【悲報】山で逝ったお爺さん
むかしむかし、あるところに気の良いお爺さんと意地悪なお婆さんが暮らしておりました。
お婆さんは若い頃は少しツンケンしていましたが、村でも評判の美人でしたのでお爺さんはツンデレさんと勘違いして結婚したのです。
でも、それは間違いでした。
お婆さんは単に気が強くてワガママで底意地がめちゃくちゃ悪いロクデナシだったのです。
お婆さんは、食事を作りません。
掃除も洗濯もしません。
毎日毎日、「仲間が待っている。狩りに行かねば……」とブツブツ言って朝から晩まで『いんたーねっと』に興じていました。
お婆さんの仕事はバーチャル猟師だったのです。
一方、お爺さんの仕事はリアル猟師でした。しかし、猟師の仕事は運や天候に左右されるので生活は安定しません。
お婆さんは「ああ、こんなことなら見てくれは悪くても、ハゲデブの公務員と結婚すれば良かったよ」と、稼ぎの悪いお爺さんにゲシゲシと蹴りを入れるのがデフォでした。
一方、お爺さんと言えば蹴られたり、ぶたれたりすると性的に興奮する性でしたので、恍惚の表情で受け入れておりました。
ある日、いつものようにお婆さんがお爺さんを縛って打擲していると、庭先にウサギがやって来ました。
お婆さんは「ああ、丸焼きにして食べたらウマそうだ。捕まえておいで」とお爺さんに命令します。
せっかくのプレイの最中に止められたのが、お爺さんは大いに心残りでしたが、お婆さんには逆らえません。
仕方なく、ウサギを追いかけることにしました。そして、これがお爺さんとお婆さんの今生の別れとなるとは、二人ともまったくわかっておりませんでした。
ウサギはピョンピョンと山の方へ跳ねていきます。従って追いかけるお爺さんも山へ山へと分け入ります。そして、お爺さんが我に返ると、そこは深山幽谷。
静謐な空気に充ち満ちた結界の中に迷い込んでいたのでした。
「こ、ここは、どこじゃ……?」
お爺さんが首を捻っていると、いつの間にやら目の前に立ったウサギが。
「ここは、桃源郷です。お爺さん。あなたはスカウトされたのです」
「す、スカウトじゃと? 一体、ワシのような年寄りをなんで」
「お爺さん。あなたは自分の才能に気付いておりません。どうぞ、こちらに来て下さい」
「才能……じゃと?」
お爺さんが首を傾げながらウサギの後について本殿らしき建物に入ります。
すると、なんということでしょう。そこには圧倒的な存在感を放つ主が立っておりました。
ボンキュッボンの素晴らしいボディーです。黒いレザーのレオタードに網タイツ。御御足は真っ赤なピンヒールを履いています。
まごうことなきのマジェスティー。女王様、その人でした。
その尋常ではない威圧感とオーラにお爺さんは一瞬で理解しました。自分が仕えるべき相手はこのお方であると。
お爺さんは恭しく片膝を立てて跪くと。
「もう、ワタクシは貴女様の下僕です。思う存分、虐めて下さい」
女王様はつま先でお爺さんのあごを上げながら。
「ほう? 面白い! 下僕の分際で我にモノを頼むか……」
新しいご主人さまは、その美しい顔に氷のような微笑を浮かべると、双眸に嗜虐の光を灯しました。
☆ ☆ ☆
──月日が流れました。
山へ行ったお爺さんは帰ってきません。
お婆さんはお爺さんが死んだことにして、多額の保険金を受け取ると、若いツバメを家に招き入れ一生幸せに暮らしました。おしまい。