 親は自分の子どもが五歳の誕生日を迎えたその日に、落ちてきた落星(ホシ)の色を見て通わせる学校を決める。青い落星(ホシ)なら魔法学校、黄色い落星(ホシ)なら武術学校。

 つまり、青の子は魔法に、黄の子は武術に、それぞれ才を持つということだ。子どもたちはその翌年から、学校でその力を伸ばしていく。

 しかし、どんな世界にも例外というのは存在する。その最たる例が、たった今不良に絡まれているこの少年・星見(ほしみ)ドリである。

 ドリには、本来五歳の誕生日に落ちてくるはずの落星(ホシ)が落ちてこなかった。それはつまり、魔法も武術も、どちらの才能も無いという宣告と同義である。

 両親ともに魔導士であることからなし崩し的に魔法学校に通うことになったが、やはり魔法も武術も使える気配すらなく、周囲からは蔑まれたような目で見られるのが常だった。


「で、でも教室全部を一人でなんて」

「おい、どけ」

 しつこくドリに絡んでくる不良二人を押しのけるようにして、一人の少年がドリの前に立つ。目深に被った真っ赤なバンダナの下から鋭い目でドリを睨みつける。

 大葉(おおば)焼悟(しょうご)。ドリが通う国立第二魔法学校高等部の魔法実技成績で学年トップ、なおかつ不良グループのリーダー。この学校で彼の名を知らない人はいない。

「ショーゴ君…」

「おいミドリ。俺たちはこれから魔法の実技演習があるんだ。そう、()()()()()()()()アレだよ。俺たちはそのために身体を温めないといけなくてなぁ?」

「でも、他のみんなは掃除してるし」

「帰ってゲームなんかしてるならよぉ、掃除でもして学校サマに貢献する方が有意義な時間の使い方だろ? そうだよなぁ?」

 ドリの言葉に被せるようにショーゴがまくし立てる。こう言われると、ドリは何も言い返せなかった。時間があるのも、それでもって特にすることがないのも事実だ。

 ため息混じりにドリは答える。

「分かったよ」

「そうか。じゃあよろしくな。わはは!」

 ショーゴが取り巻きとともに教室から出ていくのを視界の端で見送りながら、ドリはホウキを動かし始める。もう一度大きくため息をついた。


 そうしてドリがおおよそ教室の半分を掃き終わったころ、なみなみと水が入ったバケツを担いで、ひとりの少女が戻ってきた。

「あれ、ドリーひとり?」

「いや、実は…」

 話を聞いた少女は、雑巾を絞ったそのままの濡れた手でドリの頭を叩く。

「冷たっ! 何するんだよ、若菜(わかな)

「こっちのセリフよ! 演習前にはウォーミングアップの時間があるって何度も言ってるでしょ。何回同じ理由でサボりを許せば気が済むのよ、あんたは」

「ご、ごめんなさい…」

 花咲(はなさき)若菜はドリの幼馴染だ。クラスで唯一、ドリを差別せずに対等に扱ってくれる人でもあった。それゆえにドリは若菜に対して頭が上がらない。

「まったく。もう体育館に向かったのなら、呼びに行く方が手間だわ。二人でパッと済ませるよ」

 そう言って二人が掃除を再開しようとした瞬間。

 ドドォォン、と。

 大気を震わすような轟音があたりに響き渡った。

「な、なに? 爆発?」

 慌てる二人をさらに追い込むように、今度は近くの警報器から甲高いサイレンの音が鳴り響く。

外敵(リアン)警報。外敵(リアン)警報。国内に外敵(リアン)一体の侵入を確認しました。場所は、国立第二魔法学校近辺です。周辺住民の方は、慌てずに指定の避難場所まで避難して下さい。繰り返し…』

「リ、外敵(リアン)? じゃあまさか、さっきの爆音は…!」

「ね、ねぇ若菜。さっきの音、体育館の方から聞こえてこなかった?」

 ドリの言葉で、若菜の恐怖がまったく別のものに変わる。バッと窓の外を見ると、ドリの言葉通り体育館の入り口付近から土煙が上がっている。二人は思わず顔を見合わせ、それから口を揃えて叫ぶ。

「「ショーゴが危ないっ!」」


 考えなしに教室を飛び出した二人が体育館で目にしたのは、大穴の空いた壁。無惨にもバラバラになった甲冑の模型。そして意味もなく暴れる豚の頭の巨大な魔物。

「う、うわ……!」

豚型(オーク)ね。まさか本当に入ってきたなんて……。まだこっちには気付いてないみたいだから、今のうちにショーゴ達を探すわよ」

 そう言われてドリも周囲に目を向けようとしたその時、穴の空いた壁の近くから声がした。

「若菜。それに……ミドリ野郎? お前らなんでこんなトコに……」

 見るとそこには、壁にもたれるような形で倒れているショーゴの姿があった。

「ショーゴ! まさかオークと戦ったの?」

「へっ、アイツらトロいからよ。俺が足止めしてやらねーと」

 アイツら。きっとショーゴと一緒にいた不良二人のことだ。若菜は驚く。ショーゴのそういった仲間思いの一面を見るのは初めてだ。

「バカ、無茶しすぎよ! 早く傷を見せて」

「……! お前こそ馬鹿言ってんじゃねぇよ! こんなところで治癒なんて始めたらお前まで殺されるぞ!」

「アレはあなたを狙ってたわけじゃない、無意味に暴れてるだけよ。だいたい、こんな状況で放っておけるはずないでしょう?」

「うるせぇ、俺のせいで誰かが死ぬなんて御免だ! さっさと消えろ!」

「いいから……! もうっ、右足ヒビ入ってるじゃない! 時間かかるから大人しくしてなさい! ……そうだ、ドリー」

「ミドリ野郎、テメェもさっさと逃げやがれ……あん?」


 ドリは、目の前で起きている惨状をただ呆然と眺めていることしかできなかった。ショーゴは仲間を庇って傷を負い、それでもドリたちを逃がそうとしている。若菜は、オークと呼ばれたあの外敵(リアン)が近くにいるにもかかわらず、負傷したショーゴを何とか助けようとしている。この場で自分だけが、何もせずその場に立ち尽くしている。

 自分の無力さを呪った。悔しくて仕方がなかった。だからきっと、甲冑の模型が持っていた西洋剣のレプリカが足元に落ちているのは、お前も何かを成せという神様のお告げだと思った。

 ドリは静かに、その剣を拾い上げる。


「おいバカミドリ! 何してやがる!」

 剣の重さを両手で感じたとき、少しだけ恐怖した。しかしそれでも、ドリの心は変わらない。倒れているショーゴたちの前に立ち、ゆっくりと、剣先を暴れるオークの方へ向ける。日の光を受けギラリと光るその剣に、その剣を手にする少年の存在に、オークは気づく。

「ドリー、馬鹿な真似はやめて! 剣を下ろして、今すぐここから離れなさい!」

「……嫌だ」

「人が死ぬところなんて見たくねんだよ! たとえそれがお前でもだ! 力も無いくせに死に急いでんじゃねぇ!」

「だったら!!」

 思わず叫んでいた。今までこんなに感情をさらけ出したことは一度もなかったのに。それでもあの二人になら、すべて吐き出そうと思った。

「だったらどうして、二人は命懸けてるんだよ! 僕だって、二人が死ぬところなんて、見たくないに決まってるじゃないか!」

 ショーゴも若菜も何も言わない。何も、言えない。オークだけが静かに、ドリに近づく。

「確かに僕には、魔法も、武術も無いけど……。でも! 立ち向かう勇気ぐらいは、ある!」

 オークがドリに飛びかかろうとしたまさにその時。ドリの身体は、頭上から落ちてきた謎の光に、飲み込まれた。


「ドリー!」

 ドリを飲み込んだ光はものの数秒でフッと消え去り、ドリは何事もなかった様子でそこに立っていた。

「ドリー、大丈夫なの?」

 ドリは剣を握った自分の両手をしばらく不思議そうに眺めてから、ゆっくりと顔を若菜たちの方に向け、口元に笑みを浮かべながら答えた。

「うん、大丈夫。……あとは任せて」

「え……」

 突然の光にひるんでいたオークが、剣を構え直したドリの姿を見て我に返る。近くの木に手をかけると、片手で根っこごとそれを引き抜く。

「なんて力……!」

「ヤツはああ見えて知性がある。振り回してくるぞ!」

 ショーゴの忠告通り、オークは引き抜いた木を両腕で抱えると、大きく横に薙ぎ払った。

 ドリは迫ってきた大木を寸前で身を屈めて回避すると、剣を強く握ってオークの懐に飛び込む。攻撃を避けられたオークは手に持った大木に引っ張られるように体勢を崩す。その隙を見逃さず、ドリはオークの胸元に剣を突き刺した。

 あたりに悲鳴が響き渡る。ドリはそのまま、オークを後方に押し倒す。背中から地面に叩きつけられ、オークはさらに大きな叫び声をあげる。

「何、今の動き……。ドリ、武術を使ったの?」

「……間違いねぇな。普通なら、レプリカの剣がヤツの皮膚に通るなんてことはねぇ。武器を巧みに扱い、その力を最大以上に引き出す、武術家の能力だ」

 倒れたオークに剣を突き刺したまま、ドリはショーゴたちの下へ駆け寄る。

「二人とも、今のうちに逃げよう」

「うん。……あっ」

 若菜は、目の前で起こる出来事に気をとられ、ショーゴの治癒をしていなかったことを思い出す。ドリに聞きたいことは山ほどあったが、まずは治癒に専念する。

「歩ける程度にしてくれればいい。ん? ……おい!」

 ショーゴが驚いたように前方を指さす。その指を追うように二人が振り返ると、そこには倒したはずのオークが、胸に剣を突き立てたまま立っている。

「なんてしぶとい……おい、どうすんだよ!」

 ドリはもう、武器を持っていない。


「お前ら、やっぱり俺を置いて逃げろ。もうこの場の誰にも、戦う術がねぇ。ヤツは俺たちを完全に敵視してるんだ、逃げなきゃ全滅だぞ!」

「でも……」

「大丈夫だよ」

「ミドリ、お前が剣を使えるのは分かった。でももうその剣が()えんだろ!」

「大丈夫。大丈夫だから」

 ドリは三度(みたび)、そう断言した。なぜかなんて知らない。しかしドリには、自分にできることが手に取るように分かっていた。剣を持っていなくても、自分にはできることがある。ドリは、立ち上がったオークに向かって両手を突き出す。

「何を……?」

 突き出した両手のひらから電流がほとばしる。バリバリと音を立てる光の筋が、まるで生きているかのように手のひらの上を這い回る。

「あれは……魔法?」

 ショーゴ達の理解が追いつかぬうちに手のひらの電流は光る塊へと成長し、

雷帝の嘶き(インドラ・ブレス)!」

 ドリの声とともに避雷針――オークの胸に突き刺さった銀剣のレプリカへと放たれる。

 全身に電流を流されたオークは甲高い声を上げて今度こそ倒れる。起き上がる気配がなくなったその巨体から、ドリは静かに剣を引き抜いた。


「ねぇ、ショーゴ。さっきドリーを飲み込んだ光……あれって、落星(ホシ)じゃないかしら」

落星(ホシ)だって? ヤツは五歳じゃないし、落星(ホシ)なら青か黄色だろ。あのとき落ちてきた光は、()()だったじゃねぇか」

「……ショーゴはドリーのことをミドリって呼ぶよね。あれはどうして?」

「青にも黄色にもなれなかった奴だから、だよ」

「緑は緑でも、まったく逆だったんじゃないのかしら。魔法と武術の双方を扱う、青でもあり黄色でもある緑」

「……それがもし本当だとしたら、それこそイレギュラーすぎるぜ。あいつ、いったい何者だ?」


 ドリは剣をその手に持ったまま、まだ星の見えない青い空を、ただただ見上げていた。

ファンタジーってこんな感じだっけ?

とりあえず剣と魔法で戦わせておけばファンタジーっしょ、というナメた考えでつくった第一話。自分でも読み返して思ったんですが、だいぶ文字の密度が高いです。高密度注意報発令。

文章も拙い部分、多くあると思います。気合がある人はぜひお付き合いください。


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