魔法と入学試験
島は、砂浜から先はなだらかな平原が半径50mほど広がり、その先は森になっている。
平原にいきなり折り畳み式の机があり、その上に段ボール箱が2つおいてある。
何人かの女性職員もそこで待機している。
七条がそこまで受験生を誘導すると七条を中心に扇状に受験生が集まった。
「これより、試験内容を説明する!」
七条はメガホンを手に叫んだ。
「試験会場はこの島全域!
試験内容は、我が校の在校生との勝負だ!」
辺りの連中がざわめく。
在校生との対決が入試なのも異常だが、一体なにで対決するというのか。
「うるさい!!!!」
七条の怒号が飛び、メガホンのキーンという音が響く。
「次、口を開いた奴は失格とする。よく話を聞いておけ。」
受験生達は静まり返った。
「いいか、まだ分かってないアホばかりのようだから説明してやる。この学校では今までの常識は通用しない。
勿論法律は適用されてるが、自分の身は自分で守りやがれ。分かったな。」
七条が話終ると辺りは静寂だった。
それを見て七条は頷いていった。
「よし。それでは、細かい試験内容を説明する。」
「合格条件は、在校生に魔法をぶつけることだ。
命中させればその場で合格。
簡単だろうが。 だが、お前らはまだ本を持っていないので、魔法を使えず地理もわからん。
そこで、この島の地図と、一つの魔法だけ使えるようになる手帳を配る。この段ボールの中に人数分用意してある。」
「在校生も本ではなく、この手帳を使う。」
話の途中に、くふくふくふと変な声が聞こえるので
隣を見ると、デービットが必死に笑いをこらえている。
なんだか怖かったのでデービットにどうした?ときくと
「あいつだよ、七条だよ。よく見たら、モーツァルトにそっくりだ!時代錯誤の髪型しやがって!顔も肖像そっくりだ!」
俺も思わずつられてぶふぅ!と吹き出した。
ひとしきり笑い、気づくとなぜか皆が俺らふたりを見ていた。
七条が汚い物を見るような目で俺らを見つめこういった
「話は途中だバカども、"飛べ!!"」
七条の手の本が光り、閃光が俺とデイビットに直撃した。
気がつくと俺とデイビットの体は宙にまい、
人だかりから少し離れた、分厚いマットの上に叩きつけられた。
「これが呪文だ。飛ばしたい対象を飛ばすことを念じて、飛べ!!という。」
「これで飛ぶ。だが、魔法が届く距離は10mほど。また対象を意識しなければ効果がない。訓練しだいでどこに飛ばすか、どれほどとばすかある程度コントロールできるが、配る手帳には、どこで飛ばそうが、このマットに放り込むように校長が設定している。」
マットが柔らかいので、俺はそれほど痛みはなかったが、
デイビットを見ると顎から血を流していた。
お構いなしに七条は説明を続ける。
「見えると思うが、島の中央が森だ。挟んで向こう側が在校生の陣地だ。まぁ落ちこぼれだがね。森を挟んで対峙してる。向こうも留年、退学がかかってるから必死だ。あいつらは一度魔法を食らうと退場だが、お前らは何度でもチャレンジできる。」
デイビットは俺の方をちらりと見て言った。
「あいつ、俺には2発魔法入れやがった。2発目は顎を狙った攻撃だ。」
「俺は一瞬のことで気づかなかったよ。大丈夫か。」
デイビットはさっきとはうってかわり完全にキレていた。
とにかく感情の激しい奴のようだ。
七条は最後にこう言った。
「あと10分ほどで始まる。試験は48時間。飯や水や寝床は乗ってきた船で支給している。せいぜい努力しろ、以上だ。」
デイビットは立ち上がって叫んだ。
「てめぇみてぇなのが教師かよ!俺はお前だけはごめんだぜ。」
七条は薄ら笑いを浮かべて言った
「合格できるつもりなのか、お前みたいなのが。私は教員だがお前は何者でもない!」
デイビットがさらに噛みつこうとしたので、俺は失格にされてはつまらないと思い、デイビッドを制した。
「俺は必ず復讐するぞ。飯島。」
デイビットは肩をいからせて、手帳と地図を受け取りにいった。