04.考察
そして三日後、菱沼の不安は的中した。
成瀬が不登校になった。
高槻先生からも何か思い当たることはないか聞かれたことが決定的だった。
菱沼は家へ帰ると、一冊のノートを取り出して、今回のことで分かっていることをまとめ始めた。
どこかにヒントがあるかもしれないと思ったのだ。
八時から十一時の間に、彼女に何があったのか。
成瀬は母親にもその理由を話していない。
菱沼と別れた時に、落ち込んでいるような様子はなかった。
そのことから、小さな問題ではなく、さらにその原因は母親や菱沼ではないとわかる。
(どういうことがあったら、好きな人を遠ざけたくなる?)
ひとりになって考えたいことがある。
それくらいしか、考えられない。
(ダメだ。私にその経験がないから、全然浮かばない……)
もう一度、じっくりと考えてみた。
好きな人を遠ざけたくなる時、それはつまり、自分からしてみれば、成瀬を遠ざけたくなる時だ。
(危険が迫っていて、巻き添えにしたくない時……)
空想じみているが、自分に置き換えてみると、それが最も有力な理由になる。
荒っぽいことをしてでも、自分に近づかないよう、十重二十重に柵を作るだろう。
成瀬の態度が急変したことを思えば、八時から十一時の間に、菱沼の家から成瀬の家の間で危険なことが起きて、それが今も続いている可能性はある。
調べてみたいが、実際に自分で歩くのは、リスクがありすぎる。
せっかく遠ざけてくれた成瀬の気持ちも無駄になる。
まずは、ある程度の目星をつけて、噂でも集めた方がいいかもしれない。
真っ直ぐ帰路についたと仮定すると、何か起こりそうな場所は三ヵ所ある。
まず、大通りに出るまでの細い路地裏。
次に、人通りの少ないところにある公園。
そして、駅前。
八時すぎであれば、駅前はまだ電車を利用する人がたくさんいるはずである。
だから、そこは候補から外してもいいだろう。
公園と路地裏。
このふたつは、学校から菱沼の家に向かう途中ではないため、何が出てもわからない。
この辺りを通る生徒に何か怖いものに会わなかったか聞いて――――。
(聞くって、誰に?)
調べたくとも伝手をまったく持っていないことに気がついた。
学校で仲が良いのは成瀬ただひとりであり、他の生徒は、他人以上の関係性を構築できていない。
しかし、学校の外になら、ひとり心当たりがある。
中学校のころの同級生で、そういうことに長けた知り合いがいる。
(頼りたくなかったけど、今はそんなこと言ってられないか)
他人を介入させることで、火照った頭でも少し冷静に物事を見られるだろう。
ここまでの推測は自分の独断と妄想であり、現実はもっと単純で、小さな問題であるかもしれない。
暴走した結果、いらぬ世話になることだけは避けられるように、あらゆる可能性を考えながら慎重に調べていくことに菱沼は決めた。