4話 新たな世界
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こんな展開、わざととしか思えない運命の悪戯だ。
確かに俺は女神様、いや、元女神様のシーラ様、シーラさんでいいか。
シーラさんと近い場所で転生することを願ったが、姉弟として生まれ変わってどうしたらいいと言うんだ?
俺のこの感情は間違いなくシーラさんへの愛情だ。
しかし、弟が姉へ抱く愛情とは家族間のそれだ。
その一線を超えるのは俗に言う「変態」だ。
前世では赤の他人だったからよしとされる可能性もある。
が、前世の記憶を、産まれたときからシーラさんのことを姉として接してきていた記憶が邪魔をする。
姉に異性としての好意を持つことの罪悪感。
二つの記憶がパラドックスを起こしてややこしいことになっているのだ。
本来ならば1人で転生するもので、前世を知る人間が誰もいないからそこまで悩む必要もないのだろう。
前世の記憶は使わず、今の記憶のみで生活していれば十分なのだから。
記憶を引き継ぐのは経験を活かせるメリットしかないと思っていたが、とんだ落とし穴があったものだ。
はやる気持ちを抑えてとりあえずシーラさんを起こそう。
「起きてください。姉さん」
うっかりしてると姉さん呼びをしてしまう。
これも今世の記憶のせいだろう。
それにしてもこのシチュエーション、俺が初めてシーラさんと会ったときの逆パターンだな。
なにか感慨深い。
「んん〜〜、え⋯⋯朝?」
我が姉ながら可愛さが天井知らずだ⋯⋯。
寝ぼけ眼をこすりながら起き上がる姉さんの一挙一動を俺の目は捉えて離さない。
ダメだ、すでに同期が始まったのか姉呼ばわりに違和感がない。
「姉さん、気づきました?俺たち転生したんですよ」
「え〜〜⋯⋯はっ!、えっと、レイくん?だよね。あ、なんか思い出してくる⋯⋯」
そうか、姉さんは死者を異世界に転生させてきたが、自分で転生するのはこれが初めてなんだ。
スタートラインは俺と同じ、ってことになるな。
「えええええ!レイくんが弟!?すごい!奇跡が起きたね!こんな近くで会えるなんて!」
うん、これが正常な反応だ。ゆえに哀しくなってくる。
ドギマギしているのは俺だけ。姉さんから見れば俺はただの弟、もしかしたら前世からすでにそういう目で見ていたのかもしれない。
わかってはいたけど淡い期待も抱いていたせいで、せつない。
「レイくん、泣いてるの?お姉ちゃんも嬉しくて泣きそうだよ〜⋯⋯」
「お姉ちゃん」⋯⋯か。悪くないな。
元々姉さんには姉属性を感じていたからな。
何を言ってるのかよくわからんなこれ。
しかも、姉さんは俺に会えたことで嬉し涙を流すほどだ。少なくとも嫌われてないどころか普通より上位の感情を俺に対し持ち合わせている、とも考えてられるだろう。
考えすぎだろうか。
以前の俺なら恋愛なぞ冷めた目で見ていただろうに、いざ自分が目覚めるとこの体たらくだ。
今までバカにしててすみませんでした。
一喜一憂してますが、すこぶる幸せな気分です。
「レイくん、ありがとう。レイくんが誘ってくれたからここまでこれました。今日から2人で第二の人生楽しもうね!」
「うん。姉さん」
俺の人生は今、産声をあげた!
♢
「よし、現状把握はできたね。明日から学校に転入するみたいだ」
「レイくんは二年生、私は三年生だね」
「うん⋯⋯学校はあまり好きじゃなかったんだけど⋯⋯今度は大丈夫かな⋯⋯」
「ん〜、レイくんはもっと自分に自信を持っていいよ。あんなこと言える人、今まで見たことなかったもん」
「思い出すと恥ずかしいからそれは忘れて⋯⋯」
「ダーメ! 私の大切な思い出なんだから」
そのウインクは俺の心を的確に刺してくるから危ない。やめろとは言わないが。
学校⋯⋯か。記憶にほとんど残ってないぐらい、ただ行って過ごして帰る、なんにもなかった場所だ。
今度は友達を作ったり勉強したり、一生懸命になってみようかな。
そのほうが姉さんも喜ぶだろう。
「後は能力の確認か」
「私が説明するね。レイくんの能力名は「ハイスコア」!能力はレイくんの注文通り、身体能力の向上と無限に魔力を使えるよ。オートで発動してるからもう使ってることになるね」
「能力はわかったけど⋯⋯『能力名』って?」
「え、男の子ってこういうの好きじゃないの?能力使うときに叫ぶとカッコイイとかで」
「俺のはオートで発動してるんだよね」
「あ、そっか! 恥ずかしい! 今のなしにしてください!」
「いや、毎朝起きたら叫ぶよ。発動してる証として」
顔真っ赤な姉さんを十分に堪能し、能力の出力をチェックしてみる。
まずは軽くジャンプでもしてみるか。
せーのっ
俺は天井を突き破り、雲を吹き飛ばしながら急上昇していく。
これはまずい、やりすぎた。
手を使って空気を進行方向の逆に飛ばし、ブレーキをかける。
そのまま元の場所に着地すると、衝撃波で姉さんに危険が及ぶ。
少し離れたところに着地しよう。
どうせなら魔力とやらを試して軌道をかえるか。
手を空に向け、力を込めてみた。
その瞬間、ジェット噴射のように溢れ出す魔法。
これは火魔法か。と確認している場合ではない。
勢いをつけすぎて地面に激突するなこれは。
俺は、その場の思いつきでテレポートを試してみたがなんなく成功。
安全に家の中へ戻った。
「おかえりー、すごい威力⋯⋯。気をつけないとダメだね」
「今のでだいたい使い方わかったよ。けっこう思い通りになるみたいだ」
「さすがレイくん、出来た弟ですね!」
「頭撫でて」と口から出かかったが、流石に気持ち悪いだろうからやめた。
俺が突き破った屋根は、姉さんの「創造」する能力ですでに修復してあった。
さすが姉さん、愛してる。
♢
翌日
今日から学校が始まる。
俺は新しい俺に生まれ変わったのだから、きっとうまくやれる。
後悔しないように日々を全力で生きてやるんだ。
担任の教師に案内され、俺は一息吸ってから、教室の扉を開いた。
ようやく他のキャラを出せるか・・・!