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5話 転入生の宿命

8/13 ⋯⋯に修正

 教室へ入ると、騒がしかった20人の視線が扉を開けた俺に集中する。

目立つことに慣れていないため、顔が強張り、ゴクッと唾を飲み込んだ。

教室を見渡すと様々な種族の生徒がいる。

この世界は特に種族ごとに決まった拠点などなく、全ての人種が平等に暮らしているらしい。


「あー、今日からこの教室の仲間になるレイ・アサギリくんだ。彼はお姉さんと2人でこの街に引っ越してきたばかりのようだから皆、親切にするように。それじゃあ自己紹介して」


 自己紹介。そういえばなにも考えてなかったな。

当たり前のイベントだということを忘れていた。

沈黙にクラスメイトがざわついている。適当にしとくか。


「えっと、レイ・アサギリです。」


 シーンと静まり返る教室。

まだ何か言えっていう無言の圧力に押される。

趣味は特にないしな。ラノベの新作チェック(買わない)と言ってもラノベなんてこの世界にないし、どうしろっていうんだ。


「え〜〜〜っと、と、特技は色々魔法が使えます」


 今度はざわつく教室。生徒たちは隣同士の者と顔を見合わせなにかしゃべっている。


「なにか得意な魔法見せてー!」


 金色の綺麗な髪をした女の子が手を挙げて注文してきた。

俺の分析によると彼女はいわゆるリア充グループだろう、制服の着こなし、積極的な発言、明るい表情。

こうやってすぐ見た目で分類するのは悪い癖だな、やめよう。

得意な魔法か、まだ二回しか使ってないけどとりあえず火魔法を出してやるか。



「じゃあ火の魔法やりまーす⋯⋯」


 手品師みたいな出だしになってしまった。

気を取直して、そうだな、窓から見えるグラウンドに火柱でも上げてみよう。


「窓の外をご覧ください。3、2、1」


 グラウンドのど真ん中に円形のサークルが浮かび上がる。

その周囲だけ、一瞬暗くなった次の瞬間、天に向かって業火が立ち昇った。

我ながらかっこいい魔法が撃てたな、と自画自賛したい。

 これで自己紹介タイムを終えられるだろうと、ホッと胸を撫で下ろし、皆のほうを見ると、1人を除いて、口を開けて火柱を眺めている。

担任の教師も同様だった。

あぁ、火、止めなきゃ危ないもんな。

指で火柱の方向を指し、上から下へ指を動かす。

これでこの魔法はお終い。



「えー、以上、得意な魔法でした」


 完璧なデビュー。質疑への応答もばっちりこなし、コミュニーケーションもできた。

なんだかいける気がしてきたぞ学校生活。

心の中でガッツポーズをしていると、先ほどの少女が声をあげた。


「なにあれ! あんた何者!?」


 俺は瞬時に理解する。

この反応⋯⋯やり過ぎたか!

得意な魔法という注文だったからある程度の規模は必要だと思ったが、この世界の基準は記憶にはなかった。

刻んでおこう、業火はやりすぎだと。


「俺の師匠がたまたますごい人で修行の成果が今のタイミングで一番出ちゃったというか俺もびっくりしました。初めてあんなに出たので」


 苦しいか?


「そうなんだ⋯⋯すごーい!後で魔法教えてよー!!私苦手なのー!」


 よし、上手く誤魔化せたがこのグイグイくる感じ⋯⋯苦手だ!

だがこれはまたとないチャンス、これをキッカケに克服すればいい。

あわよくば繋がりで友達できるかもしれん。


「俺でよければいつでも教えるよ」


 こうして学校初イベント、自己紹介を難なくクリアした。






休憩時間


 転入生といえばお決まりの質問攻めだ。

例に漏れ無くその真っ最中である。


「ねぇねぇ修行ってどこでやってたの?今までどこに住んでたの?色んな魔法使えるっていってたよね?後なにが使えるの?彼女いる?好きな食べ物はー」


「おいおい、そんなに一度に聞いてもわかんねぇだろ」


 怒涛のマシンガントークで蜂の巣にしてくる彼女は先ほどのリア充、耳の長さからしてエルフ族とみえる。名前は「リリア・ミリア」。

そしてツッコミを入れたのがスポーツマン風さわやかイケメンの「ソウタ・マキシマ」だ。こちらは俺と同じヒューマン族だな。

 2人とも前世の俺には縁のない世界の住人だが、こうやって話しかけてきてくれるのは助かる。

自分からいくのは得意じゃないからな。


「修行はダーマル山嶺の奥地、そこに姉と2人で住んでいて、魔法は水金地火木土天冥海あらゆる属性、彼女はなし、好きな食べ物は豚の生姜焼き」


「お前も律儀な性格してんな⋯⋯」


 俺たちが以前住んでいた場所は人里離れた山の奥地という設定になっていた。

多分、世界に差し込むに当たって限りなく情報量を少なくするようにしたんだろう。


「やばいやばいすごい人が入ってきたねー!これでうちのクラスの優勝間違いなし!」


「優勝?」


「あぁこの学校で毎年やってる精霊祭っていう祭りがあるんだがこいつが張り切っててな。優勝者したクラスは精霊の加護を受けられるんだ。あと賞金が出る」


「賞金が楽しみなんだよー!私んちあんまりお金持ちじゃないからね!」


 なるほど、豪華な体育祭みたいなものか?

こんなチート能力で優勝するのも気が引けるが。


「ちょっといいかしら」


 棘のある声で話しかけてきた彼女の名は「スゥ・レイナード」。

艶のある黒髪にキリッとした目つき、クールな印象だがなにか俺に敵意を感じる。


「アサギリくん、あなたの魔法、特殊な力を感じるのだけれど、違法行為はしてないでしょうね」


 違法行為?転生して能力を授かるのが違法行為なら反論はできない。


「ちょっとスゥ!いきなりそんな言い方はひどいんじゃない!?」


「いいえ、これは重要な問題よ。このクラスから犯罪者が出たら大変だもの」


 いきなり犯罪者の疑惑を吹っかけてくるのは心外だな。でも特殊な力というものを感じてはいるのか。

自己紹介のとき、皆が火柱を眺めている最中、唯一俺を見ていたのがこの子だ。


「誤解を解くにはどうすればいい?」


「この場で不正は暴けないわ。やっていないというのであれば、疑わしい真似はしないようにすることね」


 そう言い残してスゥは立ち去った。


「なにあいつ感じ悪ーい!」


「スゥは学年トップの魔法の使い手だからな。ヤキモチ妬いてんじゃないか?」


 うーん、やっぱり目立つとロクなことがない。

控えめに控えめに、空気のような存在を目指そう。







 学校初日はリリアとソウタのおかげで順調に乗り切れた。

彼らは俺と友達になってくれるのかな。

あの明るい性格の彼らのことだ、そんなこといちいち考えていないかもしれない。

あまり気負うのはよそう。


 家に着くと、先に姉さんが帰っていた。


「ただいま姉さん」


「おかえりレイくん!今日すごい魔法使ったでしょ?私の教室からも見えてみんな驚いてたんだから!もうちょっと手加減しましょうね」


 相変わらず叱られると口元が緩む。ニヤニヤしてたら変態だと思われてしまうな。堪えろ、堪えるのだ。


「ごめん姉さん。次は気をつけるよ。姉さんのほうは問題なかった?」


「うん、みんな優しい人ばかりで色々教えてもらったよ。男の子たちは街も案内してくれるって」


 なんだと?


「ね、姉さんはそれを承諾したんですか」


 ワナワナと手が震える。

さっきとは別の意味で堪えろ。


「うーん、そこまでしてもらうのは悪いなーって断ったよ」


「さっすが姉さん!!」


 満面の笑みを浮かべる俺にビクッとする姉さん。

おっと、感情が素直に表に出てしまった。


「それにせっかくだからレイくんと見て回ろうかなーって。2人とも初めてのほうが楽しみがいあるでしょ?」


 初めての共同作業⋯⋯だと?

いかん、思考が飛躍しすぎている。

落ち着いて冷静になるんだ。


「じゃあいつにしようか」


「学校がお休みの日に行こっか!ゆっくり見てみたいしね」



 これは「デート」というやつですよね?

最初こそ姉弟に転生させた神を恨みましたが、撤回します。神様ありがとう。

趣味丸出しの話を書いてるときが一番楽しい・・・!

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