1話 プロローグ
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誤字修正
8/13 ⋯⋯に修正
視界がぼやけている⋯⋯。
俺はなにをしていたんだっけ⋯⋯。
あぁ⋯⋯確か買い物を頼まれて外に出たんだった。
ついでに新作のラノベのチェックでもしようかと思っていた。
お、頭が冴えてきたぞ。空を見上げているのはなぜだかわからんが、そろそろ行こうか。
足が動かねぇな⋯⋯。
このドロっとしたものは⋯⋯血⋯⋯?
あぁなんかまた眠くなってきたぞ⋯⋯。
周りが騒がしい。うるさい、俺は眠いんだ。
あ、ダメだ落ち
プツン
意識が途切れ、闇の中へ落ち込んでゆく。
けたたましいサイレンの音も、人々の喧騒も、全て聞こえない。
なにもなくなってしまった。
「起きてください⋯⋯ねぇ、起きて⋯⋯」
優しい声をかけられ、再び脳が呼吸を始める。
久しぶりにぐっすり寝たな。
全く起きなかった気がする。いつも寝覚めが悪いがこれならスッキリ起きられそうだ。
目を静かに開けると、目の前には女性の顔が間近に迫っていた。
「うわぁ!」
「あ、やっと起きてくれましたね! おはようございます」
ニコニコした笑顔でモーニングコール。
俺はこの人のことを知らない。
そもそも俺はどこで寝たんだ?あまりにも眠すぎて適当な場所で寝てしまったのか?
「あ、あの、すいません。寝ちゃってたみたいで⋯⋯起こしてくださったんですよね、ありがとうございます」
「そんなにかしこまらないで! これが私のお仕事ですので」
お仕事? 起こすことが? 快眠サポートのお姉さん⋯⋯的な仕事か?
サラサラで、透明感のある青色のロングヘア。白いローブに身を包んだ女性。
もしや変な店にでも入ってしまったのか? 俺はまだ未成年だ、入れてくれるとも思えんが。
ん、よくよく周りを見渡してみれば、ここはどこなんだ。
白くて小さい花が咲き乱れ、遠くにはキラキラと輝く滝が流れている。
外のようだけど空がピンク色だ⋯⋯。
俺とお姉さんはその中心に位置する石造りの上にいた。
「え、あの、こ、ここってどこですか?」
「ここは天界です。あなたは先ほど、と言っても長く眠られていたのでちょっと時間が経っているのですが、事故に遭われてお亡くなりになったんです」
「⋯⋯え?そんな、はは、冗談はやめてくださいよ」
「いえ、事実なんです⋯⋯。あっ! でも悪いことばかりじゃないんですよ! 真っ当に生きていたのに不幸な人生を送っていた方には天界からチャンスが与えられるんです! そのために私がきたんですよ」
取り繕うのに必死で、なおかつ笑顔を絶やさないお姉さん。
俺の頭は混乱しているがそれだけは救いになる。
「⋯⋯そのチャンスというのは?」
「はい、あ、その前に自己紹介させてください。私は天界で『創造』を司っている、女神のシーラと申します。よろしくお願いしますね、朝霧 零くん」
俺のこともすでに知っているということか。
「それでチャンスの話なんですけど、零くんがもし望むのであればここから新しく生まれ変わる、つまり『転生』することができます。」
「転生? 死んだ事実をなかったことにできるのか」
「はい。ただし残念ながら元の世界に戻すことはできません。そこはご了承ください」
「ん? じゃあどこにいくんだ」
「あなた方の世界とは違う世界、すなわち異世界となります。転生前にあなたの望む能力を私が創造し、授けますので第二の人生を楽しんでください。あ、ただし悪用するのはダメですよ!」
メッと言わんばかりの女神様。
なるほど、不幸な人生を逆転するためのボーナスってとこか。
「能力はなんでもいいんですか? 例えばそうだな、その能力一つでなんでもできる万能能力とか」
「ふふふ、よく注文されるのでその手の能力は得意分野です」
ドヤる女神様。
さっきからけっこう人間臭いな。神っていうぐらいだからもっと厳格なイメージだったが。
肝心の能力だが、生前は特になんの取り柄もない、むしろ凡より下だったから、ちょっとは奮発させてもらおうか。
「あんまり万能すぎてもつまらなそうだしな、今までの俺になかったもの、超人的な身体能力とお遊びに魔法が使える、とかどうですか」
「はい! 大丈夫ですよー。超人の能力と無限の魔力を一つのスキルとして合成してお渡ししますね」
そんな簡単にできるものなのか。神の名は伊達ではないな。
⋯⋯そうか、俺はこれからこの能力を使って2回目の人生を歩むんだな。
今までの人生ではなにもいいことがなかった。
友達もいなければ、ましてや彼女なんて当然いない。
勉強もスポーツも秀でたものはない。
未練なんてさらさらないから死んでラッキーだったんじゃないか。
人生を振り返っているとなぜか涙が込み上げてきた。
あぁ、こんな俺でも泣けはするんだな。
そういえば家族に別れの挨拶もできなかった。
父親がいなく、母は女手一つで俺たち兄妹を育ててくれた。
なにも恩返しできなくてごめん。先立つ不幸をお許しください。
妹と仲良く幸せに⋯⋯。
「あの⋯⋯大丈夫ですか?」
「すみません、ちょっと感極まっちゃって」
必死に涙を堪える。
「ここにくる人たちは皆、転生できることを喜んで早く行かせてくれと言う人たちばかりなんです。零くんのように涙を流す人は珍しいんですよ。きっと不幸の中にも良い出会いがあったんですね」
「女神様⋯⋯少し、胸を借りてもいいですか」
「⋯⋯いいですよ」
女神様は優しく微笑んで手を広げた。
俺は小さい子供のように、女神様の腕の中で溜め込んだ涙を流した。