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8話 衝突

休日


 この日はいよいよ待ちに待った姉さんとのデートである。

昨晩はあまりの興奮で寝つきが悪く、睡眠不足になるかと思ったが、チート能力によりダメージはない。

これはもしかしてその気になれば睡眠を取らなくても生きていけるのか。

 地味に化け物じみた身体になってるな。

俺は寝ることが好きだし、姉さんと生活リズムを合わせて普通の人間として生きていたいから無理はしない。


 昨日のうちに姉さんに創ってもらった衣服。

服に頓着がなかった俺はデートのためのオシャレ、これだけでも緊張する。

この世界の流行をクラスの友人から聞いて参考にしたそうだ。

 着てみると腕の細さが目立つな⋯⋯。

チートで馬鹿力が出るから気にしたことなかったけど見た目のために筋トレしたほうがいいかもしれん。


 俺の準備は万端だ。

姉さんの様子を見に一階へ降りると、神々しい光に包まれて、女神のような女性が立っていた。

流石、元女神である。

 ローブ姿や学校の制服、家での簡素な格好も漏れなく美しいの一言であったが、薄手のカーディガンのような上着を羽織り、ロングスカートを穿いた、まさにデートに行く大人のお姉さんという雰囲気を醸し出しているその姿に、俺は思わず手を合わせて拝んだ。


「なに?レイくんどうしちゃったの?」


「私は素晴らしい姉上を産んでくださった両親に祈りを捧げています⋯⋯」


「もう、大袈裟だなぁ」


 照れ笑いを隠す姉さんは、少し嬉しかったみたいだ。

俺はこんなにも美しい姉さんと釣り合う男になれるのか?

女子3人にもらったアドバイスをここで活かし、パーフェクトなデートを決めて魅せる!



「じゃあ、いこっか」


「待って、姉さん! すごく、綺麗だよ」


「え? あ、ありがとう、どうしたの? 急に」


 困惑した顔で笑うあなたも素敵です。

これはタイミングを間違いましたね。



 俺たちがこれから向かうのはこの近辺で一番大きい都市、「モードプール」だ。

今住んでいる村から学校のある街「ホクシン」を経由してさらに奥にある。

ここからだと公共機関の移動式魔具を使って40分といったところか。

 ホクシンの近隣は凶悪なモンスターが生息しているらしく、整備されたルートを通らない限り、無事に辿り着けるかわからない、とはリリアさんの弁。

まぁ俺には関係ないけどね。


「姉さん、モードプールまでテレポートするから手、繋ごう」


 ナチュラル! これは自然の流れで手を繋ぐ理由を作り出した、俺のファインプレー。

確かスゥさん⋯⋯レイナードさんは指を絡めたいと言っていたな。

早速チャンス到来だ。緊張で手が汗ばむ。



「レイくん、せっかくのお出かけだし、魔法は使わないようにしない?街に行くまでも楽しいよきっと」



 マイナス! 俺としたことが焦りすぎてデートだということを忘れてしまっていた。

こういう場合、効率だけを求めるのはナンセンス。

道中もエスコートしてこそ男を魅せられる。

反省しなくては⋯⋯。


「そうだね、街の外の景色も見れるし、駅まで行こうか」


「駅まで手を繋ぎたい」なんて言えるわけないよな。

行き場を失ったこの左手、ごめんな。


「⋯⋯」


 姉さんは無言で俺を見つめてくる。

家から出ようとしたとき、その左手を掴まれ、にっこりと笑った。


「手、繋いでいこっか!」


 エスパーか・・・!?

まさか相手の思考を読む能力も創ってきたとかじゃないですよね?

心臓が飛び出そうになり、汗はダラダラ、顔色は?赤くなってないか?バレたくない。


「あ、いや、え、恥ずかしい⋯⋯」


 違う、本心ではない。

ここにきて素直になれないのはどういう理由わけか。



「レイくん、『手繋ぎたい』って顔に書いてあったよ! お姉ちゃんはなんでもお見通しなんだからね」



 頭がオーバーヒートする。

そうだった、俺はこと姉さんに関してはすぐに顔に出るタイプだった。

そして姉さんも完全に「姉」が板についてきている。

嬉しいやら悲しいやら、複雑だ。

あ、指。指を絡めなきゃ。



――俺にはまだ、できなかった。







駅構内



 ここまで全て姉さんにリードされている気がする。

俺はデート初心者だが、姉さんは今まで恋人はいたのだろうか。

女神の仕事中も自宅でも、他の神の気配はなかった。

女神じゃない姉さんの姿を知っているのは俺だけ、だとしたら。

もしそうだとしたら、いや、そうであって欲しいと願うのは格好悪いことなのかな。



「レイくん、ちょうどいい時間みたいだね。すぐくるって」


 移動式魔具「ニトロ」はモードプールまでの道すがらの安全を約束してくれる移動ツールだ。

前世で言えば電車のようなもので、動力源は魔力。

車輪ではなく魔力によって地面スレスレを飛んでいる。

 空中を飛ばすにはこの機械は大きすぎて膨大な魔力を必要とし、コストがかかるためこのような形になっている。

道中のモンスターを避けるため、自動障壁発生装置が等間隔に設置してあり、その障壁内部を走行し、モードプールまで行けるのだ。



 設計の都合上、俺が運転すれば無限の魔力で空も飛べるということか。

将来は車掌になるというのもいいかもしれない。

いや、ダメか。



 ニトロに乗った俺たちは、窓から見える景色と談笑を楽しみ、モードプールへと降り立った。






「わぁ〜、大きい街だね。どこから見ようかな」


 姉さんは街に降りたばかりだというのにもう楽しそうだ。

女神時代はおそらく行き場所がなかったんだろう。

こうして人並みのことをするのは初めてなのかもしれないな。

ならば、ここは俺がリードしていくしかない。

どんっ!とぶつかる何か。


「あ、あの、ごめんなさいっ」


 獣耳の女の子が俺に体当たりしてきた。

そんなに急ぎでどこにいくんだろうか。

気を取り直して俺がリー⋯⋯上着のポケットになにか入れられたな。

取り出すと、カプセルの入った小袋だった。


「レイくんどうしたの?」


「今、女の子にぶつかったんだけどそのときにこんな物をポケットに入れられて」


「カプセル⋯⋯薬かしらね?ぶつかった拍子に入ったの?」


「いや、今のは明らかに故意だったよ。どういうつもりなんだか」


 意図的に入れた薬のようなカプセル、ロクな代物じゃないのは間違いないだろ。

せっかくのデートを邪魔しないでいただきたい。

さらにトントンと肩を叩かれる。

もういい加減にしてくれ。


「⋯⋯なにか用ですか」


「なぁ兄ちゃん、その薬、こんぐらいの背丈の獣女が持ってなかったか。どこに行った?」


 ガタイのいい男が耳打ちしてくる。

気づけばいつのまにかスーツの男の集団が俺たちを囲んでいる。

背中に硬い物が押し付けられてるな。銃か?

姉さんにも汚い手で触れてやがるな。


「あの、なんですか⋯⋯?」


 安心して姉さん、俺が護るから。

さて、俺は撃たれてもおそらく大丈夫だが⋯⋯。


「急に走ってきてこれを俺に渡してすぐどっかに行きましたよ。興味ないんで返します」


「兄ちゃんが興味なくてもこっちはそうはいかねぇんだよな。ついてきてもらおうか」


 なんとなくそんな気はしてた。

貴重な時間をおっさん連中にかけてる暇はない。


「あ、その女の子、これ渡してきたときに行くとこがあるって言ってたな。」


「あぁ?その話、詳しく聞かせろ」


「ここで話すのはおじさんたちもあんまり都合よくないでしょ。そっちの路地裏で話すよ」

耳打ちするぐらいだ、ついてくるだろ。


「⋯⋯おい、その女も連れていくぞ」




路地裏



「じゃあ話してもらおうか。そいつはどこへ行っ」


 俺はそいつがしゃべり終わる前に顎を拳で撃ち抜いた。

他のスーツの男たちがざわつき出すが、行動はさせない。

次々と殴り倒し、最後はこいつだ。


「姉さんから手を離しな」


 俺は手首を掴むと、力を込め、姉さんを掴んでいる手を緩めさせた。


「な!なんなんだおま」

デコピンで終了。


「今日は魔法を使わない約束なんでな」





 6人の男を壁にもたれさせ、片付けもよし。

全員息もある。

格闘技経験なんかないからけっこう力入れちゃったけど、頑丈なおっさんたちで助かった。



「姉さん大丈夫だった?怪我はない?」


「う、うん大丈夫だよ、ありがとう。」


 頭をポンポンされてしまった。

違う、俺が姉さんをポンポンしなきゃいけないんだ!

今日はなかなか上手くいかない日だな。

こればかりはチート能力を駆使したところでどうにもならない。


「この人たち、なんなんだろ⋯⋯」


「どうやらさっきのカプセルが関係してるみたいだけど、めんどくさいことになったなぁ」


「レイくんが私を助けようとしてくれるのは嬉しいんだけど、無茶するのはお姉ちゃん心配だよ」



 こいつらが組織なのかはわからんが、でかい組織だとしたら間違いなく俺らに辿り着く。

そうなると報復がある可能性もなくはない。

確かに軽率な行動だったかもしれない。

余裕を持てるように格闘技でも習うか。

いくらチート能力持ってても加減がわからないというのは危険だな。

ごめんなさい、姉さん。



 あれこれ考えていると、事件の元凶、獣耳の女の子が現れた。

地面に頭を押し付けて。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!」




⋯⋯謝るぐらいなら最初からやるなよな。

はぁ、デートに戻れるんだろうか。

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