3話 転生、罪と罰
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いきなりの爆弾発言に面食らっている女神様。
流石に突拍子もなさすぎたか?
だが俺が思いつく一番簡単な方法はこれしかない。
転生できるのが死んだ人間だけ、というのであれば俺は神とも戦って女神様を奪い去るだけだ。
驚くのは俺がここまで胸の中を熱くしていること。
冷めた人間と言われ、学校では一人ぼっちだったというのに。
こんな気持ちになるのは生まれて初めてだ。
「それは⋯⋯できません。誘っていただいて嬉しいのですが、女神としてのお仕事があります。自分勝手は許されません」
「⋯⋯女神様は、俺が冗談を言って笑ったり叱ったりするときはくだけた表情と話し方をするんです。俺たち死者に対して仕事をしているときと、どっちが本当のあなたなんですか?」
「⋯⋯」
沈黙が続く。はっきりと答えないのであれば、彼女には迷いがある証拠。
「俺は生前、自分を殺して生きてきた、と言いましたよね。本当につまらない人生だったと、ここ数ヶ月女神様と暮らして思ったんです。たった数ヶ月で、ですよ。それぐらいあなたとの生活は楽しかった。俺は女神様に救われたんです」
「⋯⋯」
「だから今度は俺が女神様を救う番です。明日の朝、俺は転生します。その時に答えをください。」
本当は「俺が連れていく」ぐらいのことを言いたいところだが、転生させられるのは女神様だけだ。
かっこはつかないが今の俺にできるのはこれだけ。
「おやすみなさい、女神様」
俯いて立ち尽くす女神様を後に、俺は自分の部屋へ戻った。
ベッドに飛び込み、天井を見上げて考える。
はっきり言ってこの程度の説得で、女神という地位を捨てるとは思わない。
そこには俺の予想を遥かに超える責任や重圧があるのだろう。
これは俺のワガママに過ぎないんだ。
ここにきてからというもの、俺は幼児退行してるかのように甘えん坊になったな。
そして俺は目を閉じ、期待半分で眠りについた。
翌朝
意外にも爽やかな気分で朝を迎えた。
また子供のように不安な気分になるかと思ったが、本心はすでにしっかり覚悟を決められていたようだ。
例え彼女がついてこなくても、俺は第二の人生を地に足つけて生きる。それが彼女へのせめてもの礼になると思うからだ。
そして来たる運命の時。
「おはようございます女神様。俺⋯⋯、朝霧 零は、転生します。能力は、最初に言った能力に加えて『創造する力』も加えてもらっていいですか」
「おはようございます零くん⋯⋯」
女神様、元気がないな。そんな彼女は見たくない。
また迷惑をかけてしまいましたね。
「どういう答えが帰ってこようと、俺はすでに覚悟を決めています。言える立場ではありませんがあまり悩まないでください」
「⋯⋯私も一晩中考えました。この役目は簡単に投げ出していいものではない。だからこそ今まで勤めて来ました。今回の件だけではなく過去にも心を痛めたことがある。それでも今日までやってきたんです」
「⋯⋯」
「ですが⋯⋯ですが、あなたの言葉を受けて、あなたが私に本心をさらけ出したときのように、私の心も砕けてしまったんです! 私の弱い心ではこれ以上耐えられない!」
とめどなく溢れる涙。泣きじゃくる女神様の姿は、普通の女の子のようだった。
「女神として振る舞うときは言動に気をつけていました。本当の私は女神と呼べるような存在じゃありません。それでも⋯⋯」
「それでも私を連れていってくれますか?」
振り絞って出した、か細い願い。
思いの全てが雫となって滴る。
「俺は一生あなたと離れません」
♢
2人の決意は固まった。
出立するに当たって、家の整理でも、と思ったが、想像で片がつくので特に時間もかからなかった。
後は能力を貰って転生するのみだ。
「零くん、さっき言ってた能力だけどこれ以上の複合はできないの。万物を操る能力にすればなんでもできるけど⋯⋯」
「ならいいです。神になりたいわけじゃないんで」
「じゃあ私の能力にするね。転生したら私は女神じゃなくなるから人に能力を与えることはできなくなるの」
「いいんじゃないですか。女神だったことはもう忘れましょう」
俺の中ではいつまでも女神だ。
「転生についてなんだけど、ごめんなさい、転生先はランダムなの。その世界に最初からいたものとして自分の記憶から世界中の記憶まで全て構成されるわ。16歳に転生したらそこに至るまでの過程が世界に差し込まれるってことです」
「!? それだと俺たちは離れ離れになる可能性があるってことですか!?」
「私はそれについてはあまり心配してません」
「なぜですか?俺は今から不安だ⋯⋯」
「だって零くん言ってくれたじゃないですか。『俺は一生あなたと離れません』って」
あっ⋯⋯。
「世界のどこにいてもきっと見つけてくれるって、信じてますよ!」
やられた。本日最高究極ウルトラアルティメットスマイルによって俺のハートは撃ち抜かれ無事死亡が確認された。
「あの、零くん、大丈夫ですか?そろそろ転生を始めますけど」
「あ⋯⋯⋯⋯はい⋯⋯お願いします」
思わぬダメージを受けた俺を心配そうに見つめる俺の女神。
あなたは罪な人だ⋯⋯。
「では行きますね。向こうでまた会いましょう!」
「絶対迎えに行きます」
ブラックアウトし、意識が薄れていく。
この感覚、あの時と似てるな。
死ぬってこんな感じだったんだね。
消えゆく意識の中で、最後に願ったのは、お互いの転生先が近くであることだった。
♢
この世界の名は、ディオルハイム。
頭にまず浮かんできた単語がこれだった。
そうか、俺はちゃんと異世界に転生できたんだな。
うっすら目を開くと、前世の記憶とこの世界の記憶が混同し、まるで両方を体験してきたような不思議な感覚に陥った。
まずは自分のことを確かめる。
レイ・アサギリ、16歳。前世をコピーしたかのようだ。
顔を触り、身体を見る。容姿も変わってなさそうだ。
これはこれで楽でいい。
両親はすでに他界。兄弟は姉が一人。18歳。名前が⋯⋯、シーラ・アサギリ。
ん?なにか聞き覚えがある名前だな。
ふと、隣を見ると、再会を誓った愛しい人が目の前に横たわっていた。
「め、女神さ⋯⋯姉さん!!!」
近い。あまりにも近すぎる。
近くでいいと願ったが、まさかの姉弟である。
神様、これは俺への仕返しなのですか?