氷の覇王にライバル再び
ナルシスは差し込む陽光に目を覚ました。日が随分高く上っている。周りを見回しギョッとした。床で寝るなどという美しくない行為だ。慌てて起き上がり、寝ぼけていたせいで音が耳に入っていなかったが歌声が聞こえた。
晴れやかで、力強く、なのに繊細でとても美しい。
顔を上げれば日の差し込む窓の前で少女が歌を歌っていた。その姿は少女自身が輝いているようで見惚れた。
歌が止み、少女が振り返ったところでハッとする。
「あ、王子。起きられましたか?」
「あ、ああ」
「まず、王子を床で寝かせてしまい申し訳ありません。私の力では王子をベットにお上げすることが出来ず、かと言って他の方々をお呼びするのもはばかれてこのような形にしました」
頭を下げる少女にいや・・・構わないと声をかけ、ジッと顔を見た。
そばかすのある美しくない顔だ。
そのはず・・・なのに・・・今までと違った感情を覚える。
「王子?」
首を傾げる相手の動きでハッと我に返り、話題を変える。
「僕が眠る前に歌ってくれた歌!あれが僕を思って歌ってくれたんだね!」
「はい」
「もう一度聞かせておくれ」
「分かりました」
冒頭部分で寝入ってしまったが、今度は最後まで聞けた。この美しさに驚く。
「今までで一番美しい!!」
思わず叫ぶほどの歌だった。
「やはり僕の考えは間違っていなかった!やはり僕が一番hermoso(美しい)!!」
そして理解した。
「つまり・・・同じ調子でいけば今まで以上にbeau(美しい)なものに出会える訳だね!!」
「え!?」
「こうしてはいられない!!行ってくるよ!!」
「王子!?」
走って行くナルシスにディーナは呆然とするしかなかったのだった。
夕方。不機嫌そうなナルシスがディーナに歌えと部屋を訪れた。
ディーナは歌い終わり、ナルシスに問いかける。
「何かあったのですか?」
「君と彼女達は違ったんだよ!君は誰かを思っていたが、彼女達は好きだからの一択!では好きになればいいのかと思えばornatus(美しい)なものはもうすでに全て愛しているんだ!けれど彼女達は変わらない!どういうことだい!?」
正直なところどういうことだと問われても何も言えないディーナだったが少し考えて口を開く。
「皆さんを休ませてあげてはいかがですか?」
「休ませる?」
ディーナははいと頷いて続ける。
「いくら実力があっても疲労や体調不良では全て出し切ることは出来ません。逆に休暇を与え、労わってあげることで彼女達は成長し、また美しいものに出会えるのではないでしょうか?」
「なるほど・・・行ってくるよ!」
ディーナはナルシスが案外行動力があることを最近肌で感じるようになった。
「君に言われた通りにしたら皆に捨てないでくれと騒がれた」
確かに今まで通りにいけば王子からの休めという旨の言葉は恐怖を感じたに違いない。
フウと息を吐く王子を見て疲れているのだと悟り、ディーナは癒されるような歌を歌った。王子は聞きながら除々に目を見開いた。
「feerique(夢の世界のように美しい)!!!」
「フェリ・・・?」
「君の歌声はまた美しくなった!!」
王子はガッとディーナの肩をつかみ、ハッとする。
「そうか!君の言うことを聞けば君の歌は美しさが増すのだね!何でも言ってごらん!何だって叶えてあげるさ!」
ディーナはピクリと反応し、暫し沈黙した後搾り出すように言葉をつむいだ。
「ウルアークに・・・帰りたいです・・・」
その言葉に王子は硬直したあと、眉を寄せた。
「それは出来ない。君はもう僕の所有物なんだ。どうしようと僕の勝手だ」
それだけを告げディーナの部屋を出て行った王子は強く胸を押さえる。
「君は・・・僕の物なんだから・・・」
出会った頃と変わったこの感情の名前を王子はまだ知らない。