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ひとりよがりの勇者  作者: 閲覧用
第二章 戦士の証明
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第十二話 決して逃がさない

遅れてしまい申し訳ございません。中々納得がいかずに三度ぐらい書き直し、挙句の果てに切りが悪いので短めにカットです。次の更新は頑張るのでお許しください……

 悲鳴の木霊する暗黒の世界が終わりを告げる。闇を切り裂くように、元の世界へ戻るように。一斉に光を失った魔水晶が、一斉に光を取り戻した。都合、三度目の虐殺が巻き起きた村を光が再び照らして、


「はぁ……はぁ……!?」


 その一つの場所で、全身から冷や汗を垂れ流していたエリアスは、荒く呼吸を繰り返していた。警戒を解かずに視界に広がった世界を注意深く見渡して、それから背後から心配げに様子を窺ってくるレオンの姿を捉える。


「何ともねえ……のか」


 暗闇の中で確かにエリアスへ何者かの攻撃は放たれていた。本当に僅かに。それでも直前で反応したエリアスは、咄嗟に体を一歩横に逸らして見せたが、それでも十分に致命傷になる威力はあったかのように感じられる。

 それなのに、エリアスには傷一つ無い。激しい緊張による呼吸と鼓動の乱れ。それだけがエリアスへ襲い掛かった死を証明していた。


「エリアス……?」


「……何かに斬られかけた。ああ、たぶん斬撃だったはずだ。勘違い、って訳じゃねえと思うんだが」


 正直なところエリアスは死んだと思っていた。神速の剣技が一切の無駄なく首を掻き切っていったと、そう知覚し人生の終わりを覚悟していた。現実は傷一つ無いのだが。


「セレナ」


「……急速に離脱しました。もう大丈夫だと思います。それとごめんなさい。取り乱してしまって」


「いや、仕方がない。突然“あれ”に襲われたら俺だって混乱する」


 曖昧な単語で意思の疎通を図る二人に、エリアスは置いてけぼりだ。それでも、未だ衝撃から立ち直れない心身を整えようと深呼吸を繰り返す。そんな彼女の元へ、レオンの後ろからひょっこりと現れたソラが駆け寄った。


「エリィも怪我は無い!?」


「……うるせえな。見た通り何ともねえよ」


 慌てた様子で体をべたべた触ってくるソラへ、何とも言えない気持ちが広がり、それを振り切るようにぶっきらぼうな口調で返答する。そのいつも通りの反応にソラは安心したように脱力した。


「まあ、何かあったら俺様が全部どうにかしてやったがな!」


 最後にブライアンが自信満々に表明するが、とても彼一人でどうにかできるとは思えない。一体どこからその自信が湧いてくるのか。しかしそんな楽観主義なところに落ち着かせてもらっている部分があるため、あまり口は出せない。


「それよりも……早く報告したほうがいいんじゃねえか?」


 改めて周囲を見渡し、大量に転がる死体に気分の悪さは隠せない。先ほどまで当たり前のように息をしていた冒険者たちは、全員致命傷を負い即死させられていた。慌てて駆け寄らなかったのは、襲撃された者で生存しているのはゼロだと、一目で理解してしまったから。


「向こうから騒ぎを聞きつけて来るでしょうから、私たちは遺体を一か所にまとめましょう……っと既に集まってきてますね」


 そう言っているうちに、警戒しながら生き残った冒険者たちがエリアスたちの元へ、殺戮が集中していた場所へと集合していた。唖然としながら慌てて遺体の確認をしていく一団の中、エリアスもその一つの前でしゃがみこみ、


「傷口が綺麗すぎるだろ……」


 一切の無駄なく貫かれた首を一撫でする。その呟きは冒険者たちの掛け声にかき消された。





 ☆ ☆ ☆ ☆





「どーもッス。今回の偵察部隊を率いさせていただいてましたフェイト。なんか色々と大変みたいだけど、遅れながら挨拶を……」


「そんなことはどうでもいいじゃろ。しばし黙っておれ」


 重苦しい空気の中で開かれた二度目の会合。その始まりに、一人の青年はいっそ場違いなほどに明るい声色で言葉を発した。それを妙に苛立っているクフンが睨み付け、仕方が無いとばかりに真面目な顔を作り上げる。


 黒髪黒目に黒いマントを羽織った全身真っ黒な青年だ。それに反して、どこかお気楽そうな薄笑いを常に浮かべていた。はっきり言って気味が悪い。それはこの場にいる他の冒険者を見れば、共通の認識であることが分かるだろう。


「先刻の襲撃で十八名がさらに犠牲となった。ほんの十分足らずの犯行……追跡する試みは今のところ情報不足で不可能としか分かっておらん」


 さすがのクフンもやや苛立ちを隠しきれずに、それでも可能な限り冷静さを保って、


「はっきり言って、依頼の放棄も視野に入る、そう思っているのも多いはずじゃ。だが、朗報も同時に届いた。……フェイト」


「では、ここからはオレからの報告で」


 極めて真面目な空気を、フェイトはぶち壊しながら皆の視線を引き継いだ。


「オレら偵察部隊は、敵の潜伏地と戦力の規模の確認に成功しました。場所は南東の洞穴。敵の詳しい種族まではさすがに分からないッスが、最大でも六十人超で七十人には届かないみたいですよ」


 その言葉に冒険者の間に動揺と、僅かな歓喜が巻き起こる。度重なる奇襲で作戦開始以前から多くの被害者を出した今回の依頼。しかし、相手が百人にも満たない集団なら、残った戦力でも十分に殲滅できる。

 それがあくまで、外部的要因無しに真正面からぶつかった場合の話でも、具体的な展望が見えたことは大きい。


 その様子にクフンも目を細める。そして、さらに追加の言葉を響かせようと口を開き、


「それにオレと仲間もこっちに加わるから、犠牲になったクフンさんの身内分ぐらいは補えるッスよ」


「身内……?」


 割り込むように、フェイトが先に言葉を放った。その中でも、後半のフレーズに違和感を覚え、エリアスは思わず復唱する。その姿を目ざとく取れえたフェイトは指を一本立てて、


「そうそう、さっきに暗闇で殺されたのはクフンさんの部下だけなんだよ。だからあれはクフンさんに個人的な恨みのある、全く関係ない犯人の……」


「──フェイト。そこまで彼らに伝える必要は無いと思うんじゃが」


 瞬間、辺りへ静寂が訪れる。今後について、身近な者たちと議論を交わしていた冒険者たちが一斉に口を紡ぐ。それほどまでに怒気の籠った声がクフンから零れていた。


「おっと、でも伝えちゃダメとも言われてなかったんで」


 しかし、それを直接ぶつけられたフェイトはこの調子である。空気が読めないだとか、そういうレベルでは無い。いっそのこと、負の感情を一切持ち合わせない狂人だとか、そう言われてしまった方が納得するほどだった。


 場をかき乱すのにこれほど的確な人物はいない。ただでさえ手痛い損害を受け、苛立っていた状況。冒険者たちの鋭い眼光が一斉にフェイトへ突き刺さる。

 だが、そこに先ほどまでの非痛感は存在しない。攻撃的な感情が、後ろ向きな感情を洗い流してしまっていた。これを狙ってやっているのだとすれば、彼はかなりの策士だろう。


(まあ、狙ってるんだろうな)


 これが偶然だと片付けるには、重要な依頼で偵察部隊の代表という肩書きが邪魔をする。底の知れない雰囲気もそれを助長していた。


「でも、本当にやるのか……? その訳の分からない暗殺者だっているんだろ。そいつに奇襲されたら全滅もあり得るんじゃ……」


 自然と撤退の選択肢が潰されていく中、一人の冒険者が恐る恐るという様子で手を上げた。ひどく怯えた様子で、正気なのかと皆に訴える。その姿を見て周囲の冒険者たちは白けたような目線を向けているが、実際のところ彼の方が正常な思考なのだ。


 誰も彼も、頭に血が上り過ぎている。不確定要素が多い状況で攻勢に出るなど、安全第一がキャッチフレーズの冒険者には似合わなかった。

 それでも当たり前のように依頼が続行されるのは、ギルドから派遣されてきた格上のクフンやフェイトがそう仕向けているからである。本当だったら他の村の防衛に一部を残し、援軍を呼びに王都へ戻るのが無難な判断なはずなのに。


 王国政府が関わっている依頼だから、失敗に終わらせたくない。そう言われればそれまでだが。


「どうにもキナ臭せえ」


 何か裏がある。そう思わずにはいられない。最も、魔族が目の前にいる状況でエリアスが引くつもりも無かった。何か陰謀が裏で働いていようと知ったものか。エリアスはエリアスの信念のために、何が立ちはだかろうと粉砕して見せる。

 確かな自信がある訳では無い。だが、やらなくてはいけないからやる。それだけだ。その理由がどうしてなのか、思い出すことだけはできなかったが。


「まともな休息も取れずに大変だとはわしも思っておる。じゃが、この依頼は失敗するわけにはいかないのじゃ」


「え、ええ。それは理解できるけど……」


「オレの部下が常に索敵をするから、最悪の場合でも逃げ遅れることは無いッス。安心……なんて戦場で言えないけど全滅は絶対にさせないからよ」


 騎士団のように、直接の上司に言われたわけではない。だが、明らかに目上の存在にそう説得されれば、彼も引くほか無かった。


「それじゃあ少しでもみんなは体を休めて。今日の見張りはオレらに任せてください。クラン『白昼の影』の名前に賭けて、ネズミ一匹見逃しませんぜ」


 はっきりと断言して見せる姿に、先ほどまでの軽薄そうな表情は見当たらない。そのクランとやらはフェイトにとって重大な物なのだろう。名前を言うときに、誇らしげな感情を僅かに垣間見せたのを、エリアスは確かに捉えていた。


「何があるか知らねえけどな。全部ぶっ壊してやるから覚悟してろよ。魔族どもが」


 思い浮かべるのは昼間に顔を合わせた魔族の男。あの強者が相手でも決して負けてはならない。虚空に向かってエリアスは拳を向けていた。


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